勇者ロトの弟にチート持ちで転生したけど、異世界のダンジョンに転移したのは間違っているだろうか 作:醜い蛭子
ノクスとセレネがオラリオに転移してから早二週間、その時間は今までの人生でかつてない程に慌ただしいものであった。
ダンジョンの30階層で決して少なくない数の眷属を失った闇派閥のルドラ・ファミリア。
これを好機としてアストレアとアリーゼは闇派閥の残党を一掃すべく、一気に攻勢に出る事を決意したのだ。
この作戦に関してはアリーゼだけでなく他の団員達も今はまだ二人に参加しなくて良いと言ってくれたものの、対人戦は元の世界でも盗賊相手に経験があったので躊躇う理由はない。
それに二年前に闇派閥が引き起こした『大抗争』の話も聞いていたので、その結末を確かめるという意味でも今はアストレア・ファミリアの一員としてノクスとセレネは戦列に加わる事を決意したのだった。
そして作戦中も様々な紆余曲折はあったが闇派閥はアストレア・ファミリアの動きに追随したロキ・ファミリアやフレイヤ・ファミリアの助力もあって決定的なダメージを負って壊滅へ。
ノクスが知る物語と違ってアストレア・ファミリアの犠牲やそれに伴いリューが復讐鬼に身を窶す事も無いまま、ひとまずオラリオは暗黒期の終焉を迎えるのであった。
尤も二人の慌ただしい日々はそれで終わりでなかった。
今度は当初の目的を果たすべく、休む間もなく本格的にダンジョンへ挑む為の準備を始める事になったのだ。
ただ二人はアストレアから
そこでダンジョン探索における基本的な知識の習得も兼ねて、ノクスとセレネは上層から中層のモンスター相手に自身の力の検証を行う事になった。
結果として判明したのは基礎アビリティの数値だけに限った戦闘力で言えば二人の力はステイタスのLv相応の力という事だ。
ただし二人にはステイタスには表示されない多彩な呪文と特技を習得しており、それも含めれば少なくとも少なくとも1ランク上に相当する実力というのが同行していたアリーゼの見立てである。
それに加えてセレネは『バイキルト』や『スクルト』といった様々なバフの呪文を、ノクスも『竜の紋章』といった自分を大幅に強化する特技を習得している事から瞬間的な力は更に上と言えた。
そして図らずとも
【
父オルテガから受け継いだ兄アルスと同じ力とは明らかに別の──言ってしまえば世界観そのものが異なるような『竜の紋章』や『トベルーラ』といった力の根源である事は間違いない。
それにノクスだけでなく普通の賢者には扱えないセレネの合体魔法も【
つまりスキルとして可視化されたのはこの世界に来てからだが、以前から能力そのものは有していた事になる。
また更にそのスキルを生み出したであろうノクスの【
条件付きとはいえ自分だけでなく他人にまで新たなスキルを付与できる力。
もし転生特典というものが存在するのであれば、まさにこのスキルであった。
スキルとは種族固有のものを除けば大半が個人毎に効果が異なるとはいえ、その効果次第では正にチートと言うべき性能を発揮する。
それもあってアストレアからは暫く【
「どういうことかしら、ノクス?」
神威を感じられぬノクスから見ても、やはり地上の者とは思えぬ美しさを持つアストレア。
しかし普段と変わらぬ清廉な雰囲気を醸し出しながらも、何やら青筋を幻視しそうな程にアストレアは表情を引き攣らせていた。
「……さぁ?」
そんな美しながらも何やら威圧感を放つ女神を前にして、ノクスは惚けたように肩を竦める事しか出来なかった。
アリーゼとリューの監修による一週間に渡るダンジョンでのサバイバル研修を終えて、久方ぶりに地上に帰還したノクスとセレネ。
先に他の三人へステイタスの更新を譲った後にいよいよノクスの番となったのだが、何やらアストレアの様子がおかしい。
話を聞いて見たところダンジョンから帰還したアリーゼとリューに新たにスキルが発現しており、それがノクスが言い付けを破った為だとアストレアはお冠のようだ。
ノクスにそんな自覚はないのだが、かといって二人に話を聞いた限りでは特にスキルが発現するような経験は無かったとの事。
そうなると【
言われてみれば【
そしてアリーゼとリューにそれぞれ発現したスキルはというと……。
【
・魔法発動時における結界の展開
・魔法効果増幅
・結界内の好感度一定到達対象に体力の自動回復付与ならびに『耐久』に補正
・結界内の敵対心一定到達対象に炎属性の継続ダメージ
【
・任意発動
・自身に風属性付与
・『攻撃』と『俊敏』と『魔力』に高補正
・魔法効果増幅
炎と風を司るスキルとなれば、確かにノクスが二人に抱くイメージとピッタリである。
それも複数の効果を併せ持つ上にデメリットもなく、ノクスの記憶の中にある中でも強力無比なスキルと言えた。
アストレアとしても本来なら眷属が強くなる事は望む所なのだろうが、今はまだ【
そんな話を一通りした後にいよいよノクスのステイタス更新が行われた。
「Lvじゃなくてレベルの方が一つ上がってるわ。セレネの方も二つ上がってたし、入団早々に大変な思いをしたものね」
確かにこの二週間は想像以上に過酷な日々だった。
流石少数精鋭のアストレア・ファミリア。
闇派閥の討伐は自分達で望んで参加したとはいえ、その後のダンジョンで行われた訓練はスパルタそのものであった。
モンスターとの戦闘そのものは別にしても、無尽蔵にモンスターが生み出されるダンジョンでは常に周囲へ気を張っていなければならない。
特に唐突にダンジョンの壁等からモンスターが生み出される光景はノクスとセレネの度肝を抜く程であったが、元々のスペックもあって今やノクスとセレネは二人だけで中層を難なく突破できる程に適応している。
これなら下層へのアタックに参加しても問題ないとアリューゼ達は訓練を切り上げ、次の遠征に向けて準備を整える為に二人を連れて地上に戻って来たのだった。
「明日はアリーゼ達に装備を見繕って貰う予定なんですってね。折角だから少しオラリオの街を見て回って来ると良いわ」
現在ノクスは『雷神の剣』、そしてセレネは魔法使いの父から受け継いだ『まどうしの杖』を装備している。
『雷神の剣』は別格として『まどうしの杖』がセレネのレベルに対する装備として少々心許ないのは否めないが、それよりも問題なのは防具の方だ。
二人が装備──というよりただ着ているだけの『旅人の服』。
精々普通の『布の服』より生地が厚い程度であり、ゲームのシステム上なら兎も角とても防具と呼べるような代物ではない。
それでも中層までは問題にならなかったのは二人の力があってこそだが、流石に今の装備のまま下層に挑む事は許可出来ないというのが団長であるアリーゼの決定だった。
「ありがとうございます。ただ俺はその前に自分の暮らす部屋を探しておかないと」
「あら、本気だったの?アリーゼだって冗談で言っただけで、他の皆だってちゃんと入団を認めたのだから気を遣わなくても良いのに」
「逆に変な気を遣いたくないからですよ」
幼馴染のセレネが飛び切りの美人という事もあって、ノクスは別に女性に免疫がないという訳ではない。
しかし四六時中それも日常生活まで周りが女性だらけというのは、流石に気が休まらないというのが本音だ。
勿論今はノクスもアストレア・ファミリアの一員である事は間違いないので、何かあった時も想定して部屋は『星屑の庭』の近くで探す予定である。
そしてステイタス更新を終えたノクスはアストレアに一礼して退出すると、まだ日が高い内に部屋を探してしまおうと一人でオラリオの街に繰り出すのであった。
基本的にノクスは買い物する時は即決するタイプであり、早々に新たに住む部屋を決めたノクスは街をブラついて時間を潰していた。
現状で目立った闇派閥が一掃された影響が既に出ているのか街は随分と活気づいており、人々の賑やかな喧騒が絶え間なく続いている。
それと同時に食欲を唆る香りが漂ってきて、ノクスの空きっ腹を刺激した。
部屋を外に用意したとはいえファミリアの一員として食事を始めとした基本的な生活は『星屑の庭』で一緒に過ごすよう言われているものの、夕飯までまだ時間がある今のタイミングで生じてしまった空腹は育ち盛りのノクスにとって如何ともし難いものだ。
幸いサバイバル訓練の成果として溜まった魔石によって、多少の買い食いなら問題にならない程度に懐は温かい。
そういえば折角オラリオに来たのにまだジャガ丸くんを食べた事が無かったことに気付いたノクスが目当ての屋台を探してみようと思いたったその時だった。
表通りを外れた路地裏から聞こえてきた微かな悲鳴。
周囲の様子から察するに気付いているのはノクスだけのようで、流石にこのまま放っておくのは目覚めが悪いとノクスは声をした方へと駆け抜けた。
犬も歩けば棒に当たる。
良い意味でも悪い意味でも使われる前世の諺を思い浮かべつつ、今回の場合はどちらのケースになるのだろうかとノクスは気を失って足下に転がる男達を見下ろしていた。
そしてその傍らには男達に殴る蹴るの暴行を受けていた少女が苦しそうに蹲っている。
どうやら悲鳴の主はこの少女だったようで、ノクスは現場に辿り着くや否や即座に男達を制圧。
しかし襲われていた少女の顔を見た瞬間に困惑の表情を浮かべた。
「『ベホイミ』!」
それでも結局は見て見ぬ振りは出来ぬとノクスは回復呪文を唱える。
みるみると傷が癒えていくと同時に朦朧としていた少女の意識も回復すると、目の前のノクスに助けられた事を悟って深々と頭を下げた。
「た、助けて頂き、ありがとうございました」
「痛みはないか?」
「おかげさまで。リリ何かの為に魔法まで使って頂いて……」
少女の言葉を聞いて、やはり間違いなかったかとノクスは内心で少し焦りを覚えていた。
リリルカ・アーデ。
ノクスが知る「ダンまち」の物語では主人公であるベル・クラネルのサポーターを務める小人族の少女であり、戦闘力は低いながらも何処か狡猾さも含んだ知識と逞しい精神によって様々な場面で活躍していた。
しかしノクスの中のイメージと違って、目の前のリリルカはそれを微塵も感じさせぬ程に弱々しい。
それは当たり前の話で今は「ダンまち」の本編が始まる凡そ五年前。
リリルカの強さは劣悪な環境で培われたという側面も強く、まだ十歳程の年齢である事を考えても物語のイメージと符合しないのは当然だろう。
「それで何があったんだ?」
「リリがもう少し分け前を欲しいとお願いしたのが、お気に召さなかったみたいで……」
「コイツらは同じファミリアの人間か?」
「い、いえ、今日はファミリア内でパーティーを組んでくれる方が見つからなかったので。だから少しでも稼げるよう、リリが自らお願いして他所のパーティーに入れて貰ったんです」
ノクスはリリルカの抱える事情を少なからず知っている。
そんな状況でどう立ち回るのが少し正解か悩んだ末に、リリだけでなく伸びていた男達にも回復呪文を掛けた。
それを見てビクッと身体を竦み上がらせるリリルカは敢えて無視して、ノクスは男達が目を覚ますの待つ。
そして治療の甲斐あって無事に意識を取り戻した男達は自分達をボコボコにした張本人ではなくリリルカにあからさまな怒りを向けようとするが、ノクスはそれを鋭い一睨みで製した。
「何々?話によれば報酬の配分について揉めたんだって?」
「揉めたも何も、この餓鬼がサポーターの分際で報酬をもっと寄越せなんて生意気言うからよ!ただでさえ今日は稼ぎが少なかったって言うのに!!」
何を基準にして報酬が少なかったのかノクスは知る由はないものの、相手して分かっていように男達がLv.1以下の下級冒険者である事は間違いないようだ。
それにしたって子供相手に暴力は論外だと思うが、所詮冒険者の大半は不成者の集まり。
ノクスは特にその事自体を咎めるような事は口にしなかった。
「だから身の程を弁えるって事を教えてやっていただけだ」
「へえ?だったら俺が自分より弱いアンタ達の立場を身体に叩き込んだって問題なかったって事だな?」
「っ!?それは……」
途端に歯切れが悪くなる男達に対して、ノクスは意地の悪い笑みを浮かべる。
「ハハっ、冗談だ。悪かったな、事情も知らないのに叩き伏せるような真似して」
「いやぁ、まぁ俺達も誤解されても仕方なかったと言えば仕方なかったし」
「そうか、ありがとうな。けど闇派閥が消えて、ここら辺を縄張りにするアストレア・ファミリアの目も些細な事にまで向きかねない。今後の為にも互いに変な誤解が残らないよう、これはせめてもの謝罪だ。今日の酒代くらいにはなるだろ?」
そう言ってノクスは最後に念押しとして、男達に酒場でたらふく飲んでも十分な程度の金を押し付けた。
「へへ、すまねぇな」
「これで今日は俺達やこの子の間に何も無かった。それで間違いないな!?」
「あ、あぁ。それじゃあ俺達はこれで失礼するよ」
最後に凄んだノクスに気圧されてか、男達はそそくさとその場を去っていく。
その姿が完全に見えなくなると、ノクスは小さく溜息を吐いた。
「あの、今のはどういう?」
「あのまま放っておけば、お前が逆恨みされてた可能性もあるからな。これだけ言っておけば、後になって因縁をわざわざ吹っかけてくる事もないだろ」
ノクスがアストレア・ファミリアの名前を出したのも、男達が馬鹿な真似をしないよう少しでも牽制する為である。
これで男達の品性方正が良くなるとは露とも思わずとも、余計なリスクを冒すような真似はしないと信じたい所だ。
「それじゃあ俺に出来るのはここまでだ。次からはもう少し上手く立ち回れるよう気を付けろよ」
今更という気がしなくもないが、出来る事ならノクスは「ダンまち」の主要人物──特に主人公であるベル・クラネルと親しい人間と深く関わりたく無かった。
ベル・クラネルは才能自体は無くとも、良き出会いによって急成長を遂げる主人公。
それが何かしら人間関係に変化が生じて、成長の機会を奪ってしまう可能性を恐れているのだ。
そう言い残してノクスも早々にその場を去ろうとしたが、その時それを引き留めるように盛大にリリルカの腹の虫が鳴った。
恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にしながらも、ひもじそうにお腹を摩るリリルカ。
さっきの様子を見るに今日は報酬を得る事も出来なかったのだろう。
「あー、実は一つ依頼があるんだが。俺はジャガ丸くんの店を探してた最中でな。案内してくれたら報酬として一緒にジャガ丸くんをご馳走するけど、引き受けてくれるか?」
「は、はい!喜んで!」
結局目の前のいたいけな少女がお腹を空かせているのを放っておけず、嬉しそうに先導するリリルカの後に続いてノクスは当初の目的に向かって歩き始めるのだった。