転生特典が「キノコ栽培」だったので戦闘は避けるようにします。 作:菱形の面積
俺がいつもの酒場の扉を開けると、いつもの威勢のいい女給仕が驚いたような顔をした後、笑顔で出迎えてくれた。
「久しぶりじゃないか! 死んじまったかと思ったよ!」
「よしてくださいよ、縁起でもない」
気持ち的には死んだようなものだったが、どこか俺はこの人の勢いというか雰囲気に助けられている感じがある。だからこの酒場はいつも繁盛しているのだろう。
混んでいる店の中を見渡すと、目当ての冒険者パーティを見つけた。混み合う店の中を見渡すと、すぐに、目当ての冒険者パーティを見つけることができた。
店の隅の、いつものテーブル。だが、今日の彼らの雰囲気は、いつもと、明らかに、違っていた。
リーダーのジェフは黙々と、分厚い肉にかぶりついている。それは、いつものような陽気な宴会ではなく、まるで決戦前の最後の食事のようだ。
その向かいでは、ファイターのクロエが静かに、目を閉じている。その両腕には、今まで俺が見たこともなかった、無骨で、傷だらけの、鋼鉄のガントレットが装着されていた。まるで精神を集中させているかのように、その身は、微動だにしない。
そして、その隣でヒーラーのイリスがこっくりこっくりと、舟を漕いでいる。だがそれは、いつもの眠たげな微睡みとは違う。嵐の前の静けさのように、来るべき激闘に備えて、精神力を温存しているかのように、俺には見えた。
なんだ? この、ピリピリした、空気は。
俺は、少しだけ、躊躇した。今、声をかけるべきではないのかもしれない。だが、俺の、商人としての本能が、ここで、引き下がることを、許さなかった。
「やあどうもお久しぶりですなあ。これから出発ですか?」
「おぉ、ヒナビシじゃねえか。これ食って少ししたら出発だ」
「でしたら手短にご相談させていただきます。実は、町の外に商品の調達に行きたいのですが伝手がありませんでしてね。これもご縁ということで、私としてはあなた方『鉄斧ガントレット』を指名して依頼したいのです。なので、根回しをしに来ました」
にこり、とうわべだけの笑みを浮かべて俺は笑う。
「……依頼の詳細は?」
俺のその言葉に、初めてクロエが閉じていた瞼を、ゆっくりと開いた。その、射抜くような鋭い瞳が、まっすぐに俺を捉える。
「ブドランガ周辺の森林地帯で私が商品を探しますので、その間の護衛をお願いしたいのです。相場がわからないのでそこはご相談させてください。期限は1日」
「なら1日150エルグ。冒険者ギルドに鉄斧ガントレット指名、って伝えておけば便宜を図ってくれるはずよ」
どうしてだろうか。そのよどみないプロフェッショナルな口調が、今の俺にはまるで、分厚い壁のように感じられた。
彼らと、俺の間には、見えない、境界線が、ある。俺がまだ、足を踏み入れることのできない、彼らの、世界。多分命のやり取りの世界なんだろう。
「お忙しいところありがとうございます。どうかご無事で!」
俺が、そう言うと、クロエは、すっくと、席を立った。
「ええ。当然よ」
クロエが席を立ち、ジェフとイリスもつられるように立ち上がった。きっとこの3人はこれから命のやり取りに出かけるのだろう。
「今夜、私はここにおりますので冒険譚を聞かせてください!」
務めて明るく俺は言ったが、3人は険しい顔であいまいに返事をするだけだ。そんなにも危険なのに、どうして行くんだろう。
俺には理解できなかった。