転生特典が「キノコ栽培」だったので戦闘は避けるようにします。 作:菱形の面積
光陰矢の如し、という言葉がある。この俺が異世界に転生して早くも3時間が経過した。そんなに経ってないって? こういうのは勢いが大事なんだ。声の大きいほうが勝つんだ。ちなみに時間の概念はもともと俺がいた世界、地球とほとんど同じで、曜日の名前が違うくらいしかない。そしてこの世界、かなりファンタジーだ。魔法が存在するし、ダンジョンも存在する。冒険者ギルドだってある。その半面科学技術はまだまだ未発達で、電話ができる兆しは見えない。とはいえ、魔法で言葉を伝達できるので多分永久に電話は開発されないだろう。
なんで3時間でそんなことがわかるのかって? キノコ大百科に書いてあるのよ! 特定の曜日にしか採れないキノコとか特定の時間にしか採れないキノコとか特定の属性魔法を当てないと生えないキノコとか結構あるのよ! しかもこれらの条件が複合してるものもあるし、これはもしかしたらすごくデカいシノギなのでは? キノコ大百科を流し読みするだけでこれだけ情報が集まるのだ。しかもレベル1だぞ? レベル上がったり知識が更新されたらものすごく悪いことができるのでは??
さて、話は変わるが生きていくのに必要なものは何か? お金である。お金が必要なのである。
前世でもお金は大事だったが、最悪なくても借金できたり、国が助けてくれるため、野垂れ死ぬなんてことは俺の身の回りではそうそう無かった。少なくとも、テレビの向こう側の話だった。
だが今は違う!(ギュッ!)。お金がないということは死に繋がるのだ。異世界でも労働からは逃げられないのね……。そういえば「死は労働を辞める理由にはならない」って何かで聞いたっけな……。
異世界に転生してお金稼ぎのテンプレートと言ったら冒険者ギルドに行って持ってるスキルで楽してウハウハである。だから俺もそうする。キノコ栽培のスキルがこの世界でどれほど役に立つのか調べてみたかった。
さささっと登録を済ませて、キノコ類に絞った納品依頼を探してもらうと幸いなことにかなりの量があることが判明した。食料以外にも、錬金術師や魔術師、回復術師とかがかなりの量を素材として必要とするらしい。
錬金術師の存在する世界ありがてえー! キノコ類の素材なんていかにもじゃん! なんて思いながら、俺は見たことも聞いたこともないキノコの名前をあれこれ大百科で調べながら難易度が低くて実入りが多い依頼を探し……ついに見つけ出した!
俺を無一文から解放してくれるそのキノコの名は……なんとシイタケだった! 前世からの付き合いだ。この世界でもよろしく頼むぞ。
やはり、シイタケはこの世界でも食料とされているようだが、栽培方法は確立されていないらしい。そりゃそうだよな、栽培されてたらこんなところに依頼なんて出ないもの。
転生前の世界でも以前はシイタケ栽培が? 雷で? なんか? 効果ある? みたいな? 話は聞いたことあるし??
そうと決まれば即行動だ。実際にキノコ栽培スキルも使ってみて、どうなるのか試してみたい。
俺は再び、転生直後に送られた森の中にいた。少なくとも人目がないほうがいいだろう。なんてったって栽培するのだ。新しい技術を無償でバラ撒けるほど俺の懐に余裕はない。なんなら無一文だから今日を生き延びることすらできない。異世界で野宿とか普通に死ぬぞ?
え? シイタケ栽培って何日もかかるのではないかって? それはスキルのおかげよ。キノコ大百科、こいつが優れモノで、栽培期間は「キノコ栽培スキルレベル1」の効果を反映したモノを表示してくれるのだ。
それでは実際にご覧に入れましょう! シイタケにあたりをつけて適当な倒木をぐるりと見渡すと、直感的にピンとくる場所があった。多分シイタケ菌(?)がいる。そいつに手を向けて、「スキル発動!」と念じる。録画した映像を100倍速再生でもしているかのように、とてつもない勢いでシイタケが、もぞもぞ、ポコポコと生えてきた。やがて、スーパーに並んでいるような、肉厚で傘の開いた見事なシイタケが倒木を埋め尽くしたところで、スキルの効果が自動で切れた。
ちなみに、キノコ大百科に載っていた栽培期間は「1分」だった。クソバカの考えたゲームでも見ないぞこんなやっつけ仕事! もう少し山あり谷ありだろ普通!!
とはいえ、これはゲームではない。腹も減るし喉も乾く。でも金はない。だとしたら生きるために金を稼ぐしかない。そして、楽して大金を稼げてノーリスクならやらない手はない。
俺は縛りプレイは嫌いなんだ。圧倒的な力で敵を蹂躙するのが前世でも好きだったんだ。具体的には三国〇双シリーズの難易度天国でまずは一周して土台を作った後に攻略wikiをみて最強装備を手に入れて、それから群がる敵をボッコボコのギッタギタにするのが好きだった。
そして俺、スキルを使用したことで経験値が貯まったのだろう。頭の中でレベルアップした感じが直感的に生まれた。レベルアップ……素敵な響きだ。ステータスを開いてキノコ栽培スキルを見る。やったー! 「キノコ栽培レベル2」だー!!
スキルの効果は変わっていないから、もしかしたらずっとこのままなのかもしれないが、お目当てはパークポイントだ。どんな能力かなー? なんてドキドキしながら見てみたら、新たにパークポイントを1獲得してルートが二つに分岐している。二つの能力ツリーを、胸を躍らせながら確認する。
1つ目は、「キノコ類ストレージ」。2つ目は「キノコ類の栽培品質上昇」だ。キノコ類ストレージの詳細を確認する。
キノコ類ストレージ:キノコ類専用の貯蔵庫。入れている限り、キノコの鮮度・状態は完全に保持されるときたもんだ。これがあればキノコ類がつぶれて報酬が渋くなるっていう問題は起こらないだろう。栽培品質上昇は文字通り、栽培したキノコ類の栽培品質が上がるというものだ。これは畑とかそういう設備が整ってからでも遅くはないだろう。
早速スキルを発動すると、目の前に半透明のウィンドウが開いた。中身はもちろん空っぽだ。スキルで栽培したシイタケを優しく根元から摘み取り念じながらストレージに入れてみる。
シイタケx1の表示が現れた。これ、一種類で何個までスタックできるんだろうな?
ふと、頭に天才的な閃きが走った。もしかしたら……。
掌をシイタケに向けて、「ストレージに入れ」と念じた。目の前からシイタケが消え、ストレージに「シイタケx68」の表示が現れた。
触れなくても採取できる! 実験は成功だ!! これはとても悪い使い方ができそうだぞ!!
俺はルンルン気分で依頼を報告するためにギルドへ向かった。道すがら、キノコ大百科でシイタケの項目を読んだ。
栽培時間が「2秒」になっていた。もっとこう……段階的に刻むだろ!? 普通!! やっぱりクソバカの考えたゲームみたいなスキルだった。