転生特典が「キノコ栽培」だったので戦闘は避けるようにします。   作:菱形の面積

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第41話 なんこれ??

「よし、完璧だ」

 

 リッカさんの工房で、俺は完成したばかりの「試作品」を手に取り、満足げに頷く。

 

 「シジマタケ」の粉末と木屑、そして膠(にかわ)を混ぜて固めた、黒い板状の素材だ。俺たちはこれを加工して、まずは手始めに「まな板」を作ってみたのだ。

 

「これなら、どんなに強く包丁を叩きつけても傷がつかないし、水も吸わないから腐らない。最高のまな板ですよ、リッカさん!」

 

「ええ! 食器や家具の足に使えば、一生モノが作れますね!」

 

 俺たちの夢は広がる。安くて、頑丈で、長持ちする生活用品。これが普及すれば、庶民の生活は間違いなく向上するだろう。ぱちんとハイタッチを交わしてから、俺はこの素晴らしい「発明」を報告するため、意気揚々と商人ギルドへと向かった。

 

「で、これがその『まな板』なのね?」

 

 ギルドの最上階。マスター執務室の巨大なガラステーブルの上に、俺ご自慢の黒いまな板が鎮座している。

 だが、俺の予想とは裏腹に、部屋の空気は重かった。

 

 レーナさんは、楽しそうというよりは、どこか獲物を狙うような目でまな板を見つめている。その横には、なぜかサブマスターのヴァレンテ、鑑定士のマルコ、錬金術師のフィリアスという、ギルドの「怪物」オールスターズが勢揃いしていた。なんで??

 

「ええ、そうです。ただの木屑とキノコを固めた品ですが、驚くほど頑丈でして。これを量産して、安価な建材や家庭用品として売り出せば……」

 

 俺が熱弁を振るっている最中、フィリアス様が無言で手を挙げた。

 

「失礼ながらヒナビシ君。少し、実験をさせてもらっても?」

 

「あ、はい。どうぞ」

 

 フィリアスは懐から慎重に小瓶を取り出すと、中に入っていた液体を一滴、まな板の上に垂らした。ジュッ、という音と共に白煙が上がる……はずだった。

 だが、液体は黒い板の上で、水滴のように弾かれ、コロコロと転がっただけだった。

 

「……『王水(おうすい)』だぞ?」

 

 フィリアス様が、信じられないという顔で呟く。俺も信じられんね!?!????!!!?

 

「金さえも溶かす最強の酸が、表面の変色すらさせんとは……。耐酸性、耐腐食性、共に測定不能(エラー)。……おい、マルコ」

 

 促されたマルコ翁は、いつになく真剣な顔で、自身の愛用する鑑定ルーペと記録用のペンを取り出した。そして、そのペン先──オリハルコンでコーティングされているという──で、力いっぱいまな板を引っ掻いた。

 

 キィィィン!

 

 耳をつんざく甲高い音が響く。だが、黒い板には傷一つついていない。だがペン先はもう何も書けないほどに摩り減っている。

 

「……硬度、オリハルコン以上。魔力伝導率、ほぼゼロ。つまり、魔法攻撃も物理攻撃も、これ一枚で『無効化』できるということだ」

 

 マルコが、呻くように言った。

 

 そして最後に、ヴァレンテ様が動いた。彼は懐から短刀を取り出すと何の躊躇もなく、全力でまな板に突き立てた。なんでこんなに慣れてんのこの人???

 

 ガギィッ!!!

 

 派手な金属音と共に、名剣の刃が、根元からポッキリと折れて飛び散った。

 

「「「………………」」」

 

 部屋に、完全な沈黙が落ちる。

 俺は、冷や汗をダラダラと流しながら、引きつった笑顔で言った。

 

「あ、あの……すごいでしょう? これなら、どんなに硬いカボチャを切っても、まな板が傷つくことは……」

 

「馬鹿者」

 

 ヴァレンテの冷たい声が、部屋を震わせた。

 

「カボチャだと? この期に及んでまだそんな寝言を言っているのか?」

 

 彼は、折れた短剣を投げ捨て、黒い板を鷲掴みにした。

 

「これは、『まな板』ではない。最強の『装甲板』だ!」

 

「え?」

 

 ヴァレンテは、努めて冷静さを作るように言葉を紡ぐ。

 

「鉄より軽く、鋼より硬く、酸にも魔法にも耐え、海水でも腐らない。これで船を作ればクラーケンの触手も弾き返す無敵の軍艦になる。城壁に貼れば、攻城兵器も魔法も通じない難攻不落の要塞になる。馬車の車輪に使えば、永久に交換のいらない輸送網が完成する!」

 

 彼は、バン!とテーブルを叩いた。

 

「これは、ただの素材ではない! この国の軍事バランスを、たった一枚でひっくり返す、歴史上最悪の『戦略物資』だと言っているのだ!!」

 

 閉じ込めていた感情が爆発したのだろう。ヴァレンテは肩で荒い息をしながら黒い板を指さした。

 

「せ、戦略……?」

 

 俺は、言葉を失った。俺とリッカさんは、ただ、ガタつく机を直したくて、安くて便利な日用品を作りたかっただけなのに。

 

「うふふ」

 

 その時、沈黙を守っていたレーナ様が、肩を震わせて笑い出した。

 

「最高よ、ユウ君。あなたって、本当に期待を裏切らないわね」

 

 彼女は、魔王のような笑みを浮かべて、俺に告げた。

 

「この新素材の製造法は、ギルドの最高機密に指定します。製造は、あなたの管理下にある地下室と、リッカさんの工房のみで行うこと。……いいこと? 一欠片たりとも、外部に漏らしては駄目よ。もし漏れたら……」

 

 彼女は、「ぎゃーてえことになる」といった。

 

「国同士の戦争が起きるわ」

 

 俺は、膝から崩れ落ちそうになるのを、必死で堪えた。

 リッカさん。ごめん。

 俺たち、またしても、とんでもない「パンドラの箱」を開けちまったみたいだ。

 

「さあ、忙しくなるわよ!」

 

 レーナ様が、楽しそうに手を叩く。

 

「ヴァレンテは、王室騎士団への『新型盾』の売り込みルートを確保して。フィリアスは、この素材の加工法を確立するの。マルコは、類似品が出回らないよう、監視体制を強化して。……そして、ヒナビシ君」

 

 彼女は、俺に、極上のウィンクを送った。

 

「あなたは、リッカさんと一緒に、もっともっと、この『世界を壊すおもちゃ』を作り続けなさい。……期待しているわよ、私の可愛い『共犯者』さん?」

 

 こうして。

 俺の「ほのぼのDIY計画」は、即座に「国家防衛レベルの軍事開発計画」へと、強制的にアップデートされたのだった。

 

 帰り道。俺の背中には、まるで鉛のような重圧と、これからリッカさんにどう説明すればいいのかという、絶望的な悩みがのしかかっていた。

 

(……まな板って、言ったのに……)

 

 俺の小さな呟きは、活気に満ちたブドランガの喧騒にかき消され、誰にも届くことはなかった。

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