転生特典が「キノコ栽培」だったので戦闘は避けるようにします。 作:菱形の面積
ぐへええええ~ちかれた~!!! もう疲れすぎてなーんもできませーん!!!
前世の仕事モードを演じたまんま、俺はもはや常連となっている宿に併設された酒場で早すぎる昼食を食べていた。食べる前は余裕がなさ過ぎて食うことしか考えられなかったから真面目にやってるけど、こういうの俺のキャラじゃないんだよ!! もっとのんびりゆったりしたいの!!
給仕さんは「大変だったね!」なんて言いながら俺の前に溺れそうなほどなみなみに注がれたエールと、湯気の立つ串焼き、スープを並べてくれるけど、俺はといえば口に入れて体力に変換するので精一杯だ。時間がピークから外れているので、ほとんど貸し切り状態だ。でなければ、こんな無様な姿は晒せない。
「なにはともあれ! ギルドに所属できてよかったじゃないのさ! しかもあんたから聞いた話じゃサブマスターのヴァレンテ様からお墨付きをもらったってことじゃないか!」
「それなんですよ、頭痛の種は……」
それなのだ。頭痛の種は。俺は目立って出世したいわけじゃないんだ。ただ単にちょっぴり贅沢しても痛くないくらいの金が欲しいだけなんだ。前世の俺ときたらパチンコで3万円負けたくらいで絶望してたんだぞ。3万円は大金だって?? やめてくれないかそういう正論を俺にぶつけるのは!!
「ご存知なんですか?」
あの面接をしてきた狐目の爺さんの顔が思い起こされたので、たまらず俺はもぐもぐしていた串焼きを飲み込んで尋ねる。口の中にモノがある状態でしゃべるなと、田舎のガキながら厳しくしつけられたもんだ。
「当り前じゃないの! 商人ギルドっていえば市場の管理者だよ! あのギルドが『あの店にはもう売らない』なんて言ってごらんよ! たちまち飲む水にも困るんだから!!」
そうか、「商人」ギルドなんだ。水の利権はさすがにもっと権力のある団体が管理しているんだろうが、塩や小麦、肉や魚の流通をしているのは間違いなく商人ギルドのはずだ。
ははーん、合点がいったぞ。疑問に思っていた「商人ギルドの連中を追剥ぎすればお金稼げるのでは?」ということだが、万が一それやってバレた場合干からびて死ぬ以外の将来がなくなるからやらないんだな?
そう思うと、青銅のプレートが社員証に思えてきた。重いからすぐ外したいんだこれ。なくしたら始末書で済むかな? すまないだろうなあ……。
「そうだ。シイタケを使ったツマミってありますか?」
ごっくん、と口の中をきれいにしてから給仕に尋ねる。思えば俺の扱う商品の市場調査ができていない。俺が「栽培」したシイタケが一般的な……こんなこと言いたくないんだけど!! 居心地がいいからいいたくないんだけど!!
「場末の酒場の飯」で提供されたら一体どんな品質で、どんな値段なのか。非常に興味があった。
単純に思い浮かぶのはベーコン……塩漬け肉とシイタケを炒めてニンニクとオリーブオイルを加えたものだが、ここは異世界。料理に関しては当てにならないだろう。
実際、給仕は困惑したように眉をひそめた。
「シイタケかい? ……また、妙なことを聞くねえ。あれは、お貴族様や大金持ちが食べるような高級品だよ! こんな店で出すようなもんじゃないさ!」
その言葉を聞いて察しちゃった! 俺察しちゃった!!
「この世界のシイタケは元の世界のマツタケくらいの価値」がある!!
そりゃ商人ギルドの皆さんびっくりするわけだわ! 高級マツタケ10包みもって挨拶してんだもの!! 何の気なしに「最高級国産マツタケ箱詰め」10個を持参して、「どうです、これで組合に入れてもらえませんかね?」なんて、呑気な挨拶をしていたようなもんだもの!!
あの神経質そうな眼鏡の男ストレスとか大丈夫か? 多分職場に友達いないタイプだからストレスで死にそうだよ? わかるよぉ……。
次会ったら名前聞いとこ。
「んんー、残念! 良いシイタケが手に入ったら是非教えてください!」
俺はやっとのことでそれだけを陽気に叫んで、エールを飲み干した。