雪風と飛宗   作:六平ァ!!

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とあるスレを見て書きたくなったので書きます。


第一巻
召喚


 

 青い空の下、城壁に囲まれた緑色の芝生の上。

 そこに、どこまでも広がる青空を見上げる小さな女の子がいた。

 鮮やかな青い髪に、眼鏡の奥の透き通った碧眼。白い肌は雪を思わせ、一種の美術品のような美しさがある。

 小柄な体躯に白いブラウス、グレーのプリーツスカート、そして羽織るように黒いマントを身に着けている。

 そしてその手には、彼女の背丈を超える大きな杖。

 

「ミス・タバサ、あなたの順番ですよ」

 

 ぼんやりと空を見上げていた彼女は、背後から名前を呼ぶ声がして、静かに頷いた。

 タバサと呼ばれた少女が後ろに振り向くと、そこには自分の名前を呼んだ中年の男性と、タバサと同じような格好の少年少女達がいた。そして、少年少女の周りにはさまざまな動物や幻獣達がいる。

 

「それでは、始めて下さい」

 

 タバサは担任のコルベールの隣まで歩くと、そこで使い魔の召喚のため、儀式を始めた。

 珍しく、タバサは緊張していた。

 どのような使い魔が召喚されるかはわからない。そのような一抹の不安がのし掛かる。出来るなら、あの空を自由に飛べる幻獣がいい。そんな事も考えていた。

 だけど、出来ることなら──自分を救い出してくれる存在を……

 彼女はそんな一抹の願いを込めた。

 そして、少女の口から召喚の呪文が紡がれる。

 

「我が名はタバサ。五つの力を司るペンタゴン。我の運命に従いし、使い魔を召喚せよ」

 

 呪文が完成し、白い光を放つ鏡のようなものが見えた。眩い光が灯され、タバサの視界を奪う。

 やがて光が消え始めると、その鏡のあった場所に召喚された生き物が見えてきた。

 

 召喚された生き物を見たタバサは息を呑んだ。

 

 自身の青い瞳に映ったのは、思い描いた青い竜ではなく、人間の男。背は高く、白のシャツに真っ黒な上着を羽織っている。

 そして彼の両目には、縦向きに傷跡が刻まれていた。

 

「おい、人間だぞ!!」

 

 生徒たちの静寂を破るように、誰かがそう言った。

 生徒たちは、優秀な生徒であるあのタバサが、まさか人間を召喚してしまったことに対して驚き、信じられない様子だった。

 

「タバサの魔法が失敗した!?」

「まさか、タバサはトライアングルメイジだぞ。そんな初歩的なミスするか?」

「そうだよ、ゼロのルイズじゃあるまいし」

「でもあの人はどう見たって……」

 

 騒がしくなる生徒たちの声は、タバサには遠く聞こえていた。

 

──魔法が失敗した?

 

 タバサは生徒たちと同じく、そう思ってしまった。なぜなら、召喚の儀式で人間が召喚されることなど今まで聞いたことがないからだ。

 タバサが動揺して後退りしていたその時、召喚された男が徐に口を開いた。

 

 

 

 

 

 

「なんだァ、どこだここ?」

 

 鏡から出てきた男──座村清市は、激しく困惑していた。

 彼は目が見えない。目には傷跡があり、瞼が開かない。そして目は白目で景色を見渡すことはできない。

 だがそんな彼でも、彼の周りを取り巻く状況が急に変わったことは感じ取れた。

 記憶の限り、座村は六平千紘との決戦の後、神無備本部へ向かったはずだが……座村はそこで頭を痛めた。その後の記憶が思い出せないのだ。

 とにかく、ここはどうやら神無備本部ではないことは明らかだ。と言うかそもそも野外だ。一体何処なのだろうか。

 

「知ってる場所ではねェな……匂いが違う。つーかここ、草の上か……?」

「なんだアイツ、目が見えないのか?」

 

 彼は持っている黒い剣を、まるで杖の代わりのようにして周りをトントン叩いている。

 まるで、暗闇で周りを手探りするかのような様子に、生徒の一人が彼の目が見えていない事を察してそう言った。

 それで周りに人がいることを察知した座村は、不審に思って試しに持っている刀の鯉口を切ってみた。

 

 チャキ……

 

 その音の反響で、座村は周りの状況を理解した。

 自分とその周りに男一人と女一人、そしてその後ろに人が多数、何か変な動物もいる。彼らの身長も把握できた、どうやら子供のようだった。

 そして隣にいる男は、警戒して何か杖のようなものを構えている。隣にいる女は背が小さく、動揺している。

 

 カチン……

 

 それだけ確認すると、彼はすぐに鯉口を閉じた。

 

「……?」

 

 どうやらここにいる子供たちは、目の前にいる座村のことを監視している。が、不可解な動作を見て首を傾げているようだった。

 

「あー、ガキがざっと二十人くらいか……目の前にいるのはチビな女……んで大人が一人……こいつは教師か?」

「!?」

 

 まるで見えているかのようなその言葉に、生徒たちは驚愕した。

 両目に傷があるのに、生徒たちの人数を当て、周りの人数と身長を当てたのだ。

 わけがわからない。そしてこの男は只者ではない。生徒たちの多くがそう感じたのを座村は彼らの動揺の声から察していた。

 しばらく沈黙が流れたが、意を決して中年の男が前に出るのを音で感じた。

 

「え、えっと……私のことは見えますかな?」

「あー」

 

 座村は声のする方へ手を伸ばした。

 すると、座村の手は中年男の顔面を掴む形で握り込んでその位置を掴んだ。

 

「ぐっ!?」

「あー、すまんすまん。お前は教師か?」

 

 男は手を離す。

 掴まれた彼は息ができなかったのか、咳き込みながらこう言った。

 

「げほっ、そ、そうです!私はここで教鞭を取るジャン・コルべ-ルと申します!」

 

 座村は彼の名前を確認すると、ここが何処なのか問いかけるべく、コルベールと呼ばれたその男に問いかけた。

 

「ここは何処だ?」

「ここは……トリステイン王国にあるトリステイン魔法学院です」

「トリステイン、魔法学院……?」

「ええ、トリステインの魔法学院です」

「魔法とはなんだ?妖術の事じゃねェのか?」

「ヨウジュツ……と言うのはよくわかりませんが、魔法は魔法ですぞ?ご存知ないのですか?」

 

 魔法という言葉の意味が分からなかった。

 確かに日本から遠く離れたヨーロッパではそういう概念があるそうだが、別の言葉で呼ばれていたはずだ。そして少なくとも日本では、そのような技術は"妖術"と呼ばれている。

 妖術を習う学校なら、それっぽい名前をつけるはずだ。ならここはヨーロッパの何処かなのか?

 座村がそう考えていると、周りの生徒たちから微かな動揺と同時に、嘲笑のようなものが聞こえてきて、座村は首を傾げた。

 

「……聞きたいんだが、この国は日本からどれだけ離れてる?」

「ニホン……?はて、私はそんな国聞いたことありませんぞ」

「ハァ!?」

 

 今度は座村が動揺する番だった。

 流石にヨーロッパの何処かなら日本くらい知っているだろう、とは思っていたが、まさか知らないとは。

 座村が珍しく動揺するのに対し、コルベールと呼ばれた男はその勢いに少し調子が狂いながらも、説明を行う。

 

「ど、どうやら相当遠い異国から来たようですね……説明しますと、貴方はこちらのミス・タバサの使い魔として召喚されたのですよ」

「使い魔ァ?」

「ええそうです。簡単に言ってしまえば、主人の目となり、耳となり、また主人が望むものを見つけ、そして、主人を守る存在の事を言います」

 

 使い魔……なるほど、と座村は思った。

 妖術で言えば、動物を操り使役するタイプのようなものだろうか。後ろにいる生徒たちが変な動物と一緒だったのもそれで納得した。

 しかし、座村は人間だ。犬のように首輪をつけられるような存在じゃない。取引でもない限り……

 そこまで考えて、座村は皮肉めいてこう言った。

 

「……要は俺は、そこのチビと主従関係ってことか?」

「ごめんなさい」

 

 と、座村の言葉に対して少女はそう言った。

 

「貴方を召喚してしまったことで、故郷から引き剥がしてしまって……ごめんなさい」

 

 座村は、寡黙ながらしっかりと誠意の籠った謝罪の言葉を聞いて、困ったように頬を掻いた。

 そして目の前にいる顔も見えない少女に対し、こう問いかける。

 

「お前は?」

「タバサ」

「なんで俺を召喚した?」

「……未来を変えたかった」

 

 タバサと名乗った少女は、小さく俯きながらそう言った。未来を変えたい。その言葉を聞き、座村はあることを思い出した。

 

──蠱。

──あの厄災は、近い将来もう一度起こる。

──お前にはやるべきことがある、未来のために。

 

 はっきりと覚えている。

 何処まで真実を知っているのか分からない怪しい奴が、座村に真実を語った。そして、自らの目的のために座村に協力を持ちかけた。

 混濁した記憶の中、そんな事を思い出した座村は、しばらく黙って沈黙した。

 それを見かねたのか、一人の女が近づいてくるのを座村は感じた。

 

「ゴホン……失礼するわね、盲目の剣士さん?」

「……おまえは?」

「あたしの名前はキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーよ。気安く"キュルケ"って呼んでね。それで、あなたのお名前は?」

 

 座村はそこまで言われ、そう言えば名乗っていなかった事を思い出し、名乗りをあげた。

 

「俺は……座村清市。好きに呼べ」

「わかったわ。じゃあサムラにも紹介するわね」

 

 そう言ってキュルケと名乗った女は、タバサという少女と肩を組み、座村に対してこう語る。

 

「この子はタバサ。私の友達。貴方は彼女の使い魔として召喚されたわけだけど……貴方は使い魔になるのは嫌?」

「…………」

「もう一度使い魔を召喚するには、色々と厄介な条件があるのよね。タバサでは、その条件を満たすことは絶対できない……あたしとしては、あなたがタバサの使い魔になってくれると嬉しいんだけど……」

 

 キュルケはそう言って、真剣な眼差しで座村を見つめた。

 座村は盲目でその表情は見えないが、その言葉には友を思う気遣いが感じられる。

 どうやら自分が使い魔にならなければ少女が不利益を被るらしい。だが座村としては誰かの手駒として使われるつもりはなかった。

 だが今の座村は、この国の事をよく知らず、無一文で四十に迫るおっさんだ。野に放たれて生きていけるとは思えない。

 座村は顎の髭を少し撫でると、タバサの方を向いてこう言った。

 

「……俺は見ての通り俺は目が見えねぇし、この国のことはよくら知らない」

「…………」

「よくわかんねぇが、飯があるならひとまず使い魔でいいぜ。流石に一文無しってわけにはいかねェからよ」

 

 その言葉に反応したのはキュルケの方だった。表情は明るくなり、タバサの肩を叩く。

 

「あら、優しい男じゃない。良かったわね、タバサ──」

「ただし」

 

 と、その言葉を遮るように座村は続ける。

「俺はいつか、元の世界に帰らなきゃなんねェ。残したものが沢山あるからな……だから俺が帰る方法を探してくれるっていうなら、使い魔になってやるぜ」

 

 それを聞いたタバサは、しばらく沈黙したのち、こう言った。

 

「……それでいいの?」

「ああ」

「必ず見つける」

 

 その途端、タバサの表情が安心したような柔らかなものに変わったのを感じた。

 座村は彼女のそんな変化を感じ取り、そして歳の近いであろう娘のことを思い出した。

 

──私いつか、お父さんみたいな剣士になる。

 

 未来を変えたい、か……

 あの時協力を持ちかけてきた毘灼の奴らとは違う、残酷な運命を、本気で変えたいと願うその気持ち。

 座村は無意識のうちに、タバサからそんな事を感じ取っていた。

 

「んじゃ、これからよろしくな」

「うん」

 

 座村はそれだけ確認すると、タバサに握り拳を近づけた。

 それが一種の誓いのようなものだと感じたタバサは、自分も握り拳を作り、彼の拳に合わせ、突いた。

 こうして座村清市は、タバサの使い魔としてこの世界に召喚されたのであった。

 




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