雪風と飛宗   作:六平ァ!!

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今回は飛宗も一緒です。




 

 さて、座村とタバサがお互いの合意を得た頃。

 実は儀式はまだ終了していなかった。コルベールがタバサに対してそれを促す。

 

「ではミス・タバサ、儀式の仕上げといきましょう」

「…………」

 

 タバサは少し顔を赤めた。それを見て、キュルケがくすくすといやらしい笑みを浮かべた。

 

「なに?」

「あらあら、わかってるくせに」

 

 意地悪く言うキュルケを無視して、タバサは佐村に一歩近づいて、こう言った。

 

「屈んで」

「……はァ?」

 

 タバサがそう言うので、座村は言う通りに屈んだ。するとタバサは小声で呪文を唱え、

 

「我が名はタバサ。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ──」

「っ……」

 

 座村の頬にキスをした。

 突然の出来事に座村の感情は困惑が勝った。

 

「おいおい、俺ァ──」

 

 年頃の娘がいるんだが……と言おうとした時、座村の右手が少し熱くなった。

 それは何かが刻まれるように温度が高くなり、火傷のような感覚がした。

 だが座村は右手に持っている妖刀の力でこれくらいの焼けるような痛みには慣れているので、すぐに治ったのを感じて手をブンブン振り回して平気な顔をしていた。

 そして、焼けるような感触が何か文字のようなものを刻んでいたのに気がつく。触ってみると、確かに模様の形だった。

 

「……なんだァ、これ?」

「それは使い魔のルーンですよ。契約が成功すると使い魔の体のどこかに刻まれる、契約の文字ですね」

「……なるほど」

 

 ではさっきの口付けは儀式の一環か、と座村はそこまで察した。

 

「ではミス・タバサ、これで貴女も晴れて二年生への昇級となります。せっかくですし、彼に学院の中を案内してあげてはどうですか?」

「そうする」

 

 コルベールと名乗った男はタバサに対してそう言った。こうして使い魔を得たタバサは、杖を持って座村の元へ近づいた。

 

「サムラ、行こう?」

「おうよ」

 

 タバサはそう言って、座村の袖を掴んで歩き出した。座村は彼女の誘導に従い、手探りで感触を確かめながら学院の案内を受けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トリステイン魔法学院は、西洋の城のような構造をしている。

 真ん中に一番高い塔が立ち、その周りに五芒星のように配置された五つの塔がある。それぞれの塔には魔法の講義を受ける為の教室、図書館、食堂、さらには大浴場なども完備されている。

 座村はタバサに学院を一通り案内して貰った後、最後にタバサの部屋へとやって来た。

 

「ここがお前の部屋か」

 

 彼女の部屋があるのは五芒星の塔のうちの一つ、その五階部分。景色がいいらしいが、残念ながら座村は見ることができない。

 中に入ると、座村は早速部屋のあちこちを剣の鞘で叩いて部屋の家具の配置を感触で確かめる。

 すると部屋の壁の近くに、一際大きな家具があることに気付いた。手で触って確かめると、本の帯が敷き詰められているとわかった。

 

「ここにあるのは本棚か?」

「うん」

「本は好きか?」

「うん」

「そうか……目が見えてたら読んでみたかったなァ……」

 

 座村はそんなことをボヤきながら、部屋の他の部分を確かめ始めた。

 そんな座村を、タバサは不思議に思っていた。目が見えず文字が読めないことを残念がっているが、特段後ろめたく気にしている様子は無さそうだ。

 普通、盲目という身体的ハンデは嫌厭されがちだ。それが例えメイジであってもだ。もしかしたら彼もそのような扱いを受けてきたのかもしれないが、彼からは卑屈な感じが一切感じられなかった。

 タバサがそんな風に思っていると、ベッドを確かめていた座村が徐にこう言った。

 

「あー、ベッド一つしかねェのか」

「……ごめんなさい。幻獣が召喚されると思っていたから」

「んー、そうか」

 

 座村はさほど気にしていない様子だったが、使い魔とはいえ人間を獣用の草の上で寝かすわけには行かないと、タバサは思った。

 

「……一緒に寝る?」

 

 流石になんだか申し訳なくなったので、タバサは顔を赤らめながら小声でそう言った。

 だが座村はとぼけた顔でそれを丁重に断る。

 

「気遣い無用。俺は床の上でいいぜ」

「そう……」

 

 座村は流石に年頃の女子と添い寝というわけには行かないと断った。

 どのみち、座村は日本人なので床の上で寝る事も慣れている。

 それに、かつて日本で大きな戦争──"斉廷戦争"があった時は、ベッドではない寝袋や草の上で仮眠を取っていた事もあった。

 それに比べれば、雨風が凌げる部屋の中で布団を敷いて寝れるのはだいぶマシだった。

 座村は試しに部屋に置かれた草の上に寝っ転がって、寝心地を確かめてみる。悪くないと思ったその時だった。部屋の扉がノックされ、返答も待たずに開かれたのは。

 

「フフフ、タバサ〜?大人のいい男と二人きりで仲良くしてるかしら〜?」

 

 部屋に入ってきたのは、キュルケだった。タバサの方は彼女がいやらしい笑みを浮かべているのを見て、何を考えているかを察してムッとした。

 

「その声はァ、キュルケか?」

「正解。いやぁ、タバサにもようやく春が来たって感じで嬉しいわ」

 

 座村が尋ねると、キュルケは揶揄うようにそう言った。タバサはそれに対して反論する。

 

「彼は使い魔」

「春は春よ」

「全然違う」

 

 キュルケは相変わらずのようだったが、そこで用事を思い出したのかこう言い出した。

 

「あ、そうそうタバサ、そろそろ夕食の時間だから呼びに来たんだけど……流石に使い魔と一緒で食堂には入れないわよ?どうするの?」

 

 キュルケは申し訳なさそうにそう言った。

 まあ確かに、動物を食堂に入れたら衛生的に問題があるのはわかる。

 知れば知るほど、どうやら人間が召喚されること自体がイレギュラーなのかも知れないと座村は思った。

 

「今日は無理でも、明日までには許可を取る」

「そう言うと思ったわ。じゃ、食堂の人に頼んで彼の分も用意してもらいましょうか」

 

 そう言ってキュルケが明るい口調で手を叩いたのが聞こえた。座村は食事を見繕ってくれるタバサに対して礼を言う。

 

「悪いなァ、俺のためにわざわざ」

「気にしないで」

 

 タバサはそう短く言った。

 相変わらず口数が少ないなぁと思いつつも、決して無感情ではないことを知った座村は、食堂に行く二人を見送ってひとまず仮眠でも取ることにした。

 

 草の上に寝転がり、今後のことを考える。ここに来て思っていたが、日本を知らない謎の国に召喚されたこと、そして妖術ではなく魔法を使うと言う話……

 座村は一つの結論を出しつつあった。ここは自分のいた世界とは別の世界なのではないかと。

 

「飛宗──」

 

 座村は徐に起き上がり、傍に立てかけてあった愛刀を持ち、鯉口を切ってみた。

 そしてその刀の名を呼び、人間に宿る不思議な力の源──玄力を刀に込める。

 

「梟」

 

 その言葉を言った途端、座村の知覚が広がった。目が見えていないのに、まるで見えているかのような映像が、頭の中に流れてくる。

 

──梟は、知覚強化。

 

 これは座村が持った妖刀──飛宗の能力の一つ。

 上空に梟の眼模様が浮かび、玄力の感知を行う。盲目の座村とは相性が良く、前の世界ではこれで日本全土を監視し、同じ妖刀の契約者達の反応を見つけ次第斬り殺すと言う、ある種の抑止力として使うことができた。

 なぜそんなことをしたかと言えば、前の世界で、妖刀とその契約者達が起こした罪を贖うためだ。

 

 そのために、座村は様々なものを裏切った。

 

 神無備、同じ流派の弟子、六平国重の息子、護衛の妖術師、そして実の娘のイオリまで……

 

 座村は空一面に広がる梟の目で、学校全体を見渡した。中には生徒達と思しき玄力反応が多数。その他にも教員や使用人らしき人物も見えた。

 座村は徐に、梟で空の方を見上げた。そこには強力な玄力反応を示す月のようなものが二つあった。

 

「なるほどなァ」

 

 月が二つある。この時点で座村は確信した。この世界は日本のいた世界とは全く違う、と。

 そこまで確認し、座村は飛宗の鯉口を閉じた。そして一息吐くと、また草の上に寝転がった。

 

『じゃあなんで俺はこの世界に召喚されたんだよ!』

『知らないわよ!!』

 

 彼が仮眠を取ろうとした時、真下の部屋あたりから男女の言い争う声が聞こえた。睡魔を邪魔されたので座村は起き上がった。

 

「(痴話喧嘩か?)」

 

 下にいるのはタバサと同じ生徒なのか?と考えたが、くだらないと思って考えるのをやめた。

 そして手探りで窓を閉め、座村は煩い雑音を遮断した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばらく経ったのち、座村は飛び起きた。

 扉の向こう側に人がやってきたのを音で感知したからだ。ノックされる前に起き上がる。

 ノックの後、扉が開かれると、タバサがやってきた。彼女は何かを手に持っているらしく、金属音がなっている。

 それをテーブルに置くと、タバサは「食事を持ってきた」とだけ呟いた。座村は頷いて机に向かう。

 手探りで机に向かうと、どうやらスープとパンの匂いがした。暖かいミルクもあるようで、甘い匂いがする。

 

「説明」

「あン?」

「さっき、空に何か現れた。フクロウの目のようなもの。アレは何?貴方がやったの?」

 

 座村がテーブルに座った時、タバサがそう問いかけた。座村は彼女が何を問いかけているのかを察して言い淀む。

 

「……気付いたのはお前だけか?」

「うん」

「あれは……」

 

 座村は肌身離さず持っている飛宗を指し、軽く説明する。

 

「この刀でやった」

「気になっていた。それは魔剣?」

「……来るべき時が来たら教える。今は散策しないでくれ」

「どうして?」

 

 座村はパンを持ち、タバサに忠告を含めてこう言う。

 

「ロクでもねェ()()だからだ」

「……わかった」

 

 タバサはあまり納得していない様子だったが、ひとまずそれ以上の尋問はしなかった。

 座村はパンをひとかけら摘んで、スープにつけて口に運ぶ。久方ぶりの西洋料理は、暖かくて美味しかった。

 

 食事の後、座村は先に寝っ転がって本格的な眠りにつく準備をした。風呂場に関しても許可が必要とのことなので、今日は我慢した。

 座村が先に寝ようとした時、タバサの方から何か脱ぐような音が聞こえて飛び起きた。

 

「おいおい、大人の男の前で着替えんなよ!」

「貴方は目が見えないから大丈夫」

「いやいやいや……なんかまずいって!」

「そう?」

 

 座村としては実の娘より年下の女子と一緒の部屋な時点でまずいのに、着替えなんてされたら娘になんと言われるか、と困り果てた。

 だがタバサは着替えるのをやめない。座村はため息を吐いた。

 

「あー、わかった。もうツッコミ入れねェ」

 

 とりあえずタバサの方は見ないように、横になって転がった。

 




次回もお楽しみに!
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