雪風と飛宗 作:六平ァ!!
「ちょっと失敗したみたいね」
「(ちょっとじゃねェだろ!!)」
爆発の後、砂塵が収まったところで座村はそうツッコミを入れた。
当然、他の生徒からも非難が殺到する。女教師は気絶しているため、それを止めるものは誰もいなかった。
結果として、午前の授業は中止になった。ちなみに後片付けはルイズとその使い魔の少年に押し付けられた。
座村とタバサはとりあえず自室に戻った。タバサの方は時間を無駄にするわけにはいかないのか、静かに本を読み始めている。
座村はしばらく壁にもたれかかっていたが、そこで先ほどの出来事を振り返り、改めてタバサに問いかける。
「なァ、ルイズが使う魔法ってのはいつもああなのか?」
「うん」
「だろうなァ。たかが石ころに玄力を込めすぎだぜ、ありゃ」
座村が聞きなれない単語を言うのを聞いて、タバサは本から顔を上げた。
「ゲンリョク?」
「あー、えっとな……めんどくせェ、もう一から説明するか……」
座村は頭を掻きながら、情報を整理し、まず最初に言うべき事を説明し始める。
「まず俺はどうやら、この世界の人間じゃねェ」
「?」
「根拠はいくつかある。まず俺のいた国の名前を誰も知らねェって事と、月が二つあるって事だ」
そこまで説明すると、タバサは本を閉じてベットから立ち上がった。
月が二つあると言う話、まるで見えていたかのような言い方だ。だが座村は見ての通り盲目。流石に剣の鯉口の音は月まで届くはずもない。
そのカラクリが気になったタバサは、座村の側に寄り、さらに問いかける。
「月が見えたの?」
「ああ、コイツの力でな」
座村は立てかけてあった妖刀を、手探りで引き寄せた。
「コイツは"飛宗"っていう妖刀だ。いくつかの妖術が組み込まれていて、そのうちの一つが知覚強化……つまりこれを介せば、盲目でも周りが見える」
「すごい……」
「んで、俺が見たルイズの玄力についてだが……まず玄力ってのはな──」
タバサは魔剣として珍しい能力を持った飛宗についても気になったが、とりあえず座村の説明を黙って聞いた。
彼の説明を要約すると、彼の世界の人間には"玄力"という不思議な力が存在していて、彼の言う妖術はそれを用いて発動するのだと言う。
「玄力……」
「まァ、あくまで俺の世界の概念だから、どこまで通じるかわかんねェけどよ。少なくとも俺は、飛宗でルイズが魔法を使う時の力の掛けた方を玄力として見えた。つまりこの世界でも、玄力という力はあるようだ」
かなり面白い概念だった。タバサは学生で騎士であると同時に、研究者気質でもある。新しい魔法や概念には多大な興味を示した。
ただ、この世界の魔法は玄力と言う概念を使っていないはずだ。マジックアイテムでもない限り、人間が魔法を使うには"精神力"を消費するだけだ。
「魔法は精神力を使って放つもの。玄力なんて概念は聞いたことがない」
「そう、それだ。俺は学者じゃないからわかんねェけどよ、多分お前らは無意識のうちに精神力を使って、
座村は「あくまで仮説だがなァ」と予防線を張ったが、タバサにとっては衝撃的な仮説だった。
もし今まで精神力と呼んでいるものが、身体から玄力を引き出すための通貨のようなものだったら?ならもし、それの両方を意識して技術を極めたら?
メイジが玄力を意識して、魔法を引き出す。
妖術師が精神力を意識して、妖術を引き出す。
これは今までの魔法の発動方法を覆す、世紀の大発見かもしれない。タバサはらしくない興奮を覚えたが、そこでハッとして最初の話に戻す。
「……最初の話に戻る。その魔剣から見て、ルイズの玄力はどうだった?」
「引き出す量が多すぎたな。精神力はともかく、本人の玄力量は尋常じゃねェ。それをアイツは、上手くコントロール出来ていないようだった」
なるほど、だとしたら──
「じゃあもし、玄力を意識して、精神力でコントロール出来るようになったら?」
「そん時ァ──」
座村は口角を上げ、こう言った。
「アイツ、怪物になるぜ」
しばらくして、昼食の時間となった。
座村はあれからタバサに質問攻めに遭い、結局昼食までの時間はあっという間だった。それまでに二人は、様々な仮説を立てては反復していた。
その情報は、タバサが逐一ノートに書き記していた。勉強熱心だなぁと思っていたが、タバサは同時に食事もがっつく様に口に入れていた。
「お前、よく食べるな?」
「普通」
いや普通じゃないと思うが……と座村は思った。食べっぷりが発育途中の女の子なのを差し置いても、結構多い方である。
見えてはいないが、このペースだと頬がハムスターみたいになってそうだな、と思っていると入り口の方から何かの喧騒が聞こえた。
「決闘!決闘だ!」
「ヴェストリの広場でギーシュと平民が決闘するぞ!」
座村がその方を向いた。
どうやらギーシュとかいう生徒が、平民と決闘するらしい。目が見えないので平民の方は誰か分からなかったが、面白そうだと思った。
「なんだァ、騒がしいな……」
「興味ない」
タバサはそう言うが、座村は見に行きたかったので、
「連れてってくれたらァ、俺のデザートやるよ」
「すぐ行く」
餌で釣ったら手のひら返ししてきた。
なるほど、もしタバサにお願いするなら土下座とかより食べ物の方がいいのか、と座村は理解した。
座村はタバサに手を引かれ、広場までやってきた。座村は手に持った飛宗の鯉口を切って閉じ、周囲を確認する。
「とりあえず、逃げずに来たね。馬鹿正直だと褒めてやろうじゃないか」
「誰が逃げるか!あと俺は馬鹿じゃねぇ!」
「いや、本気で褒めているんだよ。ある意味ね」
座村はその平民らしき声に聞き覚えがあった。
昨日の痴話喧嘩、朝の押し問答、そして教室での一件。まさか、あのルイズの使い魔だって言う少年か?
「君、名前は?」
「俺は、平賀才人」
その名前を聞いて、座村はハッとした。その名前はまるで座村と同じ日本人の血を引いているかのようであったからだ。
「僕はギーシュ。"青銅のギーシュ"だ」
ギーシュと名乗ったキザな口調の男は、まるで歌うように花らしきもの(おそらく薔薇)を口にし、決闘の開始を合図した。
「始めようか」
ギーシュはそう言うと、花の形をした杖を振った。
流石の座村も花びらが舞ったのは見えなかったが、彼の魔法で地面から何か甲冑のような音がする物体が出現したのは感じ取れた。
「な、なんだこりゃ!」
「僕はメイジだ。だから魔法で戦う。よもや文句はあるまいね?」
「て、てめえ……」
才人とか言う奴、今更気づいたのか。馬鹿なのかと座村は思った。
どうやら平民がメイジを相手にするのは、妖術師相手に素手で挑むのと同じらしい。
「うおぉぉぉ!!」
才人は殴りかかろうと走るが、それを遮るように甲冑が突進。その拳を才人の腹にめり込ませた。
「げふっ!」
あ、まともに食らったな。と座村は感じた。才人という平民はその場に倒れ込む音が聞こえ、座村は頭を抱えた。
そこに誰かが駆けつけてきた。どうやら主人のルイズのようだ。
「ギーシュ!」
「ルイズ!悪いな。君の使い魔をちょっとお借りしているよ!」
ルイズは長い髪を揺らし、よく通る声でギーシュを怒鳴りつけた。
「いい加減にして!大体、決闘は禁止じゃない!」
「禁止されているのは、貴族同士の決闘のみだよ。平民と貴族の間での決闘なんか、誰も禁止していない」
「そ、それは……」
そこまで言われ、ルイズが言い淀むが、その時才人が立ち上がった。
「だ、黙ってろ……こんなの平気だぜ……」
「サイト!」
その後も決闘は続く。
だが素手のサイトは甲冑の攻撃を避けることもできず、殴られ蹴られの連続だった。
ついには顔面に喰らったのか、サイトはよろけてまた倒れた。
黙っていられなくなり、座村は咄嗟に足が前に動く。
「待って」
「んだよ……」
それを止めたのはタバサだった。
「あなたに怪我してほしくない」
「でもよ……」
「なぜ、助けたいの?」
タバサはそこに理由を求めた。
座村は一呼吸置き、理屈を求める彼女に自分が動く理由を告げる。
「……アイツらには失礼かも知れねェけどよ」
「…………」
「俺の信念は"悪を滅し、弱者を救う"だ。このまま無力な奴がなぶり殺しにされてるのを、黙って見てらんねェ」
座村がそこまで言うと、タバサは納得したように、
「分かった。行ってきて」
「おうよ」
とだけ言った。
座村は主人からの許可を得ると、片手に持っていた妖刀を正面に掲げ、親指で鯉口を切った。
「飛宗──」
ちょうどその時、ギーシュの甲冑が立ち上がるサイトに対して殴りかかろうとしていた。
座村は妖刀越しにそれを確認すると、刃を
「鴉」
その瞬間、妖刀から黒い羽が舞った。
今回あった玄力と精神力の関係ですが
・メイジは無意識のうちに身体から「玄力」を引き出している。
・妖術師は「精神力」を介さずに「玄力」を直接引き出してる。
としました。
つまりゼロ魔世界で魔法を発動するのに使われる「精神力」は、「玄力」を引き出す通貨のようなもの、と解釈しました。
これなら両方の原作を尊重出来るかなと。