雪風と飛宗 作:六平ァ!!
青銅のギーシュは勝気でいた。
香水の一件で二股したのが彼女にバレた際、メイドに突っかかったのをこの平民の男が庇ったのが全ての始まりだった。
貴族として、平民に喧嘩を売られて買うわけがない。丁重に決闘として受け入れて、このサイトとか言う男をボコボコにするつもりだった。
そして実際、そうなっている。サイトとか言う平民の男は、ギーシュが作った青銅のゴーレム相手に手も足も出ずにボコボコにされている。
「もう終わりかい?」
「……まだだ」
「サイト!」
決闘は誰がどう見たってギーシュの優勢だった。だがサイトという男は根性だけはあるのか、まだ立ち上がった。
その勇気だけは讃えてやろう、と思いギーシュが薔薇の杖を振るい、ゴーレムを動かそうとした時──
不意に、何か黒い羽のようものが舞った。
「(──カラスの羽?)」
ギーシュがそれに目を奪われた瞬間だった。
「飛宗──」
「鴉」
青銅のゴーレムが、真っ二つに切り裂かれた。
「へ?」
ギーシュは訳が分からず呆然と立ち尽くしたが、自分のゴーレムがいた場所に、カラスの羽のようなものが無数に舞い散った。
その羽が集まる先を見た。そこには、シャツの上に黒い上着を着た、大人の男が立っていた。
「お前サン、まだ続けるのか?」
「!?」
男は口に咥えた細い葉巻のようなものを咥えつつ、そう言う。
ギーシュは彼の手に持った曲剣が、わずかに刃を見せていたのを見てあることを察した。
「(まさか、この男がゴーレムを斬ったのか!?)」
確かコイツはタバサの使い魔として召喚された男だ。名前は確か、サムラと言ったか。
いや、そんなことはどうでもいい。貴族にとって平民など全て小物だ。名前を覚える必要もない。
それよりコイツは今何をした?カラスの羽が舞ったと思ったら、一瞬でゴーレムが斬られた。
コイツはタバサの隣にいつもいる。そのタバサは野次馬の一番後ろにいた。まさかあそこから一瞬で接近して斬ったのか?どうやって!?
「き、君!貴族の決闘に割り込むなんて無粋だぞ!!」
ギーシュは動揺を隠せなかったが、杖を突き出して座村に対してそう言った。
決闘に割り込むような無礼な者に遅れを取るわけにはいかない。貴族が平民に舐められてはならないのだ。
そうだ、父も言っていたではないか。「命を惜しむな、名を惜しめ」と。
「さっき貴族同士じゃねェ、って聞いたが?」
「関係ない!コイツは僕の獲物だ!」
「悪いがコイツは同郷の嘉かも知れねェんでな。これ以上続けるなら、俺が代わるぜ」
座村がそう言うが、ギーシュは気に入らない。薔薇の杖を突き出して一触即発だ。
だが、その後ろで才人がよろけながら立ち上がった。そして立ちはだかった謎の刀の男に対して、才人は言う。
「どいてくれ……これは、俺の戦いだ」
「やめとけ」
「でも……!」
才人がそう言うが、座村は自信を持ってこう言う。
「大丈夫だ。俺に任せとけ」
座村はそれだけ言って、前に出た。ギーシュに立ち塞がるその背中は、才人にはあまりに大きく見えた。
怒りが収まらなかったギーシュだが、才人が座村を見送ったのを選手が交代したと見受け、それを了承することにした。
「いいだろう……選手交代だ!決闘を続ける!」
「おう、そうかよ──
──こっからぁお前……何もできねえぞ」
座村はまるで開かない目を見開き、睨むようにそう言った。
「ふ、フン!威勢はいいが、君は盲目ではないか!剣を持っても僕は見えまい!」
ギーシュはその気迫に圧倒されるが、貴族としての自制心を保ち、杖を振るう。
そして斬られた青銅の甲冑の代わりを新たに作り出した。それも七体。しかも全員が剣や槍などの武器を持っている。
「行けっ、ワルキューレ!」
相手も剣を持っているのだ。容赦はいらない。貴族たる者、平民に立場の違いを思い知らせてやるのだ!!
「飛宗──」
座村は冷静に耳を澄ませた。
鯉口を切る。反射音を聞く。青銅の甲冑は七体であると見抜いて、即座に飛宗から羽を舞い散らせる。
「鴉」
抜刀。
その瞬間、座村は弾け飛ぶようにして、鴉の羽が舞った場所へ瞬時に移動した。そう、
飛宗はその間に、七体の青銅ゴーレムを一直線に切り裂いた。
──鴉は、羽の舞う方へ瞬間移動。
座村は、七体のゴーレムが作っていた壁を一気に突破し、ギーシュの目の前に居た。
「は?」
瞬きする間の、一瞬の出来事のように感じた。
そしてギーシュが最後に見たのは、首元に襲いかかる
決着は一瞬だった。
カラスの羽が舞い散り、青銅の甲冑が真っ二つに切り裂かれた。そしてその男はギーシュとか言うキザな男の前に、瞬時に移動した。
平賀才人は、その様子を瞬きする間に見逃した。
この人は、一体何をした?
日本で平和に暮らしていたとはいえ、魔法を初めて見て、勝てないと思った。
それでも負けられない。理不尽な理由で女の子にいちゃもん付けた馬鹿野郎に、謝る筋合いなんてない。貴族だかメイジだか、そんなの知らない。男として負けられない。そう思って立ち上がった。
そんな相手を、割り込んできたこの大人の男は一瞬で切り伏せた。誰だろうか。確かルイズは自分の他にもう一人、人間が召喚されたと言っていた。気になってはいた。
彼は多分、同じ日本人だ。
そして彼は、才人が見たことないようなドス黒い日本刀で、不思議なカラスの幻覚を見せて、そして勝った。
「すごい……」
俺も、あんな風になれたら……
彼が魅せた背中はあまりにも大きく、偉大だった。
才人がそれを見て目を見開いた時、アザが痛くて目を瞑った。そしてまた目を開くと、その日本刀を持った同じ日本人らしき男が、こちらの前に立っていた。
「大丈夫かァ?」
その男がしゃがんでそう言った。
才人は彼の顔を見て、両目に傷があるのを見て驚愕した。この人は盲目なのか?
「傷が酷い。死には至らないけど、後遺症が残る」
「すぐに水の秘薬を使わないと!」
青髪の女の子がそう言うので、ルイズが慌て駆け出した。だがそれを、盲目の男は止めた。
「必要ねェよ」
「え?」
「今、楽にしてやる」
急に何を言っているんだ?と才人が思ったその時、男の手に持つ日本刀が赤く揺らめき、そしてそれは炎に変わった。
「飛宗──」
その炎が才人を包み込む。
まさか、楽にするってそう言うことかよ!と思ったが、不思議とその炎は熱くなかった。
「雀」
むしろ逆だった。
暖かな感じがする炎は、才人が攻撃を喰らった箇所に対して働き、焼けるようにその箇所の痛みを引かせていた。
そしてしばらく経つと、身体中の痛みが無くなったことに気がついた。
「うしっ、これで大丈夫だろ」
「え、ええっ!?」
座村はさも当然の如くそう言う。
才人の怪我が完全に治ったのを見て、ルイズはおろか、タバサや周りの生徒たちまで全員が驚愕して大声を上げた。
魔法学院の本塔最上階にある学院長室。
そこでこの広場の様子を覗き見していた人物が二人いた。
一人は、召喚の儀式に立ち会っていた担任教師のコルベール。もう一人は、腰まで伸びた白髪と、これまた長く伸びた白い髭が特徴的なこの魔法学院の学院長、偉大なる魔法使いオールド・オスマンである。
「……勝ってしまった」
「盲目の男が、じゃがの」
二人とも決闘の結果に驚いている。
まさかタバサの使い魔として召喚されたあの盲目の男が、低クラスのドットメイジが相手とはいえ、一瞬で勝利するとは思っていなかったのだ。
「あれは……一瞬で切り伏せたように見えました。瞬きする間もなかった。あの移動速度……まるで、瞬間移動のような──」
「まさか。そんな魔法は虚無でもなければありえまい。第一、あの盲目の男は平民じゃろうて」
コルベールの推測を、オスマンはあり得ないと否定した。
だが事実としてあの盲目の男は、一瞬で移動してギーシュのゴーレムを切り伏せた。それは事実なのだが、メイジでない彼はどうやってそんな超速移動をしたのだろうか。
「しかも最後……剣から炎が出たかと思えば、ミス・ヴァリエールの使い魔の怪我が完全に治っていた!もしや──あの剣にカラクリが?」
コルベールはあの剣に興味がそそられると同時に、若干怖さも感じていた。
どうやらあの盲目の男が持つ剣は何かしらのマジックアイテム、もしくは魔剣の類なのかも知れない。
だがそれを加味しても、あの剣からはただならぬ雰囲気を感じていた。興奮のままにそう言ったが、知っていいのだろうかとも思った。
「……この件はわしが預かる。他言は無用じゃ、ミスタ・コルベール」
「王室に報告しなくていいのですか?」
だがあの剣に何かカラクリがあるのだとしたら、あれは今まで発見されたあらゆる魔剣やマジックアイテムを凌ぐ一級品だ。
得体の知れないものなら、それこそ王室に報告し、今後の処遇を仰ぐのも当然と言える。
そう考えていたコルベールは、オスマンの発言に疑問を感じ、質問が漏れ出た。
「アルビオンでの内乱もあり、最近は何かとキナ臭いのはわかるな?」
「はい」
「もしあの男とあの魔剣のことを報告すれば、王室からいいように使い捨てられるだけ……その事は君もわかっているはずじゃ」
「……その通りです」
コルベールはオスマンにそう諭され、それ以上の言葉をなくした。
肩を落としたオスマンは、コルベールに退室するように促す。コルベールは杖を持ってこの部屋を出た。
「あの剣……もしや"破壊の杖"と──」
誰もいなくなった部屋で、オスマンはそこまで呟き、そこから先の言葉を飲んだ。
以上で飛宗の基本能力が出揃いました。
鴉:羽のあるところに一瞬で斬り掛かる瞬間移動能力。
梟:玄力を探知する知覚強化能力。
雀:炎で傷を治癒する治癒能力。
この基本三種類だけでもゼロ魔世界のマジックアイテム超えてます()