雪風と飛宗 作:六平ァ!!
──座村は"音"に斬りかかる。
それは座村の剣術をよく知る者の言葉だ。
目の見えない座村は、音や匂いなどの他の感覚を駆使して周りを把握している。座村がよく刀の鯉口を切ったり閉じたりしているのはそのためだ。
音の反響で敵の位置を掴み、その方へ斬りかかる。座村はそれができる男だ。
問題は目が見えないので敵味方の判別が効かない事。誤認で切ってしまう事もあり得る。その場合、座村は匂いも駆使して敵味方を区別しているのだ。
目以外の五感を駆使した素早い剣術。それを可能にしているのは、本人の鋭い感覚だけでなく、その居合抜きの速度にもある。
──居合白禊流。
刃を自分の方に向けて構え、抜刀した後に刃の向きを変えるという離れ業により、速度を殺さず超速で抜刀する剣術。
それを座村教えた者はこの剣術をこう表現した。「最速こそ最強である」と。
さて、決闘の直後、その座村本人はというと広場で大変面倒な目に遭っていた。
というのも、座村が飛宗の能力を使い、才人の怪我を治したのがまずかった。
この世界において、効果の高い回復魔法というのはなかなか難しい。まずメイジ側に水系統のトライアングルクラス適性が必要で、尚且つ高い効果を得るには、秘薬を並行して持ちいるのが一般的である。
座村の使った飛宗の能力「雀」は、そのような常識から並外れていた。秘薬どころか魔法も使わない平民である座村が、アザだらけだった才人を治したのが奇跡に近い。
そのため、座村は広場にいた生徒たちにもみくちゃにされて質問攻めに遭ったのだ。
「い、今のどうやったんだ!?」
「お前平民じゃなかったのかよ?」
「ひょっとしてその剣がすごいのか!?」
「やめろ!見せもんじゃねぇぞお前ら、散れェ!」
座村はもみくちゃにされながら、なんとか声を張り上げた。あのギーシュを鞘でぶちのめし、才人の怪我まで治した座村への興味は尽きない。
生徒達は座村を胴上げでもするのかという勢いでしがみついていた。
「座村」
「お、おう!」
質問攻めに遭う中、タバサの声がかすかに聞こえ、座村はその方を向いた。
その直後、座村は「鴉」の能力で瞬間移動。生徒達の包囲網から逃れたのであった。
「あ、逃げられた!」
「どこ行った!?」
座村が忽然と消えたことにより、広場が騒がしくなる。その様子を渡り廊下の壁上から見下ろしつつ、タバサは座村に声をかけた。
「大丈夫?」
「なんとかなァ……」
子供にもみくちゃにされ、座村は疲れ気味だった。ちなみに今の瞬間移動は、タバサが持っていた玄力の羽を目掛けて行ったのである。
「それ」
「あン?」
「瞬間移動、知覚強化、ヒーリング、三つの技が使えることはわかった。能力はこれで打ち止め?」
タバサは妖刀に対する少しばかりの好奇心を混ぜ合わせ、そう聞いて来た。その口調に座村はあることを察する。
「もう何が出ても驚かねェ、って感じだな」
「慣れた」
「そうかい。まァ、基本の能力はこれで全部だな」
「どれも補助系?」
「そうだ。お前らの想像する派手な能力じゃねェが、むしろそれが手に馴染む」
派手な能力ではないと本人は言ったが、飛宗の能力はこの世界からしても異常な存在である。
まず瞬間移動に関して。この世界では失われた系統である虚無でもない限り、瞬間移動ができる魔法は存在しない。つまりメイジでは再現できない。
次に知覚強化。これはマジックアイテムなどで例があるが、飛宗の場合、国丸ごと覆うレベルの千里眼を展開する事も可能だ。これもこの世界のマジックアイテムのレベルを超えている。
最後に回復に関しては言うまでもない。水系統の適性に加えて秘薬まで必要なレベルの回復を、魔剣を使ってできるというのはかなりのイレギュラーである。
ただ、直接攻撃に繋がる能力がないのは魔剣としては珍しい。その時点でタバサは、座村の強さが妖刀頼りではなく本人の素質による剣術なのだと理解していた。
「貴方は強い」
「ン?」
「どうして……どうしてそこまで強いの?」
座村はタバサからの目線を感じた。
それは才人から向けられたような憧れの目線ではなく、むしろ自分もそうなりたいと願う気持ち……果てのない向上心のような目線だった。
「強くなりたいのか?」
「うん」
「……こんなもん、なるもんじゃねェ」
座村はそれだけ言うと、タバサから目を逸らす。
「それだけだ。じゃあな」
そう言って座村は、剣を杖代わりに部屋の方へ歩いて行った。
タバサはまずい事を聞いただろうか?と思ってしまった。彼の背中から、それは罪悪感のような、悲しい感情だと感じられたからだ。
翌日、座村は学院内をメイドに手を引かれて歩いていた。
彼の両手には洗濯物が入ったカゴがあり、メイドの手にも同じくカゴがある。座村はメイドに手を引かれて道案内をされながら歩いていた。
「ありがとうございますサムラさん。こんなことまで手伝ってくださって……」
「なに、いいってことよ」
座村はメイドの少女、シエスタの仕事を手伝っていた。
あの決闘の後、座村はこの学院の使用人達からも歓迎されている。使用人は全員平民だ。メイジ嫌いの者も多く、それを圧倒した座村のことを純粋に尊敬しているのだ。
先ほども賄いのデザートをご馳走になった。そのお礼返しと言ってはなんだが、座村はこのシエスタという少女の仕事の一部を手伝っていたのだった。
「あの……」
「あン?」
「サイトさんの決闘の件、ありがとうございました……あれは私に原因があったようなものなので、決闘するってなった時、サイトさんが心配で心配で……」
「…………」
「代わってくださったと聞いて、安心しました!ありがとうございます……本当に……!」
シエスタという少女は、安心感で感情が揺れ動いているのか、若干声を振るわせながらそう言った。
後で経緯を聞いたが、あのギーシュという男、女の子相手に二股していたらしい。それがシエスタが拾った香水でバレたため、ギーシュはイチャモンをつけたのが始まりだったそうだ。
それを才人という男が無謀にも庇ったのが決闘に繋がった。そのせいで、シエスタという少女は罪悪感を感じていたのだろう。座村はすぐにフォローした。
「気にすんなよ」
「ですが……」
「ありゃ俺の信念に基づいてやった自己満足だ。例を言われるほどのことじゃねェ」
「サムラさん……」
座村としてもシエスタには責任を感じてほしくないのでそう言った。
そもそも今回の件、二股してるギーシュの方が圧倒的に悪い。グラビアで見るだけならいざ知らず、手を出してるのは流石に一線を超えている。
まあ、気絶させられたギーシュに対し、彼女の女の子が駆け寄って心配していたのは幸いだろう。これからは仲直りして暮らすんだなと思った。
「ともかく、俺ぁ見ての通り目が見えねェからよ。誘導頼むぜ」
「あ、はい!任せてください!」
そんな会話をしながら、シエスタの道案内を受け、座村は芝生の外にある洗濯場にたどり着いた。
座村は指定された場所に洗濯物の籠を置く。手元が軽くなった座村はシエスタに声をかけた。
「うっし、こんなもんでいいか?」
「ありがとうございます!」
「礼はいいって」
「はい!それでは!」
座村はシエスタから感謝された。
普通なら往復しなければならないほどの量の洗濯物を、二人で手分けして運んだため、シエスタの仕事も多少楽になっただろう。
一仕事を終えた座村が学院の渡り廊下に戻って行こうとした時、背後からヒソヒソと喋る声が聞こえた気がして振り返った。
「ほら!勇気出して挨拶しなさいって!」
「いててて!引っ張るなって!!」
「?」
座村は気になって、その声のする方へ歩いて行った。そこには曲がり角に隠れるようにして二人分の匂いがした。片方の匂いには覚えがあった。
「その声はルイズか?あン──」
「ど、どうも……」
「お、俺は……」
居たのはルイズらしき匂いともう一人の男。二人分の匂いがするとは言ったが、どちらの匂いも混ざっているのでよく分からなかった。
座村は位置的に目の前の人物がルイズなのではと思い、手を伸ばして顔を鷲掴みにした。
「なぁ、これよォ、どっちがルイズなんだァ?」
「ちょ、ちょっと!」
「痛てててててっ!離してくれ!俺は平賀才人だ!!」
掴んだ方の顔から少年の声が聞こえたので、座村は手を離す。
「平賀才人……あー、あんときのボウズか!」
「そ、そうだよ!あの時助けてもらったから、ルイズと一緒にお礼をしにきたんだ」
「そ、そうなのよ!あの時は、ありがとうね!」
そう言って二人は座村に頭を下げて感謝をした。座村は照れ臭くなって頭を掻く。
「別に礼なんていらねェのに」
「そう言うわけにはいかないわよ……」
座村はそう言うが、声の高いルイズの方は純粋に感謝を伝えて来た。貴族の生まれということあり、受けた恩に対して誠実だと感じた。
「て、てか、やっぱり刀持ってるんですね!座村さんはアクション俳優とかだったんですか?」
一方の才人の方は、座村の持っている刀の方に興味があるのかこんなことを聞いて来た。
別に座村は俳優などではないので普通に否定する。というかまるで刀が珍しいかのような言い方に、座村は違和感を覚えた。
「何言ってんだ、日本は刀社会だぞ?持ってて当然だろ」
「え、何言ってるんですか……日本だと銃刀法違反で捕まりますよ?」
「はァ?」
「え?」
座村がそう言うと、才人の方は困惑したのかそんな事を言って来た。
座村はそこでまさかと思い、「ちょっとこっち来い」と言って、二人を人気のない城壁のベンチに座らせた。
「……なるほどな。歴史に大きな違いがあるとすれば、斉廷戦争のところか……」
「いやぁ、まさかそんな漫画みたいな世界があるなんて……」
「私も信じられないわ……二人が別々の世界から来たなんて……」
お互いの知っている事を照らし合わせたところ、どうやら才人の知っている日本と、座村の居た日本とではかなり常識が違うらしい。
そこで歴史を照らし合わせたところ、一番大きく違ったのは斉廷戦争の有無だった。
座村の世界でも斉廷戦争より前は妖術師などファンタジーだと言われていたが、才人の世界の日本は斉廷戦争が起きず、そのまま現代まで来たらしい。
そこまで照らし合わせ、座村は自分が才人とは違う世界線の日本から来たのだと理解した。これはややこしい問題になったなぁ、と座村は頭を抱える。
一方の才人は、せっかくの手がかりが失われたことに愕然としつつも、相変わらず目を輝かせながらこんな事を聞いて来た。
「あの、てことは、座村さんの目もその戦争の時に……」
「ちょっとサイト!流石にそれは……」
「……ボウズ、お前デリカシーないだろ?」
「すっ、すみません!」
才人のデリカシーのなさにルイズが注意するが、座村はそれを注意しつつ、目に関する事を独白し始めた。
「まあいいさ。実はこれは負傷したんじゃない。自分で閉じたんだ」
「え……?」
その言葉に、二人はしばらく固まった後、驚嘆の声を上げた。
「「ええっ!?」」
「理由の一つは、俺の信じる教えだ」
座村は二人に自傷行為をするメンヘラだと勘違いしてほしくないので、すぐさま補足説明をする。
「目に映る色んな感情は、人を地獄に導く"煩悩"だ。煩悩は剣筋を鈍らせる。だから削ぐべきそういうものに対して、俺は目を瞑ったんだ」
「か、かっこいい……!」
座村の心情の説明に、才人は興奮したようにそう言った。
目を瞑って無駄なものを削ぎ落とした座村は、才人にとって漫画のかっこいいキャラクターのようでワクワクするのだ。
だがそこでルイズは、座村が口元に細い葉巻のようなものが咥えている事を見て、それを指摘する。
「でも貴方、葉巻吸ってるじゃない。葉巻を吸いたい〜ってのも煩悩ってやつじゃないの?」
「いや、違う!これは咥えてるだけ、気を紛らわしているんだ!」
「何よその理論!?」
「めっちゃ吸いたそうじゃないですか!」
当然二人はツッコミを入れるが、座村は手を突き出して弁解する。
「吸ってないからセーフ!」
「いやいやいや、胸ポケットにライターあるし!」
「吸ってねぇつってんだろ!仏さんに誓ったんだ!」
「めっちゃ怒ってるじゃない!」
「煩悩じゃん!!」
ルイズと才人が盛大にツッコミを入れるのを、座村は必死になって弁解した。
しばらく押し問答を続けた後、ルイズはため息を吐き、座村の機嫌をとるかのようにこう言う。
「でもまあアンタ、変なとこあるけどホント凄いわね……盲目なのに周りが見えて、あのギーシュに勝つなんて……」
「そ、そうですよ!あの時の座村さん、すごく強かった……やっぱ戦争の英雄なんですね!カッコいいなぁ!」
才人はそう言う。彼にとって座村は同じ人間の使い魔であると同時に、憧れの大人になりつつあった。
才人としては元の世界に帰りたいと思っているが、それはそれとして、この異世界でカッコいいことをしてみたいとも思っていた。
……だがそんな才人の両目に対し、座村は二本指を突き立てた。
「うわっ、な、何、目潰し!?」
「ちょっと!」
いきなりのことに才人とルイズは驚くが、座村は悲しそうな声で、
「あのなァ、こんなもんに憧れてくれるなよ」
と言った。
そして頭を抱え、呟くようにこう言った。
「俺達ァ大量に、人を殺したんだ」
座村はそれだけ告げると、ベンチから立ち上がってゆっくりと歩き始めた。二人で放置されたルイズと才人は、しばらく無言で立ち尽くした。
「なによ……戦争なら人を殺すことくらい、しょうがないじゃない……」
「…………」
ルイズがそう言う。
才人も座村が何をそこまで気にしているのか分からなかったが、大きく見えていたはずの彼の背中から哀愁が感じられたのを見て、黙ってしまった。
と言うわけで、座村と才人のいた日本はそれぞれ別世界線です。
同じ世界線だとメイジに喧嘩売った才人の描写が不自然になる気がしたのでね……