竜の目に映る者達   作:サーデェンス・ロー

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02-07 恐るべき才女

 

Ver1.1

 

 

 

 無事にダグラスの勢力圏外へと落ち延びる事の出来た皇帝一行は、慎重な歩みを続けていた。

 武器と金以外の支度を持たぬ逃避行となったもののオライオンやバイソンの洞察力とイロウルの“目”はサイフリートの手の者をよく見抜き、補給の為に立ち寄った集落で毒殺や謀殺されるような憂き目を避ける事には成功していたものの――ネラックとフォーファーのどちらに向かうかを未だに決められないでいた。

 事態解決に動く事だけを考えればネラックに向かうのが最適解である筈だが宰相もそれは読んでいる筈であり、現状の補給状態では今よりも濃密な阻止線を組まれていた場合には突破が叶わない所かトーマを討ち取られる危険性が出てくる。

 かと言って宰相の手の回しようによってはフォーファーに向かうのは安全なだけの愚策となり、体勢を整える前にネラックの戦力が失われてしまえば打てる手がなくなる。

 そんな二律背反の中で接触できたのがフォーファーの隊商であり、優秀な長の下には優れた部下が集まるのが人間の(サガ)なのか、数居るフォーファーの隊長の1人である筈の彼にある程度の事情を話すと最適な提案が返って来た。

 それはネラックへ至る為の懸念とフォーファーへの情報共有を同時に果たせる妙案であり、最低限の物資を持った連絡要員を放った隊商と行動を共にする事となった皇帝一行は一気に南進を始め、宰相の阻止線を越えてネラックに足を踏み入れる事が出来た。

 

「兄さん……ゲオルグ兄さん!」

「トーマ! ……皇帝陛下!? ……いったいどうしたんだ!」

 

 ネラック城に入ったフォーファーの隊商に皇帝達が居た事は警備兵を大いに驚かせたものの、先日の立ち合いで一定の信頼が得られていた上にトーマという彼等にとってはこれ以上なく信頼出来る人物も同行していた事で恙なく城内へと通され、ゲオルグとの面会を果たす事が出来た

 

「皇帝陛下が後見になって、お前が王位に就いたと聞いたぞ」

「父上が……サイフリートに……」

「落ち着け、トーマ。陛下、一体なにが……?」

 

 片膝を付いてトーマと目視を合わせたゲオルグが問うもトーマはようやく会えた兄を前に緊張の糸が切れたのか満足な言葉を発する事が出来ず、それでも言葉を求めたゲオルグはビーバーの方へと視線を上げる。

 ネラックにもハロルド王崩御の報は伝わっているのか混乱はあったものの、トーマとビーバーが状況を伝えれば動揺は戦時の緊張へと置き換わり、3人が今後の動きを論じられようとした瞬間――フォーファーに居る筈のソフィアが現れる。

 

『(――――“気配(いろ)”は人間のソレだけど……こいつ、本当に人間?)』

 

 それは‘ベルフェジール’は元より‘イロウル’ですら驚く程の判断力が成せた結果であり、先の隊商が放った連絡要員からの情報共有を受けたソフィアは速やかに判断を下し、フォーファーに代官を立てつつ別命があるまで動かぬように指示を出すと共に可能な限りの予備兵力引き抜いてネラックへ急行して来たらしい。

 城内に居る誰しもがソフィアの判断力に舌を巻いている中、ダグラスから『トーマ新王からゲオルグ討伐の令が発せられた』という喜劇(ちんじ)――当事者や何も知らぬ民からすれば悲劇であるが――が届く。

 唐突に祖国の敵とされてしまったゲオルグの動揺は大きかったが、ソフィアは「お父様の急死、トーマの即位、お兄様への討伐命令……余りにも手際が良過ぎます」と状況を言葉として整理し、「ここまでが計画通りだとすれば、次の手は恐らく――南からのモンスターとの連携……」と呟いた瞬間、別のネラック兵が謁見の間へと駆け込んでくる。

 

「モンスター達が長城の下にトンネルを掘りました!」

「このままでは地下より侵入したモンスターが城に……」

「ちっ、モンスターどもめ」

 

 ダグラスを攻略するとなれば戦線の後方に当たるその範囲は戦略上無視できない懸念となったものの、続いて齎された戦闘詳報の共有を受ければ壁の防護や保持する為の戦力は健在であり、少数のモンスターが徐々に集まりつつあるとの事だった。

 

「長城の向こうに追い返してやる!」

 

 その続報を聴いてそう意気込むゲオルグは国内での自分の立場よりも民を害するモンスターの侵入を防ぐ事に重きを置いているのが見て取れ、自分の近くに届いたその空気(まそ)を食んだ‘ベルフェジール’が『(真っ直ぐだけど、私の好みじゃないかな)』と目を伏せる中、ソフィアが動く。

 

「陛下。先日お話した条約の件ですが――大使を私とする事で、今すぐに効力を発揮する事は可能でしょうか?」

「――ソフィア?」

 

  竜が化けているのではなかろうかと思える程の高速思考を続けていたソフィアはビーバーの方に歩み寄ってからそう提案し、内容までは読めなかったようだが口調から何か不穏なモノを感じたらしいゲオルグが妹に声を掛けるも、才女の視線は皇帝から微動だにしなかった。

 

「――――」

 

 一時思案を巡らせたビーバーであったが、ソフィアの意図を先帝達から提示されたらしい皇帝はあまりの事に視線を惑わせる。

 ソフィアの言うそれはフォーファーで交わされた書面にあった草案の1つであり、帝国との外交関係を一気に軍事同盟(さいせいき)にまで引き上げる事を目指し、関係構築を進めるよりも前に両国内に大使館を置いてしまおうという大胆な案であった。

 他国における大使の役割は祖国の顔という重責であり、交流の蓄積があるのならば栄転となる役職であるが現状では母国での政治基盤を失うだけの左遷と変わりが無く、内政に問題を抱えている今の帝国側ではそれだけの職務を熟せる人材を外に出す余裕がない事から見送られる予定の話であったが――。

 他国の人間とは言えソフィア程の人材を国内に引き込める事は政争に強い味方が1人でも欲しいビーバーにとってはこの上ない話であったが、それでも判断に迷っているらしい皇帝は周囲の人間に判らぬように育ての親に視線を飛ばす。

 “目”で意図を理解していたものの、未知の対応を求められた‘ベルフェジール’は‘イロウル’に現状を問い合わせるも「(ソフィア様の意思を鑑みて、ご自身で判断なさってください)」との無慈悲な回答に途方に暮れる事となったが――竜はビーバーにだけ判るように自分の考えを送る。

 

「……承知しました。我が帝国は、友であるカンバーランド王国の危機に対してこの力を提供し――南方のモンスターの排除に動きます」

「――――わかりました。では、長城のモンスターはお任せし、我らはダグラスへ」

「ありがとうございます、陛下。――お気をつけて」

「陛下、必ずや父上の仇をとってみせます」

 

 ビーバーの言葉から含む所を察したらしいゲオルグに続き、帝国の軍事力を引き込むの賭けに勝ったソフィアは静かに一礼し、理論は知り得ても政争にはまだ疎い純粋なトーマはその思いのままに成すべき事を宣言する。

 そうしてネラックに集結した兄妹は総力を挙げてダグラス鎮圧に赴く事となり、後方の安全を確保する役目を得たビーバー達はネラックの文官達と補給と移動に関する手筈を詰め始めた。

 

 

 

 

 

 カンバーランド王国の南側の全てを閉ざしている長城は人の身からすれば見上げるのが億劫なるほど高く強固な防壁であるが、‘ベルフェジール’からすれば『“竜息”を撃てば数発で一角を崩せる上、そも飛んでいれば容易に越えられる壁なんて意味があるのかな?』と首を傾げる代物であった。

 

「(――――)」

 

 しかし、その壁が人間を含む大多数の生物にとっては極めて強固な要害である事を理解している‘イロウル’は‘友人’の感情が表情に出ないようにと気を張り続け――その相反する感情がイロウルの顔を強張らせる事となった。

 中衛としてアメジストを守っているイロウルがそんな都合を抱えているとは知る由もないビーバー達の視線の先には長城の中央部――兵が駐留し、周辺の警戒も行っている壁の両端から最も遠い場所に橋頭堡を築いたモンスター達の姿があった。

 ソレ等に人型に近い種は居らず、掘削に携われるとも思えぬ種族で構成されている事を鑑みるに侵入口となった穴を掘れる存在はまだ地中に潜んでいると見ていいだろう。

 

「イロウル様。念の為の確認となりますが――洞穴等で火の術法を使用した場合、目に見えぬ炎の残滓が毒気となって残り続けます」

 

 今の潜伏は制圧対象である穴の周囲に伏兵がいないかを探る過程であったが、その最中にイロウルの方へと身を寄せたアメジストはそう耳打ちし、思わぬ言葉に吹き出しそうになるのをイロウルは必死に堪える事となる。

 

「――――そうですね。……即興の洞窟で通気が悪そうですし、モンスターが換気を気にする事も無いでしょう。――風か天の術法で対処致します」

 

 その助言は数十年前にイロウルがアメジストの祖母(エメラルド)に伝えた言葉の末路であり、酸欠ではなくフロギストン説の方に行ったかと‘イロウル’が感慨深げに思いを馳せる事で真面目な面持ちを維持したイロウルは、アメジストと共にビーバーの合図を待つ。

 

「……帝国重装歩兵(バイソン)を先頭にインペリアルクロス。中央は私、右翼は傭兵(オライオン)、左翼は竜術士(イロウル)宮廷魔術師(アメジスト)は最後尾について全員の援護を」

「「「「御意」」」」

「――突っ込むわよ」

 

 その号令と共にイロウルとアメジストが放った『ファイアボール』の爆炎が長城の内側に開いた大穴を警備していたモンスターを焦がし、彼等の断末魔と爆炎の衝撃を合図に戦端が開かれる。

 その戦い方はインペリアルクロスが確立された時から続く帝国の伝統戦術であり、前衛であるバイソンが津波のように雪崩れ込んで来る敵群を留めつつ、オライオンとイロウルが後ろ以外の全方位から殺到するモンスターの攻勢を弾き、周囲の3人が抜かれそうになった間隙をビーバーが穿ち、剣戟の隙間をアメジストの炎が駆け抜ける事で前衛が息をつく隙間を作る。

 穴の外には50を超えるモンスターが犇めいていたものの、その猛攻ですらバイソンの守りを抜く事は出来ず、ビーバーや他の直参の反撃によってそれらの数は確実に減少していき――。

 勢いを失った事で敗走し始めたモンスターの背を、アメジストとイロウル、ビーバーの術法が容赦なく穿っていく。

 

「楽勝だったな」

「――流石に、肝を冷やしましたが」

「バイソンが倒れないからこそ私達は自由に力を振るえるんだよ。……誇っていいと思うよ?」

「――勿体無い言葉です」

 

 そうして功労者であるバイソンを労ったビーバーは長城内側に残った大穴を睨む。

 

「これだけのモンスターが通れたのだから、洞窟内もそれなりに広い筈だけど所詮は閉所。直線状に並ぶと纏めて穿たれかねないから、臨機応変にね」

「「「「御意」」」」

 

 そうして陣形を解いた一行は、バイソンを先頭に粗末な洞穴へと飛び込んだ。

 

 





 ここからのソフィア様のムーブは軍師系よりも恐ろしいと思うのです。
(そんなのを見たらもう――ベルフェジールはメロメロです)

 あと、酸欠云々はゲームでは関係ありません。
 ……水中ですら炎をぶっ放せる世界ですので。
 序に、作中でも解いたように次の長城ボスでインペリアルクロスは死亡フラグです。

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