竜の目に映る者達   作:サーデェンス・ロー

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ブックマーク、ありがとうございます。

個人的には02シリーズでの戦場が面白いのは長城の下と前回の竜息だと考えています。


MAXIM様。誤字報告のご対応、ありがとうございました。
対応を頂く事事態が初であった為、頂いた情報の発見と対応、返信が遅れてしまいました。



02-10 決戦前夜

Ver1.1

 

 

 内門を塞いでいたスプリガンこそ強力な障壁であったもののダグラス城内に残された戦力は少なく、攻略組の壊滅による逆撃に備えていたネラック側の本陣も動けるようになった事でダグラス全域の制圧は迅速に進み、王都の奪還は極めて短時間で完了した。

 

「陛下、ありがとうございます。――ほかの言葉が見つかりません。本当に……」

 

 そうして3兄妹の支配下となったダグラス城内にて、ハロルド王が健在だった頃と変わらぬ姿を保っていた謁見の間に集められた皇帝一行とカンバーランド王国の首脳部は互いの無事に安堵の吐息を洩らし、同国を代表してトーマが感謝を述べたもののダグラス攻略を主導したゲオルグの表情は優れず、神妙な面持ちのままその言葉を引き継ぐ。

 

「サイフリートは――惜しくも取り逃がしました」

 

 スプリガンという強力なモンスターによって城内への侵入こそ阻まれていたもののダグラス城は完全に包囲されており、城内に居た反乱分子は一人残らず処断、若しくは捕縛に成功していた。

 しかし、本拠地である筈のダグラス城内にサイフリートの姿はなく、情勢の舵取りを成す彼等が集まったのはこの事態を共有し、どう対処するかを取り決める為でもあった。

 

「ですが、逃げ込んだ先は判っております。ダグラスの情勢が落ち着き次第、北の岬に進撃し――これを壊滅する心算です」

「――いいえ、お兄様。サイフリートは唾棄すべき逆臣ではありますが、優秀な人物でした。……時間を掛けてしまえば何処かに行方をくらまし、力を蓄えた後、さらに多くのモンスターを使って城に攻め入るでしょう」

 

 ビーバー達にそう説明するゲオルグに対し、皇帝が来訪する前から思考を巡らせ続けていたのであろうソフィアは真剣な面持ちのまま予想しうる最悪な未来を語る。

 

「今すぐにサイフリートを追い詰めるべきです」

「私もそう思います」

「……お前たちの言う通り、サイフリートを倒さぬ限り事態の完全な解決にはならないだろう」

 

 ソフィアの温和な声が紡いでいるとは思えぬ強硬案にトーマも追従し、王国側の戦力を統率する立場となるゲオルグも弟妹の意向には同意する。

 

「だが、スプリガンを相手にした兵達の被害と疲弊は大きい。――動かせなくもないが、内乱が及ぼした事態の収拾も急がれる」

 

 そう続ける彼は連続した決戦を乗り越えた疲労を思わせぬ程に冷静であり、続いた言葉には最前線で共に戦っていた戦士だからこそ見通せる切実な問題が滲んでいた。

 明確な戦力不足の中――今無理をして未来の平穏を取るか、勝ち得た勝利を確実なものとして禍根を残すか。

 カンバーランド側だけでは解決しえない現状を前に、自分を導いてくれた緑色の瞳に思い至ったトーマは皇帝の元へと走り寄る。

 

「陛下、今一度、お力をお貸しください」

 

 その言葉の意味をトーマがどこまで理解しているのかを図りかねているゲオルグが目を伏せ、ソフィアは弟とビーバーを見据えたまま静かに考えを巡らせる。

 

「ソフィア殿の発案によって交わされた条約はこれからも続いていくものであり――幸いにもダグラス城下に留めた我が国の外交団の兵は無傷であり、私を含めた精鋭もまだ戦えます」

「では――陛下!」

 

 そして、こちらも状況をどこまで見通しているのか判らぬ市井生まれの皇帝陛下はトーマの至った最善策を快く受け入れ、片膝を付いてからすぐ近くにあるその小さな手を握りこむ。

 

「――――皇帝陛下。戦時である為に故に宴を開く事も叶いませんが――せめて1日。休息と準備を挟んだ方がよろしいかと存じます」

 

 そうしてトーマの要望に頷き、ダグラスの拠点である館に向かうべく身を翻そうとしたビーバーを呼び留めたソフィアは、皇帝の視線を誘導するようにバイソンの上半身やイロウルの足元へと目線を向ける。

 その先にあるバイソンの鎧や盾は変形していない箇所が無い程に損傷しており、剣に至ってはネラックで設えた物ですらなく――城下で拾った数打ちを帯剣しているような有り様である。

 そして、イロウルに至ってはデューンウォームとスプリガンの攻撃によって登城にも堪える程の品位を有していた赤い外套は見るも無残な状態に成り果てている上、生地とは異なる赤黒い染みがその多くを占めている事に気がついたトーマが青ざめる。

 

「忠言、痛み入ります。――必要な装備の修繕か交換をお願いしても?」

「……ゲオルグ兄さん」

「――ああ、残っている物資の中で最も良い物を集めさせよう」

「では、トーマは護衛を連れて皇帝陛下の案内を。アメジスト殿とイロウル殿は私に付いて来てください」

「――――」

 

 有無を言わさぬように謁見の間から歩き出して先導するソフィアに呼ばれた2人が追従する中、才女に呼ばれなかったバイソンとオライオンを労うゲオルグの姿を横目に捉えたイロウルは謁見の間を出る。

 そうして歩み出た城内は未だに戦塵の余波が舞っており、隠れているサイフリートの残党や何らかの細工が無い事を確認するべく奔走するネラックの兵達とすれ違う中、静かに歩み寄った少数の兵がソフィアの傍に付く。

 ソフィアの反応から察するに彼女等は才女の傍使え達であり、主から二言三言の命令を受けた彼女達はアメジストやイロウルの脇に付く者と方々に散る者とに別れる。

 そんな警護を受けながら案内されたのはダグラス城にあるソフィアの――否、フォーファーの領主の為に宛がわれた部屋であり、自室であるかのような手慣れた所作で大棚の扉を開けた才女はその奥の隠し戸に忍ばせていた高価な硝子細工のような瓶を幾つか取り出し、その中身を傍仕えに取りに行かせていグラスに注ぐ。

 酒の類――周囲が飲んでいるのにも影響を受ける――が苦手な‘ベルフェジール’としては中々に苦々しい状況であったが魔術師にとっての生命線とも言える魔力を充足させる為の術酒や霊酒が振る舞われるのは致し方ない事であり、竜は空気(まそ)の取入れを絞る事で自身が酔ってしまわぬように堪える。

 滋養のある軽食も用意され、戦地に近しい場所から抜け出せた事を自覚した身体は自然と緊張を緩めたものの――そのまま眠れるアメジストとは異なり、イロウルにはまだやるべき事が残っていた。

 

「城下で仕立て屋を営んでおりますフルブライトと申します。この度は、かの皇帝陛下に連なるお方のお召し物を扱う栄誉を賜り――恐悦至極にございます」

 

 それは今着ている外套の代わりを用意する為の採寸であり、ソフィアの傍仕えが用意した術士のローブを元とし、才女が招き入れた仕立て屋達が夜を徹して調整をするらしい。

 

「っ……!? 此方の赤いローブは……申し訳ありません、おいそれと触って良い代物ではありませんでしたか」

「見慣れない術式だけど、効果はあまり無いから調べても良いよ?」

 

 そうして複数の女性――“目”で見るにそれなりの“魔力(いろ)”がある――の手により、血に塗れた上に服の体を成さなくなったイロウルの外套が解かれるも、この世界の理とは異なる守りである刻印魔術を感じ取った彼女達は未知の術に驚くように手を引いてしまったものの、イロウルはこの世界の概念の前で気休めにも等しい術式を軽くあしらい、滞った状況を先に進めるべく質のよさそうなローブに手を伸ばす。

 

『(――――)』

 

 託された側である‘イロウル’は気軽に応えたものの、‘ベルフェジール’から見た赤い外套には過酷な運命を辿るであろう娘達が1人でも多く生き残れるようにとの“願い(いろ)”が含まれているのを見ており、それを‘友人’に伝えようかと逡巡している内に竜は言葉を発する機会を逸してしまう。

 

「――――今から着るのとは別に……明日からの決戦には間に合わせなくてもいいから、元の状態と似たような形になるようにそちらも仕立て直して欲しい。――お金は幾らでも払うから」

「(……ベルフェジール様?)」

 

 であればと‘ベルフェジ―ル’は託されている“想い(いろ)”を残す方針へと舵を切り、洩れ出た‘友人’の言葉に‘イロウル’が疑問を投げかけるも竜がソレに応える事はなく、イロウルの背の高さに合わせた大きめの術士のローブを元にした仮縫いが成されていく。

 

「……アバロンのものよりも、少し生地が厚いですわね」

「我が国の術法技術はアバロンと比べてしまうと少々遅れておりまして……術者の質自体では肩を並べるに足ると自負しているのですが」

「――そういう事にしておきますわ」

「…………」

 

 女性が複数集まれば姦しいというのが世の常らしいがソフィアとアメジストの間にあるのは張り詰めた“気配(いろ)”であり、イロウルのローブの採寸をしていた仕立て屋達の手もその冷たさに当てられて指が鈍っていたのだが――貴重な状況を前にした‘ベルフェジール’は、この状況すら学びに変えるべく周囲の“空気”を読む。

 ソフィアは自国の技術を「遅れている」と称していたが、‘イロウル’の認識を鑑みるに才女自身が身に着けている衣装は王族の気品と術法強化を両立した一品のようであり、それがアメジストの着ている宮廷魔術師の伝統衣装と同等かそれ以上の効力を持っているのは『よく見れば』判る事である。

 そして、そんな物が目の前にあるというのに「二流品を大事な戦友に渡すのはどういう了見か?」というのがアメジストの中に渦巻いている“感情(いろ)”となり、対するソフィアの方にも「基礎技術の低さから国内に普及している品には限界があり、こんなものしか用意できないのが心苦しい」という“感情”が見えていた。

 

『(……人間の世界は難しいね)』

 

 2人の人間がそれぞれの視点から自分の事を気に掛けてくれている事が判ったのは‘ベルフェジール’にとって嬉しい事であったが、それで“才能(いろ)”ある者達が仲違いをしているのは本意ではなく、かと言って自分の“目”力を大っぴらにする事も出来ない竜には打つ手がなく――どうしたものかと考えあぐねていると‘イロウル’が珍しく動き始める。

 

「――――生地が厚くないと刻印できませんので、私としては此方の方が都合がいいのですよ」

 

 そうして“友人”の言うがままの言葉を世界に発した‘ベルフェジ―ル’は‘人間’が示した通りに動き、魔力を灯した右指で仮縫いの終わっていた左袖に基本的な刻印魔術を描く事で場を収めに掛かる。

 

「…………イロウル。その術法にはどのような効果が……?」

「防刃と対衝撃効果が少々――と言った所でしょうか。魔力を込めた糸や染料で描いた方が効果が強いので、そちらは道中で追々足していきますが」

 

 張り詰めた雰囲気から好奇心へと空気を乗り換えたのはアメジストであり、‘イロウル’は袖に刻印したこの世界の系統ではない魔術に魔力を通す事で魔術師の注意を別の方向へと逸らしていく。

 

「――ソフィア様。混乱する城下の中、あまり流通していない品を取り寄せて頂いた上にそれを扱える仕立て屋まで手配して頂き、誠にありがとうございます。……陛下の許諾を得なければなりませんが、私めは術法研究所とも縁がありますので――同盟が十全に動いた暁には、帝国と同じ装備がカンバーランド王国にも普及出来るよう努めるように尽力させて頂きます」

 

 ソフィアが優秀であるのは判りきった事であるがアメジストも貴族の子女として教育を受けた才女であり、切っ掛けさえあれば状況を解ってくれると考えていた‘イロウル’の判断に間違いないはなく、周囲の“気配(いろ)”が静かに収まった事を認識した‘ベルフェジール’はやはり人間の事は人間が一番判るのだと静かに目を瞑る。

 

「術者同士、夜を明かしてでも語り合いたい所ですが――その楽しみは我らの敵を滅した後に取っておくとしましょう?」

「……そうですわね。イロウル、私は先にお暇させて頂きますわ」

 

 ‘イロウル’が続けた言葉に対して優雅に一礼したアメジストはソフィアに視線を向け、「ソフィア様におかれましても、次の機会には我が家秘蔵の霊酒を振舞えるよう、手配致しますわ」と先程の思い違いを暗に 謝罪してから手配されている寝室へと歩みを進め、部屋に残って居たソフィアも仕立て屋と側使いに後を任せ、一礼の後に退室する。

 

「(……ふぅ)」

『(やっぱり――人間同士の方が話が進むね)』

「(慣れとどうなってもいいやの心持が上手い方向に動いただけです。……ベルフェジール様でも、似たような事が出来たのでは?)」

『(――さっきの状況では無理かな)』

 

 ‘ベルフェジ―ル’は自分の内にある竜の(コトワリ)に沿う様に相手の正義に追従する事は出来るものの、そもそもとして竜の文化においての問題の解決方は自らの記憶(たましい)の全てを開示する事であり、それが出来ない状況下、かつ互いが正しい理を用って争っている場合にはどちらにも付く事が出来ず、どうすればいいか判らなくなってしまう。

 

『(――アメジストにカンバーランド王国の市場の内情を告げるのは彼女の思いやりを無下にする言葉であり、ソフィア様も不快にさせる事になる。……これからも長く一緒に居たい彼女達から不信や不満の“感情(いろ)”を向けられるのは嫌だよ』

「(…………それらはあの方々が自分で解消すべき感情です。私が言ったような形でなく、真実を伝えるだけでも場の流れは正しく動いた筈であり――突き放すような形になってしまいますが、それで切れてしまう縁ならば切ってしまうべきです)」

『(そんな簡単な話じゃないよ。――ソフィアならそれだけで私の“目”に気付が付く可能性があったし……アメジストも居る状況だと、追及された時に逃げられない)』

「(………………)」

 

 ‘イロウル’からすると‘ベルフェジール’の言う懸念は限りなく零に近い可能性に思えたものの、自身よりも優れた相手が居る状況で間違う事に対する恐れを零した竜の様子はこの世界に降り立って間もない頃の彼女のようであり――。

 

「……貴女様は――」

 

 思わずこぼれ出てしなった言葉に‘イロウル’が口元に手をあてた事で仮縫いを終え掛けていた仕立て屋達が顔を上げるも、彼女は曖昧な意味でその場をやり過ごす。

 

『(……どうかしたの?)』

「(少し、失礼な事を思ってしまいました。……言葉にする前に止められましたが)」

 

 心の内で思っているだけなら無い物として扱うが、言葉となればそれが事実であるとして認識するのが竜であり、自分が発しようとした思い違いが出なくて良かったと‘イロウル’は胸を撫でおろす。

 

『(他の竜も居ないし、まだ70年位しか経っていないんだからそんなに大きく変われる筈が――あ)』

「(……ラムサス様やグゥエルナー様のような方々がいらっしゃらない事で、気が緩んでいるのは確かですね)」

 

 当然ながら“目”を持つ‘ベルフェジール’は言葉となっていない“感情(いろ)”を読む事ができ、‘イロウル’としては心の内にあるもの全てが筒抜けになっている事から自分が竜という種に対して疑念を抱いているのも見られている現実に思う所もあるが――。

 それが竜と接するという事であり、‘ベルフェジール’自身が察したように同族が他に居ない事で弛んでいる所もあるが、言葉としなければ何を思っていても無いものとして扱ってくれている‘友人’の配慮に感謝しながら、‘イロウル’は伝えるべき事を言葉とする。

 

「(話を戻しますが――昔のベルフェジール様が先程の状況に陥っていたら、私が動く前に全てを押し付けて逃げていたと思いますよ)」

 

 採寸を終えて退室していた仕立て屋達の足音も聞こえなくなった頃にそう告げた‘イロウル’が「(好ましいと思いつつも苦手に思っているソフィア様と関わろうとするのも、自分を変えようとしている証でしょう?)」と続けると、‘ベルフェジール’は『(――もう寝るよ)』と話に応える事なく宛てがわれている寝室へと向かってしまう。

 

「(…………)」

 

 ‘ベルフェジール’が全てを見通せるのに対し、ただの人間である‘イロウル’からは‘友人’が何を考えているかは判らない為、今の‘彼女’が誇りを傷付けられて怒っているのか、事実を突きつけられて恥ずかしがっているのかを判断する術は無い。

 しかし、そんな五里霧中の中でも歩かなければならないのが竜以外の生き物の在り方であり、その中でも善い方に考えられるのが人間であると示すように‘イロウル’は‘ベルフェジール’の事を微笑ましいと(ねが)い、それを感じ取ったらしい‘友人’は自らの心を隠すように上質な寝具の中で丸くなってしまう。

 それがどの様な機微によるものなのかを自らの尺度で測る他ない‘イロウル’が思案に耽る中、いつもは‘人間’よりも長く起きている‘ベルフェジール’から静かな寝息が零れ始め――先のスプリガン戦での無理は本当に苦しい状況だったのだと彼女が思い至った時、見知らぬ声が脳裏に響いた。

 

《偽装魔術を継続中》

《現個体の休眠を確認。――周辺環境への警戒監視を開始》

《魔力回路、神経系統の点検を開始》

 

「(――これが、竜を形創る存在……)」

 

 それは『(こきょう)』にある機械のような反応であり、世界に解けていく生物の思い出の残滓を燃料として無尽蔵の魔力を生成する竜の起源を垣間見た‘イロウル’であったものの、‘ベルフェジール’に付き合っていた彼女の疲労も大きく――竜達が抱えているモノが何であるかに思いを馳せる間もなく、‘イロウル’もまた意識を解いていった。

 

 

 




自軍本国のカードを全て取り除く。その場合、手札と自軍捨て山の、全てのカードを自軍本国に移す。その後、敵軍プレイヤーに自軍本国をシャッフルしてもらう。


いきなり別ゲームの話ですが、嘗て何度も使われたのは良い思い出です。
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