竜の目に映る者達   作:サーデェンス・ロー

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02-11 北の砦

Ver1.1

 

 

 サイフリートが逃げ込んだとされる場所はカンバーランドの北の岬の上に建てられた小さな砦であり、バイソンやオライオンの言によると国がその所在を認知出来ていなかった事自体が問題であり、隠していた事だけでも謀反と目される存在であるとの事だった。

 そうして高台の上に見える砦の総評を終えた後、「あんなものを堂々と隠し持てるこの国は大丈夫なんですかね?」と続けたオライオンをアメジストが窘め、いつものように乳繰り始めた2人を微笑ましく思いながら、‘ベルフェジール’も砦を見据える。

 砦の周囲を固めているのは飛行出来るモンスターが多いように見える上、皇帝一行が隠れ潜む森から砦までの間に遮蔽物となるような物も無い事からこれより前に出れば瞬く間に見付かるのは確かである。

 そして、こういった建築物を攻める場合、遮蔽物に隠れながら弓等を放てる防衛側が有利となり、軍を用いた通常戦闘で片を付けようとすれば多くの兵が必要となるというジェラール帝の言葉を現実として認めた‘ベルフェジール’であったが、やはり竜息で吹っ飛ばしてしまえば良いのにと考えてしまうのは竜の(サガ)なのだろうとも考える。

 

「ソフィア殿が言ったみたいに、見逃せば大きな禍根となるけれど――今の彼を守る戦力は少ないと思う」

 

 ダグラス攻略戦のような大戦力で攻め立てていれば発見されるのは確実であるが、ここまで接近しても気付かれていないのは小数である皇帝一行の最大の利点であり、個々の能力の高さも鑑みれば森から砦までの空白地帯という障害をも無視する形で敵陣に肉薄する事も出来るだろう。

 

「後背を突かれないように、目に付く敵を殲滅しながら迅速に最奥を目指して――国外に逃亡される可能性を潰すよ」

 

 ビーバーの説明に直参全員が頷く。

 

「急襲と殲滅の両立が無茶なのは承知の上だけど、各々の奮戦を期待するよ」

「「「「御意」」」」

 

 その号令を最後に各々が立ち、高台にある砦へと走り出す。

 陣形は定石となるインペリアルクロスを取り、何時ものように宮廷魔術師(アメジスト)竜術士(イロウル)の術法が進路上に居る魔物を焼き墜とす事で戦端が開かれる。

 戦い方が同じである事からその先の推移にも変わりはなく、最前線に立つ帝国重装歩兵(バイソン)が殺到する魔物の波を押し留め、中央に位置するビーバーが彼の隙を援護し、右翼の傭兵(オライオン)と左翼のイロウルが回り込もうとするモンスターを切り伏せ、最後尾のアメジストが迫る総数を焼き減らす事で戦線を維持し、砦までの斜面を昇っていく。

 その過程もまた何時もの流れであり、最初の波こそ苛烈であったが真正面からの戦闘で皇帝一行を崩す事は容易ではなく、何の成果もなく塵と化した前衛の末路に怖気づいた残敵を焼き落とした一行は砦の周囲を確認し、伏兵が居ない事を認める共に屋内戦へと移行した。

 敗軍の将であるサイフリートに残された戦力は少ないものの入り組んだ砦内は待ち伏せに適しており、少数故に一度の痛撃が壊滅的な状況になりかねない皇帝一行は急がなくてはならない中で慎重に進まなければならないという二律背反に悩む事になるかと思われたものの――‘ベルフェジール’の“目”によってそれは杞憂となった。

 竜としては視界に入った“害意(いろ)”に向けて定型的に『ファイアボール』を叩き込んでいるだけであったが、隠れ潜む敵兵を警戒していたビーバー達にとってイロウルの先制攻撃は相手の奇襲を挫く目印となり、地力を存分に生かせるようになった皇帝一行は砦内の残兵等ものともせずに進出し――。

 最下層の桟橋で逃支度を整えていたサイフリートに追い付いたビーバは、僅かな口撃の末に交戦状態へと突入した。

 

「この感じ……気をつけろ」

 

 開幕早々オライオンが発した警告通り、趨勢は既に決している事から手練れなど残っている筈もないと思われたサイフリートの手勢にあって、異国の赤い装束を纏った1人はなぜ逆臣に従っているのかが理解出来ない程の強敵として一行の前に立ち塞がり、その技量をもって戦況を拮抗させていた。

 その装束の奇抜さからして判る事だが剣技も未知の流派であり、舞い踊るような剣筋はバイソンの守りを危ぶませ、ビーバーが隙を補わなければ抑えられぬ程の技量に加え、『つむじ風』という風の概念を纏って広域を蹂躙する剣技と真面に打ち合えば苦戦どころか敗北すらあり得ただろうが――。

 

『(――人間とは、かくも恐ろしい)』

 

 意図せぬ間合いから飛んでくる手練れ――後にキラーマシンと呼ばれる暗殺者である事が判明する――が繰り出す『落月破斬』や『音速剣』といった概念交じり剣技を弾き続ける術法を前に‘ベルフェジール’はこの世界の人間可能性に慄いていた。

 ここに至るまでの道中で「力が溢れてきます」と宣った後にアメジストが編み出した『ミサイルガード』という風の術法は『投射物を弾く』という強烈な概念を『味方と認識した範囲』に纏わせる術であり、あの程度の魔力量でこれ程の効力を発揮できる事は破格というよりも異常とすら思える程の術だった。

 そして、それをこの世界に生み出したアメジストは、身に宿る“魔力(いろ)”でこそエメラルドに劣るものの歴史に名を残せる英傑なのだと改めて思い知らされた‘ベルフェジール’は彼女を強く意識するようになった。

 

「効かんな!」

 

 そのような個人的な感傷がありつつも戦闘は継続し――キラーマシンの剣技は確かに脅威であるが、決定打となりえる技を封じられた真っ向勝負となれなバイソンの守りを抜く事など出来よう筈もなく、趨勢は皇帝一行の方に傾いたまま終結に向かいつつあった。

 

「忌々しい皇帝め!」

『――――』

 

 矛を交える前には「七英雄の中には貴様が目障りな者も多いようだ」と宣ってから「貴様の命を手土産にもう一度出直しだ」等の口上を垂れ流していたのは覚えているものの、今のサイフリートの“気配(いろ)”は焦りや怒りの感情が強く、如何に優れた“才能”を持っていようともそんな状態は見ていて楽しいものではなく、記憶するだけで聞き流していたのだが――。

 

「押し返せぇ!」

 

 宰相の盾となるべく一行の猛攻を捌き続けていたキラーマシンへの支援から一転、攻勢に転じた彼は渾身の術法を撃って来る。

 

「俺としたことが……」

「やっちゃった……」

 

 そうして放たれたのはこれまでにも何度か撃ち込まれた天術と水術の合成術であり、帝国でも手が届いていない高度な術法技術はキラーマシンの技と重なれば皇帝一行を砕くだけの力を秘めた術であったが――。

 しかし、それを以ってしても同じ術者であるアメジストを倒す事は出来ず、人間の英傑相手にソレなのだから“障壁”を纏う‘ベルフェジール’にとっては微風にも等しい術であった。

 

「アメジスト様」

「承知しておりますわ!」

 

 とは言え術法耐性に乏しい前衛組には厳しい攻撃となり、軽傷であった術者2人は直撃を受けて倒れたオライオンと躱しようのない状況だったビーバーに向けて回復の術法を向け、立て直しに掛かる。

 先の術法にも倒れる事無く持ち堪えたバイソンの守りを頼りとして再び攻勢に転ずるビーバとオライオン、それらを支えるアメジストとイロウル。

 その流れが完全に崩れぬ限りは戦い続けられるのが今の帝国であり、そんな皇帝一行に対して傍に控えている離反兵を1人、また1人とオライオンに両断されているサイフリート側の終焉は近く、ビーバーの刺突剣が宰相を貫いた時、此度の騒動は一応の終結を見るのだろう。

 

『(ジェラールの時もそうだったけれど……動いている時の人間の世界は忙しないね)』

 

 ‘ベルフェジール’がそんな余所見を思った時にはビーバーに隙を突かれたキラーマシンが膝を付き、サイフリートの癒しの術法が届く前にオライオンの剛剣が彼を両断した事で宰相を守る者は居なくなった。

 

「これで終わり」

 

 こうして幕を下したカンバーランド王国の内乱は1月にも満たない期間で終結した出来事となり、それから長く続く事となるカンバーランド王国の安寧の日々の中で唯一起こった王家断絶の可能性であった事から永らく歴史書に刻まれる事となる事件はこうして終幕を迎えた。

 

 




決戦前夜の所が広がり過ぎた事で削られた為、最小の文字数を記録してしまいました。
(後で必ずやる読み直しの際、少し増やすとします)

あと、筆者のSFC版(3回目)を頓挫させた怨敵です。

原作では、ここでもインペリアルクロスが死亡フラグとなります。
本作中のようにミサイルガードがあれば状況は逆転しますが、小学生に守りの術法を活用しろとは無理な話。
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