竜の目に映る者達   作:サーデェンス・ロー

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01-03 アバロン(仕事)

01-03 アバロン(仕事)

Ver1.0

 

 

 

「――――」

 

 イロウルがシリウスとウィンドシードと出会い、その手伝いをするようになってから一週間が経った。

 彼女が手伝う事となったのはアバロンで起こった術法に関連する揉め事を解消する何でも屋のような仕事であり、その内容は無法者の拘束から愛玩動物の捜索、魔力の籠った胡乱な書物や物品の鑑定と多岐に渡った。

 一言で纏めてしまえば雑用や日常の延長にあるような仕事であるものの解決には様々な能力を求められ、荒事であれば戦闘力を、探し物であれば何らかの探知技能を、鑑定の類であれば知識やそれに類する洞察力が必要になるのだが――。

 

『(今日も無事に終わったねー)』

「(……そうですね)」

 

 しかし、それらの多様な面倒事も竜の力の前では障害にもならず、‘イロウル’はその成果に対する周囲の反応を見る事でこの世界での常識を学び、どの程度が『常識的』なのかの指標を纏め、その知識を深めていた。

 尚、住居に関しては当初の雇用条件に挙げられた通りウィンドシード達も住んでいる事務所の2階を借りる事となり、2人(イロウル)は『新天地で衣食住を整える』という当初目的も達成する事が出来ていた。

 とはいえ、ウィンドシード達の居る組織にとって事務所に住むというのはそれなりの高待遇であるらしく、最初の頃は敵意にも似た“感情(いろ)”を感じると‘ベルフェジール’は伝えて来ていたものの、彼女の力を借りているイロウルの能力はこの世界においては非常に高いと認識されるようであり、事務所住みを疑問視する視線はすぐに消えていった。

 ――説明の順序が逆になってしまったが、イロウルが与するようになったこの組織の名は術法組合と言い、シリウスとウィンドシードはその顔役のような立場にあるとの事だった。

 組織の始まりはその名の通り術法の研究や開発を効率的に進める為の寄り合い所帯のような所であったらしいが、研究や開発というものは総じて金食い虫であり「生粋の研究集団から営利目的の組織へと変貌していくのは致し方ない事だった」というのはシリウスの言葉だ。

 ウィンドシードの方は同じ認識を持ちつつも目指している所は違うようで「国営の術法研究所みたいな施設が出来れば、仕事なんて面倒事に関わらずに研究に没頭出来るのにねぇ」と妙に艶っぽい口調で零していた。

 そして、イロウルを引き抜いた張本人でもある彼女は同性である事も重なってか行動を共にする事が多く、加減を知る前のイロウルを最もよく見ていた人物でもある。

 同時に、そんな彼女が出来る事が世間一般の普通なのだろうと認識した事が最初の大きな間違いとなった程に優秀な人物となるが――その出来る上役は今、イロウルの対面に座り、術酒を創る新人の事を真っ直ぐに見据え続けていた。

 

「――――」

 

 イロウルの仕事を見つめるその目は怖い程に真剣であり、戦場に立っているような“気迫(いろ)”が出ていると‘ベルフェジール’が伝えてくるものの、彼女に言われるまでもなく居づらい雰囲気を感じていた‘イロウル’であったものの術酒創りは佳境にあり、逃げる事の出来ない針の筵の中で彼女は魔力の精製を続ける

 イロウルの握る容器の中に満たされつつある術酒という液体はこの世界での魔力の回復手段であり、元居た世界では自然回復を待つしか無かった魔力を補給する術がある事に驚いた‘イロウル’であったものの、‘ベルフェジール’が解析した所によると魔石を作るのと同じ感覚で精製できるとの事であり、金策の一環として仕事終わりに試作を続けていたのだが――。

 

「――やはり、珍しいでしょうか?」

 

 精製が一段落した所で意を決した‘イロウル’が疑問を投げ掛けると、ウィンドシードは大きな溜息を零す。

 

「――正直、術式の糸口も見出せないのは不気味ねぇ」

「素直に凄いと言えば良いだろうに……」

 

 そのまま呻(うめ)くように口を滑らせたウィンドシードに対し、作業台と近い所にある事務机で書類仕事をしていたシリウスがつつくと彼女の眼光が光る。

 仕事終わり重なる夕暮れ時という事もあり、イロウルが術酒を作り始めた頃には近くの事務机で報告書の類を作っていた者も居たのだが、いつにもない緊張感を振り撒いているウィンドシードの雰囲気によって彼等は追い払われており、恐らくは近くの酒場に逃げ込んでいるのだろう。

 

「…………」

 

‘イロウル’も可能なら彼等に追従してこの場から逃げ出したいと思ってはいるものの、‘ベルフェジール’から人間の世界の渡り方を任されている事からそれは許されず――。

 

「私は……我流で術を学び、都会に憧れてアバロンに来た御上りさんです。――よろしければ、現代の術法を教えて頂けませんか?」

 

 精製した術酒の蓋を閉じた所で、彼女は状況の改善を試みる。

 諍(いさか)いというものは相手の利権を害したか危機感を抱かせた時に発生するモノであり、不幸にもその軋轢が埋めようもない時もあるにはあるが、互いが知性に裏付けられた理論を持っているのであれば納得出来る落とし所を得る可能性は残されている。

 ――まぁ、不合理に不合理を重ね、理に反した要求を喚く存在も生まれるのも人間の性質(サガ)であるが、余程の余裕がある時代でなければそういう異物は自然淘汰されるのが世の常であり、事実として合理に反した先日の大家が商業活動から切り離された事を鑑みれば『解消できる可能性』は十分にあるだろう。

 そんな‘イロウル’の目論見をどこまで察しているのか、話題投げかけられた2人年長者は顔を見合わせる。

 

「――――才能も技量も有るのに、本当に殊勝な娘ねぇ」

 

 その後に零れた重苦しい溜息の後にそう続けたウィンドシードに「若い術者は希少じゃし、そんな奴の出来が良いとなれば言う事はないだろうに」とシリウスが返し、「それに――嫉妬は見苦しいぞ?」と余計な事を零した老人(まぬけ)は唐突に降って湧いた石に潰される。

 

「んんっ。――私達は術法の才能はあったのだけれど、お上の方々とは縁が無いどころか少し厄介者扱いされているのよ。……術法の力に権威を付けているあの人達からすると、私達が疎ましいのは判るんだけどぉ――貴女、本当に貴族とは関係が無いのよね?」

 

「いたたた……田舎の出と言っているのだから、そう疑うものでも無いだろうに」

「あんたは適当過ぎるのよぉ。……もしも貴族派の隠し子とかで後々派閥争いとかに巻き込まれたら、今でも進んでいない研究が更に進まなくなるのよぉ?」

「お上の家は両方とも土術の系統が苦手じゃろうて……」

「それじゃぁ――カンバーランドからの刺客」

「あっちは天術が主体だろうに……」

 

 そうしてイロウルが知りよう筈もない話題の応酬を‘ベルフェジール’に覚えて貰いながら、‘イロウル’は手を挙げる。

 

「あの……本人を目の前に出自の品評をするのはよろしくないのでは?」

「――な? 疑うのが馬鹿らしくなるだろう?」

「…………張り合いが無いわねぇ」

 

 演技の様なやり取りであったが本当に下手な芝居であったらしく、イロウルの指摘を受けた2人は態度を軟化させる。

 

「貴族の類なら庶民の馬鹿話を見下すだろうし、他国の間者の類なら多少なりとも魔力(けはい)が揺らぐ――まぁ、後者の方ならこんな目立つ事はしないだろうが」

「だっていうのに、貴女ときたら純粋な疑問で応えてくる。……自信無くしちゃうわぁ」

 

 ウィンドシードの猫撫で声に「そんだけ厚い面の皮があるんだから、陰る自信など――」と、本日3度目の失言によって2度目の魔術――ではなく術法(?)による制裁を受けたシリウスが岩の圧力に潰され、蛙のように居なくなる。

 

「んんっ。……片付けはデリカシーのない馬鹿にやらせるとしてぇ――術法について、だったわね?」

 

 そうして茶番の片付けをシリウスに丸投げたウィンドシードは姿勢を正し、随分と前から置きっぱなしにしていた茶で口を湿らせる。

 

「先ずは、属性についての確認となるけれど……貴女の知っている種別は何かしら?」

「――――」

 

 ウィンドシードの問いに対し、‘ベルフェジール’の高速思考が提示したこの世界の魔術――否、術法の予測理論を‘イロウル’は一瞥し、自分の持つ知識とを掛け合わせた彼女は次の質問を返された際にも回答出来る無難な返答を考える。

 ‘イロウル’の知る魔術は魔力と術式を以て世界に望む現象を再現して貰う術であり、現実にある気象や事象から外れれば外れる程に発現させるのが難しくなる技術となる。

 それに対し、この世界の術法はその属性から連想できる事を発現させているような節があり、規模こそ小さいものの自然現象では有り得ぬ現象すら発生させられる――真の意味での魔法のようだと‘イロウル’は感じていた。

 

「――『火』『水』『風』『土』の四大属性に、希少属性の『光』……でしょうか?」

 

 魔術と術法は似て非なる現象となり、その現象に対する倫理観も判らないとなれば込み入った話は避けるべきであると考えた‘イロウル’は自分の才能や特性等の話を避け、聞きかじった表層の情報だけを言葉に乗せる。

 

「……言い方が気になるけれど、4属性の認識は確かで――光というのが天術の事かしら?」

 

 ‘イロウル’の言葉をそう解釈したウィンドシードは考え込むように口元に指を当て、もう一方の手をイロウルの方に伸ばすとその指先に岩の塊を発生させる。

 

「これは『ロックブラスト』という土術の基礎的な術法なるわ。――建物の外壁の修復なんて事が出来る貴女には釈迦に説法かもしれないけれどぉ、出来るかしら?」

「――――」

 

 そうして唐突に振られた無理難題を前に、‘イロウル’は顔が引き攣りそうになるのを何とか取り繕う。

 ‘イロウル’の使える土の魔術で『ロックブラスト』に近い術は“隆起”となるが、アレは大地を媒介に岩石の類で出来た槍モドキを地面から打ち上げる魔術であり、ウィンドシードが成しているような『何もない空間に岩を発生させる』現象など――術理すら想像がつかない。

 

『(竜(わたし)の使う概念魔術の方が近いのかも)』

 

 その異質に過ぎる状況を前に‘イロウル’が硬直している中、‘頼れる友人(ベルフェジール)’は自分が考え至った予測を共有する事で助け舟を出す。

 示されたのはかなり大胆な仮説であり、結論としては元居た世界とこの世界では帯びている概念自体が異なっており、ここでは人間の魔力でも物質の生産が出来るのかもしれないという荒唐無稽な話であった。

 

「…………」

 

 とはいえ、一歩下がって現状を鑑みればウィンドシードが何もない所から魔力だけで岩を創れたのはその仮説以外に説明が付かず、‘イロウル’は魔石ではないモノを創るように強く意識しながら右手に土の魔力を集める。

 同時に、うまくいった時に生成出来た岩を落としてしまわぬようにと左手に風の魔力を濃縮しておくも――『魔石にならぬように』と意識していても『魔力を放出すればそう成る』という元居た世界の認識を払拭できなかったのか、イロウルの手に漂う魔力は両方とも魔石として固まってしまう。

 

「(これは――予想以上に難しいですね)」

 

 図らずも生成してしまった魔石を机の上に置き、より強く『魔石では無いモノを創る』と意識しながら再挑戦しても上手くいかず、生まれた世界の常識の違いに‘イロウル’が苦戦している中――。

 

「…………え?」

 

 幾つかの魔石をテーブルの上に転がしていく中、それに内包されている魔力の違いに気付いたウィンドシードが眉を顰める。

 

「――ちょっと待って頂戴」

 

 そうして一拍置いてから確かめるように身を乗り出した彼女は机の影に隠れていたイロウルの左手を掴み、左右の手から溢れる魔力の違いを確かめると明らかに眉を顰める。

 

「何で反属性の術法を同時に使えているのよ」

「なんじゃと!?」

 

 茶目っ気を絶やす事のなかったウィンドシードの対応 に驚く‘イロウル’であったが、床に突っ伏していたシリウスの反応もまた劇的であり、それによって四大属性を均等に持つ‘イロウル’の特性をそのまま発現させる事はこの世界においては異質な事である事は理解出来たが――完全に後の祭りである。

 

「貴女――貴族派の連中が実験しているという超人計画の被験者だったりしないわよね?」

 

 イロウルの腕を取った時に席を立っていたウィンドシードが警戒を示すように半歩退り、その原因を確かめるように言葉を向ける。

 

「いやいやウィンドシードよ、闇市で買い付けた本の内容はお前さんも読んだだろう? あんなもの千年先の術法技術であろうとも叶わぬ夢物語だろうて」

 

 明らかな警戒を示すウィンドシードに対し、お調子者という偽装を解きこそすれども冷静なシリウスは熱くなっている相方を宥めようとするも――。

 

「――――」

 

 シリウスの言葉を耳にしたウィンドシードはイロウルに向けていた鋭い眼光を解き、微かな敵意と共にソレをシリウスの方へと振り向ける。

 

「――そうね。……イロウルの特異な術法技能は取り敢えず横に置いておくとしてぇ――――シリウス。応急の研究記録が記されたというあのぼったくり本を闇市で買ったのは……貴方だったのねぇ?」

 

 その流れは‘イロウル’にとっては九死に一生を得たような体験であったが、唐突に冷静になったウィンドシードの指摘を受けたシリウスの顔はみるみると青くなっていく。

 

「ふふふふ……この前、珍しく降りて来た王宮からの仕事で漸く纏まったお金が手に入ってぇ――暫くは研究に集中出来るかと思ったら、次の日にはその大金が本に化けててぇ――クベル坊やの情報収集の成果だと庇い立てていたけれどぉ……あの子に罪を擦り付けていたのねぇ?」

「――――」

 

 ウィンドシードが続ける追及によって蛇に睨まれた蛙のように震えているシリウスを横目に見ながら、答えようの無い窮地から脱した‘イロウル’は安堵を零しながら新しい常識を反芻する。

 生まれ持った特性に縛られる事が無い為に様々な術を使う事に問題は無いが、同時に使う事は出来ない。

 『どちらも使える』のだから『同時使っても問題ない』と考えてしまったのは致し方無い間違いであったが重要な情報であり、予測を外した事を謝る‘ベルフェジール’を宥(なだ)めながら、‘イロウル’は現状を鑑みる。

 

「(――少々過激な所はありますが、悪い人達でも無いようですね)」

 

 年甲斐もなく繰り広げられる折檻の悲鳴を横に流しつつもこの場に残る事を決めた彼女は、元居た世界と変わらぬ自分の特性をどう誤魔化したものかと頭を捻る。

 そして、イロウルの中に潜んでいる‘ベルフェジール’から見ても周囲の“気配(いろ)”は好ましいものであり、‘イロウル’の判断に同調しながらも目の前で繰り広げられている喜劇に頬を緩める。

 そうして好ましい環境を得た2人(イロウル)は、与した組織に貢献しながらこの世界の人間が持つ常識を学んでいった。

 




本編開始前+アバロン帝国の外という事で、最後の代のフリーメイジをここで投入するのが先行して決まった。
……ウィンドシードさん、名前が驚く程長い上に、何でその名前で土属性。
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