竜の目に映る者達   作:サーデェンス・ロー

6 / 13
01-05 遭遇

01-05 遭遇

Ver1.0

 

 

 

「……? 何?」

 

 何時ものように墓地の近くの家屋の傍に佇み、町から届く“喧噪(いろ)”を楽しみながら来るかもしれない依頼人を待っていた‘竜(ベルフェジール)’は、広げていた“目”の端に触れた妙な“気配(いろ)”に顔を上げた。

 存在の強度としては人間と同程度の者が多いものの纏っている“気配(いろ)”は剣呑なモノが多く、何らかの対応をした方が良いのだろうかと心の内に居る‘人間(イロウル)’に相談を持ち掛け始めたものの――。

 戦闘を想定していなかった事もあり、ソレ等とは明らかに異なる強大な“気配(いろ)”を察知した時には取り巻きであった集団はアバロンの内側に入り始めており、身に迫る異変に慌てて“目”を広げれば、強大な気配を含むソレ等は1つの武装集団として東から進出して来たバレンヌ帝国の敵であるようだった。

 

「――――行った方がいいの?」

 

 ‘ベルフェジール’がそこまで察した所で悲鳴と思しき音が墓地にも届き始め、‘イロウル’に急かされるままに中央通りに近付けば動く人骨やそれに類する物体が市内に雪崩込んでいるのが見て取れ、呆然としている子供に粗末な剣を振り下ろそうとした人骨の前へと踏み込んだイロウルはその刃を切り払い、返す刃で相手を両断する。

 

「――こんな存在も、居るんだね」

 

 久しぶりに抜いたイロウルの剣の威力と人骨でも切れば殺せる事に驚きながら――彼女は周囲の地獄を見渡す。

 2人は元居た世界でも魔狼と呼ばれる変質した狼は見た事があり、ソーモンで流れの剣士として活動していた頃にはソレ等と似たり寄ったりな獣の類と戦い、切り伏せた事はあった。

 しかし、この世の理であろう生命活動に真正面から喧嘩を売っている存在と相対するのはこれが初めてであり、魔術の類で作られた人工生物の類だろうかと思考を深めてしまっていた‘ベルフェジール’の事を、今し方助けた子供の悲鳴が現実へと引き戻す。

 

「……っと。襲い掛かって来るなら、容赦しないよ」

 

 そうして、戦意を露わにしたイロウルが持ったままの剣を振るうべく駆けようとするも、人骨の数が多い上に1体1体切っていては時間が掛かると判断した‘ベルフェジール’は、走り寄ろうとしていた‘イロウル’の動きを止めながら『火の魔石(ファイアボール)』を生み出し、現れた敵集団へと投げ付ける。

 

「…………わぉ」

 

 耳を劈く爆発音は想像以上の効果があった事を示し、そのあまりにもな威力に被害を免れた少数の人骨達ですら動きを止めてしまう。

 ‘イロウル’の記憶――元居た世界での魔石による攻撃は着弾点で効果が発現する現象であったが、この世界の術法は放った直後から効力が発現しているのはシリウスやウィンドシードと協同した頃から知ってはいた。

 とは言え、実戦で本気を出した時にあれ程の爆発を引き起こせるとは想像しておらず、大通りへ続く道から流れ込んでいた人骨の集団どころか周囲の建物すら焦がした加害範囲の広さに撃ったイロウルですら思わず声を洩らしてしまったが――別の路地から響いた悲鳴や再び動き始めた周囲の小集団を前に思考を巡らせる。

 

「――そこの子供。ここより後ろ――墓地の方に逃げなさい」

「……お、お姉さんは――?」

「他の人間を助けない訳にはいかないでしょう?」

 

 ‘ベルフェジール’にとっての人間という存在は世界を彩る友人であり、彼等の側に付く事を決めていた彼女は子供を逃げ込ませた路地に人骨の類が向かわぬように意識を振りながら前に出る。

 同時に、‘イロウル’は城に居るであろう兵は何をしているのだろうと思ったものの、集団というものは動くのに時間が掛かるのが常であり――その共有を受けた‘ベルフェジール’は「意外と不用心だね」と呟きながら目に付いた人骨の類を切り伏せて行く。

 逃げ隠れている人間が近くに居る時は『風の魔石(ウインドカッター)』を使う事で巻き添えを出さないように配慮しながら周囲の路地の掃除を進めたイロウルは、次の行く先として大通りを目指したものの――。

 

「…………?」

 

 大通りから殺到していた人骨の集団に『ファイアボール』を放り込んだ所で流れが一転し、視線の先に居た焼け残りが身を翻したのと同じように周囲の“気配(いろ)”が町の外へと退いて行くのを‘ベルフェジール’は感じ取った。

 

「……目立たない方が良いの?」

 

 逃げに転じた時こそ攻勢の好機であり、追撃して殲滅するのが戦の流儀であると‘ベルフェジール’は主張するものの、‘イロウル’は宮殿への戦力登録をしていない事から不幸な行き違いが発生する可能性があると主張し、人の世に疎い竜はその考えを受け入れ、怪我人の治療へと手を回して行く。

 

 後程、今回の襲撃がソーモンからの組織的な襲撃であり、中央通りで戦っていたアバロンの皇太子がクジンシーと名乗る敵方に指揮者に挑み、落命したという噂を聞いた‘イロウル’は「大事になったわね」と呟いた。

 

 ソーモンを出た数年後、あの港町に『何かがあった』事は耳にしていたが――よもやこの世界でも戦争に類する事態に巻き込まれるとは思いもしなかった。

 

 

 

「おぉぅ……。嬢ちゃん、細腕とは思えぬすげぇ力だな」

 

 開く途中で固まっていた扉を強引にこじ開けたイロウルは即座に足を鳴らし、その合図を起点に創った土の柱で建屋の歪みに一撃を加えた彼女は外壁に触れ、竜の概念魔術を使用する事で可能な限りの補正に入る。

 

「――これで中に入れるようになったし、おまけで家の歪みも直したけれど……どうする心算?」

「中の状態を見てからだが、暫くは扉のない青空営業だろうなぁ――ま、商売が出来るだけ良しとするさ」

 

 そう言って半壊していた自分の店に入った店主は、外で待っていたイロウルに向けて1本の薬瓶を投げ渡す。

 

「ありがとな、嬢ちゃん。結構良い傷薬だが、持っていってくれ」

「うん、ありがと」

 

 不幸を前にしても周囲の気配りを忘れぬ相手の“気配(いろ)”に感銘を受けた‘ベルフェジール’が晴れやかな笑顔で応じると、店主は照れくさそうに頭の後ろを掻きながら店の中へと戻って行く。

 

「(次に行きますよ)」

『(うん)』

 

 どちらの性根(サガ)によるのかタダ働き続けている自分に苦笑しながら、イロウルはクジンシーという者が率いる武装集団の襲撃を受けたアバロンの復興作業を手伝っていた。

 襲撃の傷跡は大きく、アバロンの町並みは火災の煤汚れや戦闘の痕跡によって外見の華やかさには大きな影が入っているものの、宮殿の目の前にまで侵攻を許したというの市街の“雰囲気(いろ)”はそこまで悪くなく、先程の店主のように『苦難の先に未来がある』と思っている者が大半であるが――2人(イロウル)の知る情勢はかなり悪い。

 それと言うのも、このアバロンの長が手勢を率いて反攻に出たという宮殿からの御触れはイロウルも聞いていたものの、その2週間ぐらい後に悲壮な“気配(いろ)”を滲ませ集団が急ぎながらも隠れるように城に戻って行くのを‘ベルフェジール’は『見て』いた。

 

『(逆襲やお礼参り、安全を保証する為の反撃――人間の言葉は多いけれど、安全を確保する為の策は失敗したと見るべきなんだよね?)』

 

 ‘ベルフェジール’が知覚した状況を‘イロウル’に共有すると友人はそんな予測を示し、提示されたソレの裏取りをするべく宮殿へ向ける“目”を深めた‘ベルフェジール’がその言葉を事実として確定させた。

 そうしてこの世界では初めてとなる危機的状況を前にした‘ベルフェジール’は、‘イロウル’に向けてこれからどうするのかの相談を度々求めていたが――彼女はその質問い対する言葉を返せなかった。

 

『(……ソーモンで海を眺められなくなったのは『残念』で済ませたけれど、アバロンよりもに人間がいる所は『見えていない』から――ここの人達が諦めない限り、私はここに居る心算だよ?)』

「(――――)」

 

 この件に対する応えを返さない‘イロウル’に‘ベルフェジール’はそんな提案をするも、それでも彼女は道を示せないでいた。

 アバロンが晒されている状況の全容は把握出来ていないが、竜の力を人間の形で偽装しているイロウル・ベルフェジールはこの世界でも有力な戦力を持っている可能性が高いのは確かである。

 そして、竜の本質には抗争や諍いを是とする認識があり、時には戦いが必要である事は‘イロウル’も認める所であるものの――優れた能力を持つが故に、一度でも関わってしまえば戦いから離れられなくなるという直感が彼女の中にあった。

 

「(大切な友人であり、竜の里の宝であると思われる彼女を――別世界の人間の戦いに巻き込んでしまって良いのだろうか?)」

 

 竜という種族が気配から心を読むのに長けている事から『イロウルが何かを考えている』のは‘ベルフェジール’も察している筈だが、言葉となっていない事は『無いモノ』として扱う彼女は静かに日常を回しており――。

 襲撃から今日に至るまでの猶予を貰っても尚、‘イロウル’は指針を出せないでいた。

 

「……お、っと」

 

 そんな友人の迷いを知る由もない‘ベルフェジール’は道の端で泣いている子供とそれを宥めている母親を見掛け、発している“気配(いろ)”から将来有望であると見た彼女は今し方貰ったばかりの薬瓶を母親に手渡す。

 

「こんな良い物を……」

「私には必要のない物だからね」

 

 その言葉通り、竜の特性を引き継いでいるイロウルは強烈な再生能力も有している事から薬の類は無用の長物となっており、この世界で試した事は無いが他者の傷すらも癒す術も使えるとなれば持っていても邪魔ですらある。

 

「残りは持っていてもいいけれど、他の困っている人間に使ってくれた方が嬉しいかな」

 

 この世界の薬自体は、元居た世界の基準で考えれば空恐ろしい効能を有してはいものの竜の身で考えれば価値は低く、善意と共に無用品を押し付けた‘ベルフェジール’はそう言って親子の元を離れ、他に困っている“人間(いろ)”は居ないだろうかと周囲を見渡し――。

 

「――――――」

 

 ふと、先日体験したのと似た“気配(いろ)”を感じた‘ベルフェジール’が『見ている』範囲を広げると、アバロンの南西に嫌な“気配(いろ)”が無数に存在しているのが見て取れた。

 

「……これ、拙くない?」

 

 その事態を前にした‘ベルフェジール’は‘イロウル’に状況を共有しながら大通りまで走り、町と外との境界である門を見るべく“遠見”の魔術を使えば破られたままの城門の先に緑色の体色をした数多くの人型を見つけ――ソレ等が警戒していた兵を突破しながら町の中へと雪崩れ込んで来るのが見て取れた。

 それはアバロンの明確な危機であり、‘イロウル’が「(……迷う暇も無いのか)」と想いを零す中、首を突っ込む以外の選択肢を考えていない‘ベルフェジール’は再び走り出す。

 

「――っ。……残っている兵が居なければ纏めて吹っ飛ばせるのに――」

 

 走り始めた‘ベルフェジール’を前にした事で介入の意思を固めた‘イロウル’はその物言いは不適格であると指摘しつつも彼女に『人間として出せる上限』を提示し、それを聴き届けながら剣を抜いた竜は逃げ惑う人々に襲い掛かろうとしていた緑色の人型を切り払い、『風の魔石(ウインドカッター)』を近場の敵集団に叩き込む。

 

「……無事だね?」

「は、はい――でも、まだあっちにゴブリンが……」

 

 命の危機から脱した人間が安堵を洩らした瞬間、別の方向から断末魔が届き――視線をずらせば棍棒で頭を砕かれた男性が倒れるのが見て取れた。

 

「……ふん」

 

 その惨状と“気配(いろ)”から視線の先に居る人間が手遅れであるのは明白であり、周囲に他の“人間(いろ)”が無かったのを認めた‘ベルフェジール’は『火の魔石(ファイアボール)』を叩き込む事で視線の先で屯っていた十匹近くの緑色の人型(ゴブリン)を爆殺する。

 

「こっちの道にはもう居ないね――ん?」

 

 そのまま周囲の残敵に目を向ければ弓矢を持っている個体もおり、今し方助けた人間が襲われれば目も当てられない事からその傍に立ちつつ『ウインドカッター』を投げ飛ばした‘ベルフェジール’は、‘イロウル’から届いた言葉に疑問符を零す。

 

『(……死んでいる人間の身体も傷付けないように配慮するの?)』

 

 ‘ベルフェジール’としては『人間の死は悲しいが済んだ事』であり、全てが片付いた後にその結果を悼めば良いという認識であったが――‘イロウル’は「人間は死んだ後にも個人としての存在があると考える者が居る」という認識を示す。

 

「…………面倒だね」

 

 ‘イロウル’の言葉から‘ベルフェジール’は『人間の認識』を理解はしたものの状況はその一言に尽き、先日の戦闘結果から自身の身体能力が人間と見るには過剰であると指摘された事から発揮できる力にも制限が掛かかった事にもやりにくさを覚えていた。

 しかし、人間の感性は同じ人間である‘イロウル’に任せるのが一番であり、それが人間として生きる事なのだと制約を守った‘ベルフェジール’は限られた力で周囲の敵を殲滅し、近くで頭を抱えている人間に町の奥へ逃げるよう伝えてから、別の路地へと飛び込む。

 

「――む」

 

 その先では多数の民兵と何体かのゴブリンによる大乱戦が繰り広げられており、敵味方が入り乱れている状況を前にしたイロウルは眉を顰める。

 戦う意思を見せる事は素晴らしい事ではあるが個々の性能で劣っている事実は覆しがたく、視線に先にある戦況は人間側の被害ばかりが増えているようだった。

 そして、介入するにしても乱戦では接近戦以外の手段はなく、剣の軌道に人間が入らぬように“情動(いろ)”を読みながら戦うというはた面倒な手順を踏んだイロウルはゴブリンだけを切り伏せ、撃てる暇があれば『ウインドカッター』を放る。

 

「ゴブリンは大通りから来ているから、そこから離れる方向に逃げて」

 

 先程とは比べ物にならない程の時間が掛かったものの、この区画も制圧したイロウルはすぐさま身を捻って大通りへと立ち戻る。

 

「……このままだと時間が掛かり――ん?」

 

 その最中、‘ベルフェジール’の鋭敏な聴覚が「皇帝陛下のご出陣! ご出陣!」という王宮の方からの声を捉え、『(ようやく追加の兵が出てくるのかな?)』と思うと同時に、先程綺麗にした筈の交差路がゴブリンで溢れていた事に眉を顰める。

 

「っとに面倒くさい……!」

 

 同時に、大通りへと走り戻っているイロウルの事を見つけた弓持ちのゴブリンが彼女へ矢を射掛け――ソレを“障壁”で無力化した彼女は走り寄りながら風の魔石を創る。

 そうして術法の準備を整えた彼女が握り込んだ魔石を放れば、ソレ等は中空を奔る内に幾つもの『ウインドカッター』となって小癪なゴブリンに迫るも――。

 

「術法だと?」

 

 その風の刃が届く前に、誰かの剣によって狙っていた弓持ちが切断される。

 

「増援?」

「既に市井で戦っている者が居るのか――?」

 

 致死性の攻撃が重ねられた結果、見るも無残な惨殺死体となったゴブリンの近くで味方と思しき存在を認識した2人は警戒を強めながらも互いの姿を認めるも――。

 

「……ジェラール様?」

「イロウル?」

 

 それが見知った存在であると判れば、互いに『何故こんな所に?』という疑問を浮かべてしまう。

 

「貴方――様は、皇帝陛下でしたの?」

 

 前に会った時と比べて“魂(いろ)”が変だという疑問を抱きつつも、この状況では人間同士による高度で柔軟な判断が必要だと考えた‘ベルフェジール’は表層の意識を‘イロウル’へと押し付け――非常時ゆえに仕方なく状況を素直に引き継いだ彼女は、先程耳にした鬨の声から至った問いを掛ける。

 

「……うむ。――だが、今はそのような話をしている場合ではない」

 

 何やら思う所があるのかジェラールの視線が揺らいだものの、彼の視線の端にはゴブリンの姿があり――イロウルにとっては何の障害ともならない存在ではあるが、門まで気配が続いているとなれば骨が折れるのは確かだろう。

 

「貴女がこれ程の手練れだとは思いもしていなかったが……付き合ってもらうぞ」

「――御意」

 

 それは断りようのない勅命であり、この世界では一介の魔術師にすぎないイロウルがソレを受け入れたのと時を同じくして、先行し過ぎたジェラールの元に彼の直参が追い付いて来る。

 

「陛下、民を守る為とはいえ先行さ――そちらは?」

「城下で私の相談に乗って頂いていた識者であるが、優秀な術者でもあったようなので引き入れた。――このまま残りを討伐するぞ」

「……御意」

 

 素性の知れぬ人物を加える事に直参達が警戒するような動きを見せるものの事態は切迫しており、ジェラールの言葉によって渋々といった“気配(いろ)”が見えたものの協働して事に当たる流れが形作られる。

 

「征くぞ……我に続け!」

「「「御意!」」」

 

 そんな中で大通りの先から新たなゴブリンが表れ、言葉と共に走り出したジェラールに続いた彼の直参と共にイロウルは城下に入り込んだゴブリンの駆除を再開した。

 




ベルフェジールのファイアボールはLv5相当(勿論、原作にそんなものは無い)
消費BPは80で威力20ぐらい。
……くっそ効率が悪いです。

あと、原作ではここのゴブリンは何気に強い。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。