竜の目に映る者達   作:サーデェンス・ロー

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01-06 この世界の戦場

01-06 この世界の戦場

Ver1.0

 

 

 

 アバロンに侵入したゴブリンの討伐は恙無(つつがな)く――‘竜(ベルフェジール)’の目線で見れば、恙無(つつがな)く進んだ。

 ‘人間(イロウル)’からすれば犠牲者が出てもおかしくない状態に見えていたが、‘ベルフェジール’が動かしている今のイロウルは竜の特性を引き継いでいる事から首を落とされぬ限り死なない――四肢喪失ですら数秒で復元する――状態にあり、四方八方から滅多打ちにされる状況に陥っても命の危険を感じない状態にあった。

 それに対し、ただの人間であるジェラール達にとっては複数からの集中攻撃は致命的であり、連携を図る暇もなかった事から無陣形(フリーファイト)による戦いを強いられた結果、効果的なダメージコントロールが出来ない状況に陥っていた。

 加えて、合流後の戦闘では進路上には多くの逃げ遅れがいた事から2次被害の出やすいイロウルの火力は封じられ、接近戦を取らざるを得なくなった事で集中攻撃を受けた者が膝を付く機会が増え、それは門に近づく程に増えていった。

 

『(人間の世界の事はよく判らないけれど――私、目立ってなかった?)』

「(……あの状況ではどうしようもありません)」

 

 そんな惨状の中、逃げ遅れを餌に包囲されてしまった事で逃げ場を失った一行が1人また1人と膝を付いていく中、滅多打ちにされても倒れる事のないイロウルは唯一残っていた重装歩兵(おおおとこ)に立ち上がれなくなったジェラール達を任せ、彼等が立ち直るまで突出するという大立ち回りをしてしまったが――流石にあの状況で逃げる事など出来よう筈もなかった。

 そうして門の近くにまでゴブリンを追い詰めた頃、直参の猟兵であるテレーズが『でたらめ矢』という弓技を編み出し、2次被害の少ない範囲火力を発揮できるようになった事で漸くジェラール達の苦境は解消され、その勢いのまま城下の外へとゴブリンを叩き出す事でアバロンの危機は払拭された。

 波乱含みではあったもののアバロンの防衛は成り、‘イロウル’としては事態の沈静化や残兵処理に皇帝達が追われている内に姿を消す心算であったものの、その思惑は‘ベルフェジール’が門の前で倒れていた兵達の治療を始めてしまった事で機会を失い、結果として城内にまで引き込まれてしまっていた。

 

『(……ここで雲隠れするのは駄目だよね? )』

「(――――当然です)」

 

 前々から『宮殿の方には嫌な“気配(いろ)”がする』と言って、寄り付こうとしていなかった――恐らく調略や政争によって残った怨念を感じ取ったのだろう――‘ベルフェジール’がここに来て泣き付いて来るが、正直どうしようもない状況である事から‘イロウル’はその泣き言を無慈悲に突っぱねる。

 王座の間の片隅で所在なく佇んでいるイロウルの内でそんなやり取りが繰り広げられている中、彼女の視線の先にある王座の前では荒々しい風貌の戦士が片膝をついた状態でジェラールに頭を垂れていた。

 

「…………」

 

 声だけでは状況があまり読めなかったものの‘ベルフェジール’から伝えられた周囲の“感情(いろ)”から察するに、ジェラールに許しを乞うている戦士が何らかの失態を為出かしてしまったものの、皇帝はソレに何の咎も与える事なく許しているようだった。

 

「――イロウル、君があれ程の力を持っているとは思わなかった」

 

 そうしてジェラールと戦士とのやり取りが収まり、今回侵攻して来たゴブリンの巣へ逆侵攻する方向で話が纏ったと同時に皇帝は端の方に逃げていたイロウルへと歩み寄り、口火を切る。

 

「――――」

 

 その事態に対し、人間という集団の中枢に立ち入った経験などある筈も無い‘ベルフェジール’は主導権の丸投げを画策し、先程拒否された教訓を生かした彼女は自分の意識を身体の奥へと強引に引っ込ませる。

 

「………………」

「…………イロウル?」

「――皇帝陛下に認められたとなれば、光栄の至りです」

 

 そうする事で表層に残されたのは‘イロウル’のみとなり、舵取りが居なくなった事で身体の主導権を握らざるを得なくなった彼女は取り急ぎ応えを紡ぐ。

 

「……私には果たさねばならぬ使命がある。――城下で振るったその力、帝国の為に使ってくれぬか?」

「――――我流の技でありますが……陛下の一助となるならば、何なりと」

 

 宮殿内に引き込まれた時点で殆ど詰みに近い状況であるのは判っていたが、言葉によって完全に逃げ道を潰された‘イロウル’はアバロンの頂点にいる相手へと首を垂れる。

 ‘イロウル’の心情としてはこの世界にまで来て戦いの渦中に身を投じるのは御免被りたいという考えが残っているのと同時に、この決断を前に大逃げをかました‘友人(ベルフェジール)’の行動を鑑み、連続的な決断が必要となる戦場にそんな彼女を連れ込むのは危ないとも感じていたのだが――。

 意識の奥に引っ込みながらも場の流れを理解した‘ベルフェジール’はジェラールの話に乗る意向を示しており、そもそもとして国家の長にここまで言われて断るという選択肢の無いイロウル・ベルフェジールは参戦せざるを得なかった。

 

「――では、これよりゴブリン撃滅の軍議を始める」

 

 そうしてイロウルの承諾を得たジェラールは王座に向き直りながらそう宣言し、ここで一度お開きになるだろうと考えていた‘イロウル’の予想とは裏腹に、文官達が運び込んだ大机に戦人の類を集めた軍議が始まってしまう。

 

「――――」

 

 元居た世界の常識では国家の長が最前線に立つのは今滴一滴の決戦の時ぐらいである筈だが、この世界では違うらしく――あの妙な体色をした人型の巣に突入する精鋭部隊には当然のようにジェラールの名前が記される。

 そのままつらつらと情報が示される中、陣形はインペリアルクロスという明確な役割分担が成される形が示され、最前列には皇帝であるジェラール、中央に宮廷魔術士であるエメラルド、右翼に近接火力を担う帝国軽装歩兵(ジェームズ)、左翼に遊撃枠の竜術士(イロウル)、最後尾に弓による援護と水術による応急処置を行う帝国猟兵(テレーズ)が付く事となった。

 

「…………」

 

 組織の頂点が決めた事であり、多少の間違いがあっても従うのが民の責務であり、国に属する者の宿命である筈だが――。

 

「ジェラール――様。僭越ながら、発言してもよろしいでしょうか?」

 

 しかし、戦とあれば最善を成さねばならないと考える‘ベルフェジール’は‘イロウル’から主導権を取り戻すと同時に、周囲の“空気(いろ)”に意も介さずに意見を挙げ、周囲の人間は元より表層から押し退けられた‘イロウル’ですら驚きのあまり硬直する中、ジェラールは「申せ」と続きを許す。

 

「ベア様を直参に組み込まないのは何故でしょうか? 先の防衛線で肩を並べた所感となりますが、彼の守りは竜の爪牙すら弾ける程に洗練されています。――インペリアルクロスという陣形の最前線に配するならば、彼以上の適任者は居ないと存じます」

「ふむ……その意見には私も同意する。しかし、父上から伝えられたクジンシーの性格を鑑みるに、私が皇帝と判れば狙い易い最前列を無視してでも奴は私を狙う筈であり――であるならば、この身を囮として奴の行動を誘導し、その隙を皆で突く事で奴を打倒しようと考えている」

 

 ‘ベルフェジール’の問いによって詳(つまび)らかれたジェラールの意図に帝国側の人間からどよめきの声が出るものの、その言葉は彼女にも理解出来る論理で固められており、「――であるからして、君とテレーズにはベアの真似事をする無謀な私に癒しの術を用い……最前線に立続けられるようにしてほしいのだ」と続けられた事で納得した竜は「御意」と素直に答える。

 

「剣も扱える君には寄り付く敵を切り払う事にも期待している。――宮廷魔術師であるエメラルドを連れて行くのも、クジンシーを含めた奴の手勢に死霊の類が多い事見越しての判断となる。……新参となるイロウルを連携に組み込む事と並行し、火の術法を主軸とする連携を皆で掴んでくれ」

「承知しましたわ」

 

 そのままジェラールが続ける青写真に周囲の動揺が収まり始め、エメラルドの力強くも美麗な声によって軍議は落ち着くかと思われたものの――。

 

「――陛下。重ねての発言となりますが……攻撃が御身の助けとなるのであれば、そちらの戦士を御連れになった方が宜しいのではないでしょうか?」

 

 ‘ベルフェジール’は次の意見をジェラールに向け、平静を取り戻しつつあった軍議に再び動揺が走る。

 

「――――」

 

 元から冷え始めていた王座の間の空気はそんな発言によって氷点下に近付きつつあり、イロウルの内に居る‘イロウル’は胃に穴でも空いたのか沈黙したまま項垂(うなだ)れてしまい、表に立っている‘友人(ベルフェジール)’への抗議すらも止めてしまう。

 しかし、『戦場では最善を選ばない方が阿呆であり、議論をせずに良い結果は出ない』と自分の内で項垂れている‘イロウル’の考えを突っぱねた‘ベルフェジール’の視線は先程ジェラールと揉めていた戦士――この場では騎士?――に向いており、纏う“気性(いろ)”は荒々しいものであったが、ここに居る人間の中で最も優れていると認識している事実を示すよう、彼女は派手な彼を見据え続ける。

 

「――――」

「…………」

 

 そして、唐突に話を振られた派手な戦士――ヘクターは驚きながらもジェラールに強い戦意を向け、槍玉にあがったジェームズもまた自覚があったのか「――自分も、攻撃を主軸とするのであればヘクター殿を推します」と意見を零す。

 

「――ふむ」

 

 それらの視線と言葉を受けたジェラールは目を瞑り、幾ばくかの黙考挟んだ後に口火を開く。

 

「――イロウルの言うように、我がアバロンで最も優れた剣の使い手はヘクターとなったのであろう。……だが、伝説に残る七英雄の1人であるクジンシーを相手取るとなれば、技量よりも実際に刃を交えて生き残った経験こそが重要になると私は考えている」

 

 そう続けてから席を立ったジェラールは直参を自ら辞そうとしたジェームズへと歩み寄る。

 

「お前も私の直参に相応しい強者である事に変わりは無い。その自覚を持って、私に付いて来て欲しい」

「――御意」

 

 そうして微かに俯いていたジェームズの前に立ったジェラールが意向を示せば、彼は死力を尽くすような戦意を吹き返し――満足げな頷きでソレに応えた皇帝はヘクターの方へと視線を向ける。

 

「残る者は、私が離れている間のアバロンを守って欲しい」

「「御意」」

 

 こうしてイロウルが引き起こした波乱はジェラールによって巧く収められたものの、彼女に向けられている周囲の視線は鋭さを保っており、その状態に‘イロウル’が頭を抱えている事を認識した‘ベルフェジール’はそれらの経緯や情報を反芻し、鑑みる。

 

「(――――以前、ベルフェジール様は『判らない事を判らないまま応えるのはダメなんだよ?』と仰っていたと存じますが……この結果はよろしいのですか?)」

『(お父さんでも同じ事を言う筈だから、質問する事は正しい事なんだよ。……でも、人間は責任を持つ者が認めても非難するような“感情(いろ)”が残るんだね)』

 

 2人の視線の先でゴブリン撃滅の準備が進んでいく中、‘イロウル’が恨めしそうに質問を投げるものの、そちらに関しては明確な答えを持っている‘ベルフェジール’は澱みのない言葉で応じつつ別の質問を投げ返す。

 

「(……尊んでいるもの、尊重しているものの手を煩わせる事を良しとしない。――行き過ぎれば過ちを起こしますが、人間の思う尊敬とはそういうものです)」

『(――――人間は難しいなぁ)』

 

 押し付けていた身体の主導権の残りを引き取る際に添えられた言葉に、‘ベルフェジール’は小さな愚直を零す。

 自分よりも偉大な存在を尊敬し、傾倒する思考は理解出来るものの――その相手が間違えない保証はどこにもなく、その現象が判っていながら間違えようとする理が‘ベルフェジール’には理解出来なかった。

 

『(…………もっとよく見て行こう)』

 

 だが、人間の生きていられる時間が短い事も鑑みればそんな短絡的な考えがまかり通っている理由にも手が届き、同時に『人間の概念』の切っ掛けが掴めた気がした彼女はそれを忘れぬようにと今の状態を記憶に綴(つづ)る

 そうしている内に軍議は幕を閉じ、特に行く当てのないイロウルは与えられた一室で休む事となった。

 

 

 

 軍議が速やかに決した事からも判る通り、ゴブリンの巣への逆侵攻も駆け足で実施され――ジェラールに率いられた一行は、方針が定まった2日後にはアバロンの南西方向にある半島の中央部に辿り着いていた。

 

「ここに陣を張り、我等が突入する足掛かりとする」

 

 そうして発せられたジェラールの宣言によって随伴していた兵達は速やかに展開を始め、眼前にある洞窟の前に陣地を構築し始める。

 彼等の役目は巣穴の攻略中に外から戻って来たゴブリン達によって突入組が挟撃される事を防ぎつつ、万が一の際の退路を確保する事にあり、消耗せずにここまで来れた事からしっかりとその役目を果たしてくれるだろう。

 

「――――」

 

 尚、ここに至るまでの道中において、王座の前での軍議に混乱を招いたイロウルは直参や兵達から大なり小なりの“非難(いろ)”を向けられていた。

 ‘イロウル’からその理由を聴いていた‘ベルフェジール’であったが、軍議が終わってからもそれが続いていた事で『あの事態が人間にとっては根が深い話なのだ』と彼女も認識を改めていたものの――ここに至るまでの間に接触したゴブリンの集団を1人で蹴散らし続けた事でその鋭さ(しせん)は鳴りを潜めつつあり、竜はその変化を大層不思議がっていた。

 

『(……そんなに難しい事をした訳ではないと思うのだけど)』

 

 ‘ベルフェジール’としては有効射程に入ったゴブリン――外周を哨戒していた斥候から巣の直掩部隊に至るまでの全て――に向けて広域爆発する『火の魔石(ファイアボール)』を投げつけていただけであり、索敵さえ上手く行けば『弓の妙技(でたらめ矢)』を編み出したテレーズでも出来る事に何を驚いているのだろうと彼女が思う中、その内に居る‘イロウル’もこれまで焼き払い続けた未知の存在(ゴブリン)の事を考えていた。

 アバロンの城下町で戦った時から感じていた事であるが――生態こそ似通っているものの、体色が違うゴブリンはそれぞれが違う種族であり、‘イロウル’としてはそんな異種族同士がいがみ合う事なく協同している事が不思議でならなかった。

 

「(思考有し、目的が同じであれば敵であっても協同は出来る。――ですが、外見にあれだけ明確な違いがあるとなれば一時的な協力以上の事は出来ないと思うのだけど……)」

 

 それが‘イロウル’の知識が導き出した答えであったものの、実際に活動しているゴブリン達はまるで体色によって役目が決まっているかのような動きを示しており、その様はまるで生まれた時から役割が決まっている蟻のような動きとも思えた。

 

「(――蟻。…………蟻か)」

 

 その思い付きは新しい着眼点であり、確かに蟻のような社会生生物であれば同種であっても役割によって形状がまったく違う事はあり得るものの、襲撃時に見た武具やこの住処の状態を鑑み見るにゴブリンと呼ばれる種族が原始人並みの知性と社会性を両立しているのは確かであり――蟻のような生態であっても文明を築けるものだろうかという新たな疑問が顔を出す。

 

「――――」

 

 同時に、これらの知識の出元である『塔(こきょう)』で見た趣味の悪い娯楽小説を思い出した‘イロウル’は、「(……人間と交配したりしないのでしょうね)」と脳裏を過った飛躍的な空想に眉を顰めるものの結局は『よく判らない』という結論に収束し、解明できない事に引っ掛かりを覚えつつも思案を先送りにする。

 

『(……まぁ、中々に過酷な世界みたいだよね)』

 

 自分の内で続けられていた‘イロウル’の脳内議論を眺めていた‘ベルフェジール’はそれ以上に思う事はないのかゴブリンの生態に興味を示さず、無心のまま新たに現れた敵集団に『ファイアボール』を投げつける。

 ‘イロウル’が答えを見出せなかったようにその生態等は不明であるが、そんな敵性生物が町の傍に居るとなればアバロンに住まう人々が枕を高くして眠っていられないのは確かであり――。

 それを排除するべく巣の中へと侵入したジェラール達を迎撃するゴブリンの数は尋常ではないものの、ソレ等の機先を潰し、歪ながらもソレ等が隊伍を組む事を無意味とするイロウルの範囲火力は皇帝と直参による殲滅戦に大きく貢献していた。

 

「……イロウル様の才能は凄まじいですわね」

 

 火力を投射した後の殲滅戦の邪魔が入らぬようにと周辺警戒に移行したイロウルに対し、同じく周りに視線を向けていた女性――少し崩れた陣形の中心にいるエメラルドが話し掛けて来る。

 

「――――そうなのかな?」

 

 こんな場所での雑談など‘ベルフェジール’が知る由もなく、流れるように‘イロウル’に対応を変わって貰おうと彼女は働き掛けるものの「(ご自身で対処なさってください)」と丁寧に断られた竜は内心で呻きながら応えを返す。

 思案を転がる余裕のある‘イロウル’に対し、人間の真似をしようとしている‘ベルフェジール’にそんな余裕はなく、察知した敵に『ファイアボール』を投げるという機械的な反応を続けていただけなのだが――。

 

「アバロンを出立した後から続く連戦で息切れ1つしない魔力量、火の玉を飛ばすだけの術法である筈の『ファイアボール』に爆発の術式を組み込む技量。……城内であのように強気な発言をなさったのも納得出来ますわ」

 

 ‘ベルフェジール’の曖昧な言葉をそう補足したエメラルドは気品がありつつも扇情的な格好をした美女であり、その視線は殲滅戦の最前列に居るジェラールの後姿を見つめていた。

 

「――――」

 

 その凛々しい立ち姿 から滲む“気配(いろ)”は使命感のような感情が強かったものの、それには主君に対する親愛の情も多分に混ざっており――。

 ‘ベルフェジール’からの共有を受けた‘イロウル’はそれらの全てを皇室や宮殿内の秩序を重んじての発言なのだろうと推察するも、エメラルドの横顔を眺めていた‘ベルフェジール’はそんな表面的な理論を飛び越えた所にあるモノ――視線の先にいる女性(にんげん)からとても美味しそうな“気配(いろ)”が漏れ出ている事に驚いていた。

 

「私達の役目は陛下達が優位に戦える状況を作り、維持する事にあります。――共にジェラール様の……いえ、帝国の栄光の為に頑張りましょう」

「――はい」

 

 その枕詞と共にエメラルドはイロウルは前進を促し、前衛組が先行した事で崩れた陣形を整える。

 

「…………」

 

 イロウルを先導するエメラルドに好意的な印象を覚えたのは2人(イロウル)の共通認識であったがその感じ方は大きく異なっていた。

 ‘イロウル’から見るとその所作――人間の世界に当てはめれば一介の魔術師であり、ぽっと出の平民でしかない筈のイロウルの事を同じ仲間と見れている事から相当に出来た人格者なのだろうという認識であり、竜の“目”が捉えた“魂(いろ)”を見ても嘘偽りが無いとなれば外見相応の美人なのだろうと推察していた。

 それに対し、‘ベルフェジール’が感じたのは甘くありながらも苦みもある魔素(くうき)であり、アバロンに居る時にも住んでいる人間が多いだけに残滓を感じた事は無数にあれど、ここまで鮮度の良い魔素を取り込める幸運を得た竜は美味そうにソレを取り込み、余韻に浸りながら熱っぽい視線をその発生源に向ける。

 口の中で転がしている思い出を読み解けば、ソレはエメラルドが秘めているそれは『ジェラールへの想い』という甘未であり――後に残る『イロウルに向けた警戒心』という苦みがと緩んだ舌を引き締め、その余韻を確かな物として覚えさせる。

 そうして味わった思い出の残滓を飲み込んだ‘ベルフェジ―ル’は『(――やっぱり、人間の世界は楽しいね)』と感嘆を零し、その幸せに目を細める。

 

「(…………)」

 

 そんな‘友人(ベルフェジール)’の奇行――。

 空気を吸っただけで多幸感に浸り始めた上位存在の事を不審に思った‘イロウル’がその理由を求めれば、‘ベルフェジール’は人間から零れ落ちた思い出が竜の味覚を刺激する事を改めて共有し、それが“魔力や才能(いろ)”に優れた者であればいかに美味であるかを熱弁する。

 同時に、人間の事を知りたい彼女は今し方自分が飲み込んだ思い出の欠片がどういった人間の機微によるモノなのかの説明を求め、竜が知り得た限りの“感情(いろ)”の状態を共有された‘イロウル’はエメラルドが秘めていた想いに驚き、それを知ってしまった事に罪悪感を抱きながらも自分なりの所感を伝える。

 

「…………ふーん」

 

 そうして飲み込んだ“感情(いろ)”が『惹かれている相手への羨望』と『競合するかもしれない同性への牽制』なのだと教えられた‘ベルフェジール’の視線は更に熱を帯び、その想いが叶うようにと願い始める。

 とはいえ、この場は戦場であり――有効射程内にゴブリンの反応が現れれば彼女の意識は速やかに切り替わる。

 

「敵だ、陣形を整えよ!」

 

 イロウルの次にソレ等を見付けたジェラールは声を張り、彼女は現れた敵集団のただ中へと『ファイアボール』を放り込む。

 彼女の発する爆炎は敵集団が現れる度に奔り、それを開幕の合図とした一行のゴブリンの討伐は順当に進んで行き――その勢いのままに最奥へ辿り着けば赤い体色のゴブリンが姿を表し、ソレを守るように十匹近くのゴブリンも続いて来る。

 

「行きましょう!」

 

 しかし、戦端が開かれたと同時にテレーズが放った『でたらめ矢』とイロウルの『ファイアボール』による連携によって取り巻きは早々に壊滅し、所々に矢と焦げ目を生やした赤いゴブリンが残っていると判ればジェラールとジェームズが剣を構えて殺到する。

 そうして始まった剣閃の隙間を縫うように放たれたエメラルドの『ファイアボール』が赤いゴブリンの顔面に直撃し、流石に怯んだその隙間を縫うようにジェラールの剣が疾れば赤い首が飛ぶ。

 

「――やはり戦いは好きではないな」

 

 なんとも呆気ない幕切れであったが――アバロンを脅かしていたゴブリンの巣は、そのようにして壊滅した。

 




表現の都合から、ジャムやフィーンドは外にお出かけしていたものとします。
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