竜の目に映る者達   作:サーデェンス・ロー

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01-08 栄華の上を歩く者達

01-08 栄華の上を歩く者達

Ver1.0

 

 

 

 クジンシー、もしくは七英雄と呼ばれていた魔物を倒した後、ソレからの圧力を受けていたアバロンと制圧下に置かれていたソーモンの民は新しい英雄の凱旋と抑圧からの解放に歓喜していた。

 滅亡の危機という窮地を払われたアバロンの経済活動が上向くのは当然の帰結であったが、経済どころか人間としての営みすら制限されていたソーモンの活気は天を突く程であり、ソレ等の消費行動に晒された北バレンヌは空前の好景気に突入していた。

 そんなお祭り騒ぎが続いている市井に対し、ジェラールやエメラルドのような貴族の類は戦後処理とソーモンの統治方針の構築という2大事業を前に大変忙しそうにしており、呼ばれて会いに行く度にどんどんとやつれていく様を前にすると手を差し伸べたくなってしまう‘竜(ベルフェジール)’であったが――。

 ‘人間(イロウル)’曰くソレが彼等の責任であり、面倒事に巻き込まれたくないのであれば離れた方が良いとの助言に従った‘ベルフェジール’はアバロンから離れ、主にソーモンでの復興作業に従事していた。

 尚、クジンシー撃破における戦友となったテレーズやジェームズとのやり取りも続いているものの、宮仕えである彼等もまた警備や式典対応で大変忙しそうにしており、その多忙さは先に挙げた2人の比ではなかったもののソーモンからの隊商の護衛としてアバロンに戻る度に呪詛めいた愚痴を聞かされていた。

 とは言え、‘イロウル’はソレも騎士という立場を得た彼等の責任であると断じており、そんな責任と柵(しがらみ)から逃げ去った身であるイロウルは護衛していた隊商がアバロンでの商いを終わらせるまでの暇を満喫するべく城下を歩いていた。

 

「――イロウル様、この度は本当に……」

「いいのよ、趣味でやってるのだから」

 

 その最中、大通りから少し離れた所で見掛けた親子を呼び止めた彼女はいつぞやと同じように医者の真似事を始め、親の望む“感情(いろ)”に沿うように子供の診療を始めていた。

 

「――変な色……気配も無いし、ただの風邪でしょうね。臓腑が少し元気なさそうだったから、暫くの間の食事は柔らかくした物を、少量ずつね」

 

 クジンシー討伐に参加した事によって名が知られてしまったイロウルは自分の存在を隠していた頃とは打って変わった積極的な動きを見せているものの、その裏では自身の気配を薄める“隠行”の魔術を走らせ続けており、その在り様から『幽霊のような医者がアバロンの城下に漂っている』と噂になっていた。

 治療や施しを受けたという者は居れどもその姿を見た者は少ないという奇異な現象は宮殿でも噂になっているらしく、茶会の席で「治療が必要な者にしか認識されない怪異の類が城下に居ると噂になっておりますが、何かご存じありませんか?」と探りを入れられた事もあったが‘ベルフェジール’はこの新しい実験を止める心算は無かった。

 それは『“才能(いろ)”を見出せない存在が、“隠行”を使っている自分の事を見つけられる筈がない』という思い付きを証明する為の行為であり、「無駄な事に手を出しますね……」と‘イロウル’に呆れられたもののは、“才能(いろ)”無き者と関わる事は時間の無駄でしかないと考える‘ベルフェジール’は関わる人間を選別するような魔術行使を続けていた。

 

「――――子供はすぐに熱を出すけれど、意識が朦朧としてたり呼吸がおかしくなったりしなければ大概は大丈夫よ」

 

 そんな余所見をしながら診療を続けていたイロウルはそう取り纏め、最後にまじない程度の弱い術を掛けてから母親の方へと視線を向ける。

 

「一応癒しの術も掛けたし、万が一そうなった時の為に傷薬と万能薬も渡しておくから――そんな顔しないの」

 

 普通の魔術――術法による治療では病原体も活性化する事から悪手らしいが竜である‘ベルフェジール’の手に掛かれば効果対象を限定する事など造作もなく、消した後の副作用が大変なのでやらないが、“存在(いろ)”から選別して病原体に纏わる物体だけを殺す事も出来ない事はない。

 

「こんな値段で診て頂いた上に、お薬まで頂いては……」

「見込みのある者しか診ないし、受けるかどうかは相手の“気配(いろ)”を見ているから気にする事ではないよ」

 

 そう言って何処かの診療で代金代わりに受け取った薬――薬効が確かなのは“目”で調べた――を押し付けたイロウルは泣き腫らした跡の残る子供に目線を合わせる。

 その視線の先には明確な“魔力(いろ)”があり、その薄い色彩から鑑みるに直参に加わるような英傑には成れないだろうが、その道に進めば優秀な術者となって人の為にはなれるだろう。

 

「まだ辛いだろうけれど、すぐに良くなるわ。――でも、親の言う事を聴かずに困らせる事ばかりしていたら……竜に食べられちゃうからね」

 

 自分を見つめる瞳に自らのイメージ遅れば眼前の子供は面白いように震え上がり、寄る辺である母親に飛びつきながらその背に隠れる。

 そんな‘ベルフェジール’の悪戯を知る由もない母親が我が子の失礼な態度に恐縮してしまったものの、非のある彼女は誤魔化すように手を振りながら親子に背を見せる。

 ――今日のアバロンも人の営みが織り成す“景色(いろ)”に溢れており、退屈しそうにない。

 

「……まだ回っていたいけれど――そろそろ呼ばれている時間かな?」

 

 感情の多くは悪性であり、いかに知性を高めようとも、どれほど良い環境を整えようとも嫌な魔素(くうき)は生まれるのだが――宮殿に漂うソレは輪に掛けて重苦しいモノが多い。

 そして、その魔素に在り方すら左右される‘ベルフェジール’としてはあまり向かいたくない場所ではあるのだが、ソレを踏み越えてでも得たいモノがある彼女は宮殿へと歩み始めた。

 

 

 

 アバロン宮殿。

 それはこの世界の人間の歴史と共に在った権威の象徴となり、無機物にはあまり興味を持たない竜をしても『綺麗だな』と思える程に見れる建物だった。

 同時に、城下を襲われた事はあれども一度として外敵の侵入を受けた事がないという実績は“総意”という気配となって顕になっており『まるでアバロンに住まう人々の願いを集めたみたい』と竜が錯覚してしまう程に重く、近付き難い存在でもあった。

 そんな宮殿の前、城内に至る為の大門を警備している兵達は近付いてくる赤ローブの人影に一瞬警戒の色を向けたものの、ソレがイロウルだと判れば視線を緩め、警戒を解く。

 クジンシーの討伐に参加したイロウルが得た物は宮殿への通行権であり、今回は城内の関係者に呼ばれている事もあってか下賜された証を見せる必要もなく通され、そこから先は門内で待っていたエメラルドの侍女に先導される形で歩みを進めていく。

 行く先は城内においてエメラルドの実家が押さえている区画にある中庭であり、そこでは彼女が主催する茶会が開かれていた。

 

「――先導、お疲れ様」

 

 中庭に出た事で広くなった視界の先では東屋(ガゼボ)の中に配された椅子に腰掛けたエメラルドとテレーズが既に話を続けており、手土産の霊酒を侍女に渡して引っ込ませた後はイロウルと彼女達との時間となる。

 人間として世界に顔を出した頃は相手の所作1つに対しても竜としての全能力を費やしていた‘ベルフェジール’であったが、最近ではだいぶ余裕を持って対処出来るようになっており、‘イロウル’に泣き付く事も少なくなっていた。

 そんな経緯から役目の少なくなった‘イロウル’であるが、暇を持て余している彼女にとってもエメラルドの茶会は数少ない楽しみの1つとなり、身体の主導権を持っている‘ベルフェジール’に目当ての甘味を取って貰うように要望を投げれば、竜は折を見てソレを確保し――元居た世界では考えられない程に洗練されている上に美味しい菓子に舌鼓をうつ。

 

『(――やっぱり、争い事は無い方がいいなぁ)』

 

 自分の内に居る‘イロウル’が幸せそうにしている事に頬を緩めながら‘ベルフェジール’もエメラルドの茶会を楽しみ、主催者やテレーズとの受け答えによって人間同士の感覚や距離感を学びつつ周囲の魔素(くうき)を取り込み、その甘さを噛み締めるように目を瞑る。

 

「――――」

 

 同時に、その甘さ影に潜んでいる苦味――茶会の開かれている中庭からも見上げられる宮殿の内情は今、荒れに荒れているらしい。

 跡継ぎと目されていた皇太子と先帝の戦死という大事に続き、伝説に挙がる七英雄の討伐と新たな英雄の戴冠。

 ソレ等の内の1つだけであっても国を揺るがす事件を立て続けに受ける事となったアバロンの政治的な均衡は大いに崩れ、城下やソーモンのお祭り騒ぎとは裏腹に鉄火場と見紛う程の激務に晒されているらしい。

 

『(……こっちは――嫌な“情動(いろ)”が深いから、やっぱり好きじゃないな)』

 

 宮殿内で繰り広げられている政策の制定やそれに纏わる政争は人間を虫の方に近付ける為の理(ほうりつ)を創る場所であり、感情しか持たない動物を人間として矯正する為の根幹が在る場所であると‘ベルフェジール’は目しており、彼等の概念を知ろうと考えれば避けては通れない場所であるとも考えてはいるのだが――。

 

『(――どうせ見るなら、落ち着いてからの方が“情動(いろ)”も安定していて判りやすいかな?)』

 

 そう考えて行動を先送りにした‘ベルフェジール’は自分の居るガゼボの中へと意識を戻す。

 ジェラールが受け継いだという『伝承法』は前代未聞な術となり、宮殿内でソレを信じているのが腹心か目端の効く文官位である事から謀反を画策するような貴族も居り、国政の内情は混迷を極めているとエメラルドは零していたものの――その大渦の中心に居る皇帝は内に居る先帝の声を聞く形でうまく対処しているとの事だった。

 ‘イロウル’の知る人間の歴史をなぞるなら荒れに荒れるであろう政権の移行が順調なのはジェラール自身の手腕もあるのだろうが、やはり政治基盤の連続性がある事が大きいようで「先帝しか知らない筈の情報を匂わされ、狼狽えている政敵を詰めているジェラール様は絵になりましたわ」といったような惚気が最近のエメラルドの口癖となっていた。

 それを都度聞かされているテレーズの“気配(いろ)”は流石に辟易の色が見え始めているものの、そんな彼女等の“情動(いろ)”をニマニマしながら眺め、零れた魔素を取り込むのが宮殿にお呼ばれした時の‘ベルフェジール’の楽しみであり、今も零れたソレを舌で舐めた彼女は変わらぬ甘さに頬を緩める。

 

「まだ混乱は残っていますが城内の環境は整いつつあり――近い内に、皇帝として遠征に赴く事になると聞いております。イロウル様も準備をしておいて頂ければ」

 

 そんな茶会の中で聞かされたのはジェラールがヴィクトール運河の通行権を支配しているという運河要塞なるものの攻略を考えているという情報であり、エメラルドは「現状では内部調査が難航している」とも続けた。

 

『(…………邪魔な建築物なんて、遠方から粉砕してしまえばいいのに)』

 

 最近学んだ当たり障りのない言葉でエメラルドの話に応える中、‘ベルフェジール’は人間の世界に出して良いのか判らぬ問いを‘イロウル’に投げかける。

 竜における戦いとは足を止めれば死ぬ世界であり、身動きの取れなくなる閉所に入るという事は自ら棺桶に入るような愚行と同議である。

 そういった認識も併せて問われた‘イロウル’は「(人間の扱える魔術にそれだけの火力は無い)」と応えるも、『(この世界の術は放出系に優れているのだから、人数を揃えて遠方から『ファイアボール』を連投すればいいのでしょう?)』と‘ベルフェジール’が問い返すと「(そこは――少し考えます)」と彼女をしても応えに窮してしまう。

 とは言え、「(例え流儀に反していようとも、人間の中に居たいのであれば可能な限り人の域に有る事を意識しないといけませんよ)」と‘イロウル’は続け、限られた力を用いてジェラールの思う通りに動くようにと‘ベルフェジール’を諌める。

 その諫言を受け入れた‘ベルフェジール’はその意見に反する意思が無い事を伝えつつも『(人間は合理性を法律(シキタリ)にするのが上手いけれど、たまに不合理な習慣があるよね)』と零すもソレに応える声はなかった。

 

「――――」

 

 制約が多い事を面倒と思うものの、気の置ける人間達と見知らぬ場所に向かえるという事は‘ベルフェジール’にとっては心躍る出来事であり、上向いた気持ちのままエメラルド達の話を耳に留め、流れる惚気話を取り込んでいく。

 その茶会では、「今回の滞在中に事を始められるかもしれない」という話もあったが、遠征の話が纏まるよりも商談を終えた隊商の再集結の方が早く、イロウルは彼等を護衛しながらソーモンへ戻る事となったものの――。

 彼女が次にアバロンに訪れた時、待ちに待った動員が掛かった。

 




イロウル・ベルフェジール(アビリティ)
・B系フレーム
自身の行動順になった時、HPとBPが最大値の50%ぶん回復する
宿屋に泊まった際、LPが1回復する

・異界からの流浪者
技・見切り、特定の術法を習得する事が出来ない
本キャラのアビリティは着脱できない
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