悪の組織で幹部をやってる。時給3000円で。   作:かませ犬S

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第九話 残業

『聞こえるかぃ助手君!見ての通りヒーロー共が集結しているぜぃ』

 

 頭の中に響くマッドサイエンティストの声が目の前に広がる光景を俺の代わりに代弁している。

 場所はアメリカ合衆国、ニューヨーク港内リバティ島。一度はこの目で見てみたいと思った自由の女神像の前に、続々と集結するヒーローたちの姿に観光気分は瞬く間に消えていく。

 

「見たところ、20はくだらないヒーローが集まっているな」

『もっといる筈だぜ。フォリ様が掴んだ情報では今回の作戦に参加するヒーローは50名弱と聞いている。作戦開始時刻までまだ30分ある。これからどんどん増えるぜ』

 

 ───気分が悪くなる情報だ。

 

 遠目で見たところ数を揃えただけじゃない。USA支部のヒーローの中でも指折り猛者達が集まっている。今からこのヒーローたちの相手をすると思うと気が滅入るな。

 

『いやー参ったね。素体確保に向かわせた怪人が珍しく生きて帰ってきたと思えば、ヒーロー側に発信機を付けられていたとは。ひひひ』

「笑い事じゃないぞ」

『そうかい?でもまぁ、助手君とボスの二人が動くならどうにかなると思うぜぃ』

 

 簡単に言ってくれるな、と心中で吐き捨てながら作戦の実行の為にその場を離れる。既に怪人の配置も終わり、ボスも所定の位置についている。重要なのはどれだけのヒーローを俺たちに引きつける事が出来るかだ。

 マッドサイエンティストとウルフの二人がアジトの破棄を完了するまでの時間稼ぎが、今回の作戦の肝になる。

 

 ───何故、このような事態に陥ったのか。経緯や原因は極めて単純で、ヒーロー側が俺たちのアジトを探る為にあえて怪人を泳がせた事が始まりだ。

 隠密を得意するヒーローが戦闘の合間に発信機を怪人に付け、そのままUSAエリアのアジトに帰還するという失態を犯してしまった。自我を持たない怪人の悪い所が出たな。

 

 『ベーゼ』のアジトは世界各地に存在しており、日本エリア、中国エリア、USAエリア、ロシアエリアといった具合に複数に分けて、それぞれのエリアに本拠点と移動用の拠点を置いてある。エリア毎に設けているのはリスクの分散の為だと思ってくれていい。

 

 移動用の拠点は文字通り移動の為だけに置かれた拠点であり、瞬間移動装置の子機が設置されているだけのものだ。

 本拠点には俺が主に活動している日本エリアのように、実験設備や物資、瞬間移動装置の親機が設けられている。

 

 今回ヒーローにバレたアジトはUSAエリアの本拠点として活用しているアジトだ。

 マッドサイエンティストが発信機の存在に気付かなければ取り返しのつかない事態になっていた可能性が高い。

 もっとも発信機の存在に気付けた要因が怪人が()()()()帰還したからだと言うのだから、笑えない。USAエリアは他エリアに比べて殉職率が高すぎるな。

 

 ヒーローの質が高いのもあるが、単純に数が多すぎる。USAエリアの怪人は質の高いヒーローを相手に多対一を強いられる為、生きて帰る怪人はいない。殉職率100%の死のエリアだ。

 

 そんなヒーロー過多なUSAエリアのヒーローにアジトを抑えられるのは、正直に言って面白くない。

 瞬間移動装置の連携は遠隔で切る事が出来るので、他のアジトがバレる事はないがヒーローに渡したくない情報も多い。

 必然的にアジトの防衛、あるいは破棄するまでの時間を稼ぐ為に動かなければならない。

 

「さて、やるか」

 

 腕時計の針は9時27分を指していた。ニューヨークとの時差は13時間から14時間とされているから、今の時刻は20時くらいか。

 マッドサイエンティストが得た情報では後30分後にヒーローたちはアジトに突入するらしい。

 

 夜中の3時に緊急連絡という事で叩き起され、今の今まで作戦の準備やアジトの破棄の手伝いをしていた。ヒーロー側の作戦開始が早まったせいで、少しばかり急ピッチにはなったが何とか間に合ったな。

 

 

 

 ───本日の業務内容はアポもなしに訪れたヒーローたちの対応か。

 

 

 

「こちらクロ、これより作戦を開始する」

 

 左手に握られた小型の瞬間移動装置を起動すると景色が変わる。あらかじめ設置しておいた子機の元へと移動すると、先程まで見ていたヒーロー達が足元で集まっているのが見えた。これが自由の女神像のトーチの上から見る景色か⋯⋯。

 

「⋯⋯⋯⋯」

 

 感傷に浸るのはこれくらいにして、仕事を始めるとしよう。

 

 標的であるヒーローを見定め、トーチの上から飛び降りる。落下位置を計算し、飛び降りる位置は調整してある。重力に従い、勢いよく降下した先には二人のヒーロー。

 

 

 

「グッド・イブニング!」

 

 ───挨拶と共に降下先にいた二人のヒーローを踏み潰し、近くにいたヒーローの頭を掴んで握り潰す。

 

 一先ず、三人。

 

「っ───!」

 

 流石はUSAの選りすぐりのヒーローと褒めるべきか。完璧な奇襲を仕掛けたつもりだったが、想定よりも動揺は少ない。俺の姿を確認するとヒーローたちは素早く距離を取り、臨戦態勢に入った。 本当に優秀なヒーローが多い。

 

「いい夜だなヒーロー共」

 

 幼い頃に見た特撮の悪役のように仰々しく腕を広げ、意識して悪い笑みを浮かべる。芝居が上手くいったのか、ヒーローたちの視線は俺に釘付けだ。

 このままマッドサイエンティストとウルフの作業が完了するまで、俺の相手をして貰うとしよう。

 

「ここで何をしていたか、俺に教えてくれよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───倒壊音が遠くで響いた。

 

 音のする方へ視線を向ければビルがドミノ倒しのように複数の建物を巻き込み、倒れていく。あの位置で暴れているのはボスだな。

 遠目に上半身と下半身が真っ二つに割かれたヒーローの死体が転がっているのが見えた。惨たらしく殺しているのは見せしめの為だな。

 

 二度と同じような真似をしようと思わせないように、ヒーローだけじゃなくて無関係の市民達にも被害を与えている。

 やりすぎのように思えるが、悪の組織として考えるのであれば理にかなっているか。ヒーローがアジトを探るような真似をしたから、こうなったのだと市民にも強く植え付け、敵ではなく守るべき市民にヒーローの動きを封じさせる。ヒーローは明日以降、やりにくくなるだろう。

 

「それで、まだ俺と戦おうと言うのかスターブレイブ」

 

 ボスの暴れっぷりをこのまま見ていてもいいが、まだ戦意を失わず俺を強く睨むヒーローがいる。

 筋肉隆々の逞しいマッスルボディは至る所に傷があり、無尽蔵をうたっていたスタミナも尽きた。肩で息をしている姿は満身創痍という言葉が良く似合う。それでも俺に立ち向かう姿勢を崩さない。立派な心持ちだ。

 

「み、ミーは諦めないヨ。か弱き者たちを助ける為にヒーローになったんダ!こんなところで挫けないネ!」

 

 仮面に備わっている機能のお陰でヒーローが喋る言葉が分かるが、少しばかり癖があるな。仮面の翻訳機能が原因ではない筈だ。もしかしたら元々のイントネーションに癖があるのかも知れない。

 

 兎も角、フラつきながらも立ち上がり俺へと向かってくる勇姿は、幼い頃の俺なら手を強く握りしめて応援しただろう。

 だが、今は立場が違う。容赦する訳にはいかない。スターブレイブへ肉薄し、渾身の力で殴り抜く。

 

「がふっ───」

 

 

 

 土手っ腹に穴を開けたヒーローが、ゆっくり崩れ落ちた。

 

 ───これで13人か。

 

 自由の女神像の元に集まっていたヒーローの約半数は俺の手で殺した。残りの半数は各地で同時に暴れだした怪人の対処をする為に、この場を離れていった。

 市民の事等考えず全員でかかってくれば俺に手傷の一つや二つ付ける事が出来ただろう。彼らの敗因は、ヒーロー足り得る精神性。見捨てる事も時に必要という事だ。

 

「作戦は既に完了している。成果も十分にあげたと言える。だが、ボスが帰ろうとしないからな」

 

 本来の目的である時間稼ぎは既に達成している。俺やボスが暴れているのもそうだが、各地で怪人が暴れ市民を拉致し始めた事で、ヒーローサイドはアジトの突入どころではなくなった。

 敵を倒す者、市民を救う者、それぞれがヒーローの役目を全うする為に任務を放棄した。その結果、何事もなくマッドサイエンティストとウルフは拠点の物資の移動を完了させ、アジトは放棄された。それは作戦の完了を意味する

 

 既にUSAエリアを離れ、日本エリアに帰還した二人に続いて俺も帰りたいのだが、上司であるボスがまだ現場に残って戦っている。

 前職の時もそうだったが、定時を過ぎていても上司が働いていると帰りにくい⋯⋯そういう現場の雰囲気のせいで俺はまだこの場に留まっていた。ボスの強さを考えれば、放っておいてもヒーローに倒されるような事はないと思うが⋯⋯。

 

 

 ───頭の中にノイズが走る。連絡してきたのはマッドサイエンティストか。

 

『やーやー、聞こえるかい助手君!知っていると思うけどフォリ様とウルフの二人は無事に帰還したよ。後は二人が帰ってくるだけだぜぃ』

「帰りたいのは山々だが、まだボスが戦っている」

『いやー意外だねー。助手君にも上司思いな所があったとはフォリ様も思わなかったよ。定時を過ぎているのに働いているし、明日は雨だね』

 

 定時をすぎている?ハッとなって腕時計の時間を確認する。

 

 時刻はもう間もなく14時を迎えようとしていた。緊急の連絡により平時より出勤が早まった俺は朝の4時から業務を行っている。

 休憩時間を差し引いても9時間⋯⋯1時間ほど残業している事になる。始動時間が異なる弊害がこんな所で出るとは。

 

『それで助手君もボスが満足するまで一緒に残るって事でいいかい?』

「いや、定時を過ぎているから帰還する」

『おけおけーい。助手君の帰還を待ってるぜぃ!』

 

 遠くでヒーローたちを圧倒していたボスが『え?』と、驚き固まっている姿を視界に収めながら、お疲れ様ですと心中で呟いてから瞬間移動装置を起動する。

 

 景色は一瞬で変わり見慣れた光景と見慣れた顔を見て、ようやく一息つく事ができた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───その日の仕事を無事に終えた俺は、ウルフと共に自宅へと帰ったところで思い出した。

 

 ボーナス貰ってない⋯⋯。

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