悪の組織で幹部をやってる。時給3000円で。   作:かませ犬S

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第十二話 亀裂

 長かった一週間も終わりを迎える金曜日。休みを含めるのであれば、まだ一週間は終わっていないが、仕事に関しては今日で終わりだ。

 完全週休二日制を採用している我が組織は基本的には土日は休みである。

 

 さて、どうでもいい話を一つしよう。先日ボーナスを貰えなかったので、本日貰おうと思ったのだが、マッドサイエンティストに話を聞いたところそれは難しいと返ってきた。

 

 なんでもボスが現在寝込んでいるらしく、ボーナスを貰う為にボスに会いに行くのはやめた方がいいと止られた。特に俺は()()行かない方がいいとの事だ

 

 先日の戦いの様子からヒーローとの戦いで負傷していた事は知っていたが、寝込むほどだったかと、疑問は浮かぶ。

 マッドサイエンティスト曰く、怪我や風邪ではない別のモノを拗らせているだけだから気にしなくていいとの事だ。

 

 『とられた』、『我の半身なのに』等とうわ言を繰り返しているそうだが⋯⋯安静にして時が経過すれば勝手に復活するだろうと。

 肉体的な外傷やウイルスではなく、精神的な負担のようだな。

 

 マッドサイエンティストが大丈夫だと言うのであれば、俺までボスの事を気にする必要はないだろう。ボスがまた元気になる事を祈りつつ、俺は俺として仕事をしよう。

 

「ターゲットはあの男か」

 

 本日の業務内容は連日変わらず素体の確保である。先日の戦いでかなりの数の怪人を失ったからな。どさくさに紛れて数人は素体として確保しているが、その中の一人か二人怪人に変異したらいい方だろう。

 

 一先ず来週の頭に予定している大規模作戦の為の手駒が必要だ。これまでの実験の結果、素体が悪人である方が怪人化に成功する確率が高い事が実証されている。

 効率的に怪人を増やすなら悪人を狙った方がいい。ただ、善悪の判断というのは外見的な特徴から判断するのは難しい。

 

 悪人顔の善良な人間もいれば、その逆もいる。悪人かどうか調査してから捕らえるとなると手順を踏むせいで、僅少になりがちだ。

 

 だがな、世界各国には悪人を収容している『ベーゼ』にとって都合の良い施設が存在していたりする。中には冤罪の者もいるだろうが、多くは悪人だ。その施設を狙って襲えば数を揃える事は出来る。

 

 他にも反社会的勢力を狙うのもいい。大なり小なり犯罪に手を染めている者が多い。素体としては丁度いいだろう。

 

 とはいえ、そういった施設を狙うとなるとこちらも手駒が必要だ。俺がいくら強くても体は一つ。一度に連れて行ける数は限られる。

 素体の確保と運搬用に怪人が必要だ。その為の素体を俺とウルフで二手に分かれて確保に向かっている。

 

 怪人を現場に引き連れていない場合、俺がヒーローに見つかる可能性は限りなく低い。ウルフのように体の一部が怪人化している訳でもないので、変装をする必要もなく、そのまま歩いていても誰も気にはしない。

 

 現に俺がターゲットとしている男は、俺が後ろをつけていても気にする様子はない。それから暫く男の尾行を続け、人の通りが少なくなったタイミングで男を気絶させてそのまま拉致する。

 

 ───この男が犯した罪は強盗殺人。盗みに入った家で、家の主である女性と出くわしてしまい、勢いで殺してしまったようだ。

 精神疾患があるとかで刑が減刑されたんだったか? マッドサイエンティストが減刑される為の嘘だと断言していたので、同情の余地は一切ない。

 

 瞬間移動装置でアジトにターゲットの男を送った後、マッドサイエンティストから次のターゲットの情報を貰い移動する。

 現在地からさほど距離は離れていない。ゆっくり歩いても10分足らずで着くだろう。

 

 

 ───ザザっと頭の中でノイズが走る。ウルフからだな。

 

「⋯⋯そうか」

 

 ウルフからの報告ではターゲットの悪人を確保して、持ち帰っている道中でヒーローと出くわしてしまったらしい。

 

 今回の作戦はヒーローを倒す事ではない。適当に相手をしてアジトに帰還するように伝える。いや、万が一もあるか⋯⋯一応伝えておこう。今、ウルフを失う訳にはいかない。

 

「俺の応援が必要なら連絡しろ、直ぐに向かう」

『はは!グリーン程度ならオレ様一人で十分だ!』

 

 どうやらウルフが交戦しているヒーローはシャイングリーンのようだ。小さな声で『日曜日に先輩と会えなくなるくらいボコボコにしてやる』と呟いていたのが聞こえた。

 

 意気込んでいる所に水を差すようで申し訳ないが、俺に会えなくしたいのならボコボコにするのではなく殺した方が手っ取り早い。動けない程度の負傷なら会う日程がズレるだけだ。

 スケジュールの変更は正直に言って面倒なので、殺すか無傷で逃がすかのどっちで頼む。

 

 

 

 

「これでラストだな」

 

 瞬間移動装置を起動しまた一人、アジトに素体を送った。既に時刻は17時を回っている。定時退社の時間だな。ボスは寝込んでいるので、マッドサイエンティストに退社する旨を伝えてその場を離れる。

 

 ウルフは俺より先に退社した筈だ。家に帰ればウルフが待っているだろう。その際、なんて声をかけるべきだ?シャイングリーンを逃したとかで落ち込んでいたが⋯⋯。

 

 俺からすればシャイングリーンはどうでもいい。あえてそこには触れず、本日の仕事の成果を褒めよう。ウルフが捕らえた素体は3人。ヒーローと交戦した上で3人確保しているなら十分だ。

 

 俺がアジトへ送った素体は全部で8人、そのうち先に送った7人は既に怪人化に成功したとマッドサイエンティストから連絡があった。

 

 やはりというべきか悪人の方が適合率が高い。これでアジトに送った素体全てが怪人化した場合、ウルフと合わせて11人か。

 

「⋯⋯数が足りないな」

 

 無人のビルの屋上で、呟いた一言が虚空へ消えていく。

 

 ───『ヴレイヴ』に所属するヒーローの数は千を優に越す。対してこちらの怪人の数はどうだ?全容を把握している訳ではないが、ヒーローの半分もいないだろう。それに質も低い。

 

 ふざけた話だ。なんで怪人よりもヒーローの数が多いんだ。

 

「根本的な問題を解決しなければ数の差で負ける⋯⋯」

 

 兵隊の増やし方の違いだな。『ヴレイヴ』はヒーロースーツという技術。対してこちらは怪人細胞を使った人体実験。どちらが効率が良いかは猿でも分かる。

 

「技術者を狙うのも手か」

 

 マッドサイエンティストの技術が向上し、より効率的に怪人を作れるようになるのが理想だがまだ時間はかかるだろう。

 その間にもヒーローが増える可能性がある。それは面白くない。元を断つ必要があるな。

 

 『ヴレイヴ』の日本支部の拠点は既にマッドサイエンティストが探し当てた。一つの拠点が分かれば後は芋づる式に判明する。

 技術者がいる拠点さえ分かれば後は強襲を仕掛ければいい。だが、

 

「どっちにしろ数を揃える必要があるか」

 

 『ヴレイヴ』の拠点を襲うならこちらもそれなりの手駒がいる。結局行く着く先は同じ。

 

「頭の痛い話だ」

 

 ため息を一つ吐いて、帰路に着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───翌日のお昼前、俺は親友との待ち合わせ場所まで足を運んでいた。最近外装をリフォームしたらしく小綺麗になったカフェが視界に映る。

 俺の家と親友の家の丁度中間に位置するこの店は、待ち合わせの場所としてはもってこいだ。料理も美味いしな。

 

「ん?」

 

 俺が店に着いたタイミングでスマホが振動する。確認すると親友からメッセージが届いていた。どうやら俺より先に着いていたらしく、既に席に座っているとの事。

 どこに座っているかは書かれていなかったが、おそらくいつもの席だろう。

 

 迎えてくれた店員に、連れが先に来ている旨を伝えてから親友の待つ席へと向かう。目的の席へ近付くと馴染みのある夕焼け色の髪が見えた。俺が見つけたようにあちらも俺の事を見つけたらしい。

 

「颯人!こっちやこっち!」

「相変わらずだな、太陽」

 

 手を振りながら笑顔で俺を迎え入れる親友───朝比奈(あさひな) 太陽(たいよう)を見て、思わず笑みが零れる。

 

 パーマのかかった夕焼け色の髪を額の真ん中から正中線を通り、えりあしにかけて左右対称に直線に分けている。センターパートなんて呼ばれる髪型だった筈だ。

 切れ長の茶色の瞳を細めて笑う姿は何とも絵になる。相変わらずの色男っぷりで⋯⋯。

 

 服装はカジュアル系で揃えているが、太陽が選んだにしてはセンスがいい。おそらく妹の朝比奈(あさひな) 向日葵(ひまわり)が選んだのだろう。

 この間の電話でも兄と一緒に買い物に行ったと口にしていたな。

 

 こうして会うのは半年振りではあるが髪型以外、何も変わっていなくて安心した。太陽の向かい側の席に座ると人懐っこい笑みを浮かべた太陽がメニュー表を広げて、何を頼むか聞いてきた。

 

「飯は後でいいだろう。とりあえずホットコーヒーで」

「せやなー。悪いんやけど先に俺の話を聞いてや」

 

 お昼前という事もあってお腹は減ってはいるが、太陽の相談内容は食べながら聞くような話ではないだろう。いつになく真剣な声だったからな。

 

 太陽がメニューを仕舞うの横目に見ながら、店員を呼んでホットコーヒーを二つ注文する。

 

「それで、電話で言ってた相談事ってなんだ?いつになく真剣な声だったが」

「そやそや。颯人に言っておかないかん事があってな。相談って訳やないんやけど、親友には一番に伝えたかったんよ」

 

 親友の顔から笑顔が消えた。真剣な顔、あるいは覚悟を決めた男の顔とでも言うべきか。これから太陽が話す内容は嘘や冗談の類ではないことが太陽の表情から分かった。

 

「俺に、一番にか⋯⋯」

「せやで!もしかしたら⋯⋯颯人と二度と会えんかもしれんし」

「どういう意味だ?」

「言葉通りの意味やで。もしかしたら俺はこの先死ぬかも知れん」

 

 太陽の口から紡がれた言葉で俺に何を伝えたいかを察してしまった。

 

「俺は、ヒーローとして怪人たちと闘う事になったんや」

「選ばれたって事か」

「そやそや。けどな、俺はきっとヒーローには不適格や。誰かを救う為やない。護る為でもない。俺は───」

 

 自分の掌をジッと見つめた後に強く、強く、太陽が拳を握る。

 

 名前が人を表すように暖かく、明るい太陽の瞳は俺が見た事がないほど、黒く、深く澱んでいて、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『悪の組織(ベーゼ)』に復讐する為にヒーローになったんや」

 

 ───俺と太陽の、二人の間に亀裂が入るのを確かに感じた。

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