悪の組織で幹部をやってる。時給3000円で。   作:かませ犬S

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第十四話 佐藤さん

 自我を持たない怪人はともなく、運悪くボスと会遇してしまったヒーローの末路は悲惨だ。人を甚振り、血や悲鳴を聞くのが大好きなあの異常者と戦えば、拷問にあったかのような悲惨な末路を辿る者が多い。

 

 USAの時のような大規模な作戦でなければボスが表に出てくるような事はないが、何かの偶然が重なり太陽とボスが会遇すれば、その最期がどうなるか容易に想像がつく。

 

 だから、せめて安らかに逝けるように俺の手で、なんてのは流石に傲慢過ぎるか。

 

「それで、颯人の方は何があったんや?聞いてもええの?」

「別に問題はないが⋯⋯何か食べないか? 流石に腹が減った」

「せやな。一先ずランチ頼もうや!」

 

 俺だけでなく太陽もお腹が減っていたのだろう。待ってました!と言わんばかりにメニュー表を広げている。先程までのシリアスな雰囲気はどこへやら。その方が気軽でいいがな。

 

「何にするかもう決めはった?」

「俺は唐揚げ定食にしようと思ってる」

「ええなー。俺はどないしよう。⋯⋯カツカレーええやん!カツカレーにしよ!」

 

 お腹が空いている事もあり、メニューを決めるのは早かったな。呼びベルで店員を呼んで、メニューを注文する。少し混んでいるのもあり、注文の商品が届くまで時間がかかるだろう。

 

 それまで太陽と話すとしよう。さて、何を話すか悩むところだな。『悪の組織(ベーゼ)』の事は口が滑っても話してはいけない。

 その上で太陽を納得させる理由⋯⋯丁度いいのが一つあったな。太陽にもまだ話していない事があった。

 

「俺に何かあったか、太陽も気にしていたな」

「せやせや。半年前はまだマシやったやろ?会社が倒産したりで色々あって目が死んでた時期もあったけど、最後に会った時はまだ活力があったで」

 

 会社が倒産したのはもう一年くらい前だ。元カノの不倫現場を目撃したのもその頃。時間はかかったが太陽のお陰で吹っ切れる事は出来た。

 俺が元気になった、と思ったらその半年後にまた目が死んでいた。そりゃ、気になるわな。

 

「結論から話すと、太陽と会った一週間後に家族に絶縁された」

「はぁ!?」

「声がでけーよ」

 

 声がデカいし物音を立ててまで立ち上がるな⋯⋯。流石にオーバーリアクション過ぎるだろ。俺が口にした内容は太陽のモノに比べたら、小さなものだぞ。

 

「いや、え、ホンマに何があったん?」

「原因はなんだろうな⋯⋯。多分、俺が仕事をしないで自堕落に生活していた事が親父にバレたからだな。理由はそれだと思う」

「それも理由があってやん。精神的にも働ける状態やなかったやんけ。それも伝えたん?」

「伝えた上でそうなったから。厳しいとかそんな事を思う暇もなかったな」

 

 二人揃ってため息を吐いた。働いていない理由を聞かれて、説明しても理解してくれず⋯⋯お前はもう俺の息子ではない。二度と敷居を跨ぐなと拒絶された。

 親父はもちろん、お袋や妹とも連絡を取る事は許さないと一方的に絶縁宣告され、それ以降一切の連絡を取っていない。

 

「昔から厳しい人やったけど、流石に酷いと思うで」

「過ぎた事だし今はもう、どうでもいいとすら思ってるぞ」

「せやけど⋯⋯家族との縁が切れるんは寂しいことやで」

「俺が動いてもどうこう出来る話じゃないだろ?絶縁するって相手から拒否してきてんだから」

 

 絶縁を宣告された時はそりゃショックだった。一方的に言い切って立ち去っていく親父の背に怒鳴り散らしたものだ。

 

 だが、今になって思えば絶縁された事は都合が良かった。怪人としての特徴がないとはいえ、既に俺は人ではない。短い期間なら違和感は抱かないだろうが、家族として長期間一緒に過ごせば気付かれる恐れもある。

 

 そうなれば俺も───。

 

「ホンマにもう、連絡取ってへんの」

「一切な」

 

 もしかしたらあっちから連絡がくるんじゃないかと、淡い期待を悪の組織(ベーゼ)に加入する前は抱いていたな。それも過去の話だ。連絡はなかったし、悪の組織(ベーゼ)の幹部として動いている内に本当にどうでも良くなった。今、家族がどうしているか?なんて、興味すらない。

 

「せやったら、知らへんよな」

「何がだ?」

「颯人のおかん、両目⋯⋯失明しとったで」

「───は?」

 

 流石に予想外で、俺の声とは思えない程マヌケな声が出た。お袋が失明?それも両目?

 

「俺もたまたま出くわしただけやし、会話も挨拶程度やから何があったかは知らんのやけど⋯⋯見ていて分かったわ。目見えてへんなって」

「そうか⋯⋯」

 

 太陽がそこまで言うなら嘘ではないだろう。何が原因かは不明だが、お袋は両目を失明した。仮にその話が本当なら俺にも伝えてくれても⋯⋯いや、絶縁しているんだったな。

 

 人伝に聞いたお袋の現状に、今の状況を改めて実感した。

 

「様子見に行かんの?」

 

 気にならないと言えば嘘になる。だが、

 

「許してくれないだろ⋯⋯それに、俺にはもう家族の前に顔を出す資格はない」

 

 半年前のように自堕落な生活をしている訳ではないが、俺がやっている仕事はあまりに人道から外れている。

 どんな顔をして会えばいいか分からない。なら、このまま会えないまま、死んだ方が都合が良い。

 

 これ以上俺が話す気がないと悟ったのか、やれやれと言いたげに首を振る。大袈裟な動作にイラッときたが文句を言ったら負けな気がして口を閉じた。

 

 ───それから間もなく注文していた料理が届き、先程の話題は食べながら話す内容でもなかったので話題を変え、談笑しながら食事を終えた。ちなみに俺の奢りである。稼ぎはそれなりにいいから、飯代くらいは普通に出していい。

 

「ほな、また何かあったら連絡するわ」

「あぁ。⋯⋯死ぬなよ太陽」

「っ!分かっとるわ!」

 

 こちらに笑顔で手を振ってから、俺に背を向けて太陽が去っていく。その背中を見ながら思う。恐らく、これが親友として会う最後の瞬間だ。

 次に会う時は───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───場所は変わり、家から徒歩10分と言った絶妙な距離にあるスーパー。店内に入りカゴを片手に目的の品を探しに行く。

 

「それで、いるのは挽肉とピーマンでいいのか?」

『それ以外だと、先輩が欲しい物とか買ってきて欲しい!これからの参考にしたいし』

 

 スマホ越しに聞こえる夏目の声はどこか楽しそうだ。俺が太陽と会っている間に買い物に行っていたそうだが、買い忘れがあったらしく帰りに買ってこれないかと夏目から連絡があった。

 

 ちなみに怪人化した影響で夏目には狼の耳や尻尾が生えている訳だが、帽子を被ったり、体のラインが見えにくい服を着たりと色々と工夫してバレずに買い物を終えたそうだ。

 

「分かった。適当に何か買って帰る」

『了解。オレ様は家の掃除でもしながら先輩の帰りを待ってるぜ』

 

 嬉しそうに笑う夏目の声を聞き終えてから電話を切る。怪人になった事で不便な思いをさせているなと、申し訳ない気持ちでいたが俺が思っていたより充実しているのか?

 少なくともここ数日の様子を見ると夏目は毎日が楽しそうである。唯一機嫌が悪かったのはシャイングリーンを逃した日の夜だけだ。

 

 ───好きな人と一緒に生活できる事が、何より嬉しいのかも知れないな。

 

「俺が言えた事ではないがな⋯⋯」

 

 一人小さくごちる。誰もいなくて良かったと安堵しながら真っ直ぐに向かったのはアルコールコーナーである。

 箱買いするか悩みどころではあるが、夏目の目が厳しいのもあり⋯⋯買うのは2本くらいにしておこう。

 

 ここ最近は俺が飲むビールの本数を気にしており、小言を口にする事もある。俺の体を案じての発言な為、変にいい返す事もできず受け入れるしかない。人の善意は、悪意より対処が難しい。困った話だ。

 

 さて、俺が欲しい物は買った。夏目から頼まれた食材を買いに行こう。

 

 家から最も近いスーパーという事もあり、何度も通い詰めているのでどこに何の商品があるのかは把握している。と言っても買っていたのはアルコールやお酒のツマミが多かったな。

 

「あ、黒月さんじゃないですか。お元気そうで何よりです」

 

 ピーマンを見つけてカゴに入れ、残りの商品である挽肉が置いてある生肉コーナーに行くと丁度品出しをしている、佐藤さんと出くわした。

 

 柔らかい笑みと共に、形の良い口から紡がれる美しい声に何人の客が魅了されただろうか。

 

 身長は俺とさほど変わらない。180センチくらいか? 体重は俺よりも圧倒的に軽い事だけは分かる。すらっとした体型にスーパーの制服とエプロンがよく似合っていた。

 

「どうしました?」

 

 コテンッと首を傾げると背中の中間まで伸びた黒い髪が動きと一緒に揺れる。首元で一つに纏める、ローポニーテールと呼ばれる髪型だな。

 

 大きくぱっちりとした瞳は、俺のように澱んだ瞳ではなく透き通った黒色していた。左目の下にある泣き黒子も魅力的で人を惹きつける神秘的た力が宿っているじゃないかと錯覚してしまう。とにかく容姿がいい。

 

 スタイル、顔、声、動作の一つ一つに品がある。男の理想像である大和撫子を体現したような人物が目の前にいる佐藤(さとう) 礼二(れいじ)さんである。

 

 ───名前から分かる通り、男である。

 

「いや、佐藤さんも元気そうで何より」

「ふふ、こう見えて体は頑丈なんですよ!風邪なんてもう数年引いてないんですから」

 

 胸をポンポンと叩き、自慢げに語る姿は容姿も相まって可愛らしい。

 

 だが、男だ。

 

「黒月さんは大丈夫ですか? 疲れているようにお見受けしますが」

「疲れていないと言えば嘘になるので、この後家でゆっくりして疲れを取るつもりです」

「休みなんですね!良かったです。ゆっくり休んでくださいね」

「そうします」

 

 休みの日に買い物をしている俺と違い、佐藤さんは品出しの最中である。作業の邪魔をしては悪いと思い、会話を切り上げ挽肉をカゴに入れてレジへと向かう。

 

 

 

 ───佐藤 ()()

 

 夏目から聞いたヒーローの一人に佐藤さんと同姓同名のヒーローがいる。桃色のヒーロースーツに身を包むヒーロー、シャインピンク。

 

 だが、俺の記憶の中にいるシャインピンクは佐藤さんとはかけ離れた存在だ。肉弾戦を好み、怪人相手に拳一つで戦うヒーロー。

 マウントを取って怪人をタコ殴りにして、高笑いしている姿はとてもではないが佐藤さんとは重ならない。

 

 ───人には二面性があると言うが、まさかな。

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