悪の組織で幹部をやってる。時給3000円で。   作:かませ犬S

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第十八話 ポチ

 月曜日の朝というのは社会人にとって最も憂鬱な曜日であると言えるだろう。一部の例外を除いて、月曜日から仕事が始まる会社は多い。

 これから始まる5日間にテンションが下がるのは仕方ない。仕方ないと言えば仕方ない。

 

「⋯⋯⋯⋯はぁ」

「ため息なんかついてどうしたんだ、先輩」

 

 先日の事を思い返せばそれだけでウンザリする。面倒事が何一つ解決せず、更に悪化したという現実。何を言っても『おもしれー男』で流してくる無敵すぎる女の対処方法が1日経った今も見つからない。最終手段である殺害が安牌すぎるな。

 

「気にしなくていい。ウルフは名簿にある素体を捕らえてこい。俺はここで騒ぎを起こしてヒーローをおびき寄せる」

「分かった!先輩なら大丈夫だと思うけど、無理はしないでくれよ!」

 

 ニッと何時もと変わらない笑みを浮かべたウルフが離れていく。彼女には詳細は話さずシャイングリーンは見つけたら殺しても構わないとだけ伝えてある。

 俺の様子に話し合いで何かあった事を察したのは追求はなかった。ただ、見つけたら必ず殺すから安心してくれと、物騒な事を笑顔で言っていたな。

 

 殺さないで済むのが一番面倒が少なくていいんだが、九条院がヒーローである以上敵対はやむ得ない。そういう運命なのだろう。まぁ今は九条院の事を考えても仕方ないか。

 

 仕事の話をしよう。今回の俺の仕事はウルフがイタリアンマフィアの連中を素体として捕らえている間、ヒーローに邪魔をされないように騒ぎを起こして引きつける事だ。要するに陽動だな。

 

 日本と違いイタリアのヒーローは単純に数が多い。一人一人の質は他国に比べると劣ってはいるが、数と巧みな連携で怪人を倒すのがイタリアのヒーローの特徴だ。個の力を数と連携で圧倒する。相手にするとなかなかにめんどくさいヒーローたちが揃っている

 

 だからこそ、新たに仲間に加わった怪人の実力を試すのにもってこいだと思った。

 

 

 

「さて、出番だぞポチ」

「ワン!!!」

 

 さて、ここで今回連れてきた面白い怪人を紹介しよう。基本的に怪人の素体は人間だ。人間でなければ怪人細胞に適合しないというのが、マッドサイエンティストの見解だった。

 

 実験の多くは人間で試すより前に動物実験を経てから行う事が常だ。怪人を作る為の実験も同じようにまずは動物へと怪人細胞を注入して、結果を確認してから人間で試した。

 

 動物実験の成果だけで言えば大失敗だった。犬や猫、鳥⋯⋯ゾウやキリンといった様々なの種類の動物を対象に実験を行ったが、一匹たりと怪人へと変異する事はなかった。

 

 怪人細胞の持ち主がボスである事を考えれば遺伝子が近い人間でなければ適合しないのではないかという結論に至り、事実今の今まで人間以外に怪人へと変異したものはいない。

 

「ワォォーーン!」

 

───このポチを除いて。

 

 

 

 

 今日の朝方の話だ。憂鬱な気分のままウルフと共に出勤の為にアジトへと向かっている道中で、痩せこけた野良犬が俺たちの方へと歩み寄ってきた。

 

 この地域では行政であったり、保護団体が動いていた事もあり野良犬は見かける機会は少なかった。

 

 だが、悪の組織(俺たち)が現れた事で治安が悪化し、ペットの世話どころではなくなって飼い主がペットを逃がすというケースが増えたそうだ。いつだったか見た、テレビ番組で沈痛な面持ちで保護活動家が語っていたな。

 

 俺たちに近寄ってきた野良犬もかつては飼い犬だったのだろう。捨てられて食べる物がなくなったせいで、随分と痩せてしまっていた。

 

 犬種はウェルシュ・コーギーだとウルフが言っていたな。人を恐れる様子はなく、どちからと言えば人懐っこい性格をしているのか、俺たちの傍へ寄ってきてワンっと小さく吠えた。

 

 ご飯が欲しいのかと最初は思ったが、そうじゃない。俺を連れて行けと目が俺に訴えかけてくるようだった。普段であれば野良犬をいちいち気にする事はない。

 

 可哀想だとは思う。だが、責任をもって育てる事が出来ないと自覚がある以上、下手やな優しさを向ける方が野良犬にとってより残酷だろう。ただ、この時だけは何時もと違った。

 

 夏目の時と同じだ。俺の体の中に流れる怪人細胞がこの犬を連れて行けと言っていた。野良犬から離れようとすると、体がザワつくような感覚がある。犬と目を合わせると分かる。この犬も必死に生きようとしている。俺と同じだ。

 

「俺と来るか?」

「ワン!!!」

 

 こうして同行人ならぬ同行犬を追加した俺たちはいつも通りアジトへ出勤した。マッドサイエンティストが珍しく不在だった事もあり、アジトに着いた俺たちが最初にした事は犬の餌やりだ。スーパーは閉まっていた為、道中でコンビニに寄って買っておいた。

 

 今どきのコンビニは犬の餌も置いてあるから助かるな。腹を空かせていたらしく、犬は凄い勢いでがっついていた。与える量は犬を飼った事があるウルフに任せたが、山盛りの餌が瞬く間になくなるのは見ていて気持ちがいい。

 

「ワン!!」

「それじゃあ行くぞ犬公」

「ワン⋯⋯!?」

 

 餌を食べ終えて満足そうにワンっと鳴く犬を、満面の笑みを浮かべたウルフがシャワールームへと連れて行った。言い方は悪いが汚れていたからな。飼う前提で連れてきた以上、汚いのは困る。という事でウルフが犬を洗う事になった。

 

 コンビニに犬用シャンプーが置いてある事にびっくりしたな。店員にダメ元で犬用のシャンプーはあるかと聞いたら、普通に棚に並んでいた。どうやらオーナーが犬好きらしく、店に置いてあったようだ。

 

 ウルフによって綺麗になった犬が俺の元へ帰ってきたタイミングで、マッドサイエンティストが出勤してきた。服装は何時もと同じ博士服だ。見慣れた格好の方が落ち着く。

 

 普段であれば誰よりも早くアジトに出勤しているのだが、マッドサイエンティスト曰く昨日の件で色々と調べていたから寝坊したそうだ。

 

「発信機のお陰であの女の家は分かったぜ。怪人に襲撃させるか?」

「いや、そこまでしなくていいだろう。家を襲えば関係ない者まで傷付く恐れがある。シャイングリーンが現場に出てきた時でいい」

「助手君がそれでいいならフォリ様は何も言わないぜ。で、だ!この犬はなんだい助手君?」

 

 マッドサイエンティストの興味が俺から犬へと移ったところで、アジトに連れてきた理由を説明する。

 

 最初は犬に怪人細胞を注入するのは無駄死にさせるだけだと、マッドサイエンティストは強く否定していたな。

 

「無駄死にはならない。この犬は怪人細胞に適合するからな」

「どうしてそう言い切れるんだい?」

「ウルフの時と同じだ。俺の体に流れる怪人細胞が、この犬が新しい仲間だと告げている。そうだろう?」

「ワン!!!!」

 

 なんてやり取りがあった後、何度も『本当にやっていいのか?』『死んでも後悔しないのか?』とマッドサイエンティストから聞かれたが、当人ならぬ当犬が早くしろとばかりに吠えた事で犬に怪人細胞が注入された。

 

 ───結果から言えば犬は怪人細胞に適合した。

 

「適合率85%だって!!」

 

 ───なんだったらウルフより適合率が高かった。

 

「ワォォーーン!!」

 

 勝ち誇るように犬が吠え。

 

「犬に負けた⋯⋯」

 

 適合率で犬に負けたウルフが項垂れ。

 

「この大天才であるフォリ様の理解が追いつかない⋯⋯え?なんで適合するの?人間以外は無理って結論出したのに、なんで?はぁ!?」

 

 今までの実験結果から人以外は怪人へと変異しないという結論に至っていたマッドサイエンティストの見解すら、犬が打ち破った。

 

 こうして、怪人ならぬ怪物『ポチ』が誕生した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして今に至る訳だが、俺の視線の先では怪物へと変異したポチがヒーローを相手に圧倒していた。

 

 背中に生えたドラゴンのような黒い翼を羽ばたかせ空を自由に飛び回り、頭に生えたユニコーンのような角でヒーローを串刺しにするというなかなかにショッキングな光景が目に映る。

 

 食事をしっかりと食べたお陰か、あるいは怪人細胞で怪物へと変異したお陰か、ポチの体は最初に出会った時のようなやせ細った見た目はしていない。元気に空を飛び回りヒーローを刺殺する姿は何とも可愛らしいことか⋯⋯。

 

「えぐい光景だな」

 

 すまない、先程の発言は撤回しよう。全くもって可愛らしくない。見た目は可愛いがやってる事がなかなかにエグい。

 角に突き刺したヒーローを地面に何度も叩きつけて遊んでいる光景は見ていてヒヤリとする。ウルフから聞いたが、コーギーはこんなに好戦的な犬種ではない筈だが?

 

 怪人細胞が犬の本能まで変異させたのだろうか? 疑問は尽きないな。

 

「不用意に近付くな!距離を取れ!」

「遠距離から仕留めるんだ!」

 

 仮面に備わっている翻訳機能のお陰で現地のヒーローの叫びがよく聞こえる。素早い動きで次々とヒーローを串刺しにするポチに対抗する為に、距離を取って遠距離攻撃に切り替えたか。近寄らせなければ大丈夫だと思っているのなら、それはポチを甘く見すぎだ。

 

 ヒーローたちの遠距離攻撃を素早い身のこなしで躱したポチが、目標を定めて口を開く。

 

「ワオォォーーン!!」

 

 ───口から放たれる灼熱の炎が油断したヒーローを消し炭にした。

 

 なんで犬が口から炎を吐いているんだという疑問は持たないでおいて貰いたい。翼が生えている時点で今更だ。見た感じ、ドラゴンの力が宿っているようにも思える。

 

「ボスの力だな」

 

 見覚えのある圧倒的な力にボスの面影を感じた。

 

「俺も続きをするとするか」

 

 新人ならぬ、新犬であるポチにばかり戦わせるのは上司として印象が悪いだろう。

 

 騒ぎを聞きつけて続々と集まってくるヒーローたちを見据えて、俺も戦地へと参入した。

 

 

 ───後に、マッドサイエンティストから聞かされた話だ。

 

 この日のポチの暴れっぷりはイタリアのヒーローたちを恐怖のどん底に陥れた。瞬く間に『ヴレイヴ』のヒーロー達に脅威として認識されたポチは、俺と同じように最優先討伐対象に指定された。

 

 ───『魔犬(ブラッド・ドッグ)』ポチ。

 

 

 

 

 

 

「犬に負けた」

 

 またしても犬に上をいかれたウルフが項垂れていたのはどうでもいい話だ。

 

 

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