悪の組織で幹部をやってる。時給3000円で。   作:かませ犬S

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第二十八 血筋

 怪人細胞が肉体を変異させる事は常識だが、性別が変わる事象は初めてみたな。素体の人間をベースに体の一部が変わるのが常だ。素体自体が大きく変化するパターンもあるのか⋯⋯。

 

 だとすれば何が要因となっている?

 

 怪人細胞の注入量は常に一定だ。少な過ぎれば変異せず、多過ぎれば拒絶反応で死亡する者が増える。

 

 全て同じ条件で実験を行っている筈だ。

 

 マッドサイエンティストの反応を見るに何か特別な事をした訳ではない。素体自体が特殊なのか?

 

「お前は女になりたかったのか?」

「そうデース!何故なら、私は男の人が好きデース!ですが私の体もまた、男デシタ。私は女の人のように愛されたかったのデース!好きになっては同性だからと距離を取られ、悲しい想いを何度もしてきまシタ。私の想いは報われないと諦めていた時に恋人に出会ったのデース」

「そうか」

 

 余程その恋人と出会ったのが嬉しかったのか、聞いてもいない惚気話を始めた。マッドサイエンティストに視線を向けるとフルフルと首を横に振っているのを見ると、止めても無駄という事が分かる。

 

 人差し指と中指を立ててピースの形を取っているが、これはおそらく二回目という事を俺に伝えたいのだろう。

 

 仕方なく話を聞いていると、どれだけその恋人を愛していたかが伝わってくる。漸く報われた恋だけにその想いは重かった。結末を知っていると話を聞くのが辛いと思う程度には惚気けている。

 

「愛しあっていました!なのに!私の恋人は尻の軽い雌豚に奪われたのデース!アレほど私を愛すると言ったのに!胸の脂肪や前の穴に惹かれるなんてとんでもない事デース!ファッキュー!」

 

 愛していたからこそ裏切られた事を許せなかった。銃で恋人を撃ち抜き、浮気相手であった女は包丁で滅多刺しにした。

 死んでも尚、遺体を切り刻む金髪の女───ロビンソンを止めようと駆けつけてきた隣人すら殺した。

 

 殺して殺して殺して殺して、7人を殺害してようやく止まる事が出来た。

 

 それだけ恋人の事を愛していた。愛していたのに裏切られた。恋人が悪い、浮気相手が相手が悪い、この世界が悪い。

 

 それがロビンソンの主張だ。イカれているのは間違いない。『アルカトラズ臨時刑務所』に収容されるに相応しい極悪人で、怪人に変異して当然と言える素体だな。

 

 ──境遇は俺に似ている気もするが、俺はここまでイカれていない。

 

 俺の場合は現実から逃げ、ロビンソンの場合は現実を壊した。壊す事で自分の愛を正当化しようとした。殺された無関係の人間からすれば理不尽極まりないな。不倫した二人は知らん。

 

「元々、私は死刑囚デース。死を待っていただけなので怪人になるのは問題ありマセーン。博士に説明され、実験が行われた際に体が造り替えられる感覚がありマシタ!その時私は強く思ったのデース!女になりたい!女になって男に愛されたいと!そして私は女になれたのデース!」

 

 諸手を挙げて喜ぶロビンソンからマッドサイエンティストに視線を向ける。

 

「嘘は言っていないぜ。怪人細胞を注入した途端だ。こいつは『女になりたい女になりたい』と何度も何度も唱えて、結果を勝ち取った。望みの自分を手に入れたんだぜぃ」

「どういう原理だ?」

「狂気に近い願望に怪人細胞と肉体が答えたってのがフォリ様が出した持論だぜ。正直、怪人細胞は未知の部分が多くてな。分からない事の方が多い。だからこそ面白い」

 

 ニヒルに笑う姿からは科学者としての一面が垣間見える。正直、ボスを解剖した方が早いんじゃないかと思いマッドサイエンティストに伝えてみると、既に解剖済みだと返ってきた。この女がイカれている事を再認識したな。

 

 仮にも組織のトップを他の実験材料と同じように解剖している。マッドサイエンティスト曰く、ボスからの提案だったそうだが、この女は間違いなく嬉々として提案を受け入れただろう。

 

 この時の解剖のお陰でボスに流れる細胞に可能性を見出したようだがな。

 

 以前、酒に酔ったボスが語っていたな。本来の計画ではマッドサイエンティストに特殊な薬物を作らせて、人間を洗脳し兵士にする予定だったと。

 

 怪人細胞は偶発的に見つけた代物で、その細胞の持ち主であるボスですら全てを把握しているわけではない。

 

 何故、ボスの細胞が生物を変異させるのか?

 

「お前の事だ、ある程度は分かっているんだろう?何が要因で生物を変異させているか」

「そうだねー。結論までは至っていないが、フォリ様はボスの血筋に要因があると考えている」

「血筋だと?」

「そう血筋さ。ボスの親は普通ではないからね。あの子は特別な子なんだ」

 

 幼い容姿には不似合いな母性溢れる笑み。

 

 マッドサイエンティストの意外な一面を見て面食らう俺の反応に満足したのか、ひひひといつも通りの笑みを浮かべた。

 

「まぁ、気になると思うけどそれについてはまた今度話そう。フォリ様は今からやらないといけない事がいっぱいだからねー。新しく仲間に加わったロビンソンの改造もしないといけないし、実験待ちの素体が100体以上いる!大忙しさ」

「oh......!私これから改造されるのデスカ?」

「今のままではまだ実戦向きではないからね!より戦闘向きに改造するのさ!希望があれば応えてやるぜ!」

「なら、おっぱいをもっと大きくして欲しいデス!私のおっぱい男の時より小さいのが不満デス!」

 

 ───俺の疑問にハッキリと答えていないのもあって、この話の終わり方はモヤモヤするな。

 

 それでも仕事が忙しいと言われればこれ以上の追求は出来ない。今の話の切り方から察するに、話し出したら長くなるんだろうな。仕事が山積みの今はその時間も惜しいという事か。

 

 フォリ様に任せなと!胸を張るマッドサイエンティストと、興奮するように叫ぶロビンソン。

 

 そんな騒がしい二人に背を向けて、少し離れた位置で待機していたウルフとポチの元へと向かう。

 

 改造を施している間は俺たちが手伝える事はない。資材の補充だったり、雑務をこなしながらマッドサイエンティストの作業が終わるのを待つしよう。

 

「おっと!待つんだぜ!助手君!」

 

 声に反応して振り返れば直ぐ傍まで駆け寄って来ていたマッドサイエンティストがおり、振り返った俺のネクタイを掴んだと思ったら強引に俺を引き寄せた。

 

 ───力が強いのは知っていたが、ここまでとは思わなかったな。

 

 怪人である俺を強引に引き寄せるマッドサイエンティストの力の強さに驚く俺の耳元で、彼女が囁く。

 

「モヤモヤしてるだろ?分かるぜ気持ちは。ただ、話すと長くなるから、助手君が気になっている要因について手短に話してやるよ。フォリ様が考える要因ってのは先も言ったがボスの血筋にある。あの子は特別なのさ。なにせ───」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───神と竜の間に生まれた忌み子だからな。

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