悪の組織で幹部をやってる。時給3000円で。   作:かませ犬S

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第三話 グラマラスな女

 ───さて、どうしたものか。

 

 現在進行形で俺はある悩みを抱えていた。場所は移り、自宅であるアパートの一室。空き缶の山が積み重なっていたテーブルは、先程片付けた為今は帰りのスーパーで買ったしじみの味噌汁 (カップタイプ)が置いてあるだけだ。

 

 コレは正直どうでもいい。事が落ち着いた後にでも飲んで、少しでも二日酔いが楽になる事を祈っている。

 

 問題となっているのは今、俺の目の前にいる女だ。

 

 とある事情で動けないように椅子に座らせた後に縛っているのだが、女が思いの外グラマラスな体型をしていた為、目に毒な光景になってしまっている。

 といってもこの女をどうこうしてやろうという劣情は一切沸かない。二日酔いによるデバフが大きいのもあるが、単純に俺のタイプではないからだ。

 

「で、もう目が覚めてるんじゃないか?」

 

 椅子に縛られた女と対面するように椅子を持っていき、あえてゆっくりとした動作で腰掛けてから話しかける。するとピクリと、女が反応する。

 

 動きはしたが、僅かに指が動いただけだな。この女の意識が覚醒している事は既にこちらは把握しているんだが、何か狙いがあって黙っているのか? あるいは、ただ単純に警戒しているのか。

 

「面倒だな」

 

 ため息を吐き、頭をボリボリと掻いても反応は一切ない。取れる手段は幾つかあるが、頭の冴えない今は、先にするべき事をしよう。

 椅子から俺が立ち上がれば、また女がピクリと反応するが同じように指が僅かに動いただけだ。顔をマジマジと見ても、目は瞑っており小さな呼吸音が聞こえるだけ。

 

「まぁいいか」

 

 反応がないならいいや、後回しにしてテーブルの上に置いてあったしじみの味噌汁を手に取る。今の世の中は便利だとつくづく思う。

 正直に言って俺は料理が得意ではない。普段の食事は外食で済ませる事が多いのがその証拠だ。だからこそ、二日酔いにはしじみの味噌汁が良いと言っても調理は出来なかった。

 

 出勤時刻だと早すぎてスーパーは開いていなかったし、近くのコンビニは何故かしじみの味噌汁だけ売ってなかった。ふざけた話だ。

 

 退勤直後に色々とあったが、無事にスーパーでしじみの味噌汁を買う事は出来たのでひとまず良しとしよう。残念な事にスーパーで店員をしている佐藤さんは休みだったらしく不在であり、たまに見かけるおばちゃんがレジの対応をしてくれた。

 

 とにもかくにも、しじみの味噌汁を入手する事が出来たので俺は今から『本当にしじみの味噌汁は二日酔いに効くのか』について検証しようと思う。

 

 特別な手順もなく、カップの中に入っている具材と味噌汁を入れてお湯を入れるだけ。料理が苦手な俺でも簡単に作れるからインスタントは最高だな。

 

「なるほど⋯⋯」

 

 先ほどまで付けていた仮面を外してさっそく飲んでみた。しじみの味噌汁を飲んだ感想は様々ではあるが、多くの者は『しみる』という言葉を使う。

 その言葉に偽りはないだろう。疲れた体に温かみが染み渡っていくような、そんな感じだ。二日酔いがすぐに治るような劇的なモノではないが、少しはマシになった気もする。

 実際に効いているのか、プラシーボ効果によるものかは不明だがな。

 

 結論。二日酔いにしじみの味噌汁はしみる。あくまでも個人の感想である。

 

「おいっ」

 

 味噌汁を飲んでいると背後から女性にしては少し低い声が投げかけられた。美味しく飲んでいたんだがなと、心中でつぶやいてから飲みかけの味噌汁をテーブルの上へ置く。

 顔を見られたくないので仮面を付けてから振り返れば椅子に縛られたまま、こちらを睨む女と目が合う。

 

「なんだ、やっぱり起きていたんだな───シャインブラック」

 

 椅子に縛られた女の名前を呼べばギリっという歯を食いしばる音がした。苛立っている事が一目で分かる。

 

 改めて女の顔を見たが何処かで見たような気もするな。髪色は黒、トップを短く、襟足を長めに残し、レイヤーで段差をつけた髪型⋯⋯ウルフカットと呼ばれるモノだったか?

 

 狼のたてがみのようなシルエットに見えるからウルフカットと呼ばれているんだったか?

 所詮髪型でしかないがこの女は狼に似ているなと、ふと思った。

 

 狼は群れで行動する生き物だが、個々の狼は独立心が強く一人の時間を大切にする。サンシャインの仲間が近くにいたにも拘わらず、コイツは一人で行動し俺と交戦した。

 

 また、狼は警戒心が強く慎重な性格をしていると言われている。戦う前にその用心深さが発揮出来ていれば、今この場にはいなかったが捕まった後の対応を見るに警戒心は強い。

 気を失ったフリを続け俺がどういう対応を取るか静かに見極めていたようではある⋯⋯。

 

 観察するように眺めていたのが気に入らないのが、切れ長のつり目がさらに吊りあがった。琥珀色の瞳⋯⋯、本当に狼っぽいな。

 

 今は怒っている所為で険しい表情をしているが、目鼻立ちははっきりしており俺から見ても綺麗な顔立ちをしている。性格はキツそうだがな⋯⋯。

 

 視線を下に下ろせば何とも目に毒な光景が視界に入る。服装は上下揃えた黒のジャージ。袖とズボンに白いラインが二本入っている。

 服装はまぁいいか。ヒーロースーツの時は気付かなかったが、この女はかなりグラマラスな体型をしている。別の言葉を使うならナイスバディ。

 

 特に胸がデカイ。そのせいで椅子に縛った時に胸が強調され、アダルトなビデオで見るシーンになってしまっている。なら俺は竿役か?ないな。

 

「てめぇ、何の目的でオレ様をここに連れてきた?」

 

 言葉の節々に怒りを感じるが、声を張り上げる様子はない。意外と冷静だな。俺を刺激しないよう気は使っているらしい。

 

 それにしても目的か?

 

「これといって大きな理由はないな」

 

 この女を連れてきたのは成り行きに近い。コンディションが最悪だった事もあり、瞬殺とはいかず倒すのに多少手こずった。そのせいで仲間の異変に気付いたヒーロー共が駆けつけて来るという、特撮ではよくある展開になりかけた。

 

 ご都合展開ならヒーローたちが間に合うだろうが、現実はそう優しくはない。ヒーローたちが間に合う前にシャインブラックを倒した俺は、見つかる前にその場を退散した。

 その際、倒したヒーローをそのまま放置するのは面白くないなと持ち帰った訳だ。

 

 マッドサイエンティストがいたなら転送装置を使ってアジトに送って終わりなんだが、残念ながら定時を過ぎていた為、あの幼女は既に帰宅済み。

 ボスの居所は分からないし、アジトに怪人がいるとはいえ見張りとしては頼りない。

 

 ヒーロースーツは破壊してあるから怪人が負ける事はないが、せっかく持ち帰ったこの女を壊されても困る。という訳で仕方なく自宅へと連れ帰ったわけだ。

 

「ふざけやがって⋯⋯」

「悪態をつきたい気持ちは分かるが、ヒーロースーツは破壊してある。今のお前に何が出来る?」

 

 さて、ここで大事な話を一つしよう。女を縛っているロープは実は特注のモノでもなく、市販のものだ。それでも今のコイツでは解く事は出来ない。

 

 怪人と違いヒーローの基礎の能力は一般人とさほど変わらない。彼らがヒーローたりえるのは『ヴレイブ』が持つ技術力のおかげだ。

 

 マッドサイエンティストいわく、ヒーロースーツには適合率というモノがあり、その適合率が高いほどヒーロースーツの力を引き出す事が出来る。

 ヒーロースーツの性能はピンからキリまでで、身体能力の向上や、炎を出したり空を飛んだり、様々な能力があるとされている。ちなみに身体能力の向上は全てのスーツに共通しているものだ。

 

 強いヒーローというのはヒーロースーツの本来の性能を引き出せる者の事を指す。つまるところ、ヒーロースーツを破壊さえしてしまえばヒーローは一般人と変わらない。ただ、壊すのにはコツがいるので怪人に命令しても難しいだろうな。

 

「それにしても、こんなモノが俺たちの脅威となっているのか」

 

 スーツのポケットから取り出したのは、一部が壊れたブレスレット。パッと見はただのアクセサリーのように見えるが、実はこれがヒーロースーツのコアである。これを壊せばヒーローの変身は解除されるわけだ。

 

 ヒーローたちの弱点という事で当然ながら対策はされている。単純に硬いというのもあるが、一定の角度の攻撃以外は逸れて当たらないというクソ仕様。止まっている相手なら狙って壊す事は可能だが、激しく戦闘しているヒーローのコアをピンポイントで狙って壊すより、倒せるならそのまま倒した方が早い。

 

「っ!!返しやがれ!!」

 

 俺が手に持つブレスレットを見た瞬間に女が暴れ出したが、その程度ではロープは解けない。ガタガタと椅子が軋み、床にぶつかって音を奏でている。

 しじみの味噌汁を飲んだおかげか多少は頭痛が和らいでいるので、先程よりは音は気にならないな。

 

 とはいえ、いつまでも暴れられたら鬱陶しい事極まりないので女の膝の上に落ちるように調整してブレスレットを投げた。

 

「なっ!!」

 

 俺がブレスレットを投げた事に驚きはしたが、冷静に足で挟んでブレスレットをキャッチしたようだ。

 随分と驚いていたな。俺が素直に返したからか? ヒーローにとっては重要なアイテムかもしれないが俺からすれば無価値なモノだ。

 

 ───何よりも壊れたソレに価値はない。

 

 大切そうにブレスレットを見つめているが、そのコアは既に破壊している。ヒーローに変身する事も、仲間たちに連絡を取る事も出来ない。戦う為の武器がなければこの女はただの人間だ。

 

「ヒーローか⋯⋯」

 

 そういえば試した事はなかったな。

 

 これまで実験で怪人へと変異したのは求人によって集められた素体の一部と、俺たちが直接現場へ向かって集めた者たちの一部だけ。その中にヒーローはいなかった。

 

 もし、ヒーローに怪人細胞を注入すればどうなるだろうか? ヒーロースーツに適合し、『ヴレイブ』に所属している人間だ。一般の者よりも間違いなく特別な人間だ。

 怪人細胞の適合率もまた、これまでの素体より高いんじゃないか? 試してみる価値はあるが、俺たちの敵とはいえこの女は間違いなく悪人ではない。

 

 俺の中に残るわずかな良心が躊躇っているのが分かる。はてさて、どうしたものか。

 

「なぁ、ヒーロー」

「⋯⋯⋯⋯」

 

 これは単純な好奇心。

 

「少し話をしないか?」

「ふざけんな!てめぇなんかと話すことは何一つねぇよ!」

 

 明確に対話を拒否しているが、無視して女と対面するように椅子に座る。ついつい癖で足を組んでしまうが、腰などにあまり良くないらしい。

 『ベーゼ』に加入する前に通っていた接骨院の先生に叱られたのを思い出した。あの先生は元気にしているだろうか?

 

「気になる事が幾つかあってな」

「てめぇ!脳みそが付いてねぇのか!話すことはないって言ってんだろうが!」

 

 これでは話すに話せないな。

 

「対話をする気はない、という事か」

「怪人相手に話す事はねぇよ!情報を聞き出したくて捕らえたつもりだろうが、残念だったな!」

「そうか」

 

 別に情報を聞き出したいから捕らえた訳ではない。ただの成り行きだ。その場でトドメを指すのは()()()気が引けたし、わざわざ戦った相手を放置して帰るのも面白くない。

 それだけの理由で連れ帰ったから、特にこの女をどうこうしようという思いがない。連れ帰っておいて何だが、扱いに困る女だな。

 

 思わず深いため息が出た。

 

「⋯⋯ん? そうか。怪人とは話す事はないと言っていたな」

「あん?」

 

 不機嫌そうな返事を無視して、顔につけた仮面を外す。俺は他の怪人たちと違い怪人細胞を注入されても変異する事はなかった。

 身体能力は跳ね上がってはいるが、外見的な特徴で怪人だと判別は出来ないだろう。

 

 コイツが俺を怪人だと決めつけているのはレッドとマンティスの戦いに割って入ったのを仲間から聞いていたのと、俺の素顔が見えていないからだ。

 

 マンティスのように分かりやすく怪人化した者もいれば、体の一部しか変化しなかった者もいる。怪人細胞への適合率が低かった者の中で、たまたま死ななかった者であり、ボスやマッドサイエンティストからは失敗作として扱われている。

 

 そんな失敗作の中には顔しか変化がなく、顔やマスクを付ければ一般人と変わらない怪人もいる。この女は失敗作と戦った事があるのだろう。

 だから仮面の下は怪人と同じだと決めつけている。そうじゃなければただの人間がヒーローと戦う事など出来はしないからな。

 

 

 

「なっ───!!」

 

 

 

 仮面を外し、俺の素顔を見た女が目を見開き驚いていた。仮面の下が怪人ではなかった、あるいは俺が仮面を外すと思っていなかったんだろう。予想を裏切らない反応だ。

 

 この女に俺の素顔を見せても問題はない。もう、帰す気はないからな。

 

「見ての通り、ただの人間だ」

 

 ───怪人細胞に()()()()しただけの、ただの人間。

 

「な、⋯⋯なんで」

 

 声が震えている。

 

 怒りではないな。それにしては声が弱い。不安、あるいは心配。何に対して不安を感じている?何に対して心配している?

 思考を巡らせるが答えを導き出すことは出来なかった。そんな俺に畳み掛けるように女が叫んだ。

 

「なんで、なんでアンタが!なんでアンタが怪人側(そっちがわ)にいるんだよ!黒月先輩!!!!」

「あーーー?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───後になって分かった事だが、この女はどうやら小学生の時の後輩らしい。いや、覚えてねぇよ。

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