悪の組織で幹部をやってる。時給3000円で。   作:かませ犬S

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HEROES SIDE 2.5 太陽と向日葵

「あかん、迷子や」

 

 白い景色が続く廊下にポツンと一人。

 

 言葉にすると気恥しさやら、孤独感やらで何とも言えない気持ちでいっぱいや。こんな事なら高橋はんの『ご一緒しましょうか?』ってお言葉断るんじゃなかったわ。

 

 でも、しゃーないやん!生理現象やで!あと少しで漏れる寸前やったから後の事を考える余裕がなかったんよ。

 

 高橋はんにトイレの場所を聞いて、慌てて飛び出し何とか間に合った訳やけど、あとほんの数秒遅れてたら間に合わなかったくらいギリギリの状況やった。

 

 あの場で漏らして尊厳を失うはめになってたら……ヒーロー辞めてたわ。せやから行動自体は間違ってないって思いたい。

 

「どないしよ」

 

 高橋はんに連絡出来たらそれが一番なんやけど、残念ながら手元にスマホがないんよね。ヒーロースーツの性能確認の前やったから壊れんように高橋はんに預けてたのが失敗やったわ。

 

 高橋はんから部屋とかの説明は受けたけど、同じような光景やら部屋が続くと何処が先程までいたトレーニングルームか分からんのやけど……。

 

 もう面倒やけど目につく部屋を片っ端から開けていこうか?入ったらあかん部屋はロックがかかって入れんみたいやし、一つずつ潰していけば時間はかかるやろうけどいつかトレーニングルームに辿り着ける。そうしよ。

 

「なにしてんの?」

 

 一先ず目の前の部屋を開けようとドアノブに手をかけたタイミングで、背後から声がかかったわ。聞き覚えのある事に思わず振り返るとそこにおったんは馴染み深い顔……って!

 

「なんで向日葵が此処におんねん!」

「いや、それはウチのセリフなんやけど。なんで兄やんが此処におるん?」

 

 向日葵も同じような反応してはるけど、それはこっちが言いたいわ。なんで妹である向日葵が此処におるん!?

 

 ヒーローかその関係者やないと此処には入れんって聞いてたんやけど……え? まさか……向日葵もヒーローやったりするん?

 

「俺が此処におるんはヒーローにスカウトされたからやけど」

「兄やんも同じなん!?ウチもウチも!」

 

 向日葵の返答に思わず天を仰ぐ。そないな話一度も聞いた事ないって。

 

 向日葵から話を聞いたところ俺よりも三ヶ月早くヒーローになってたみたいやわ。日本の象徴とも言えるヒーロー『サンシャイン』の黄色───シャインイエロー。

 

 知っとるヒーローやったし、関西弁喋りはるって事で親近感が湧いて密かに応援しとったんやけど……妹やって知らんで応援してたんやね俺。

 

「ヒーローになった事、知らへんかったんやけど」

「兄やんも契約書読んだんとちゃうん?ヒーロー活動の事は一部の例外を除いて口外禁止やで」

「そうやったなぁ……」

 

 ド正論やわ。

 

 ほんの数時間前の事やし記憶を遡れば高橋はんの説明も、書類の内容も思い出せる。向日葵が言うようにしっかり書いてはるんよね。例え親族であろうと口外禁止って。

 

 主な理由は情報流出の防止と無関係の市民を戦いに巻き込まない為やね。悪の組織(ベーゼ)は俺が思っている以上に狡猾で残酷やって、高橋はんが言ってたわ。

 

 ヒーローである事を身内に告げ、それが人伝に伝わればどうなるか……その想像が出来ないような人間はそもそも加入させないそうや。

 

 人の口ほど信用出来んもんはないしな。そんな気はなくても気付いたら話してたとか、話さないように意識したら不自然になったりとか、どうしても粗はでる。

 

 高橋はんにはその話をされた時に颯斗にヒーローになるって話してしまった事を伝えたんやけど、颯斗の場合は例外扱いでええんやと。理由については教えてくれへんかったけど……。

 

「兄やんがヒーローかー」

「なんか言いたげやな」

「ちゃうちゃう、悪い意味ではないで。兄やんがヒーローなら気軽に相談とか出来るやん!ウチもヒーロー活動してて悩みとか多いんよ」

「大変やったなー。せやけど今日からは気軽に俺に相談してや」

 

 基本的には口外禁止やからなー。相談出来る相手は限られるわな。兄として頼りにされてるって言うのは気分はええわ。

 

「ホンマは先輩の方がええんやけど」

「颯斗に負けるの癪やわー」

 

 颯斗の親友で、兄って立場なのもあって向日葵が颯斗に好意を抱いてる事は知っとる。せやけど、俺より颯斗の方が頼りにされとるっていうのは素直に受け止められへんわ。

 

 兄である俺の方が頼りになるやろ?

 

「───ふっ」

 

 伝えたら鼻で笑われたわ。辛い気持ちを切り替え切り替え。ついでに話題変更って事で。

 

「っていうか髪色変えてるやん」

「せやで」

 

 髪型はショートボブで以前と同じやけど、髪色がダークブロンドからホワイトベージュに変わっとるし、インナーカラーでライトグリーン入れとるな。似合っとるんやけど……。

 

「髪の毛染めるんやったら俺に言ってくれたら無料でやったで」

「兄やんに予定空いてる日ある?って聞いたら忙しいって言ってたやんけ」

 

 いつ染めたか聞いたらちょうど色々重なって忙しかった時期やわ。電話対応も雑やったって色々文句も言われたし、完全に藪蛇やった。

 

 俺が相談に乗ってくれへんから、颯斗に電話とかしてたらしいわ。真摯に話を聞いてくれて、アドバイスしてくれたんやと。どっかの誰かとは違うなーって言われて……負けたって思ったわ。

 

 やるやんけ。颯斗なら向日葵を任せられるで。

 

 いや、ちゃうな。向日葵なら、颯斗を任せられるって表現の方が正しいやろうか?

 

 前のクソ女のせいで颯斗は今も過去を引きずっとる。思い出すだけでも胸糞が悪いわ。俺の手でぼてくりまわしてやりたいけど、消息不明やからどうしようもないねんな。

 

 あんなクソ女の事なんてさっさと忘れたらええんやけど、嫌な記憶は本人がどんなに忘れたくても強く刻まれてしまうんや。そして些細な事で思い出す。

 

 颯斗の心の強さを考えればいずれ過去の事も吹っ切れて前に進めるやろうけど、この間会った時の颯斗を思い出すと……、壊れてしまうんやないかって心配になる。親友のあんな顔……もう見たくないんよ。

 

「向日葵は颯斗と連絡取っとる?」

「この間も相談乗って貰ったでー」

「そっか」

 

 次に出来る颯斗の彼女が、あのクソ女みたいに颯斗を裏切るとは限らへんけど……向日葵やったらその可能性はゼロや。実の妹やからどれだけ颯斗の事を好きかは知っとる。

 

 何年片思いしてるかも知っとる。颯斗に彼女が出来ても諦められず一途に想ってた事も、向日葵の想いも全部知っとる。

 

 向日葵やったら、颯斗の事を裏切らへん。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()豪語するくらいや。

 

 向日葵なら颯斗を幸せに出来る。颯斗なら向日葵を幸せに出来る。そう思うとる。大事なんは本人同士の想いやから、俺から何かする気はあらへんけどな。

 

「この間、颯斗と会って話してたけど、向日葵に会いたそうにしてたで」

「そうなん!?」

 

 嬉しそうに声が跳ねた。その反応に罪悪感から心が痛い。

 

 すまん、向日葵!嘘やねん!向日葵の話はほとんどしてへん!颯斗と会いたいとは言ってへん。けど、向日葵から会いたいって言えばあいつは会う男や。俺の方から颯斗に連絡して辻褄は合わせるから大丈夫や!

 

 こんな嘘を言ったんも……お節介や。俺から何かする気はあらへんってついさっき思ったばっかりやけど、俺が背中押してやらへんと向日葵(コイツ)は動かへんやん!

 

 関係が壊れるのが怖いって一歩踏み出せへんって気持ちも良く分かるわ。嫌な事ばかり想像して、想いを秘めてるだけでは何も変わらへん。一歩前に踏み出す勇気こそが必要やねん!

 

 それに俺が思うに、今こそがチャンスやで。

 

 あのクソ女のお陰……とは言いたくないけど、颯斗の性的趣向が変わっとる。前は巨乳好きやったから向日葵じゃどうしようもなかったけど、あのクソ女が巨乳やったのもあって今や反転しとる!貧乳である我が妹にも勝ち筋が出来とる!いけるで向日葵!

 

「颯斗に連絡して会ったらどうや?」

「んー」

「どしたん?」

 

 嬉しそうな顔が一変して、困ったような表情で唸る向日葵。

 

 妹の表情一つから察するわ。これ何も変わらへん。

 

「会いたい気持ちは山ほどあるんやけど」

「やけど?」

「ウチ……今、博士の助手として開発の手伝いもしとるんよ。ヒーロー活動もしながらやから」

「忙しいと」

 

 向日葵が頷く。

 

 なんでそういう状況になっとるか聞いたら『サンシャイン』の一員であるシャインブラックが仮面の怪人(ペルソナ)に殺された事がキッカケらしいわ。

 

 敵討ちをしたいけど本部によって交戦は止められとる。けど、何も出来へんのは嫌。って事で博士に相談に行ったら……意外な事に開発方面に才能があったらしくてそのまま助手に任命されたそうやわ。

 

 これで敵討ちの為の準備が出来るって張り切ってた訳やけど……その結果休みがなくなった訳や。

 

 ───俺が思ってたより、ブラックや。

 

「開発とか、修理に人手が足らへんから休みたくても……」

「あかんかー」

 

 二人一緒にため息を吐く。

 

「落ち着いたタイミングで会うしかないな」

「せやねー。最悪、博士に頼み込んで休み貰うわ」

「それがええと思うで」

 

 俺の予想やと貰えんやろうけど……。

 

 そんなこんなで開発の苦労話なんかを向日葵から聞いてたら、コツコツという靴の音が近付いてくるのが分かった。足音が近付いてきとる?

 

「あ、此処にいましたか?」

 

 廊下の角からヌルッと姿を現した高橋はんの姿を見て、ヒーロースーツの性能を確認している最中やった事を思い出す。

 

「すまん、向日葵!今ヒーロースーツの性能確認の途中やってん!」

「なんでそないな事忘れとるんよ……はよ行ってき」

 

 呆れ顔の向日葵にまた後でな!と言葉を残して高橋はんに駆け寄る。

 

「すんまへん!道に迷ってたところで向日葵(いもうと)に会って」

「謝らなくても大丈夫ですよ。時間はありますし、事情も知っておりますので」

「すんまへん!」

 

 ついつい謝る俺に高橋はんが声を出して笑う。迷った上に向日葵と会話に花を咲かせて随分と待たせてしまったけど、怒っとる様子はない。ホンマええ人やな。

 

「それでは続きといきますか」

「はい!よろしゅう頼んます!」

 

 高橋はんの先導で、再びトレーニングルームへと足を進める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それにしてもさっきの向日葵の話、本当やろうか?

 

 ヒーロースーツのコアは生きとる……なんて言ってはったけど。コアを創る際に使う血が要因らしいわ。

 

 その話を聞いて博士の部屋で見た怪人が脳裏に浮かんだんやけど、怪人細胞はスーツの性能を上げる為に利用しているだけやと。それはそれで怖い話やな。

 

 重要なのはコアが生きてるから、力に飲まれて()()()に乗っ取られないように気を付ける事らしいわ。 

 

 ナニカってなんやねん。

 

 どう考えてもコアに使ってる血が原因やろ。せやったらその血の持ち主が乗っ取ろうとするん? 向日葵が言ってた気がするけど、なんて名前やったっけ?

 

「それでは始めましょうか」

「はい!」

 

 思い出した。

 

 ヒーロースーツのコアに使われとるんは『ナハトの血』そんな名前やったわ。俺はそのナハトってやつに乗っ取られんように気をつけたらええだけの話や。

 

「変身!」

 

 いくで!

 

 

 

 

 

「マスクザヒーロー ムーンシャドウ見参!!!」

 

 あかん、まだ恥ずかしいわ。

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