悪の組織で幹部をやってる。時給3000円で。 作:かませ犬S
───太陽戦隊サンシャイン。
ヒーローとして今の日本で知らない者はいないほどの知名度を誇り、特撮の戦隊物のようにチームで戦うのが特徴のヒーローたち。
ヒーロー単体の力は大したものではないが、サポートやヒーラー、タンク、火力担当などそれぞれが得意とする分野を持っており、その連携は俺の力を持ってしても容易には崩せない。
周囲の被害であったり、翌日の筋肉痛を考えなければ倒すこと自体は難しくないが⋯⋯少なくとも俺に戦い方を思慮させる程度の実力はある。
俺の視界の先ににいるヒーローはその件のヒーロー、太陽戦隊サンシャインの青色を担当しているシャインブルー。
ポチと激闘を繰り広げたのか、身に纏うヒーロースーツはところどころ破けており傷だらけの皮膚が露出している。
特に酷いのは言うまでもなくポチの角によって貫かれた脇腹。普通に考えれば即死ものの一撃だが、俺の耳にか細い呼吸音が聞こえた。まだ生きては、いる。
「ワン!」
ポチは自慢げに、それでいて褒めて欲しいのかお尻を振りながら俺の反応を待っていた。尻尾があればもう少し分かりやすかったか。
「ヒーローを倒したことは褒めてやる」
「ワンワン!!」
纏まれば面倒な分、個々で倒して数を減らせばサンシャインの相手は比較的に楽になるだろう。そういう意味ではポチがシャインブルーを倒した事は褒めていい。
「ただ、倒したヒーローをアジトに連れて帰ってくるのは論外だ」
「クゥーン⋯⋯」
角に刺さったシャインブルーを一瞥してから、告げれば俺が不満に思っている事が伝わったのか分かりやすく落ち込んでいる。
「何がダメだったか分かるか?」
「ワンワン!」
「違う」
角に刺さっていたシャインブルーを床に落として、首を踏みつけながら吠えている。トドメを刺していなかったのがダメだと思っているらしい。
即、否定すれば困ったように首を傾げている。本当に犬かと疑うレベル言葉を理解している。
「ポチの間違いは一つ。ヒーロースーツのコアを破壊しなかった点だ」
「ワン?」
そんなこと? と犬でなければ口にしていそうな反応だ。ポチからすれば確かに些細なことのように思えるが、極めて重要なことだ。
ヒーロースーツのコアは変身することで持ち主に絶大な力を授けるだけでなく、通信機としての機能も持ち合わせている。
無線のような役割以外にも、ヒーローが意識を失ってもコアに埋め込まれているGPSで場所を把握でき速やかに応援を送る事が可能。更に、バイタルを確認することで生存確認も同時に行う事が出来る。
「ワォン」
その事を告げればポチは初めて聞いたとばかりに驚いているが、この話をしたのはこれで3回目だ。とはいえ、元は犬。
今回の失態に関してはポチから目を離していた俺たちにある。なんだったらマッドサイエンティストが一番悪い。研究に忙しいからと、ポチの散歩を怠った結果ポチは一人で外を出歩き、その先でヒーローと出くわしてしまった。
飼い主に褒めて貰おうと思ったポチは戦利品としてシャインブルーを持って帰ってきた訳だが、それによって俺たちのアジトがヒーローたちにバレた可能性が高い。
「チッ⋯⋯」
「クゥーン」
思わず漏れた舌打ちにポチが項垂れている。本当に器用だな。
「ポチ、マッドサイエンティストを呼んでこい。まだなんとかなる筈だ」
「ワン!!」
俺の命令を受けてポチが駆け出していく。小さな姿を見送った後、まだ微かに息をしているシャインブルーへと視線を落とす。
素顔はマスクによって隠されているが、身体に密着するヒーロースーツから性別が女性である事を察することはできる。それはまぁどうでもいい。
問題はこの女をどうするかだ。
殺すことは容易い。ポチの角から抜けた事によって、その傷口から大量の血が流れ始めている。放っておけば勝手に息絶えるだろう。
逆にこの女を生かした場合⋯⋯これもまた俺の感覚でしかないが、恐らくこの女も怪人細胞に適合する。同様のケースはウルフしか確認出来ていないが、もし適合したならヒーローの怪人化が最も有効な手段になるかもしれない。
『ヴレイヴ』のヒーローの数を減らし、
「生かして使うか」
スーツポケットに入れてあった紙包みから赤色の錠剤を取り出す。これは戦闘中に負傷した場合に使用する止血剤だ。
マッドサイエンティスト特製の薬という事で俺自身は一度も使った事はないが、怪人に投薬して効果は出ていたから多分いけるだろう。死んだら死んだで、元々死ぬ運命だったと受け入れよう。
シャインブルーの素顔を隠すヒーローのマスクを破る。
「あ?」
マスクの中から現れたのは、俺でも一度は見たことがある女の顔だった。知人というわけではない。俺が一方的に知ってるだけのテレビの向こう側の有名人。名前は確か、
朝の情報番組でお天気コーナーを担当しているキャスターであり、端正な顔立ちと育ちの良さが窺える美しい言葉遣いで男性視聴者に根強いファンがいた。そう、過去形だ。
半年ほど前だったか?男性アイドルとの密会を週刊誌に撮られ、それが普段自身が仕事でしている情報番組で取り上げられた事で、世間に知れ渡りそれはもう見事な大炎上を起こしてそれ以来姿を見ることはなかった。
男性アイドルが既婚者だったのもあって、この女は大バッシングを受けていたっけな。殺害予告までする過激派までいたとニュースでやっていた。自分とは関係ない男女の関係に良くもまぁそこまで熱くなれると、当時は感心したものだ。
そんな女が、まさかヒーローになって世界の為に戦っているとはな⋯⋯。正直、驚いた。俺が同じ立場なら、絶対に選ばない選択だ。関係ない筈の他人からあれだけ石を投げられたというのに、その他人の為に戦う?バカとしか思えない
「⋯⋯だから、俺の細胞が訴えているのか」
俺の身体に流れる怪人細胞はウルフやポチと初めて会った時と同じように熱く熱を持っている。まるでこれから誕生する同胞を熱く歓迎するように。
「選択を選ぶのは、お前だ」
柔らかい唇に止血剤を無理やりねじ込んで、処置を行う。この止血剤は本人の意思がなくても薬が効くように少量の唾液でも薬は溶けるように出来ている。
「⋯⋯っ───!!」
変化は劇的で、止血剤を口に入れると間もなく女の身体がビクンっと大きく跳ねた。伏せられていた瞼が開き、助けを求めるような目で俺を見たかと思えば言葉にならない悲鳴を上げる。
視線の先では痛みに悶え苦しむ女がいる。薬に対する拒絶反応か、あるいはポチによって付けられた傷が原因か、どちらかは不明だが強烈な痛みに意識を取り戻したらしい。
傷口に視線を向ければ薬の効果が現れたのか、留めなく流れていた血が止まっていた。かなり即効性のある薬らしい。
ただ、怪人に使った時と異なり傷口が癒える様子はない。これに関しては怪人細胞の働きがあるかないかの違いだな。
「⋯⋯ぃゃ⋯⋯まだ、⋯⋯しにたく⋯⋯なぃ」
身体に伴う痛みによって、近付いてくる死を察したのか震える声で女が呟く。
「生きたいのか?」
声をかければ焦点の合わない目が向けられ、弱々しい動きで俺の足を掴んだ。その助けを求める相手が、お前たちヒーローの敵とも知らずに⋯⋯。
まぁ、俺の姿は一般人と同じだ。一目で
なら、悪の手先として俺は喜んでその手を掴もう。
弱々しく俺に伸ばした女の手を取って、優しく抱き寄せる。傷口に気を付けながら安心させるように、耳元でそっと囁く。
「安心しろ。
「あっ───」
───青色の目が真っ直ぐに俺を見つめていた。
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