悪の組織で幹部をやってる。時給3000円で。【コミカライズ進行中】 作:かませ犬S
マッドサイエンティストが持ち込んだ雑貨やら、ゴミやらで溢れていた部屋を掃除し家具を整頓して休憩室として使えるようにしたウルフには感謝しなければならない。
そんな話はさておき、休憩室に置かれた趣味の悪いピンク色のソファに腰掛けコーヒーを飲む。インスタントではな豆から挽くことに拘っているらしく味は普通に美味い。
これを俺の横に座るマッドサイエンティストが淹れてなければ手放しで褒めていたところだ。横目でチラッと見ると熱いのは飲めないらしく、フーフーとコーヒーに息をかけているのが視認出来た。
「それで、ポチが使ったアジトはどうなった?」
俺が話しかければ、テーブルにコーヒーを置いたマッドサイエンティストがこちらに振り向く。表情がニヤニヤしている事から、上手くいったのは察しがついた。
「爆破したぜぃ」
「だろうな」
俺が今、滞在しているアジトはメインアジトという事でマッドサイエンティストの細工によってGPSやら何やらで位置を探知出来なくなっている。
が、ポチがアジトに帰ってくる為に使った場所は隠れ家としての性質が強いため最低限の細工しか施していない。その代わり前回の反省を踏まえて、いつでもアジトを爆破出来るように改造は施したそうだ。
拠点に置かれた瞬間移動装置もアジトの位置を探知出来ないように初期化するように設定したとかで、ヒーローたちに対する対策はバッチリだと胸を張って語っていたな。
そんな細工を施すくらいならヒーローが最初から探知出来ないようにしたらいいと俺も一瞬考えたが⋯⋯今回のようにポチだったり、自我を持たない怪人が動くと、どうしても思いもしないヒューマンエラーは起きる。人ではないがな。
完全な対策が出来ない以上、これがマッドサイエンティストが取れる最善の手だったということだろう。
「ひひひ、GPSの反応が消えた場所にヒーローを送り込んできたからな。ヒーローがアジトに入ってきた瞬間に爆破してやったぜぃ」
こういうケースをあらかじめ予想して準備していたであろうマッドサイエンティストからすれば、上手くいって楽しかったのだろう。ニヤニヤと鬱陶しい笑みを浮かべている。
今回の場合はマッドサイエンティストの改造が功を成し、ヒーローたちにアジトがバレる前に処理が完了した。爆破したのは移動用の拠点でしかないので、損失自体は知れているそうだ。
遠隔による爆破だったお陰で俺がわざわざ動く必要がなかったのが何より大きいな。USAのアジトがバレた時はヒーローの目を引く為にわざわざ戦った⋯⋯今回も同じかと考えたがしっかり対策を取ってくれていた。余計な労働をしなくて済むのは本当に助かるな。
「ヒーローは倒せたのか?」
俺が質問すれば、マッドサイエンティストの笑顔が消える。面白くなさそうに唇を尖らせたので、この女がわざわざ答えなくても結果は分かった。
「残念ながら回避されたぜ」
「だろうな。まぁ、過去の一例もある。俺たちがアジトを爆破するかも知れないとあらかじめ共有はあっただろうな」
「規模は小さいが、爆発に巻き込まれたらヒーローだろうと簡単に殺せる代物を仕込んでいたんだがなー。日本のヒーローもなかなかに優秀だぜ」
スマホで場所を打ち込んで検索すると、今回のことが既にニュースとなって上がっていた。
俺たちが隠し拠点として使用しているマンションで爆発があったという事と、爆発の起こった近辺に人体に有害な化学物質が散布しておりヒーローの誘導で住民の避難したそうだ。爆破の原因は追求中、と。
「爆発が起こった現場にいたにも関わらず、爆発を防ぐことが出来なかったのはヒーローの落ち度ではないか、⋯⋯だとさ。終わってるな、この国の民度も」
ネットニュースの記事の文面をそのまま口にして嘲笑するが、俺の足元にいる女はまるで反応を示さない。恍惚の表情で俺の足に撓垂れ掛かり、俺の足を撫でている。それが妙に色っぽいが、正直鬱陶しい。
それは俺に対して興味深そうに視線を向けてくるマッドサイエンティストも同じだ。
「ひひひ、助手君は女を堕とすのが得意だね」
「何が言いたい?」
「いや、僅かな間によくもまぁヒーローを
ニヤニヤとマッドサイエンティストが笑う。
明らかに含みのある言葉だ。まぁ、言わんとする事は分かる。これまでヒーローとして
「わたしは、
「は?」
俺の足を撫でる行為はやめていないが、上体を起こした女がマッドサイエンティストをキッと睨みながら口にする。直ぐさま、どういう事だと、マッドサイエンティストがこちらを見た。
「助手君⋯⋯」
「その女に聞け」
既にこの女には俺が
マッドサイエンティストにも一応共有はしていたので、この女が
「わたしはあくまでも、
ムフーっと、マッドサイエンティストに対してマウントを取るかのようにドヤ顔で断言する。
珍しく困惑した表情のマッドサイエンティストがこちらを見た。
「どういうことだい、助手君?」
「だから、その女に聞け」
どうしてこうなったか⋯⋯正直、思い当たる節しかないが、それをわざわざ説明のも面倒だ。
「どういうことか、教えてくれるかい?シャインブルー」
「言葉の通りの意味です。わたしはご主人様の道具にはなりましたけど、
───誘い文句が悪かったか?
道具として使ってやると、言った瞬間は言葉選びを間違えた気もしたが女の反応は劇的だったな。虚ろな目に正気が戻り、徐々に熱を帯びていった。言葉にしていなかったが、嬉しくて仕方ないと表情は蕩けていた。
『あなたの道具になったら、わたしを必要としてくれますか?』
『お前が俺の言う通りに動くならな』
『っ───!!!!はい!わたしを必要としてくれるなら、なんでもします』
そのやり取りをした時点で、俺と女の中で認識のズレがあったのは間違いない。
俺からすれば
『だから⋯⋯
女の目からは、ドロドロした感情が見えて隠れしていた。執着、あるいは依存。
好意と呼ぶにはあまりに歪んだ感情が、真っ直ぐに───俺だけに向けられていた。
「要するに、だ。助手君の命令は聞くけど、フォリ様や
「そういうことです。わたしに命令していいのは、ご主人様だけです。ご主人様だけが、わたしを自由に使っていいの」
「なるほど⋯⋯、ね」
「ところで、あなたはご主人様の何?わたしとご主人様の関係の邪魔をするなら⋯⋯」
───殺す。
漏れ出た殺気が、言葉の続きを明確に示していた。グルンっとマッドサイエンティストがこちらに顔を向けた。こっち見んな。
「助手君⋯⋯」
「必要がなくなれば捨てればいい」
「本人の前でそんなこと言うかい、普通」
マッドサイエンティストにだけは言われたくない言葉だ。自分のこれまでの発言を振り返ってから口にしろ。
それに、言われた当人はそこまで傷付いている様子はない。
「はい。わたしが必要なくなったら捨ててくださって結構です。けど、可能なら⋯⋯
相も変わらずドロドロとした、女の感情を真正面から向けられている。死んだ後も、最後まで好きな人の記憶の中に残りたい。そんな想いをぶつけられている感覚だな。
「分かった。必要がなくなったら俺の手で殺してやる」
「はい!」
「それまで、しっかり俺の為に生きろ」
「っ───!」
一瞬、呆気に取られたような表情をしたが直ぐに噛み締めるように女が笑顔を浮かべる。
「はい!ご主人様!」
───こうして、ヒーローの一人を
「このやり取りをフィクサーも聞いてるんだよなー。⋯⋯頭が痛いぜ」
───マッドサイエンティストは遠くを見ていた。
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