ヒーローを諦めた少年と魔法少女達   作:キー(pixivでも同じ名前)

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小説を書く際にいい表現はあるかなど考えてたら時間がかかりました...


Ep.2:少年はヒーローを見た

出久が転入して早速授業が始まった。出久の学力は特に悪いことはなく、平均よりも上の方である。元々オタクである出久は知識の吸収力は高めなのだ。

 

「はっ、はっ、はっ...ゴホッゴホッ!も、もうダメ...」

 

しかし体育は別である。筋トレとは無縁だった出久は体育で下位の成績に。今日は体力測定もあって長距離が行われ、走り切った後は地面に腰を下ろして息を整えていた。

 

「すぅ...ふぅ......すぅ......ふぅ.........無個性の人が多いらしい...それでもこれはいくらなんでも情けないな...」

 

同じ無個性だとしても自分の運動不足には恥ずかしさを感じた。しかし同時に居心地の良さを感じていた。同じ無個性の人がいるからというわけではなく、個性に関して特に聞かれることもなく、個性で人を脅すような人もいない。出久はようやく13年の人生の中で初めて平穏な学園生活を手に入れたのだ。

そんな中出久に声をかけてきた男子生徒が。

 

「大丈夫か緑谷?」

「う、うん...えっと...」

「中沢だよ」

「...あっ、その声...シュークリームで」

「そういう覚え方をしてたのか...まあ正解だ。答えてたのは俺だよ」

 

シュークリームの話題に笑って答えた中沢、出久に手を差し出し出久はその手を恐る恐るだが手にとって立ち上がった。

 

「勉強はできるけど運動は苦手なんだな、よく見たら結構痩せてるしな」

「そ、そうだね...運動はからっきしダメで...」

「この学校は進路に関して個性で決めたりとかしないで生徒に合わせてくれてるらしいけどさ、その代わり成績とかには少し厳しめで注意しとかないと危ないぞ?」

「そ、そうなんだ...少し運動とかしないとだめか...」

「俺も個性がないからさ、いい高校行っていいところで働かないとちょっとな...」

 

話の中で自然と個性の話がでた出久はバッと中沢の方を振り向いた。力無く笑う中沢の表情を見て、無個性という立場を思い知らされる。

 

「やっぱ個性がないと自由に将来のことも選べないのかな...」

「......そっかお前もか。でもそんな気にすんなよ、ひとまずこの学校だったら不思議でもなんでもないしさ」

「うん...そうだね」

 

無個性の厳しさを改めて感じた出久は中沢と共に後者に戻っていく。

 

「そういえば今日少し暑いけど、ジャージで暑くないのか?」

「えっ、あー......寒がりなんだ僕」

 

出久は中沢と別れて、トイレで着替えを行い教室に戻った。戻ったと同時にチャイムが鳴り国語の時間が始まった。

体育の後の授業ということもあり、尚且つ座学。出久もであるが、周りの生徒達も疲れたようにうつらうつらする。出久も眼を擦りながら睡魔に耐えている。

 

「くぅ...」

「...あっ」

 

物語の音読の時間中に寝息が聞こえ、その方向に目線だけ動かすと、ショートヘアーの青髪の少女が教科書を持ちながら寝てしまっていた。そしてその後ろの容姿端麗なゆるふわな髪の少女が起こそうと背中を軽く叩いていた。

 

「さやかちゃ〜ん...起きて〜...」

 

隣にいるまどかも小声でなんとか起こそうとするが完全に夢の世界にさやかは遂に涎を垂らし始める。見てはいけないものを見た気がした出久は眼を逸らした。そして数秒後、国語の教師に注意されていたのだった。

 

「終わった...」

 

チャイムが鳴って今日の授業が終わり、授業の片付けを行い各々帰っていく。いつも通り1人で帰ろうとすると中沢が声をかけてきた。

 

「緑谷、一緒に帰ろうぜ」

「...............僕と?」

「お、おお...そ、そうだけど?口半開きになってるぞ?」

「ほ、ほんとに!?い、いいよ!」

 

いつもならば、「今日も1人で帰るのかナード君?」のようなことを言われ、周りから嘲笑されていた出久は舞い上がって返答した。

 

「み、緑谷...だいぶ苦労してきた感じだな」

 

出久、中沢は一緒に帰ることに。中学生活で初めて誰かとまともに帰ることなど初めてだった出久は舞い上がっていた、否、舞い上がりすぎていた。

 

「それでその事件でレアだなった思っていたのは、その時のオールマイトの笑顔がいつもと違っていたんだよ!溺れていた子の個性で川に流れてお酢が流れちゃったんだけど、そのせいで少し顔を窄めていたんだ!あの時の顔は今でも練習しちゃってるよ!他にはね!」

 

舞い上がりすぎてマシンガントークを続けている出久に、聞いているがわは呆気に取られて少し引き気味だった。

 

「オタクだったんだな緑谷...」

「えっ.........ああっ!?ご、ごめん...つい悪い癖が...」

「まさかヒーローの話題を振ったら10分も止まらないなんてな...」

「ほ、本当にごめん!こ、こういうのって久しぶりだからさ...」

「......ま、個性とか関係なく話せる相手がいるっていいよな」

 

中沢に言われた通り、個性のことなんて頭から薄れていた。同じなんだ、と出久は思った。個性の有無による溝は自分だけ感じているわけではないのだ。共感してもらえるだけでも前の生活とは違った。

 

「そうだ、緑谷はそんなにヒーローが好きだけどさ、将来はヒーロー関係の仕事に就く気なのか?」

 

質問に対して、前ならヒーローと答えたかもしれない。

 

「そうだね...ヒーローは好きだけど...公務員とかかな...」

 

でも今はヒーローになれないと思っていることから、無難な将来を答えた。それに何故ならこの進路だと母が喜んでくれるから。胸の奥が握り潰されるような痛みが走った気がしたが、首を横に振り帰路のついた。

 

「じゃあ俺はこっちだから、またな」

「うん、また明日」

 

 

ーーーーー

 

 

途中で1人になった出久。しかし今までと違い寂しさは感じていなかった。母が待つ家に帰ろうと足を進める。陽が傾き空が赤くなっており、ここ見滝原はガラス張りのビルが多くあるため夕陽が反射されて美しさを感じる。しかしそれとは真逆に出久がいる道は影が濃くなり薄暗くなっていく。

 

「少し不気味さを感じるな...は、早く帰ろう」

 

慣れない土地ということもあり、胸のざわつきが収まらない。ゆっくり話しすぎたからこんなに陽が沈んでいるのかと思っていた。しかしそれでもおかしい。

 

「......え?も、もうあんなに陽が沈んで...!?っ...さ、寒い...」

 

初春ということもあるかもしれないが異様な冷気が背中を撫でる。気づけば出久は足の歩幅を広げて歩いていた。徐々に足の動きを速め、そして走っていた。耳に聞こえる音は自分の足音のみ。

 

「うわっ!?」

 

何かに躓いて転んでしまった出久。立ち上がってすぐに走り出そうと立とうとした瞬間、空気が変わった。まるで全く別の場所に変わった感じだ。心臓の音がハッキリ聞こえる。息を整えて顔を前にあげた。

 

「なんだよこれ...!?」

 

既にここは見滝原ではなかった。何百、何千もの薔薇が咲き乱れ、鋭い茎が出久を囲むように生い茂っている。空はすこし紫がかった青色。薔薇の匂いが漂うが、いい匂いとは言えない異臭が立ち込めている。この現象はヴィランによるものなのか。自分はヴィランの個性のテリトリーに入ってしまったのかと思った。後退りしながら必死に頭を働かせていると

 

シャキン シャキン

 

と音が聞こえた。その音は背後から徐々に近づいてくる。息をするだけでも苦しいほど心臓の鼓動が早くなる。背負っていたリュックを前に持ち直して抱きしめるようにリュックを持つ。足は震え動かないが、息をゴクっと飲み込みバッと振り返った。

 

「わ、綿の顔に身体が蝶々...こ、ここの場所は君?いや、あ、あなたが個性で作ったんですか!?」

 

蝶々の身体で綿のような顔にカイゼル髭がついた得体の知れないモノが大きなハサミを持ちながら出久をじっと見ていた。出久の問いには答えずジッと。

 

「こ、答えてよ!!君のようなヒーローは知らない!ヒーローノートに書いた記憶がないんだから!だから勝手に個性を使ってるんだよね!?だ、ダメじゃないか!!!ま、まさかヴィ、ヴィラン...!?」

 

シャキン

 

ヴィラン?は一回大きなハサミを動かした。

 

「っ...!な、何か言って!こんな幻覚を僕に見せて方向感覚を無くそうとしても、場所は変わっていないはずだ...!あの道は裏通りとかじゃないからすぐにヒーローが来るはず!だからやめた方がいいんじゃないかな...」

 

シャキン

 

助かるために必死に話しかけて逃げる方法を考え、それと同時にヒーローが来るという奇跡を願っていた。しかし何も変わらない、自分の声がこの不気味な薔薇園に響くだけ。リュックを盾にするかのように構えて話しかけるが何も答えない。

 

シャキン シャキン シャキン

 

そして次の行動で

 

「は?」

 

自分の行動が無意味であることを思い知らされた。

 

 

 

ザシュ!!!!!

 

 

ブシュ!!

 

 

 

 

「えっ......あ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!?!!!!!!!?!!!?!!?!???」

 

大きなハサミは構えていたリュックを真っ二つにしただけではなく、出久の右肩から左脇腹にかけて大きな切り傷をつけた。そこから血が流れ、当然の痛みに出久は喉の奥から叫んでいた。

 

「痛い、痛い、痛い痛い痛い痛い痛い!?!?!?!」

 

 

出久は気づいていないが運が良かった。

 

もしリュックを構えていなければ、自分の体が二つに分かれていた。得体の知れないモノは、まずは邪魔なリュックをどかそうと行動したのだから。

 

「うあ゛あ゛あっ......!!」

 

得体の知れないモノの顔に目が浮かんでいた。その目は黒く、何も写していない。否、眼球なんてないのかもしれない。出久は真っ二つになったリュックを投げつけて逃げ始める。

 

「で、出口、どこだ、きっとあるはずだ、ヒーローを、呼べば、助かる」

 

痛みに耐え、涙と鼻水を流しながら情けなくとも逃げる。しかし悔しかった。何もできなかった、立ち向かえなかった。

 

「ちくしょう...ヒーローノートの知識が何も役に立ってない...!」

 

今まで培った情報を役立たせることができなかった。今も近づいてくるハサミの音に立ち向かえない。

 

「僕に、僕に...個性があったら...っ!!」

 

撒こうと生い茂る薔薇園に入ろうと足を踏み入れた瞬間、何かが空中から出久に向かってきて、そのまま出久の腹にぶつかった。

 

 

「ごぶっ!?がっ!?お゛...お゛ぇ゛ぇ゛!?!?」

 

 

吹き飛ばされた出久は地面に転がされ、血と昼食が混ざった吐瀉物を吐き出してしまう。涙で視界が揺れているがぶつかってきたものを見る。そこには逆円錐形の身体に背中には蝶の羽らしきものが付いて、顔には複数の眼が付いており、追ってきているモノと同じカイゼル髭をつけている得体の知れないモノが浮いていた。

 

「ま、まだ...い、いたのか...こ、こいつらは...ヴィラン、じゃないのか...?」

 

絶望的な状況に、逆に冷静になった出久。自分はもう助からない、そう感じてしまう。前には浮いているモノが後ろからはハサミの音を立てているモノが。そして気づくと出久の周りには文字が浮かんでいた。

 

Das sind mir unbekannte Blumen.

 

「な、んだこれ」

 

Schneiden wir sie ab?

 

Die Rosen schenken wir unserer Königin.

 

Und die schlechten Blumen steigen auf die Guillotine.

 

「死ぬ...?ぎ、ギロチン...?、僕をギロチンで殺す気なのか...!?」

 

読めない文字の中で最後の方に出てきた文字は英語に近かったため読めた。この文字は自分を殺す方法が記載されているのだと理解した。理解したと同時に出久は叫んだ。

 

「僕は無個性だからヒーローを目指すのはやめた!無個性はヒーローになるのはダメだから...今度は生きるのもダメなのかよっ...!しかもなんで殺し方を見せてくるんだよっ...!ふざけんなよ...!どうして...どうして...!!!」

 

大きなハサミが出久を切ろうと構える。ハサミを閉じられたら出久の首は胴体と分かれてしまうだろう。

 

「無個性だから悪いのかよ...何でここまで......僕が何をしたんだよ...っ」

 

Ja, schneide sie ab!

 

Ja, schneide sie heraus!

 

なんの意味かはわからない。だけどトドメを刺そうとしているのは察せる。ヒーローは来ない、願いは届かなかった。それでも無意識に呟いていた。

 

 

 

「誰か助けて...」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう大丈夫」

 

声が聞こえた。安心させてくれる優しい声が耳に入ってくる。次の瞬間、目の前に浮かんでいたモノが弾け飛んだ。

 

 

 

 

「何故って?」

 

自分を捉えていたハサミがその人物の攻撃により砕け散った。そして綿のようなモノが何か奇声を発した後、出久に声をかけた人物に襲いかかるが、あっという間に対処されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「私が来たわ」

 

両手にはマスケット銃を持ち、金髪縦ロールの少女が立っていた。その少女の優しい笑みを見た出久は先ほどよりも大粒の涙を流してしまう。見たこともない人だが、それでも出久は思った。

 

 

 

ヒーローはいるのだと。




前半は男友達ができましたからの魔女の結果でした。
リメイク前でも魔女の結界に入ってしまった出久ですが、今回は生々しさを頑張って書いてみました。

話の流れは考えていますが、オチをどうしようかと迷い始めてるこのシリーズ...
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