JUNO -ジュノー-   作:祐。

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第2話:大都市『龍明』、葉山探偵事務所

 研究機関を集積させた最先端の大都市、『龍明(りゅうめい)』。龍明は地続きの大陸に設けられた13,000㎢からなる面積の街であり、その範囲は現世で言う南関東まるまる一つに匹敵する。その全容はSFジャンルのフィクションを想起させる先進的な造りになっていることから、俗に言う学園都市を思い浮かべると規模や建物などが分かり易い。

 

 ただ、景色の印象としては学園よりも繁華街という言葉が適しているだろう。太陽が主役を務める日中の時刻は、澄み渡る青空の下で由緒正しい人間社会が営まれる。しかし一度(ひとたび)と月に主役が回ると一転、龍明の姿は変貌を遂げる。淀んだ夜空の下にはネオンサインが迸り、角張っている先進的な建物の窓からは煌々と輝く金色(こんじき)の照明が溢れ出す。金と色気が充満する酒臭い空間からは、学園都市特有の透き通るような清涼感とは一切無縁である、一種の無法的な暴力性を感じさせることに違いない。

 

 実際に大都市『龍明』内部では頻繁に事件が起きる。尤も、異能力“ヴィジョン”とそれを有する異能力者“ヴィジョンズ”の存在によって、龍明に限らず事件は世界的に多発しているものではあるのだが。つい最近においては月光と共に舞い降りた“謎の超人”が話題になり、期待と懐疑の混じった世間の注目を集めていたことは言うまでもない。

 

 無論、龍明内における活躍の噂は“彼女”の専売特許ではなかった。“彼女”ほどではないにしても、今まさに1人、増援として“彼女”の下へと送られた青年が寄り道がてらその龍明内で功績を挙げていたものだ。

 

 

 

 

 

 大都市『龍明』 AM 9:45 晴天

 

 街の一角にある団地からは、パトカーのサイレンが鳴り響いていた。涙するか弱い少女がとある青年に慰められている光景の中で、少女の姿を見て真っ直ぐと駆け付けてきた母親と思しき人物が現れる。

 

 ママ! 少女の言葉と共に親子は再会のハグを交わした。心配する母親に抱擁された少女が声を上げながら感涙(かんるい)を流していく最中にも、青年は再会の様子を喜ばしく見つめながら静かに歩み寄る。

 

 175cmの背丈である彼。群青色(ぐんじょういろ)とも呼べる深い青色のショートヘアーと、活力と優しさに満ちた黒色の瞳、そして好青年の第一印象に相応しい現代的で爽やかな顔立ちが、無難でありながらもある意味での特徴として青年の存在感を確実に後押ししている。服装は、襟から裾にかけて水色から黒色へと鮮やかに変化するグラデーションカラーのドロップショルダーニットと、ゴムやリブをつけることでバネのようなうねりの形状が特徴的な黒色のジョガーパンツ、そしてカジュアルシューズの側面を持つライトブラウンのローファーを履き慣らし、現代風のネックレスを首に下げたその風貌で青年は柔らかく微笑みながら確認の言葉を投げ掛けた。

 

「彼女があなたの娘さん、という認識でよろしいでしょうか?」

 

「そうです! 娘は私に残された最後の家族なんです! もうこの子がいなくなってしまったら、私はどう生きたらいいのか……! 娘を見つけていただき、本当にありがとうございます……!!」

 

「どうやら彼女は単独で行動中、人身売買組織である“骸ノ市(むくろのいち)”に目を付けられて誘拐されてしまったようです。事態を聞き付けた俺や一般市民が迅速に彼らを尾行したことで、彼女が幽閉されたアジトを発見することができました。警察の到着を待つのも手ではありましたが、それでは娘さんが輸送されてしまうかもしれないと現地で判断した我々は、強硬手段ではあったものの奪還作戦へと乗り出しまして、今に至ります」

 

「それを指揮されたのが、お兄さんで……?」

 

「俺は指揮というか、特攻隊長として、まぁ色々と。何といいますか、同行していただいた皆さんは異能力を持たない一般の方々だったので、俺が単身でアジトに突っ込んで、娘さんを救い出してきました。こう見えても“ヴィジョンズ”なので、荒事もある程度は対処できる方なんです」

 

「まぁ、ヴィジョンズの方でしたか! どうりで人助けをしてそうな雰囲気があると思ったら!」

 

「そ、それはどうも」

 

 半ば冷めやらぬ興奮の勢いで会話をする両者。母親は娘へと視線を下げながら感謝の言葉を促す。

 

「こちらのお兄さんが、あなたを救ってくれたんだよ。ほら、お礼の言葉は?」

 

「ぐすっ、ひぐっ……お兄さんありがとう!」

 

 屈んでいる母子へと、青年は片膝を地面に着いて姿勢を屈めながら目をしっかり見て答えていく。

 

「どういたしまして。ただ、これはお兄さんだけのお手柄なんかじゃなくって、みんなで掴み取った勝利でもあるんだ。だから、あとで警察や手伝ってくれた色んな人達のところにもお礼を言いに行っておいで。みんな、君の無事を喜んでくれるから」

 

 ニッと爽やかに微笑んだ青年は、膝に手をついて上半身を持ち上げるように立ち上がる。その動作の途中、母親は青年へとその言葉を投げ掛けた。

 

「今すぐお礼を用意することはできませんが、事態が落ち着いたら謝礼金を支払わせてください」

 

「いえそんな、謝礼金は必要ありません。お母さまはどうか娘さんのケアを最優先に、彼女の傍に居てあげてください」

 

「ですが、それでは感謝を伝え切れません!」

 

「感謝であれば十分ですよ。なにせ既に、俺の方がお母さまに対して感謝を感じているもんですから」

 

 一瞬、キョトンとした反応を見せた母親。娘も不思議そうな目を青年に向けていく空気感の中、彼は口元の柔らかな表情で語るようにそれを喋り始める。

 

「お母さまのお仕事がどのような職種であるのかは、全く存じ上げておりません。ただ、コールセンターなり、設備工事なり、俺は既にお母さまと間接的に関わっている可能性があり、もしかしたら知らない間にも俺自身、お母さまの働きかけに救われているのかもしれない。それは未来の娘さんにも言えることです。成長して社会に出た娘さんのお仕事が、巡り巡って俺の支えになるかもしれない。……そんな、人と人との“間接的な支え合い”こそが人間社会の真髄であると俺は思っておりますし、俺も今回はその、もちろん娘さんが心配だったからという理由もありますが、支え合いという循環に(なら)って今回の救出へ出向いたに過ぎないんです」

 

 青年に秘められた思想が明かされ、母子共に呆然と聞き入る他なかった。直にも青年は姿勢を正しながら実直な瞳で言葉を軽く続ける。

 

「なにも、俺だけが皆さんを助けているわけではない。俺もまた、皆さんに支えられながら生きているしがない人間のひとりなんです。この支え合いの繰り返しで人間社会が成り立っているわけですから、つまるところ……これでお互い様ということですね。なので、謝礼は必要ありません。俺はやるべきことをやったまでのことですから」

 

「もしかして、謙遜されてますか……? だとしたら全然そんな、あなたは本当に立派な考え方の持ち主だと思えますし、でしたらせめて、このあとの昼食代だけでも支払わせてもらうことはできませんか……!?」

 

 母子共に立ち上がり、もう今からでもお礼を遂行できる待機状態で見つめている。だが青年は尻ポケットから取り出したスマートフォンで時刻を確認すると、次にも若干の焦りを伺わせる動揺で走り出しながらそのセリフを口にしたものだった。

 

「そのお気持ちだけでも十分嬉しく思います! ただ俺、このあと企業の面接の予定が入っておりまして……!! ちょっと時間に余裕が無くなってきたので、この辺で失礼いたします! またご縁がありましたら、その時はよろしくお願いいたします!」

 

 母子が青年を引き留めんと手を伸ばす。だが、青年は言葉を待たずに逃げ出すよう事件現場を後にすると、颯爽とした走り姿であっという間に龍明の街中へと溶け込んでしまった。

 

 

 

 

 

 朝焼けに似た希薄な大気濃度の幻想的空間。射し込む日差しと透き通る青空がパステルカラーの地平線を生み出して、辺り一帯の先進的なビルの群れに爽やかな日常の光を降り注ぐ。特有の自然に満ちた力と、(そび)え立つ象徴的な塔、アスファルトが繋ぎ止める大都市の道路や橋は、今日(こんにち)も研ぎ澄ますように黙して人々の生活を見守っている。

 

 建物、信号機、交差点。現代文明が活用される大都市『龍明』の街中を、その青年は急ぎ足で駆け巡っていた。本日の一大イベントを控えて、その直前に遭遇したトラブルへの対処、奔走が、ある意味での気分転換になったことは確かだろう。あれだけの緊張を抱え込みながら自宅を後にしたというのに、目的地へ到着する頃にもなればアドレナリンによる一種の覚醒状態とも言える最高のコンディションで心構えは万全になったわけでもある。

 

 彼の尻ポケットからはスマートフォンの着信を知らせる振動が伝わった。これに反応して青年は端末を取り出すと、彼の「ハイ!」というハツラツとした挨拶と共にスピーカーからは陽気な男性の声が聞こえてくる。

 

『よーぅ、歓喜(カンキ)ちゃん! 報告は既に届いてるぜ。どうやらメインイベントの前に前哨戦で肩慣らしをしてきたみてェじゃねェか』

 

「前哨戦だなんて、そんな。俺のやるべきことをやったまでのことですから」

 

『さすがは真面目なカンキちゃんだぜ! んまァ、自己犠牲の精神とは美しくもあり、言ってしまえば独善的でもある。カンキちゃんの理念はオレちゃん理解しているつもりだがよ、こういう大事な日の時ぐれェはもっと自分を優先してあげてもいいんだぜ?』

 

「すみません! 居ても立っても居られず、つい……」

 

『あァいや、説教臭くなって悪かった。むしろな、そんなカンキちゃんだからこそ、オレちゃんはお前さんのことを評価してるんだぜ? 今回の推薦だってそうだ。こいつは、真面目で誰にでも優しく、思考の柔軟性と合理的な正義感に溢れたカンキちゃんだからこそ任せられる大仕事なんだからよ』

 

「お、お褒めいただきありがとうございます!」

 

 通話をしている最中にも、歓喜(カンキ)と呼ばれる青年は目的地に到着した。

 息を切らしながら見上げる視線。そこは立ち並ぶ建物が織り成す平然とした街中の景色によく馴染み、両サイドの建物に挟まれながらも無機質に佇む一般的な3階建てのビル。1階には『Le goût du péché(ル・グー・デュ・ペシェ)』というフランス料理店のダイニングバーが閉店のプレートを吊り下げているが、彼の目的はここではない。

 

 その上階。2階にある私立の探偵事務所『葉山(はやま)探偵事務所』が、歓喜の目的地だった。見上げた先の壁面看板に記された名前を確認しながら、耳元のスピーカーから響く陽気な男性の言葉に意識を向けていく。

 

『建物に到着したら、ダイニングバーの入口の右隣りにある階段室から2階へ上がってくれ。そんで折り返しの階段を上り切ったところにある廊下の途中、左手の方にある事務所の扉が見えたら、そこで3回ノックだ。扉の先は直通で探偵事務所、つまり面接会場に繋がっているからよ、もうノックの時点で面接開始だぜ。じゃあなカンキちゃん、健闘を祈る!』

 

 ブツッ。切られた通話の断片的な音が、まるで自身を突き放してくるように感じられるだろう。歓喜はスマートフォンを尻ポケットにしまってから意を決するように歩き出し、ダイニングバー『Le goût du péché(ル・グー・デュ・ペシェ)』を横目に階段室を上り始める。

 

 折り返しの階段を上り切ったところで、短い廊下が現れた。廊下の途中に『葉山探偵事務所』のプレートを貼り付けられた扉が存在しており、廊下の突き当たりに上の階へと続く更なる階段が待ち構えている。今回の目的は2階にあるため、歓喜は『葉山探偵事務所』の扉前に佇んでから深呼吸をひとつ、それから胸に手を当てて気持ちを整えると、先程の男性に言われた通り、ノックを3回その扉に叩き鳴らした。

 

 

 

 

 

 

 コン、コン、コン。響く軽快な音。それと共に扉の向こうから投げ掛けられたのは、凛とした落ち着きのある女性の声音だった。

 

「どうぞ」

 

「失礼します!」

 

 扉のプッシュプルハンドルを縦に握り、それを手前に引くことで扉を開いていく。重みのあるそれを開くと、歓喜の目の前には探偵事務所の名前に相応しいヴィンテージ風のオフィスという光景が彼を堂々と出迎えた。

 

 沈むように深々と座れるアンティークなソファに、スチールのフレームを施されたローテーブル、大量の本や資料を収納できる壁一面の本棚に、深緑の人工観葉植物、ヴィンテージなカーペット、シーリングファンライト、事務所の半分を区切るパーテーション。そして扉の正面から見た部屋の奥に位置する場所には、書斎を想起させるオフィスデスクと、そのイスに座る“女性”が存在した。

 

 彼女は179cmほどの長身であり、腰辺りまで伸ばした乳白色(にゅうはくしょく)の長髪を分厚く束ねた大きなポニーテールにしている。顔立ちはシャープでイケメン骨格の凛々しさを感じさせ、黒色の瞳は落ち着きを払いながらも力強さが際立っている。正面から見た彼女の右目に泣きぼくろがあり、とてもセクシーな印象も兼ね備えている。健康的な色白の肌はハリとツヤの潤いに恵まれている他、柔肌と筋肉質を両立した黄金比のボディは衣類越しにもハッキリと伺えたものだ。

 

 服装は、スタイリッシュな黒色のライダースジャケットに、ボタンを2つ外してタックインした赤色のブラウス、長い脚を更に強調する黒色のバイクパンツに、膝丈まである長さの機動性に優れた黒色ロングブーツという格好。

 

 第一印象で言えば、『神話の絵画に登場する女神』が如く絶世の美貌を誇る人物だった。魔女との契約ではなければ、整形で作り変えたわけでもない、正真正銘、天然の、生まれ持った天性の美。人間が追求する美しさの回答とも言える完璧な容貌の持ち主を前にして、歓喜は心臓を鷲掴みにされたかのような本能的衝撃を受けて思わず立ち尽くしていた。

 

 尤も、そんな男の様子など既に見慣れているのだろう。女性は顔色や表情を変えることなく歓喜を見つめて動きを待つ。この、ある種のプレッシャーが歓喜に平常心を取り戻させると、彼は誤魔化すように目に見えて取り乱しながらも姿勢を良くして彼女と向き合った。

 

「は、初めまして! 本日はお忙しい中、お時間をいただきありがとうございます! 自分は……」

 

「“柏島(かしわじま)歓喜(かんき)”くん、でしょう」

 

「そ、そうです! 本日はよろしくお願いいたします!」

 

 動揺は隠せずとも、身に染みた礼儀は忘れない。一礼をして頭を持ち上げた歓喜が次の指示を待っていると、彼女はデスクの上にあった書類を手に取りながら、呟くように言葉を口にした。

 

「本日の面接にあたって、貴方の所長さん、いえ、元所長さんからの推薦状を預かっているわ。彼は飄々としたデリカシーの無い人間ではあるけれども、仕事の裁量と、あとは本来の人間性に限って言えば、十分に信用に値する人物であることは確か。そんな彼が熱心なアピールポイントと共にどうしてもと寄越した人材であるのなら、私からは特にこれといった異存は無いわ」

 

「と、言いますと……?」

 

「合格よ。柏島くん、貴方を迎え入れましょう」

 

 開始から体感1分弱、採用が決まった。あまりにも高速すぎる決定に、合格した本人ですら理解が追い付いていないほどである。

 

 ポカンといった具合に目をまん丸にした歓喜を他所にして、彼女はイスから立ち上がると凛々しくありながらも堂々たる振る舞いで歩み寄りながら言葉を続けてくる。

 

「“ユノ”よ。よろしく」

 

「ユノさん、ですか? よ、よろしくお願いします……!」

 

「そんなにかしこまらないでちょうだい。これから簡単に事務所を案内するから、私についてきてもらえるかしら」

 

「ハイ……!」

 

 女性はユノと名乗り、その長身で歓喜と軽く握手を交わす。この際に歓喜は4cm背の高いユノを軽く見上げて圧倒されると、彼女は平然とした凛々しい様子で事務所の中央へと移動し始めた。

 

 一面がパーテーションで区切られた空間。部屋の半分を仕切るそれの扉を開き、近付いてきた歓喜へと説明する。

 

「基本、私はこの事務所で寝泊まりをして過ごしているわ。電気、水道、ガス、全てが揃っている空間だから、貴方も上手く利用してちょうだい」

 

「は、はい!」

 

 区切られていたパーテーションの奥には、プライベート空間が広がっていた。探偵事務所のヴィンテージ風な雰囲気はそのままにして、ソファやチェア、テーブル、テレビ、台所、冷蔵庫、そして小さなユニットバスルームの仕切りという最低限必要なものを取り揃えた生活感漂うお洒落な空間がそこに在る。

 

 ソファの上に置かれた枕から、ユノがここで就寝している様子が垣間見える。テレビを乗せたテレビボードには人工観葉植物や小物の他にゲーム機も見受けられ、彼女の意外な一面も伺えた。アンティークなタンスも壁に沿うよう配置されている他、台所には何も置かれてなく、食事の光景を思い浮かべることができない。また、何よりも目を引くのがバスルームの存在感だった。

 

 ユノはその場に立ち止まりながら、歓喜へと説明を続ける。

 

「この部屋は元々、フィットネスクラブとして運用されていた場所なの。事業側が退去した際に貴方の元所長さんがこのビルのオーナーになり、賃貸オフィスとして私に紹介してくれた経緯があるわ」

 

「だから、水道もガスも使えるんですね。生活する分には申し分ありませんし、住まいと併用するのに適している環境だと思えます」

 

「貴方の元所長さんが紹介した人材であれば、(よこしま)な企みとは無縁でしょう。貴方さえ良ければ、この部屋を自宅のように使用してもらっても構わないわ」

 

「え、え……!? いやそれはさすがに、ユノ所長のパーソナルエリアを侵害しているようで気になるといいますか……」

 

「所長呼びは性に合わないから、ユノと呼んでちょうだい」

 

「えっと、ならせめてさん付けで」

 

「諸々は貴方に任せるわ」

 

「それじゃあ、呼び方はユノさんで。で……まぁ、住むとまでは行かずとも、拠点として使わせていただくかもしれません。如何せん、職場の近くで移動が楽ですからね」

 

「えぇ、貴方に任せましょう」

 

 ユノはパーテーションの扉を閉め、足早にオフィスデスクへと移動する。彼女の背中を追うように歓喜も躊躇いながら足を運ぶと、次にも彼女は黒色の大きなショルダーバッグを持ちながら彼にそれを告げたのであった。

 

「それじゃあ、仕事に行きましょうか」

 

「え? え!? あの」

 

「まずは実践形式で基本的な業務を教えるわ。私についてきてちょうだい」

 

 歓喜の返答を聞く前に、ユノは足早に出口へと向かって扉を開いた。あらゆる意味で置いてけぼりを食らう歓喜は戸惑いを隠せず慌てながら彼女の下に追い付き、そして流れに任せるがまま外へと駆り出されたものである。

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