さて、そんな今回は6話分の最後の話です。水鳥姉妹のデートの様子を尾行していたことがバレてしまった優谷兄妹⋯果たして、2人の運命はどうなることやら?おまけには例の話をアレンジしたものをお届けしますのでお楽しみに!
それでは、後書きにて。
side秀
優谷秀だ。突然だが、読者のみんなは地獄が存在すると思うだろうか?俺はあると思っている⋯死後の世界は天国が地獄かっては信じてたからな。でも、まさか今現在、観覧車の中で生き地獄を味わうことになるとは想定外だ。俺と優の優谷兄妹と先輩と水花さんの水鳥姉妹が一緒なのは分かるが、水花さんの方が俺と優を睨みつけている。そうとも知らずに姉の方は楽しそうにしていた⋯
(遡ること10分前、喫茶店にて⋯)
「あら、奇遇ねぇ⋯2人とも遊園地に来てるのって。」
「そ、そうですね⋯俺もびっくりしましたよ!水花さんもこんにちは。お姉ちゃんと一緒で楽しそうだね?」
「⋯たった今、楽しくなくなりましたけど。お姉ちゃん泥棒の優谷先輩とストーカーの妹さんのせいで。」
「こら、水花!ごめんね、2人とも⋯この子は私の妹の水花、優ちゃんと同じく高校1年生よ?」
「本当に妹さんだったんだ!いやぁ、私は恋人か何かと思って見張りもしてたわけなんですが⋯噂されてた大切な人は妹さんのことだったんですね?私も分かってましたよ!アハハハハw」
(嘘つけ、それとストーカーを自白すんな!)
「何を慌ててるかは分からないけど、妹のことを大事に思ってるのは確かよ?もしかして秀くんは私のことが気になって優ちゃんと一緒に来たのかしら?」
「いや、俺は優の付き添いで来ただけで⋯別に邪な気持ちはありませんよ?」
「ねえ、お姉ちゃん⋯早く行こう?こんな犯罪者予備軍の兄妹に構うだけ時間の無駄だよ。」
「「犯罪者予備軍!?」」
「水花、失礼なことを言わないの!ウチの妹、私のことが好きすぎるあまり近寄る人にすぐ悪口を言うのよ⋯悪気はないから許してあげて?」
「「は、はあ⋯」」
水花さんは俺と優に向けて『犯罪予備軍』と暴言を吐く。この場はひとまず姉の先輩が宥めてから俺達に謝りつつ許すようにお願いする。こんな風に言われたら俺達も怒るに怒れない⋯水鳥先輩は本当に人が良いものでどうしてこんな問題のある妹が出てくるのかと疑問に思うばかりだ。
「そうだ、もし良かったら立ち話も何だし私達と一緒に観覧車に乗ってゆっくり話さない?お兄ちゃんとお姉ちゃん同士と妹同士でお話ししましょう?」
「「うええっ!?」」
(行きたくねぇ⋯)
(現在⋯)
そんなこんなで俺達は観覧車という個室の中で地獄のひと時を過ごしているってわけだ⋯話も弾まないし、張り詰めた空気の重さが特に俺を襲う。
「とりあえず、優谷先輩とその妹の、えっと⋯」
「優谷優です。」
「ありがとうございます、その優谷優さん⋯お二人の存在はハッキリ言って迷惑です!」
「ええっ!?」
「水花さん、そんな言い方はないんじゃないかな?優はともかくとして俺は君のお姉ちゃんと同じ生徒会で同じ風紀委員の人間なんだから⋯どうしろって言いたいの?」
「どうしろも何も生徒会の立場を利用してお姉ちゃんに気安く話しかける優谷先輩と妹の優谷さんには二度とまとわりつかないでもらいたいのです!別にお姉ちゃんじゃなくても同じ生徒会にいる人なら誰と話しても良いでしょう?風紀委員にしても(自称)優等生のあなたなら話し相手も沢山いるはずですよ?そんな兄に同調する優谷さんも正直同罪だと思ってます。どうですか、ぐうの音も出ないでしょう?」
(いや、俺はぐうも何も言ってねえけど⋯)
「ぐう⋯!」
(お前はぐうの音が出るんかい!)
優は水花さんに迫られて思わずぐうの音が出てしまう。俺に関しては特に何も思っておらず、こいつは何を言ってるんだとしか思っていない⋯風紀委員のことは委員長の水鳥先輩と話し合わなきゃいけないのに彼女の理屈は破綻している。だから、こんな単なるシスコンに俺は屈しないのだ。
「ぐうの音も出てるみたいですね⋯とにかく、私達は肝胆相照。あなた達の出る幕はありません!」
「ぐう⋯証拠はあるんですか?」
「はい。毎日一緒に寝てますし⋯」
「えっ?」
「一緒にお風呂だって入ってますし⋯」
「うえっ!?」
「一緒に入ってない日は覗いてますし!」
「ぶええ!?」
「いや、それは姉妹なんだからやって当然のことでしょ?この年頃になっても一緒にお風呂は驚きだけどね⋯」
「優谷先輩⋯何かいやらしいことを考えてませんか?私とお姉ちゃんが裸でイチャイチャして、○○(ピー音)とか××(ピー音)とかやってるのを想像してたりとか?ええ、してますよ。ただ、私とお姉ちゃんはそれ以上のことも⋯!」
「こーら、水花!」
「ひゃん!?」
水花さんのお姉ちゃんエピソードが段々と過激になりつつあるタイミングで姉の水鳥先輩がチョップをして制止させる。正直、彼女の語るエピソードはピー音が必要なぐらい生々しいからな⋯まあ、俺が童貞だからそう感じるのかもしれない。
「ごめんね、普段は良い子なんだけど⋯かなりの甘えんぼさんなのよ。」
(いや、甘えんぼどころか姉であるあなたしか見えてないシスコンを怪物化させた何かですよ!?こいつを甘やかしすぎたらダメですって!)
「それにしても、お兄ちゃん⋯妹さんと先輩って凄く顔立ちとか似てるよね?」
「でしょ〜♪」
「当たり前だろ?姉妹なんだから⋯俺と優だって似てるって周りから言われるじゃねえか。(まあ、あそこの妹の方は姉に似ず低身長の貧乳だがなw)」
「そうだよね。水鳥さん⋯はじめまして!あなたの姉になる予定の優谷優でーす。」
「お姉ちゃん⋯私、あの人達嫌い!」
優が水花さんとも仲良くなろうと急に先輩と結婚をほのめかすような発言をすると、水花さんは姉の先輩に抱きついて思いっきり甘える。明らかなストーカーな優はまだしも何もしていない俺も同系列とかハッキリ言って心外だ。
「うわああ、ちょっ⋯姉妹だからってそういうの良くないと思います!」
「良いんですぅ、姉と妹はベタベタすべきってネットの人達も言ってましたぁ!」
「2人とも落ち着け!観覧車の中で妹ズときたら喧嘩しやがって⋯俺達だって兄妹でスキンシップはしてるから人のことは言えねえだろうが!(流石に水鳥姉妹のような過激なことはしてねえけど⋯)」
「確かにそう言われると⋯でも、こっちから言わせてもらいますけどね?」
「な、何ですか?」
「妹のあなたと違って、こっちは先輩と結婚できるんですからね?」
(いや、無理だろ⋯日本は同性婚が認められてねえんだぞ?優は学校の勉強だけじゃなくて法律も勉強しろよ⋯)
俺がとりあえず喧嘩の仲裁に入ってこの場は落ち着くも優は先輩と結婚できるだのどうのこうのを水花さんに主張する。しかし、優は法律に関してはバカだった⋯同性婚が認められない日本でどう結婚すると言うんだ?ここは俺が主張すべきだったかもしれないな⋯俺も水鳥先輩のことが好きだし、本当に結婚の資格があるのはこの中なら俺のみだし。
~~~~~~~~
「「ふんっ!」」
そして、観覧車を降りた俺達ではあるが⋯まだまだ優と水花さんはいがみ合ったままである。共通の好きな人がいる者同士ではやはり仲良くなれないのだろうか⋯面倒なことになった。
「あらら⋯何でこうなっちゃったのかしら?」
(あなたのせいですよ⋯あなたがこのストーカー野郎(妹)とシスコン野郎を制御できなかった末路ですからね?)
「ねえねえ、秀くん⋯どうしたら良いと思う?」
「とりあえず、妹ズを2人きりにしてみるのはどうでしょうか?そうすれば腹を割って話せて仲良くできそうですし⋯俺達は2人で別のところを回りましょうか。」
「ちょっ⋯お兄ちゃん!?抜け駆けはずるいよ!」
「このお姉ちゃん泥棒!」
(お前ら、先輩のことになると同調できるんだな⋯)
「面白そうじゃないの。じゃあ、優ちゃんと水花⋯妹達で楽しんできてね?私と秀くんは2人で回ってくるから、行きましょ♪」
「はい!(ラッキー、水鳥先輩とデートシチュ巡って来たぜ♪)」
「「ダメ〜!」」
水鳥先輩は俺と足並みを揃えてから妹ズの叫びも関係なく2人きりで遊園地を回るのだった。しかし、こんな時にデートできる機会が巡ってくるなんて⋯このときを作ってくれた優には感謝しねえとな!
「本当に折角の姉妹水いらずなのに優が邪魔してすみませんね⋯ところで、水鳥先輩。」
「亜鳥で良いわよ?水鳥だと水花と混同するし⋯私は秀くんのことを名前で呼んでるのに。フェアにしちゃいましょ?」
「分かりました⋯では、亜鳥先輩。」
「何かしら?」
「亜鳥先輩ってどうやって妹の水花さんをここまで育てて来ましたか?俺、優を育てていく上であなたから学びたいことがあるんです。言い方は悪いですけど、水花さんってちょっとやばいところがあるじゃないですか⋯優もそうですけど。そんな妹を真面目にする方法とかないですか?」
「うーん、そうね⋯とにかく基本は怒らないで優しく接することが第一かな?暴力は振るわない、暴言も吐かない⋯悪いことをしたら言葉は選びつつもしっかり優しく注意して、褒める時は沢山褒める。こんな感じね⋯答えになってるかしら?」
亜鳥先輩は俺の質問に同じく妹を持つ先輩の立場として妹の育て方のアドバイスを送る。シンプルかもしれないけど、この基礎を貫けば妹は良い子になるってわけか⋯水花さんがシスコンすぎるのは問題ではあるが、それしか問題は無いのが現実だから基本は良い子に育ってるのだろう。その中で俺はたまに優にきつく怒ったり暴言を吐いたりすることもしばしばあったからそこは改善しねえとな。
「ありがとうございます。十分答えになってますよ⋯参考にして優をちゃんとまともな子にしますので、これからも俺と兄と姉としてお互いに切磋琢磨しましょう!」
「そうね。秀くんとはもっと一緒に頑張りたいと私も思ってるわ⋯これからもよろしくね♪」
「亜鳥先輩⋯」
「「お姉ちゃん(お兄ちゃん)!私達、仲良くなりました〜♪」」
「ねっ、優ちゃん!」
「うん、水花ちゃん♪」
そんな2人きりの時間を楽しんでいると、俺達が一緒にいることに危機感を覚えたのか優と水花さんが急に俺と亜鳥先輩の前にやって来ては仲良しアピールをしてきた。さっきまで亜鳥先輩を巡っていがみ合ってたのに⋯こういう共通認識があるとするなら最初から裏表なく仲良くしてろよって言いたい。
「あら、そうなの?良かった♪」
「仲良くなったのならお前ら、手を繋げるよな?」
「「ええっ!?」」
俺が仲良くなった証を見せるために手を繋ぐことを要求すると、2人は驚いて固まる。やっぱりこれは単なる表だけのアピールに過ぎないのか⋯この膠着状態がしばらく続いた。
「どうしたんだ?2人とも、仲良くなったんだろ?ほら、手を繋いで!」
「「ぐぐぐ⋯」」
そして、2人はちょっと苦しい表情をしながらも何とか手を繋いだ。仲良くなったはずなのにこれとは⋯やっぱり表面上のアピールだったな。
「うんうん、とっても仲良しね♪」
(いや、仲悪いじゃないですか⋯先輩の目は節穴!?)
「じゃあ、次はどこ行きましょうか?」
「お姉ちゃん、私⋯あの船が揺れるやつ乗りたい!」
「良いわよ。秀くんも乗る?」
「俺も乗るに決まってるじゃないですか。遊園地に来て絶叫マシン乗らないってセンスないですから。」
「まあ、秀くんったら⋯バトル漫画の主人公みたいで頼りになるわね。かっこいい♪」
「コヒュッ!?」
俺は亜鳥先輩から『かっこいい』と言われて思わずコヒュってしまう。これってもしかして脈あり?何か妹ズがめちゃくちゃ嫉妬してるけど⋯やっぱ男に産まれて良かったよ。
「たまたま空いてて良かったですね。」
「ですね〜。」
そんなこんなで俺達は水花さんが指定した船に乗って揺られるやつ⋯バイキングに乗るために順番待ちで並ぶことに。俺と亜鳥先輩の前を優と水花さんは陣取っているが、一緒に座るのかそれとも何か考えがあるのか⋯この2人は考えてることがトリッキーだから全く読めやしない。何をどうするんだ?
「これなら後ろも座れそう⋯」
「ですよね〜。」
(後ろに座るのが狙いなのかこいつら⋯本当に仲良くなって隣同士になるってのか?)
「秀くんって絶叫マシンは得意なの?」
「俺ですか?よほどじゃない限りは得意ですよ。どうせバイキングでしょ?たかが知れてますって!亜鳥先輩はどうですか?」
「私はそうね⋯特に苦じゃないかしら?でも、秀くんと一緒なら楽しそうかも。できることならお隣になりたいわね⋯」
「そうなると良いですね。」
「入場でーす。」
係の人がアナウンスして順番が回ってくると優と水花さんは勢いよく走り出してビーチフラッグの飛び込みのような感じで後ろの席にダイビングする。おいおい、そんな走ると危ないし飛び込むのも危ないし⋯何が狙いなんだ?
「先輩!」
「お姉ちゃん!」
「「こっちに!」」
「後ろのここ空いてるから一緒に座りましょ♪」
(ああ⋯亜鳥先輩の隣の取り合いね。でも、残念!俺が隣なんだよなぁ⋯)
しかし、2人の張り合いはむなしく亜鳥先輩の隣はすんなり俺が勝ち取ってしまった。本当に2人が揃いも揃ってバカだから助かったよ⋯ありがとなw
(とりあえず、眼鏡は外して眼鏡入れにっと⋯)
「あら、何か書いてある。」
「何ですか⋯俺、眼鏡外したんで読んでください。」
「どれどれ⋯へぇ、このシートに座った2人は末永く添い遂げるってあるわね。」
「添い遂げる⋯(えっ、これってまさか告白して良いフラグ?でも、俺は眼鏡外してて亜鳥先輩の顔がぼやけて見えないんだけど!?大丈夫かな?)」
「どうする、秀くん⋯って、眼鏡を外した秀くんも素敵ね。本当に好きになっちゃいそう♪」
「えっ、あ⋯あの⋯俺!」
「ん?」
「俺、亜鳥先輩のことがす⋯『それでは、バイキング⋯発進しまーす♪』えっ、うわあああああ!?」
俺が亜鳥先輩に告白しようとしたその時、急にバイキングが発進する。しかも勢いが昔来た時よりも上がっていて俺の想像を遥かに上回っており、10年の時を超えバイキングはいつの間にか地獄になっていて俺は亜鳥先輩の前で叫びまくってしまった。なんて醜態⋯あれだけイキっててこれとか。最悪だ⋯
~~~~~~~~
「優谷先輩、お水買ってきましたよ?」
「ありがとう、水花さん⋯」
バイキングでの地獄を終え、俺は水花さんと2人きりになって彼女が自販機で買ってきたペットボトルの水を受け取る。ちなみに、亜鳥先輩と優は2人ともトイレに行ってしまい俺はベンチに腰かけて休んでいた⋯告白も失敗したし、心も身体もボロボロだ。
「やっと心が落ち着いたよ。ごめんね、俺のために⋯奢ってくれた分は後で払うから。」
「いえ、とんでもない⋯これはお詫びの印でもありますから。その⋯今日まで優谷先輩や妹さんに酷いことを言ってごめんなさい。私、今日のお姉ちゃんと先輩を見て思ったんです⋯お姉ちゃんは先輩のことを認めて仲良くしてるのに私だけが嫉妬のあまり意地になって子供だなって。本当に私、お姉ちゃんの妹失格です⋯」
「顔を上げなよ。俺は別に気にしてないから⋯亜鳥先輩と俺がどういう関係なのか分かってくれるだけで俺は満足だよ。俺の方こそ君を不安にして悪かった⋯」
「先輩は謝らないでください。その⋯もし良かったら私とも仲良くしてくれますか?もちろん、優さんとも仲良くすると約束します⋯だから、お友達になってください!」
水花さんはこれまでのことを謝ってから俺に友達なってくれとお願いする。やっぱり、水花さんは姉の亜鳥先輩の言ってた通りで根は良い子なんだな⋯その根の部分がしっかり出ている。
「やっと君は素直になってくれたね。俺ももちろん、水花さんと友達になりたいと思ってたよ⋯これからもよろしくな。」
「ありがとうございます!その⋯もしも、優谷先輩がお姉ちゃんと結婚したらその時は先輩のことを『お兄ちゃん』と呼んでも良いですか?」
「えっ、ああ⋯結婚まで認めちゃうんだ。結婚できたらね⋯」
「やった!あと、もう1つですけど⋯これからは『さん』付けじゃなくて優さんのように呼び捨てで呼んで同じ扱いをしてほしいです。私も名前で呼びますから⋯」
「分かった、水花⋯お前はこれからも、いつまでも、俺の友達だぞ?絶対離さねえからな。」
「はい、秀先輩♪」
こうして俺は水花ともちゃんとした友達になることができた。最初は俺にツンツンしていた彼女も姉の姿を見て俺を認めてくれたのだ⋯この先、姉の亜鳥先輩とどうなるかは分からないけども。これからもよろしくな?
おまけ
『私と秀兄』(side涼)
私、涼風涼は『秀兄』こと優谷秀を心の底から愛している。そのような感情が芽生えたのは私と優が保育園の年中の時のことで、園内のグラウンドにて優が同じ組の俗に言うガキ大将に虐められていていたところを私が守っていたのだが⋯
「涼ちゃん、逃げて⋯」
「何だ、その目は?おめー、見た目が金髪ヤンキーだからイキりやがって!女の癖に生意気だぞ?」
「生意気だぞ!」
「う、うるさい!あんたら⋯優をいじめといてごめんなさいもできないの?いい加減謝りなさいよ!ぐっ⋯!?」
「涼ちゃん!?」
私が優に謝れとガキ大将に迫ると、彼は私の胸ぐらを掴んで拳を見せつける。当然、やつは女の私の言うことなんて聞く耳を持たない⋯自分がこの保育園で1番じゃなくては気が済まないのだ。なので、やつはこうやって逆らう人は徹底的に暴力を振るっていた。
「黙れ、女が俺様に逆らってんじゃねえぞ?俺様はこの保育園で1番強いんだよ⋯分かってんのか、ああ?」
「そーだそーだ!」
「本当にあんたらって弱いね?人を虐めることでしかイキれない方がよっぽど人として弱いよ!本当に強い人は暴力なんて振るわない⋯人を助けられないあんたも、その子分のあんたも弱いね、ハッキリ言って。」
「ぐぬぬ⋯ふざけんじゃねえぞ、このクソ女⋯ぐっ!?」
「アニキ!?」
すると、遠くから何者かがガキ大将の右目に向けて石を投げてきてそれが見事に命中。ガキ大将は私を地面に下ろして目を押さえ、子分の男が心配する。誰が投げたのかとその方向を見ると⋯同じ保育園の年長にいた秀兄だ。
「これ以上、涼ちゃんと優を虐めるな!次に手を出してみろ。今度は石では済ませないぞ!」
「あれは、優谷の兄で涼風の友達の⋯どうします?」
「ちっ⋯撤退だ、覚えとけよ?」
秀兄を見たガキ大将と子分の2人組はまるでこの世の終わりを見たかのような感じで逃げ去っていく。私は助かって安心したか、腰が思わず砕けるように膝から崩れてしまった。
「優、涼ちゃん⋯大丈夫?」
「お兄ちゃん⋯優、怖かったよぉ。助けてくれてありがとう!」
「よしよし。涼ちゃんは大丈⋯!?」
「秀お兄ちゃん⋯涼も怖かった。ごめんなさい!涼が頼りないから優を酷い目に遭わせちゃって⋯涼に勇気があったらこんなことには。」
「僕の方こそごめんね。気づくのが遅くなって⋯僕がもっと早く気づいていたらこんなことにはならなかったのに。でも、涼ちゃんは偉いよ⋯女の子なのに優を守ろうと一生懸命で。こちらこそ、優を守ってくれてありがとう⋯」
「秀お兄ちゃん⋯」
優が当然ながらも兄の秀兄に甘える中で私も恐怖のあまりに割って入るように胸元に飛び込む。秀兄はびっくりしたものの私のことを優しく受け止めてくれて優しい言葉をかけた⋯それに心が温まり、私は秀兄の強さと優しさに恋する感触を覚えることになる。この時からか私は彼と一緒にいると楽しくてドキドキして⋯恋の幕開けとなった。
(9年後⋯)
「「お兄ちゃん(秀兄)、藤ヶ咲高校に合格おめでとう!」」
そして、秀兄が中3で私と優が中2の2月中旬のこと⋯秀兄が受験した藤ヶ咲高校の合格発表があって彼は無事に合格。それを祝うパーティーを行った⋯藤ヶ咲高校は私と優も色々あって後に合格して通っている学校ではあるが、地元で屈指の進学校で秀兄や頭の良い優が受けるのに相応しい高校でバカな私にとっては夢のまた夢の学校。それに受かったのだからこの日は盛大にパーティーが行われたのも当然の話である。
「ありがとな⋯優、涼。この日まで勉強を頑張ってきた甲斐があったぜ!お前らも来年高校受験だけどついてこいよ?」
「ありがとう。でも、私は二葉山高校を受けたいと思ってて。近所だし、涼ちゃんもそこを志望してるし。ねっ、涼ちゃん?」
「う、うん⋯」
優は私に志望校についての話を振ってきてそれに頷く。秀兄が藤ヶ咲高校を受けると知った時は正直どこかで落ちてしまえと思っていた自分がこの時にはいた⋯それもそうだ、私は秀兄と別の学校になるというのが本音を言うと嫌だったから。でも、その時の私の頭では秀兄と一緒の高校に通うなんて非現実的だった⋯
「そっか。高校は離れ離れになるかもしれねえけど、お前らの受験勉強の力に俺もなろうと思ってるからな⋯あと、休みの日とかは一緒に遊ぼうぜ?」
秀兄は学校は離れることになるとしても一緒だと私と優に宣言する。それから学年が1つ上がってもしばらくは秀兄とも一緒に休みの日は遊んだりとか勉強を見てもらったりとか共に時間を過ごしてきた。しかし、秀兄は秋から生徒会入りして忙しくなり、しばらく会えない日々が続く中でそんな寂しい気持ちを抱えていた私に追い打ちをかける出来事が起きたのだ。優が藤ヶ咲高校を受験⋯一見すれば秀兄と同じ高校を受けるんだと思うべきことだが、その動機は兄ではなく水鳥亜鳥。彼女に惚れたものだった⋯
「よう、涼。久しぶりだな⋯お前どうしたんだ?藤ヶ咲の過去問なんか立ち読みして⋯お前は二葉山を受けるんじゃなかったのか?」
「優谷くん、その子⋯知り合い?」
「秀兄⋯とその人は?」
「ああ、紹介するよ⋯この人は水鳥亜鳥先輩、風紀委員長をやっててウチの学校のマドンナにして優等生だよ。俺はこの人の下で風紀委員をやりながら生徒会役員をしてるんだ⋯先輩、この子は俺の幼馴染の涼風涼です。」
「水鳥⋯亜鳥。」
私が本屋で藤ヶ咲高校の過去問を立ち読みしていると、久しぶりに会った秀兄が鳥先を連れて彼女のことを紹介する。その表情を見ていると、余計に悔しさが溢れてきて腹立たしく思えてしまった⋯この人が優のハートを奪った張本人。そして、秀兄もそんな彼女と楽しそうにしているのがとにかくムカついた。
「あら、私のことを知ってるの?優谷くん⋯私ってそんなに有名人かしら?」
「そうらしいですね。学校の外でもあなたの噂はよく聞きますよ⋯とりあえず、生徒会の買い物も済ませなきゃいけないので行きましょうか。」
「あの!」
「ん?」
「私、負けないんで!」
私は先に行こうとした鳥先を呼び止めてから優や秀兄を奪われまいと宣戦布告する。鳥先は意味が分からず唖然としていて、秀兄は険しい顔をしていた⋯
「あっ、先輩⋯すみません、今日はちょっと先に帰らせていただきますね。涼と久しぶりに一緒に帰りたいので⋯」
「分かったわ。気をつけてね、お疲れ様。」
「お疲れ様でした!」
秀兄は私のさっきの言動を心配してなのか先に帰ると言って私と一緒に帰ることに⋯その時も険しい顔をしていたけど、とりあえず足並みを揃えて帰り道を2人で歩いた。
「お前、水鳥先輩に急に喧嘩を売るとかどうしたんだ?」
「⋯別に。」
「別にって⋯何もないわけないだろうが!いきなり初対面の水鳥先輩に『私、負けないんで!』ってどういう了見だ?失礼すぎるだろ⋯って、えっ?」
秀兄が説教をする中で気持ちを我慢できなくなった私は彼を建物と建物の間の路地裏に引き込んでから押し倒すような勢いで抱きつく⋯もうこの時の私は我慢の限界だった。
「涼、どうしたんだ?」
「優が⋯藤ヶ咲に行くと言い出した。それも、あの水鳥亜鳥という人に憧れて。素敵な人だとか話してるのを聞くと、優が私の前からいなくなりそうで怖くて⋯ただでさえ秀兄ともしばらく会えなくて離れ離れで寂しかったのに。ううっ⋯ぐすっ⋯」
私は自分の柄にもなく秀兄の胸の中で泣いてしまった。本当にこの時は秀兄と離れ離れになって会えなくなってたことが寂しかったし、優とも離れ離れになり鳥先に奪われそうな気がして辛かったのだ⋯その気持ちが暴発して心のダムが決壊した。
「悪かったよ、涼。お前の悩みを聞いてあげられなくて⋯優が藤ヶ咲を受けるんだな。しかも、水鳥先輩に憧れてと⋯あいつも見とれてしまったのか。」
「随分呑気なことを言えるね⋯私は焦ってるのに。しかも、あんたもあの人と仲良さげにしてて⋯秀兄は私の前からいなくならないよね?」
「当たり前だ⋯安心してくれ、俺と水鳥先輩は生徒会の間柄だから。お前の前からいなくなるなんて無理だぜ⋯そんな悲しいことを言うなよ?」
「本当に?」
「俺がいつ嘘をついたことがあるんだ?忙しいかもしれねえけど、俺はいつでも涼や優のそばにいたいと思ってる⋯だから俺のことを頼れよな?」
「ありがとう。それで、秀兄⋯私を藤ヶ咲に合格できるように勉強を手伝ってくれる?もちろん、優には内緒で。」
「涼⋯分かった、俺も時間があればいつでも協力するから。一緒に頑張ろうな?」
「うん、よろしく⋯秀兄。」
それから私は秀兄から時間の許す限り優には内緒で過去問対策を教えてもらった。この2人きりの時間はとても有意義なものになり、その勉強を積んだ結果⋯優と共に藤ヶ咲に合格して今に至るわけだ。優は私が一緒に受けに来たことを驚いていたものの一緒に受かった時は共に喜びを分かち合ったのは言うまでもない⋯とにかく、優と秀兄の隣にいるのはこの私!絶対に鳥先にも誰にも譲るつもりはない⋯あの時に私はそう心に誓った。
いかがでしたか?水花ちゃんと色々ありながらも秀は打ち解けることができて友達になれました。ここまで大変でしたね⋯最初は『お姉ちゃん泥棒』として警戒されていた彼もお姉ちゃんである亜鳥ちゃんと自然と仲良くしてる光景を見てか嫉妬していた自分が子供すぎると痛感して申し訳ない気持ちになり和解⋯本当に良かったです。とりあえず、亜鳥ちゃんととの結婚も認めた形なのでね⋯ただ、メインヒロインもメインヒロインなので覚悟はしていてください。
そんなこんなでおまけでは原作だと涼ちゃんが優ちゃんの心境の変化に揺さぶられ、にっくき相手の亜鳥ちゃんとに宣戦布告⋯という感じでしたけど、そこは活かして秀との関係性を深掘りしました。保育園の時から始まった秀との恋、そして優ちゃんと秀を亜鳥ちゃんから奪われたくないという執念⋯それから思いっきり彼に甘えましたが、その恋のパワーと嫉妬心が涼ちゃんの合格の原動力になりました。恋の力があればどんな進学校だって受かるということを具現化した涼ちゃん⋯彼女はメインヒロインだけに報われると良いですね。
その中で前々から謎の秀の幼少期の声のイメージですが、イメージCVは釘宮理恵さんです。彼女もまたアイムエンタープライズ所属で今の秀のイメージCVの大塚くんよりも先輩を幼少期の声とイメージしてますね⋯釘宮さんの少年ボイスといえば、『MAJOR』の小森(小学生時代)とか『鋼の錬金術師』のアルことアルフォンス・エルリックです。この辺りをイメージして頂ければと思いますね⋯
こんな感じで今年の投稿はこれで終了となります。2025年も本当に皆さんには色々とお世話になりました!皆さんから色んな感想やご意見を聞けて有意義な執筆活動になったと思いますね。僕が忙しくてなかなか投稿できない時も待ってくださって本当にありがとうございます!来年もまた忙しくなるかもですが、引き続き応援の方をよろしくお願いいたします。本当にありがとうございました!良いお年を。
感想、お気に入り登録、高評価をしてまた次回も4649!次回というか来年は7話分の前にオリジナル回をお届けいたします。まだ回収できてないイベントがありますのでね⋯どうぞお楽しみに!