仮面ライダーシャーマン   作:ボルメテウスさん

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明かされる世界

アデルが人間界へ弾き飛ばされた直後、あれほど張り詰めていた空気が、急に音を失った。

戦いが終わったわけじゃない。終わったのは、ただ一つの局面だけだ。そう分かっているのに、身体は勝手に息を求めていた。肺の奥が焼けるみたいに熱くて、さっきまで握っていたガンガンタマフの重みが、まだ腕に残っている。

 

「……止まった、のか」

 

そう呟いた俺の耳に、サクナヒメの低い声が返ってくる。

「止まったのではない、切れたのじゃ。危うい綱がな」

 

言い方は違うが、同じ感触だった。

今の静けさは平穏じゃない。もっと嫌なものだ。何か大きな流れが一度断ち切られ、その余波だけが、まだ世界の端に残っている。

 

タケルたちが駆け寄ってくる。

アカリの顔には安堵より困惑が先に浮かんでいた。御成は口を開きかけて、そのまま言葉を飲み込む。マコトもアランも警戒を解いていない。誰もが同じことを思っているのだろう。助かったのか、間に合わなかったのか、まだ判断がつかない。

 

その先に、あの男――いや、あの“仙人”がいた。

 

イーディス。

ようやくその名と姿が、ひとつに繋がる。

 

今まで俺たちの前で飄々としていた男と、さっきまでアデルを相手に真正面から立っていた存在が、同じ輪郭の中にいる。その事実だけでも十分に奇妙なのに、本人はまるでこちらの驚きを急かすこともなく、静かに立っていた。

 

「……あんたが、イーディス」

 

タケルの声は揺れていなかったが、そこに込められた重さは隠しきれていない。

イーディスは目を細める。その表情は穏やかに見えるのに、どこか“もう隠しきれないところまで来た”者の顔をしていた。

 

「そうだ」

 

たったそれだけの返答なのに、場の空気がまたひとつ変わる。

アカリが一歩前へ出る。怒っているのか、責めたいのか、それとも確かめたいのか、自分でも決めきれないまま口を開こうとしている顔だった。御成は御成で、いつもの勢いを失ったまま、ただ仙人――いや、イーディスを見ている。

 

俺は少しだけ距離を取って、そのやり取りを見た。

近すぎる者たちは、どうしても感情が先に立つ。責めたいのも、問いただしたいのも当然だ。けれど、その言葉の隙間から漏れてくるものの方が、今は妙に気になった。

 

イーディスは、答えている。

だが、肝心なところだけを、少しずつ外している。

 

眼魔世界。

グレートアイ。

英雄眼魂。

それらは確かに一つの流れの中で繋がっている。けれど、繋がっているという説明の仕方そのものが、どこか作り物めいていた。真実を語っているようでいて、真実の中心だけを触らせない。そんな不自然さが残る。

 

「葉様」

 

ココロワヒメの声が、内側で静かに響いた。

「……この方は、嘘はついていません」

 

「でも、全部は言ってない」

 

俺がそう返すと、ココロワヒメは小さく沈黙した。

それが、そのまま答えみたいだった。

 

サクナヒメは露骨に不機嫌だ。

「なんじゃあの男は。隠すなら隠すで、もっと上手くやれぬのか」

 

「上手く隠したら、こっちは気づかないだろ」

 

口ではそう言いながら、俺も視線を逸らせなかった。

イーディスの言葉には、責任を背負ってきた者の重さがある。だが同時に、その重さを理由に、他人に選ばせなかった者の匂いもある。

 

タケルはその矛盾を正面から受け止めようとしていた。

アカリは怒りを抑えきれず、それでも聞かなければならないと踏みとどまっている。御成は祈りたいのに、祈るだけでは届かないと知ってしまっている。

 

みんな近すぎる。

だから俺には、その歪みが少しだけはっきり見えた。

 

眼魔世界の理そのものが、どこか歪んでいる。

死を遠ざけ、生を固定し、願いを管理しようとする。そうして“完璧”に近づこうとした結果、人が人である部分まで削ってしまっている。グレートアイが世界を繋ぐ存在だとしても、その繋ぎ方がこれでは、いずれ何かが破綻する。

 

「……繋ぐ、か」

 

無意識に口に出ていた。

英雄眼魂は、過去の英雄たちの想いを今へ繋ぐものだ。なら、俺の神の眼魂は何だろうと考える。英雄とは違う。神はもっと遠い。もっと概念に近い。けれど、それでも俺が今まで手にしてきた力は、誰かと切り離された孤立したものじゃなかった。

 

サクナヒメがいて、ココロワヒメがいる。

別々の神格が、俺を通して繋がる。

違うもの同士が混ざるのではなく、違うまま支え合う。そういう“繋ぐ”力もあるのだと、今になってようやくはっきり意識した。

 

「葉?」

 

タケルの声に顔を上げる。

みんなの視線がこちらへ向いていた。話の流れを一瞬聞き逃していたらしい。

 

「いや……何でもない」

 

そう言って首を振ったが、本当は何でもなくない。

今の話はたぶん、この先の戦い方そのものに関わる。英雄眼魂と神の眼魂は違う。違うまま、同じように何かを繋いでいる。そこに意味がないはずがない。

 

その時、風が変わった。

湿っていた空気が急に冷え、どこか遠くで何か大きなものが軋む気配がする。嫌な静けさだ。さっきの戦いの余波とも違う。もっと深いところで、何かが目を覚ましつつある感触。

 

ココロワヒメの声が硬くなる。

「反応が……増えています」

 

サクナヒメもすぐに続く。

「来るぞ。今度は先ほどとは違う」

 

イーディスの顔が、ほんのわずかに険しくなった。

それだけで十分だった。次に来るものは、まだ言葉にされていない真実よりも先に、俺たちへ牙を剥く。

 

平穏なんて、最初から戻っていない。

ただ、次の災厄が息を潜めていただけだ。

 

俺はゆっくりと息を吸い、胸の奥で重なる二つの気配を確かめた。

繋ぐ力があるのなら、次はその意味を試される。

 

そんな予感だけが、妙にはっきりしていた。

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