仮面ライダーシャーマン   作:ボルメテウスさん

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真実

畳の上に落ちた夕方の光が、やけに薄く見えた。

 

大天空寺の本堂は人が多いはずなのに、妙に静かだった。声がないわけじゃない。ただ、誰も大きく息を吸えていない。言いたいことが胸の奥でつかえて、そのまま空気まで重くしているような、そんな静けさだった。

 

目の前に座る仙人――いや、イーディス長官を見ながら、俺は膝の上で手を組んだ。やっぱり同じ顔だ。けれど、今さら顔が同じなくらいじゃ足りない。問題なのは、こいつが何を知っていて、何を今まで黙っていたのかだ。

 

「……全部、話してくれ」

 

そう言ったのはタケルだった。声は静かだったが、静かだからこそ、余計に重かった。

 

イーディスは少し目を伏せてから、眼魔世界のことを話し始めた。グレートアイ。英雄眼魂。世界を繋ぐ理。言葉だけ拾えば筋は通っている。だが、肝心なところで、必ず一枚布が挟まっている。見せているようで、芯だけ触らせない話し方だった。

 

「……そして、タケルが最初に消滅したあの時なら」

 

そこまで聞いた瞬間、アカリの肩がぴくりと揺れた。

 

「仙人としての力を用いれば、蘇生の可能性はあった」

 

空気が止まる。

 

次に動いたのはアカリだった。立ち上がる音が、やけに大きく響いた。

 

「可能性があった、って何よ」

 

その声は怒鳴り声じゃない。だからこそ怖かった。

 

「それ、どういう意味? 助けられたかもしれないって、今、そう言ったのよね」

 

イーディスは否定しない。黙って受け止めるように目を上げる。その態度が、余計に火を注いだ。

 

「何で言わなかったのよ!」

 

声が裂けた。積もっていた疲れも、焦りも、悔しさも、全部そこに混じっていた。

 

「タケルがどんな気持ちでここまで来たと思ってるの。私たちが、どんな思いで――」

 

最後まで言い切れず、アカリは息を飲んだ。御成も耐えきれなかった。

 

「そうですとも! タケル殿は、ずっと……ずっと皆のために戦ってこられたのですぞ! それを、そのようなことを、何故今まで……!」

 

御成の顔は真っ赤で、拳は震えていた。怒っているのに、泣きそうにも見えた。たぶん、その両方だった。

 

タケルは何も言わない。ただ、アカリと御成の間に視線を落としている。その横顔を見ていると、怒るより先に、皆にこんな顔をさせてしまったことを気にしているのが分かった。

 

「……お主、やはり腹が立つのう」

 

サクナヒメが、俺のすぐ横で腕を組む。見えるのは一部だけだが、今はタケルもマコトもアランも、こっちを見れば分かる顔をしていた。

 

「隠し事にも限度があるじゃろ。言えば傷つくから黙っておる、という顔ではないぞ、あやつは」

 

「えぇ」

 

ココロワヒメの声は冷えていた。

 

「言えなかった、ではなく、言わなかったのです。責められると分かった上で、なお優先した理屈が別にあるのでしょう」

 

それが、俺にも引っかかっていた。

 

イーディスは苦しそうな顔をしている。けれど、後悔だけで黙っていた顔じゃない。責められること込みで、それでも伏せるほうを選んだ奴の顔だ。つまり、まだ言い切っていないことがある。

 

「……責めるのは当然だ」

 

気づけば口が動いていた。アカリも御成も、そこで初めて俺を見た。

 

「俺だって、今の話で何も思わないわけじゃない。けど、このまま怒鳴って終わったら、それこそ何も残らないだろ」

 

アカリの目が鋭くなる。

 

「じゃあ黙って聞けって言うの?」

 

「違う」

 

首を振る。

 

「責めるべきだ。そこは間違ってない。でも、まだ聞くべきことがある。こいつは、まだ全部言ってない」

 

本堂が、もう一度静かになる。

 

イーディスはこっちを見た。ほんの一瞬だけ、目の奥が揺れた気がした。

 

「葉……」

 

タケルが小さく呼ぶ。俺はそっちを見ないまま続けた。

 

「英雄眼魂が人の想いを繋いでるなら、神の眼魂も似たようなもんだろ。まったく同じじゃなくても、何かを繋いで、誰かに渡すための力だ。だったら、ここで切っちゃ駄目だ。怒りごと、ちゃんと繋いだまま、先を聞くべきだ」

 

サクナヒメが、ふんと鼻を鳴らす。

 

「甘いと言いたいところじゃが……まぁ、今はそれでよい。怒るのも生きることのうちじゃ。なら、投げ捨てず持ったまま進めばよい」

 

ココロワヒメも静かに頷いた。

 

「わたくしも同意します。今ここで必要なのは赦しではなく、理解の継続です」

 

アカリは唇を噛んだまま、ゆっくり座り直した。御成も荒い息を吐きながら、ようやく拳を解く。

 

タケルが、ようやくイーディスへ向き直る。

 

「……聞かせてほしい。全部は無理でも、今、言えるところまで」

 

その言葉に、イーディスは長く息を吐いた。逃げるようには見えなかった。むしろ、ようやくここからだと腹を括ったように見えた。

 

けれど、その時だった。

 

風が変わる。

 

障子の向こうで、木々がざわつく。嫌な冷たさが、境内の奥から這ってきた。戦いの匂いだ。それも、さっきまでよりもっと深いところから上がってくる類のものだった。

 

「葉様」

 

ココロワヒメの声が硬くなる。

 

「新たな反応です。増えています……これは、先ほどまでの個体群とは質が違います」

 

サクナヒメも立ち上がる。

 

「話の続きは後じゃ。どうやら、向こうは待ってはくれぬぞ」

 

俺も息を吸い、ゆっくり立ち上がった。

 

怒りは、消えていない。

疑いも、解けていない。

それでも、止まっているわけにはいかない。

 

その事実だけが、今は妙にはっきりしていた。

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