「アデル、その力でお前は何がしたい!?」
問いかけた瞬間に、戦いの温度が変わるのが分かった。
言葉は橋で、同時に引き金だ。俺が話した分だけ、相手の正体が露わになる。
「世界を正す。愚かで不完全な人間により滅びへと向かう全ての世界を」
重い。
大きすぎる正義は、目の前の命を平気で踏み潰せる。だから嫌だ。
「確かに人は不完全だ。一時の感情に飲まれ、争うこともある。でも、信念があれば心は通じる!」
息が苦しい。
それでも言葉を切ったら終わる気がして、声を繋いだまま前へ出る。
「貴様ら人間の心は迷いと弱さを生む」
嫌だ。
心を弱さと呼ばれた瞬間、俺の戦う理由が空洞になりそうだった。
武器型のガンマイザーが空中で形を変え、刃にも銃にもなる“正しさ”を振り回してくる。
パーフェクト・ガンマイザーのそれは、狙いが正確すぎて、避けた先に次の刃が待っている。
俺が受ければ削られ、避ければ守るべき場所が空く。会話の隙間に攻撃が刺さる。
「タケル、距離、詰めないで。狙い、あなたです」
怖い。
ココロワヒメの声が短いほど、状況が切迫しているのが分かる。
「分かってる。俺が引き受ける!」
言いながら、俺は武器型の軌道を見た。
直線で来るならまだいい。問題は“曲げてくる”ことだ。刃が曲がるのではなく、世界の優先順位が曲げられていく。
「右。踏む位置、変えて」
足元の指示が、命綱になる。
俺は半歩ずらし、刃の通る“正しい位置”から外れる。正しさの中にいれば斬られる、という矛盾が怖い。
「確かに、心があるから人は悩み、悲しむ。でも、楽しみを知り、笑顔になれる」
痛い。
痛いのに笑顔を言うのは、嘘を言うみたいで怖い。けれど嘘じゃないから言える。
「楽しみ?私には不要だ!」
冷たい。
不要と言い切れる欠落は、強さじゃなくて空洞だと俺は思う。
武器型ガンマイザーが分裂するように増え、剣が槍になり、槍が鎖になって空間を縫ってくる。
「当てる」より「逃がさない」攻撃だ。俺の言葉も、俺の手も、逃がさないために塞ぎに来ている。
それでも、背後のココロワヒメが退路を一本だけ残す配置を作っているのが、視界の端で分かった。
「背中、私が見ます。あなたは前だけ」
熱い。
この熱は怒りじゃなくて、支えられている感覚だ。
「……ありがとう!」
礼が遅いのは分かっている。
でも礼より先に守らなきゃいけないものがあるから、言葉だけ置いて前へ出た。
武器型ガンマイザーの刃が、俺の武器へ噛みついた。
火花が散り、腕が痺れる。完璧な相手の衝撃は、受け止めるほど骨に残る。
その瞬間、ココロワヒメが一歩踏み込み、何かを起動させる気配がした。
「タケル、武器、預けて。――強化、入れます」
眩しい。
視界の白が一瞬だけ増え、世界が“切り替わる”音がした。
ココロワヒメの能力が、俺の武器へ絡みつく。
それは魔法みたいな光ではなく、構造を組み替える手つきのように静かだった。
柄の握りが馴染み直し、刃の輪郭が研ぎ澄まされ、重量配分が変わっていく。
武器型ガンマイザーの変化に“対抗する変化”を、こちらも同じ速度で走らせる。
「……何をした」
アデルの声がわずかに尖る。
尖った瞬間が、完璧のヒビだ。
「武器の可能性を、引き出しただけだ!」
口が勝手に言った。
俺の言葉が、ココロワヒメの仕事を“意味”に変換する。
武器型ガンマイザーが銃へ変じ、光弾の雨を降らせる。
俺は武器を横一文字に振り、刃で弾を“切る”のではなく“逸らす”。
当たれば終わる攻撃を、当たらない攻撃へ変える。
それが強化された武器の性格だった。
「人は1人じゃない!仲間がいるから喜びがある!」
熱い。
この台詞は祈りじゃない。合図だ。
「了解。射線、通す。今、真っ直ぐ」
ココロワヒメが短く言い、俺の前に“道”ができる。
武器型ガンマイザーの鎖が一瞬だけ絡み損ね、刃がこちらへ届く前に角度が崩れる。
その隙間は小さいが、俺には十分だった。
「仲間?弱いから群れを作り、また争う!」
違う。
弱いからじゃない。弱いからこそ、支えるんだ。
「何度も衝突し、人は学ぶ。本当の強さと、優しさを!そして目の前の苦難に、勇ましく立ち向かう!」
言いながら、俺は踏み込む。
強化された武器が軽い。軽いのに芯がある。俺の意思が遅れない。
武器型ガンマイザーが剣へ戻り、真正面から受け止めに来た。
完璧は完璧で、真正面の力も強い。
だが、こちらには仲間がいる。
ココロワヒメが作った“半拍の遅れ”が、完璧に混ざっている。
「天空寺タケル。人間は変わることはない」
冷たい断言が来る。
でも、その断言はもう俺を止めない。止められない。
「人は変われる!人には、無限の可能性がある!」
俺は叫び、武器を振り抜いた。
強化された一撃は、破壊ではなく“突破”の性質を持っていた。
武器型ガンマイザーの形が崩れ、光が散り、完璧の一部が撤く気配がする。
「タケル、追わないで。次が来る」
ココロワヒメの声が短く、硬い。
その短さが、また現実だ。
「分かってる。――でも、止める。必ず」
息が荒い。
それでも武器の握りはぶれない。
一人じゃないという事実が、俺の腕の中で確かな重みになっていた。