武器型のガンマイザーが砕けた、その一瞬だった。
押し返した手応えはあった。けれど、あれで終わる相手じゃない。散った光の奥で、パーフェクト・ガンマイザーの中心が脈を打つのが見えた。完璧に見えるくせに、ほんのわずかだけ処理が遅れた。そこに生まれた綻びを、今度は逃さず噛み千切る番だと、身体の方が先に理解していた。
「葉様、今です」
ココロワヒメの声が短い。短い時ほど、迷いがない。
「あぁ!」
返した瞬間、ドライバーに指を走らせる。青の静けさが裏返り、胸の奥で熱が跳ねた。
『紅装転換!武、解放!』
視界が一気に前へ開く。背中で羽衣が膨らみ、空気の流れまで味方につけたような感覚が駆け抜けた。重かった世界が急に軽い。軽いのに、踏み込むたびに力が湧く。サクナヒメの“武”が、俺の骨と筋にそのまま流れ込んでくる。
「行くぞ、サクナヒメ!」
「うむ! 一気に押し込むのじゃ!」
隣では、タケルがもう走っていた。真っ直ぐだ。迷いも、恐れも、抱えたまま、それでも前へ出る走り方だった。その背中があるから、俺は横へ並べる。先に行かせるんじゃない。置いていかれるでもない。ただ、同じだけ前へ出る。
パーフェクト・ガンマイザーが、両腕を広げる。触手、刃、砲口。全部が同時にこちらを向いた。さっきまでなら、その多さだけで息が詰まったはずだ。けれど今は違う。多いなら多いなりに、捌き方がある。
「左、二歩目で跳んで!」
ココロワヒメの指示に従って地を蹴る。直後、足元を裂くように刃が走った。半拍遅れていたら足を持っていかれていた。だが、その半拍を作ってくれる奴がいる。
「助かる!」
「礼は後です。前だけ見てください」
それで十分だった。
タケルが正面からセイバーを叩き込み、相手の意識を中央へ寄せる。そこへ俺が横から潜り込む。ガンガンタマフを振り抜くと、赤い軌跡が装甲の継ぎ目を薙いだ。硬い。だが、斬れないほどじゃない。手応えの中に、さっきまでなかった乱れが混じる。完璧なはずの防御が、二人分の速さに追いついていない。
「まだだ!」
タケルが弾かれても、その隙に俺が入る。俺が触手を払えば、今度はタケルが踏み込む。息を合わせるというより、互いの覚悟が噛み合っている感じだった。正面を受ける強さと、横から抉る速さ。その両方を、パーフェクト・ガンマイザーは一度に処理しきれない。
「っ……!」
初めて、相手の動きに鈍りが出た。防ぐ向きがずれる。伸びた触手が空を切る。完璧であることに慣れたものほど、崩れた時は脆い。そう思った瞬間、胸の奥で熱がさらに膨らんだ。
「見えたのう!」
「あぁ、今なら届く!」
俺は羽衣を翻し、ほとんど地面を滑るように距離を詰めた。タマフの柄が、掌に吸い付く。重さも長さも、今の身体にはもう余計なものじゃない。振るうためにある。斬り込むためにある。そう言わんばかりに馴染んでいた。
パーフェクト・ガンマイザーが、こちらを押し潰すように巨大な腕を振り下ろす。受ければ終わる。だが、その腕が落ち切るより早く、俺は懐へ潜った。
「タケル!」
「分かってる!」
声だけで十分だった。タケルの一撃が正面から核の位置を揺らし、俺の斬撃が脇腹を裂く。鈍い光が散る。敵の全身から、わずかに均衡が崩れる気配が伝わってきた。
「今です、二人とも! 次で決められます!」
ココロワヒメの声が、戦場の空気を一本に束ねた。
息が荒い。腕も熱い。けれど、止まる理由にはならない。隣を見ると、タケルも同じだった。消耗している。それでも、目だけは死んでいない。むしろ、ここからだと言っている。
「……やれるな」
「もちろんだ」
短い返事に、笑いそうになる。こんな状況で笑う余裕なんてないはずなのに、不思議と不安はなかった。仲間がいる。支える声がある。だから前へ出られる。その当たり前みたいな事実が、今は一番強い。
俺たちは、同時に距離を取った。
パーフェクト・ガンマイザーもまた、崩れかけた姿勢を立て直し、こちらを睨み返してくる。採掘場の風が、三つの影の間を吹き抜けた。砂が舞い、陽の光がその向こうで白く揺れる。
「サクナヒメ」
「うむ。今度こそ、穿つぞ」
「タケル」
「ああ。次で終わらせる」
俺はガンガンタマフを構え直した。タケルもまた、必殺の一撃のために深く腰を落とす。戦場の音が、そこで一度遠のいた。
次の一撃で、決める。
その確信だけが、胸の奥で静かに燃えていた。