本堂に残っていた重たい空気は、悲鳴みたいな警報音で一気に裂かれた。アカリの機材が甲高く鳴り、俺は反射で外へ飛び出す。境内に立った瞬間、今までの眼魔ともガンマイザーとも違う気配が、肌にまとわりついた。
「……何だ、こいつら」
門の上に、三つの影が並んでいた。黒。だがネクロムとも違う。毒々しいまでに均一で、仮面の奥に人の熱がない。1人は大剣を肩に担ぎ、もう1人は銃口をこちらへ向け、最後の1人は妙に軽く首を傾げている。目的だけを持って来た目だった。
「英雄眼魂を渡せ」
乾いた声が落ちる。交渉じゃない。確認ですらない。奪うと決めた者の言葉だ。
「嫌じゃな。英雄を物みたいに数える目が気に食わぬ」
サクナヒメが吐き捨てる。ココロワヒメも即座に続いた。
「葉様、注意を。系統が違います。眼魂の力を模していますが、眼魔ともガンマイザーとも反応が噛み合いません」
タケルが俺の横へ並ぶ。マコトもアランも、もう構えていた。話し合う時間はない。次の瞬間、三人は同時に跳んだ。大剣の一撃が正面から叩きつけられ、銃撃が角度を変えて回り込み、もうひとりがその死角を縫って本堂へ滑り込もうとする。
「御成、下がって!」
タケルの声と同時に俺も踏み込む。ガンガンタマフで大剣を受ける。重い。受けた腕の骨まで軋む。だが押し返せない重さじゃない。横から入った銃撃をココロワヒメの指示で半歩ずれて避け、侵入を狙った影へ蹴りを叩き込む。
「分担しています。前衛、攪乱、奪取。かなり嫌な連携です」
「分かる!」
返しながら、紅へ切り替える。サクナヒメの熱が脚へ走った。速さで崩すしかない。俺が間へ割って入ると、タケルが正面を押し、マコトが射線を潰し、アランが横からねじ込む。それでも三人は引かない。目的が英雄眼魂だけに絞られている分、攻め筋が迷わなかった。
「ちっ、しぶといな!」
思わず漏れた声に、相手の1人が初めて笑った。気味の悪い、薄い笑みだった。
「確認は済んだ。ここでは回収しない」
その言葉と同時に、三人の足元に暗い紋様が広がる。退く。そう理解した瞬間、俺の背中を何かが押した。
「葉様、追ってください」
「うむ。逃がせば、別の場所で奪うだけじゃ」
ココロワヒメとサクナヒメの声が重なる。俺も最初から同じことを考えていた。
「タケル!」
振り返ると、タケルは一瞬だけ悔しそうに歯を噛んだ。けれど、すぐに首を振る。その横で仙人――イーディスが低く告げる。
「おぬしらは行けぬ。位相がずれておる。しかもアデルを放ってはおけん」
正しい。正しいのが腹立たしい。今のタケルたちは、こっちへ来られない。なら、行くのは俺しかいない。
「分かった。こっちは俺が追う」
タケルがまっすぐ俺を見る。
「無茶するなよ」
「そっちこそ」
それだけで十分だった。俺は三つの影が消えた暗がりへ踏み込む。空気の温度が変わる。世界の継ぎ目を無理やりこじ開けたみたいな、嫌な感触が足元を這い上がった。
「行くぞ、サクナヒメ、ココロワヒメ」
「うむ!」
「はい。追跡先、固定します」
次の一歩で、景色が反転した。大天空寺の匂いが遠ざかり、知らない戦場の気配だけが濃くなる。
英雄眼魂を狙う敵。
本編の戦いとは別の、だが確実に繋がったもう一つの火種。
逃がしたら終わりだ。
俺はそのまま、闇の奥へ走った。