仮面ライダーシャーマン   作:ボルメテウスさん

117 / 121
精霊の導き

 淡い灯火が、崖道の上を走っていた。

 

 さっきまでダークネクロムBの弾丸に削られていた道が、今は別の形で俺の前に伸びている。石の道じゃない。空中に浮かぶ、小さな精霊の光。踏み出せば消え、次の一歩の先にまた灯る。頼りなく見えるのに、不思議と足元は揺らがなかった。

 

「葉さん、次は右上です!」

 

 ヒヌカヒメの声が、風の中を抜けて届く。

 

「ああ!」

 

 俺は返事と同時に跳んだ。ダークネクロムBの銃弾が、さっきまで俺のいた場所を貫く。空中で灯った精霊の足場を踏み、さらに上へ抜ける。弾道が読めるわけじゃない。けれど、弾が来るより少し早く、足元の灯火が震える。そこに立つな、と精霊たちが教えてくれる。

 

「射線が定まらない……!」

 

 Bの声に、初めて焦りが混じった。

 

「さっきまで好き勝手に潰してくれたな」

 

 俺はガンガンタマフを構え、精霊の道を蹴って一気に距離を詰める。

 

「今度は、こっちが道を選ぶ番だ!」

 

 Bが後退しながら銃を連射する。弾は正確だ。真正面から受ければ一瞬で足を止められる。けれど、ヒヌカヒメ魂は真正面から突っ込むための力じゃない。撃たれる前に道を変える。塞がれた場所を捨て、まだ残っている場所を繋ぎ直す。

 

 その一方で、崖道の下ではゼロスペクターがダークネクロムRとぶつかっていた。

 

 Rの大剣が振り下ろされるたび、地面が低く鳴る。ベンケイの重さを纏った一撃は、受けるだけで身体を地面へ縫いつけるようだった。ゼロスペクターはそれを正面から受ける。流し、踏み込み、押し返す。だが、一撃ごとに深海大悟の肩がわずかに沈んでいるのが見えた。

 

「大悟さん!」

 

「俺を見るな!」

 

 仮面の奥から、短い声が返る。

 

「お前はBを崩せ。こいつは俺が止める」

 

 強い声だった。けれど、余裕がある声じゃない。負担を隠すために、あえて強く出している。そう分かってしまうから、余計に胸の奥が熱くなる。

 

「葉様、長くは持ちません」

 

 ココロワヒメの声が冷静に告げる。

 

「ゼロスペクターは強いですが、反動が大きすぎます。次で決める準備を」

 

「分かってる!」

 

 俺はBへ斬りかかる。ガンガンタマフの刃が銃身を弾き、火花が散った。Bはそのまま身を引き、二丁の銃を構える。撃つ。だが、弾丸が来る前に俺の足元へ別の光が灯る。

 

「こっちです!」

 

 ヒヌカヒメの声が道を指す。俺は迷わず踏んだ。弾丸は肩の横を抜け、背後の岩を砕く。砕けた岩片の間を潜りながら、俺はBの懐へ入る。

 

「くっ……!」

 

 Bが銃を捨てるように後ろへ跳ぶ。そこへRが反応した。

 

「B、下がれ!」

 

 Rの大剣が横薙ぎに振るわれる。俺とBの間を断つつもりだ。だが、その大剣をゼロスペクターが受け止めた。

 

 金属音が崖道に響く。

 

「行け、葉!」

 

 大悟の声に、俺は足を止めなかった。

 

「はい!」

 

 だが、Bもただ逃げるだけじゃなかった。崖上へ跳び、銃口をこちらではなく、精霊の灯火へ向ける。

 

「ならば、足場ごと撃つ」

 

 連射。

 灯火がいくつも撃ち抜かれ、空中にあった道が途切れる。俺の足が空を踏む。身体が落ちる。

 

「葉さん!」

 

 ヒヌカヒメが叫ぶ。

 

 落下の一瞬、風の音が近くなった。下は岩場だ。落ちればただでは済まない。それでも、怖さより先に、不思議な確信があった。

 

 まだ終わっていない。

 

 胸の奥で、ヒヌカヒメ魂の光が温かく鳴った。途切れた灯火のさらに先に、細い光が生まれる。一つじゃない。二つ、三つ、弧を描くように連なっていく。

 

「精霊たちは、一つの道だけを知っているわけじゃありません!」

 

 ヒヌカヒメの声が震えながらも、はっきり響いた。

 

「壊されても、また別の道があります!」

 

 俺はその光を踏んだ。

 落ちる身体が止まり、今度は横へ流れる。Bの射線が追いつかない。俺は灯火を蹴り、弧を描いてBの背後へ回り込む。

 

「射線の外に――」

 

「違う」

 

 俺はガンガンタマフを振り抜く。

 

「射線そのものを、外したんだ!」

 

 一撃がBの肩を裂く。黒い装甲にひびが走り、銃口が片方砕けた。Bが苦しげに後退する。

 

 その時、Rが吠えた。

 ゼロスペクターを押し潰すように大剣を振り上げる。今までで一番重い。受ければ大悟の身体が持たない。そう思った瞬間、俺の背中から精霊の灯火が飛び、ゼロスペクターの足元に輪を作った。

 

「大悟さん、足元!」

 

「……助かる」

 

 ゼロスペクターが踏み込む。灯火が衝撃を逃がすように広がり、Rの重撃を真正面から受けても膝が沈まない。

 

「何……!」

 

「重さだけでは、もう止められん」

 

 大悟の声が低く響く。

 ゼロスペクターが剣を押し返し、Rの体勢を崩す。

 

「葉!」

 

「ああ!」

 

 俺はBを睨み、ゼロスペクターはRを押し込む。

 二体の連携は、もうさっきまでの精度を失っていた。Rが前へ出てもBの射線が合わない。Bが撃とうとしても、Rの位置が邪魔になる。俺たちの動きが速くなったんじゃない。ヒヌカヒメ魂が作る道が、敵の計算を半歩ずつずらしている。

 

「葉様、今です」

 

 ココロワヒメの声が、戦場を一点へ束ねた。

 

「敵の連携は完全に切れています。次で決着を」

 

 サクナヒメが笑う。

 

「行け、葉。道は開いた。あとは蹴り抜くだけじゃ!」

 

 ヒヌカヒメも前へ出た。

 怖さはまだ残っているはずだ。けれど、その目は逃げていない。

 

「わたしが、二人の道を繋ぎます」

 

 淡い灯火が、俺とゼロスペクターの足元から同時に伸びた。崖道の上に、光の軌道が二本走る。一本は俺からBへ。もう一本はゼロスペクターからRへ。途中で絡み、ほどけ、最後には同じ呼吸で空へ向かう道になっていた。

 

 大悟がこちらを見る。

 

「合わせられるか」

 

「合わせます」

 

 俺は短く答えた。

 

「ここで倒す」

 

「ああ。子供たちの未来を、あいつらに渡すわけにはいかん」

 

 ダークネクロムRとBが同時に構える。

 Rは大剣を盾のように掲げ、Bは残った銃口をこちらへ向ける。最後の迎撃。そのつもりだろう。だが、もう遅い。

 

 俺とゼロスペクターは、同時にドライバーへ手をかけた。

 

『ダイカイガン!ゼロスペクター!オメガドライブ!』

 

『ダイカイガン!ヒヌカヒメ!オメガドライブ!』

 

 音声が重なる。

 精霊の灯火が一斉に燃え上がった。熱い炎じゃない。道を照らす光だ。俺の足元を支え、ゼロスペクターの踏み込みを導き、崖道の上に一瞬だけ確かな軌道を描く。

 

「精霊たちが、道を開きます!」

 

 ヒヌカヒメの声が響く。

 

 俺たちは跳んだ。

 

 ゼロスペクターの蹴りは重く、真っ直ぐだった。

 父として、守る者として、退かない意志がそのまま形になったような一撃。

 

 俺の蹴りは、灯火の道を走るようにBへ伸びる。

 射線はもう意味を持たない。Bの銃弾は俺の足元を追うが、精霊の道が半拍ずつ軌道を変え、全て外へ流していく。

 

「重さを……越えるだと!」

 

 Rの叫び。

 

「射線が、読めない……!」

 

 Bの声。

 

 次の瞬間、二つの蹴りが同時に届いた。

 

 ゼロスペクターの一撃がRの大剣ごと装甲を貫く。

 俺の蹴りがBの銃口を越え、胸の中心を撃ち抜く。

 

 光が爆ぜた。

 黒い装甲が砕け、赤と青の残光が空へ散る。RとBの姿が大きく揺らぎ、同時に崩れていった。

 

「……道を、繋がれたか」

 

 Bの声が、風に溶ける。

 

 Rは最後まで大剣を握ろうとしていたが、その手も光になって消えた。

 

 崖道に、静けさが戻る。

 

 俺は着地し、膝を少しだけ沈めた。

 息が荒い。ヒヌカヒメ魂の光がまだ足元で揺れている。隣ではゼロスペクターがゆっくりと立ち上がり、肩で息をしていた。

 

「大悟さん、大丈夫ですか」

 

「……ああ。まだ、倒れるわけにはいかん」

 

 声は疲れていた。だが、折れてはいない。

 

 ヒヌカヒメが駆け寄ってくる。

 

「二人とも、無事でよかった……」

 

 その言葉に、俺は小さく頷いた。

 

「ヒヌカヒメのおかげだ。道がなかったら、届かなかった」

 

「わたしだけじゃありません。精霊たちも、皆さんも、一緒に……」

 

 言いかけて、ヒヌカヒメは少し照れたように目を伏せた。

 

 サクナヒメが満足げに腕を組む。

 

「ふふん、なかなかよい戦いであったぞ」

 

 ココロワヒメは、塔の方角を見ていた。

 

「ですが、ここで終わりではありません。道は開きましたが、塔はまだ先です」

 

 その言葉で、俺も顔を上げる。

 

 遠くに塔が見える。

 雲を突くように立つそれは、さっきよりも近く、そしてずっと重く見えた。

 

 ダークネクロムRとBは倒した。

 でも、まだ終わっていない。アルゴスも、ダークゴーストも、この先にいる。

 

 俺はヒヌカヒメ魂の灯火が消えないうちに、塔へ続く道を見た。

 

「行こう」

 

 大悟が頷く。

 

「ああ。ここからが本番だ」

 

 精霊の灯火が、もう一度だけ淡く揺れた。

 まるで、先へ進めと言うみたいに。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。