砕けた機械兵士の残骸が、屋上の床を転がっていた。
蒼い火花はまだ消えていない。ココロワヒメ魂の術式が、塔の紋様と擦れ合いながら細く鳴っている。俺はガンガンタマフを握り直し、距離を取ったダークゴーストを睨んだ。
アルゴスは、焦っていなかった。
「創造の神気。発明、解析、構築……なるほど」
「人の力を勝手に品定めするな」
「品定めではない。理解だ」
その声が、妙に冷たい。
次の瞬間、アルゴスは新たな眼魂を取り出した。
「ならば、答えを出す前に、問いをずらせばいい」
『カイガン!イッキュウ!迫るピンチ!冴えるとんち!』
空気が変わる。
さっきまでの三角形の冷たい圧が消えた代わりに、足元の感覚が曖昧になった。見えている床と、踏んでいる床が少しだけずれている。砕けた機械兵士の腕が、俺の術式に従って組み上がろうとした瞬間、関節の向きが逆へ曲がった。
「っ……構造式が成立しません!」
ココロワヒメの声が鋭くなる。
「壊されたのか?」
「違います。答えをずらされています。砲身になるはずの部品が、足場として組まれてしまう」
俺はもう一度、ガンガンタマフを床へ突き立てた。
蒼い術式が走る。だが、起き上がった機械兵士は武器を構える前に、まるで意味のない方向へ腕を伸ばした。敵を狙うはずの銃口が、空へ向いている。
アルゴスが静かに笑う。
「正しい答えへ辿り着けぬなら、発明はただのがらくただ」
「ふざけた真似を……!」
踏み込もうとした瞬間、床に二つの道が見えた。
右は近い。左は遠い。近い方を選べば届く。そう思った瞬間、胸の奥で嫌なざわめきが走る。
「葉さん、右は違います!」
ヒヌカヒメの声が飛んだ。
俺は反射で左へ跳ぶ。直後、右の床がくるりと沈み込み、そこへ座禅の姿勢を取った一休魂が高速回転で突っ込んできた。床石が砕け、破片が頬をかすめる。
「避けるべきは本体か、影か」
アルゴスの声が、問いの形をして俺を縛ろうとする。
「どっちも違う!」
ヒヌカヒメ魂へ切り替える。
蒼い歯車の光が引き、淡い緋色と橙の灯火が足元へ広がった。
『カイガン!ヒヌカヒメ!スピリット!リンク!巡る灯火!導け精霊!』
世界の見え方が変わる。答えが分かるわけじゃない。けれど、偽物の道は音が違う。薄い。乾いている。精霊たちの声が、そこだけ沈んで聞こえた。
「葉さん、下です。床の下から来ます!」
「ああ!」
俺は灯火を踏んで跳んだ。
ザゼンアタックが足元を削り、塔の屋上に丸い傷を作る。空中でガンガンタマフを振るうが、一休魂は回転方向を変えて逃げる。浅い。だが、追える。
「問いに答えなければ、先へは進めない」
「違うな」
俺は灯火の一つを踏み、回り込む。
「お前の問いに付き合う必要がないだけだ!」
精霊の道が一瞬だけ真っ直ぐ通った。俺はその上を駆け、ガンガンタマフを横薙ぎに振るう。刃が一休魂の肩を裂き、黒い装甲に火花が散った。
アルゴスが数歩退く。
「迷わせても折れぬか」
「こっちは、信じる声を選んでるんだ」
「ならば、選ぶ暇も与えなければいい」
その言葉と同時に、また眼魂が変わる。
『カイガン!ナポレオン!起こせ革命!それが宿命!』
空気が重くなった。
一休魂のつかみどころのない気配が消え、代わりに正面から押し潰すような威圧が来る。ダークゴーストの手にしたガンガンセイバーの輪郭が濃くなり、刃の周囲に黒いエネルギーが巻きついた。
「道を選ぶ暇も、声を聞く間も不要だ」
アルゴスが一歩で間合いを詰めた。
「圧倒すれば、すべて沈黙する」
重い斬撃が来る。
灯火が進路を示すより早い。俺はガンガンタマフで受けるが、腕ごと弾かれた。装甲に火花が走り、身体が宙へ浮く。
「葉さん!」
「ヒヌカヒメ魂の足場が、出力で押し潰されています!」
空中で視界が回る。
下には屋上。正面には、ナポレオン魂のダークゴースト。あの武器火力は、道を作るだけでは止められない。
「葉、替われ!」
サクナヒメの声が腹に響いた。
「ああ、分かってる!」
眼魂を握り、空中で装填する。
『カイガン!サクナヒメ!晴々咲かそう!米は力!』
灯火が引き、赫い羽衣が広がった。落下していた身体が、羽衣に支えられて姿勢を取り戻す。脚に力が戻る。ガンガンタマフを両手で構え、俺は空中からアルゴスを見下ろした。
「武で来るなら、こちらも武で応じるまでじゃ」
サクナヒメの声が熱を帯びる。
アルゴスは、強化されたガンガンセイバーをゆっくりと構えた。
「来るか、豊穣の神」
「圧倒して黙らせるって言うなら……」
俺は羽衣をなびかせ、屋上へ向けて身を沈めた。
「黙らない奴がいるって、教えてやる」
赫い羽衣と黒い刃が、次の激突を待つように揺れていた。