仮面ライダーシャーマン   作:ボルメテウスさん

124 / 124
巡礼の先へ

 エクストリーマーが一歩を踏み出しただけで、屋上の空気が沈んだ。

 

 重い。ナポレオン魂の刃とは違う。あれは武器の重さだった。今、目の前にいるアルゴスは、百の眼魂を背負ったまま、塔そのものを鎧にしたような圧を放っている。

 

「素晴らしい世界の誕生だ」

 

 その声に、俺はガンガンタマフを握り直した。

 

「勝手に終わらせるな……!」

 

 踏み込もうとした瞬間、エクストリーマーの腕が軽く振られた。たったそれだけで、見えない塊に殴られたように身体が浮く。サクナヒメ魂の羽衣が広がり、どうにか体勢を戻したが、足が床を削った。

 

「葉!」

 

「まだ、いける!」

 

 歯を食いしばって立ち上がる。

 けれど、分かってしまった。サクナヒメ魂だけでは届かない。武だけで押し通せる相手ではない。

 

 俺は双神眼魂を取り出した。

 

「なら、こっちも全力で行く」

 

「ようやくじゃな」

 

 サクナヒメの声が熱を帯びる。だが、ココロワヒメはすぐに釘を刺した。

 

「葉様、神気を不用意に高めれば、また吸収される危険があります」

 

「分かってる。でも、出し惜しみしてたら止められない」

 

 双神眼魂を起動する。

 赫と蒼の光が絡み合い、歯車と羽衣の意匠が回転した。

 

『カイガン!ソウシン!集え神々!回れ理!紅と蒼!反転装填!双神極装!』

 

 装甲が重なり、身体の内側へ二つの神気が流れ込む。

 まずは紅。武の側。

 

『紅装転換!武、解放!』

 

 俺は床を蹴った。

 サクナヒメの力が足を押し上げ、羽衣が空を裂く。ガンガンタマフを振り下ろす。だが、エクストリーマーの背中から目玉のようなユニットが飛び、羽衣の軌道へ割り込んだ。

 

「っ、読まれてる!」

 

「速い。重い。だが、足りない」

 

 アルゴスの声が冷たく落ちる。

 次の瞬間、複数の光が同時に走り、俺は屋上へ叩き落とされた。

 

「なら、理で見る!」

 

『蒼装転換!智、起動!』

 

 装甲が反転し、蒼い歯車が背中で回る。

 術式を広げ、エクストリーマーの流れを探る。百の眼魂。いや、百の力が、一つの意思に押し込められている。炎、風、雷、武器、幻影。切り替えが速すぎて、解析線が次々と引き千切られた。

 

「制御中枢があるはずです。ですが、反応が多すぎます……!」

 

「個々の声など不要だ」

 

 エクストリーマーの翼が広がった。

 黒い圧が降り、視界に無数の眼魂の幻影が重なる。怒りが胸の奥で膨らむ。悔しさが喉を焼く。焦れば焦るほど、アルゴスの装甲が濃く光った。

 

「怒れ。抗え。その感情は、私をさらに強くする」

 

「ぐっ……!」

 

「葉、呑まれるな!」

 

 サクナヒメの声が遠い。

 その時、ヒヌカヒメが小さく息を呑んだ。

 

「……聞こえます」

 

「ヒヌカヒメ?」

 

「あの中に、声があります。全部が同じ声じゃありません。泣いている声、怒っている声、まだ抗っている声……閉じ込められているだけです」

 

 エクストリーマーの翼が、ぴくりと揺れた。

 

「無駄だ。全ての魂は私の意思に従う」

 

「違います」

 

 ヒヌカヒメは一歩前へ出た。

 声は震えていた。それでも、足は止まらない。

 

「従っているんじゃありません。聞かれないまま、押し込められているだけです」

 

 双神眼魂が、彼女の言葉に反応して震えた。赫と蒼の光の隙間に、小さな灯火が生まれる。

 

「ヒヌカ……?」

 

 サクナヒメの声が揺れる。

 

「双神眼魂が、ヒヌカヒメ様の導きに反応しています」

 

 ココロワヒメが驚きを隠せないまま呟いた。

 

 ヒヌカヒメは俺を見た。

 

「葉さん。双神だけでは、あの人を止められません。武と智に、導きを繋げてください」

 

「待て、危険すぎる!」

 

「怖いです」

 

 ヒヌカヒメは、ちゃんとそう言った。

 その正直さが、かえって強く聞こえた。

 

「でも、聞こえた声を置いていけません」

 

 淡い精霊光が彼女の周囲へ集まる。

 小さな火のように、波の反射のように、いくつもの光が巡り出す。

 

「サクナヒメ様に教わりました。怖くても、立つことを」

 

「無茶を覚えるところまで似んでよいわ……!」

 

「ココロワヒメ様にも教わりました。分からないものを、分からないまま放っておかないことを」

 

「戻れる保証はありませんよ」

 

「それでも、わたしにしか聞こえない声があります」

 

 ヒヌカヒメの身体が光になった。

 手を伸ばしても、届かなかった。彼女の光は双神眼魂へ吸い込まれ、赫と蒼の間へ淡い緋色と白緑の灯火を巡らせる。

 

 眼魂が震える。

 歯車が回り、羽衣がほどけ、その間を精霊の光が巡った。混ざるのではない。押し込められるのでもない。三つの光が、それぞれの色を残したまま輪を描く。

 

「何をした」

 

 アルゴスの声に、初めて硬さが混じった。

 

 ダーウィンが静かに言う。

 

「閉じた進化に、巡る道が生まれた」

 

 俺は新たな眼魂を握った。

 胸の奥に、三つの声がある。

 

 サクナヒメの熱。

 ココロワヒメの理。

 ヒヌカヒメの灯火。

 

「三つの神を……繋ぐ」

 

 眼魂の表面に、新たな名が浮かぶ。

 

 巡神極装。

 

 エクストリーマーが、初めて構えを変えた。

 俺は震える手で、その眼魂をシャーマンドライバーへ向ける。

 

 まだ終わっていない。

 ここから、繋ぎ直す。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった……(作者:感謝君)(原作:進撃の巨人)

信じられないと思うが聞いてくれ ▼俺は昨日までしがない大学生としてベッドに転がりながらいつも通り動画を見て惰眠を貪っていたんだ▼別にトラックに轢かれたとか、手違いで殺しちゃったから転生させるね!おじいさんにあった訳でもない▼気付けば俺はだだっ広い平原の真ん中で全裸で突っ立っていて▼鋼のような肉体に転生していたんだ▼……進撃の巨人の世界に……▼


総合評価:5555/評価:7.32/連載:127話/更新日時:2026年06月01日(月) 18:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>