仮面ライダーシャーマン   作:ボルメテウスさん

125 / 125
神舞

 新しい眼魂を握った瞬間、指先に熱が宿った。

 

 焼ける熱ではない。赫い火、蒼い歯車、淡い灯火。それぞれが違う拍で脈打ち、掌の中で輪を描く。ぶつかり合うのではなく、追い、追われ、また並ぶ。まるで見えない舞台の上で、三つの足音が順に鳴っているみたいだった。

 

 エクストリーマーがこちらを見下ろしている。

 

 黒い装甲の奥で、百の眼魂の気配がざわついていた。声にならない声が重なり、塔の屋上そのものが息を詰める。風は吹いているのに、ここだけ空気が重い。息を吸うたび、胸の奥にざらついたものが溜まっていく。

 

「まだ立つか」

 

 アルゴスの声が落ちた。

 

「ああ」

 

 俺はドライバーを見た。

 サクナヒメの熱が背中を押す。ココロワヒメの静けさが腕を支える。ヒヌカヒメの灯火が、足元に細く残っている。

 

「ここからだ」

 

 眼魂を装填する。

 

『チョーカイガン!ジュンシン!武よ実れ!智よ巡れ!導け精霊!巡神極装!』

 

 音声が塔の上へ響いた。

 

 赫い羽衣が、まず俺の周囲を一周した。次に、蒼い歯車が背後で静かに噛み合う。足元から淡い光が立ち上がり、膝、腰、胸へと昇っていく。三つの光は混ざらない。互いの色を残したまま、絡み、離れ、また近づいた。

 

 胸の中心に白銀の核が灯る。そこから金の装甲が全身へ走った。

 

 白銀の鎧。

 その上を、赤、青、淡い光の筋が呼吸に合わせて巡る。止まらない。装甲の内側で、まだ変わり続けている。

 

 右手に、フロンティアガミ・ブレードが生まれた。刃の縁に赫が走り、柄の内部で蒼い歯車が小さく鳴る。刀身の根元には、灯火のような光が揺れていた。

 

 エクストリーマーの背が開く。

 

 目玉のようなユニットが無数に浮かび、空を白く埋め尽くした。逃げ道を探す余地もない。視界の端から端まで、光の雨が迫ってくる。

 

「全ての道を塞ぐ」

 

 光が降る。

 

 俺は逃げなかった。

 フロンティアガミ・ブレードを下げ、片足を半歩引く。腰を落とす。肩の力を抜き、息を一つ、底へ沈めた。舞台の上で拍子を待つように、全身の揺れが止まる。

 

『ダイカイガン!煙盾!オメガドライブ!』

 

 掌から黒い煙が溢れた。

 

 煙は足元を這い、床の割れ目に入り込み、そこから巻き上がる。黒い幕が開くのではなく、閉じるように俺の前へ広がった。視界が煙に覆われる寸前、ブレードの柄で地面を叩く。

 

 一拍。

 

 黒煙が壁になった。

 

 煙の内側に、玄武の甲羅めいた紋様が浮かぶ。光の雨が叩きつけられ、盾の表面で白く弾けた。床が割れる。空気が震える。けれど、黒煙は散らない。煙でありながら、石より重くそこに立っていた。

 

「防いだか」

 

 アルゴスの声が煙の向こうで沈む。

 

 答える暇はなかった。

 煙はまだ死んでいない。盾として受けた煙が、今度は内側で渦を巻く。足元に風が生まれ、黒い幕の中で細い道が開いた。

 

『ダイカイガン!風雷!オメガドライブ!』

 

「……間がない」

 

 煙の内側を風が走る。

 その風へ雷が絡み、足裏から身体を押し出した。走ったという感覚はない。煙の中を、風に運ばれて滑る。雷が節目ごとに身体を弾き、進むたびに視界が切り替わる。

 

 目玉型ユニットがこちらを追った。

 

 遅い。

 

 光は残像を貫く。俺はもう横へ抜けていた。煙の幕が姿を隠し、風が進路を作り、雷が次の一歩を叩き込む。防御に使った煙が、そのまま移動の道になっていた。

 

「煙が、道に……!」

 

 ココロワヒメの声が背中で弾む。

 

 止まらない。

 

 風雷の勢いを殺さず、腰を沈める。右足が床を擦り、雷が火花になって散った。その火花へ、朱い炎が移る。羽衣が遅れて弧を描き、俺の身体の回転に巻きついた。

 

『ダイカイガン!炎武!オメガドライブ!』

 

「回れ、葉!」

 

 サクナヒメの声に合わせ、身体を捻った。

 

 赫い炎が脚へまとわりつく。ブレードの光が円の外側をなぞり、羽衣が輪を閉じる。斬ると見せて、踏み込む。踏み込むと見せて、回る。蹴りの軌道が炎の輪になり、黒い巨体の懐へ滑り込んだ。

 

 エクストリーマーの腕が上がる。

 

 防ごうとしたのが見えた。

 

 それより先に、回し蹴りが胴へ入った。

 

 鈍い音がした。

 

 黒い巨体が、初めて揺れる。足元の紋様が砕け、百の眼魂の幻影が一瞬だけ乱れた。光の奥で、いくつもの声がばらける。押し込められていたものが、わずかに息をしたように見えた。

 

「ぐっ……」

 

 アルゴスの声が歪む。

 

 俺は着地した。

 

 片膝を軽く曲げ、ブレードを横へ流す。煙はまだ床を這い、雷の残り香が足元で細く鳴っている。炎は消えない。脚から刃へ、刃から胸の核へ移り、次の色を呼び込むように巡っていた。

 

 防いだ。

 走った。

 蹴り込んだ。

 

 それでも、舞は終わらない。

 

 胸の核が、また次の色を巡らせる。

 

「まだだ」

 

 俺は息を吸った。

 

 エクストリーマーが一歩退き、こちらを見据える。

 

「止まらぬか」

 

 その声から、わずかに余裕が剥がれていた。

 

 俺はフロンティアガミ・ブレードを構え直す。

 

「止められるまで、止まらない」

 

 足元で灯火が揺れた。

 次の演目を待つように。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

悪魔と呼ばれ慣れて 3rd(作者:ボルメテウスさん)(原作:魔法少女リリカルなのは)

『世界の破壊者・ディケイド』の力を偶然手に入れた青年・ツカサ。▼彼は、その身に数多くのライダー達の力を受け継ぎながらも、様々な世界を超えながら、ハンドレッドと戦いをくり広げていた。▼そんな戦いの最中、彼らはある世界へと来ていた。▼その世界は少女達が戦う最中、欲望を持つ者達が溢れていた。そんな者達と、戦う事になる。▼「世界が変わっても、俺は通りすがりの仮面ライ…


総合評価:189/評価:6.57/連載:170話/更新日時:2026年06月03日(水) 00:30 小説情報

転生先はストマック家でした(作者:白豆男爵)(原作:仮面ライダー)

主人公が転生したのは仮面ライダーガヴの世界。▼しかも転生先はストマック家の本来存在しない三男,ディル・ストマックであった。▼彼の存在はガヴの世界にどう影響を及ぼすのか...▼注)仮面ライダーガヴの本編視聴推奨です。


総合評価:445/評価:8.42/連載:9話/更新日時:2026年05月31日(日) 02:31 小説情報

ゼンレスゾーンクウガ(作者:アルティメットルパン三世)(原作:ゼンレスゾーンゼロ)

1999の技を持つ冒険家の男 五条悠介は九郎ヶ岳遺跡で発見された古代のベルトをその身につけ戦士クウガになった。▼現世に甦り、猟奇的殺人をする古代の戦闘民族グロンギ達から人々の笑顔を守る為悠介は2000番目の技としてクウガに変身し奴らとの死闘を繰り広げた。▼それから一年、最後のグロンギであるン・ダグバ・ゼバと九郎ヶ岳での一騎討ちの末に悠介はダグバを倒すも深刻な…


総合評価:291/評価:6.8/連載:41話/更新日時:2026年06月03日(水) 11:31 小説情報

現代に帰還したら、災厄級の従魔たちまで付いてきた~俺を溺愛するヤンデレ従魔たちの無双が晒された結果、魔王だと勘違いされて大バズりしています~(作者:むらくも航@書籍&コミカライズ発売中)(オリジナル現代/冒険・バトル)

少年『久遠カナタ』は転移した異世界から現代日本に帰還した。だが、現代では一日しか時間が経っておらず、色々と不思議な事が起こっていた。▼ダンジョンが出現していたこと。▼ダンジョン配信が流行していたこと。▼そして何より、異世界から従魔達が付いてきたこと。▼現代の魔物に比べ、最強の従魔達は明らかに過剰な戦力だ。従魔が暴走する度、主のカナタは勝手に崇められ、大きな注…


総合評価:242/評価:6/連載:57話/更新日時:2026年04月08日(水) 07:06 小説情報

【急募】うちの魔法少女が光堕ちしそうなんだが(作者:guruukulu)(オリジナル現代/冒険・バトル)

どうすればいいと思う?▼「「「見守れよ」」」


総合評価:1777/評価:8.38/連載:3話/更新日時:2026年05月12日(火) 19:01 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>