仮面ライダーシャーマン   作:ボルメテウスさん

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神舞

 新しい眼魂を握った瞬間、指先に熱が宿った。

 

 焼ける熱ではない。赫い火、蒼い歯車、淡い灯火。それぞれが違う拍で脈打ち、掌の中で輪を描く。ぶつかり合うのではなく、追い、追われ、また並ぶ。まるで見えない舞台の上で、三つの足音が順に鳴っているみたいだった。

 

 エクストリーマーがこちらを見下ろしている。

 

 黒い装甲の奥で、百の眼魂の気配がざわついていた。声にならない声が重なり、塔の屋上そのものが息を詰める。風は吹いているのに、ここだけ空気が重い。息を吸うたび、胸の奥にざらついたものが溜まっていく。

 

「まだ立つか」

 

 アルゴスの声が落ちた。

 

「ああ」

 

 俺はドライバーを見た。

 サクナヒメの熱が背中を押す。ココロワヒメの静けさが腕を支える。ヒヌカヒメの灯火が、足元に細く残っている。

 

「ここからだ」

 

 眼魂を装填する。

 

『チョーカイガン!ジュンシン!武よ実れ!智よ巡れ!導け精霊!巡神極装!』

 

 音声が塔の上へ響いた。

 

 赫い羽衣が、まず俺の周囲を一周した。次に、蒼い歯車が背後で静かに噛み合う。足元から淡い光が立ち上がり、膝、腰、胸へと昇っていく。三つの光は混ざらない。互いの色を残したまま、絡み、離れ、また近づいた。

 

 胸の中心に白銀の核が灯る。そこから金の装甲が全身へ走った。

 

 白銀の鎧。

 その上を、赤、青、淡い光の筋が呼吸に合わせて巡る。止まらない。装甲の内側で、まだ変わり続けている。

 

 右手に、フロンティアガミ・ブレードが生まれた。刃の縁に赫が走り、柄の内部で蒼い歯車が小さく鳴る。刀身の根元には、灯火のような光が揺れていた。

 

 エクストリーマーの背が開く。

 

 目玉のようなユニットが無数に浮かび、空を白く埋め尽くした。逃げ道を探す余地もない。視界の端から端まで、光の雨が迫ってくる。

 

「全ての道を塞ぐ」

 

 光が降る。

 

 俺は逃げなかった。

 フロンティアガミ・ブレードを下げ、片足を半歩引く。腰を落とす。肩の力を抜き、息を一つ、底へ沈めた。舞台の上で拍子を待つように、全身の揺れが止まる。

 

『ダイカイガン!煙盾!オメガドライブ!』

 

 掌から黒い煙が溢れた。

 

 煙は足元を這い、床の割れ目に入り込み、そこから巻き上がる。黒い幕が開くのではなく、閉じるように俺の前へ広がった。視界が煙に覆われる寸前、ブレードの柄で地面を叩く。

 

 一拍。

 

 黒煙が壁になった。

 

 煙の内側に、玄武の甲羅めいた紋様が浮かぶ。光の雨が叩きつけられ、盾の表面で白く弾けた。床が割れる。空気が震える。けれど、黒煙は散らない。煙でありながら、石より重くそこに立っていた。

 

「防いだか」

 

 アルゴスの声が煙の向こうで沈む。

 

 答える暇はなかった。

 煙はまだ死んでいない。盾として受けた煙が、今度は内側で渦を巻く。足元に風が生まれ、黒い幕の中で細い道が開いた。

 

『ダイカイガン!風雷!オメガドライブ!』

 

「……間がない」

 

 煙の内側を風が走る。

 その風へ雷が絡み、足裏から身体を押し出した。走ったという感覚はない。煙の中を、風に運ばれて滑る。雷が節目ごとに身体を弾き、進むたびに視界が切り替わる。

 

 目玉型ユニットがこちらを追った。

 

 遅い。

 

 光は残像を貫く。俺はもう横へ抜けていた。煙の幕が姿を隠し、風が進路を作り、雷が次の一歩を叩き込む。防御に使った煙が、そのまま移動の道になっていた。

 

「煙が、道に……!」

 

 ココロワヒメの声が背中で弾む。

 

 止まらない。

 

 風雷の勢いを殺さず、腰を沈める。右足が床を擦り、雷が火花になって散った。その火花へ、朱い炎が移る。羽衣が遅れて弧を描き、俺の身体の回転に巻きついた。

 

『ダイカイガン!炎武!オメガドライブ!』

 

「回れ、葉!」

 

 サクナヒメの声に合わせ、身体を捻った。

 

 赫い炎が脚へまとわりつく。ブレードの光が円の外側をなぞり、羽衣が輪を閉じる。斬ると見せて、踏み込む。踏み込むと見せて、回る。蹴りの軌道が炎の輪になり、黒い巨体の懐へ滑り込んだ。

 

 エクストリーマーの腕が上がる。

 

 防ごうとしたのが見えた。

 

 それより先に、回し蹴りが胴へ入った。

 

 鈍い音がした。

 

 黒い巨体が、初めて揺れる。足元の紋様が砕け、百の眼魂の幻影が一瞬だけ乱れた。光の奥で、いくつもの声がばらける。押し込められていたものが、わずかに息をしたように見えた。

 

「ぐっ……」

 

 アルゴスの声が歪む。

 

 俺は着地した。

 

 片膝を軽く曲げ、ブレードを横へ流す。煙はまだ床を這い、雷の残り香が足元で細く鳴っている。炎は消えない。脚から刃へ、刃から胸の核へ移り、次の色を呼び込むように巡っていた。

 

 防いだ。

 走った。

 蹴り込んだ。

 

 それでも、舞は終わらない。

 

 胸の核が、また次の色を巡らせる。

 

「まだだ」

 

 俺は息を吸った。

 

 エクストリーマーが一歩退き、こちらを見据える。

 

「止まらぬか」

 

 その声から、わずかに余裕が剥がれていた。

 

 俺はフロンティアガミ・ブレードを構え直す。

 

「止められるまで、止まらない」

 

 足元で灯火が揺れた。

 次の演目を待つように。

 

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