ガンマイザーの光が、戦場の空を硬く塗り潰していた。
タケルがムゲン魂で前へ出て、マコトとアランが左右から支えている。それでも、相手の数が多い。刃のような光、重力を歪ませる圧、液体のように形を変える攻撃が重なり、三人の足元を少しずつ狭めていた。アカリたちがいる後方にも余波が届き、御成が身を乗り出しかけるたび、カノンが袖を掴んで引き戻している。
「ここで止める。これ以上、誰かの声を奪わせない」
タケルの声は揺れていなかったが、息は荒い。ガンマイザーの群れは感情のない面を並べ、囲いを縮めるように進んでくる。
「数が多い。タケル、正面を空けるな」
「分かってる!」
マコトの声に応じたタケルが踏み込む。ムゲンの光が弾け、一体のガンマイザーを押し返すが、その背後から別の個体が腕を伸ばした。アランがネクロムの一撃で受け止めるものの、包囲は崩れない。
「葉は……まだ戻らないの?」
アカリの呟きは、光の衝突音に飲まれかけた。けれど、タケルは振り返らないまま答えた。
「戻るよ。だから俺たちは、ここを守る」
その言葉が終わる前に、ガンマイザーたちの胸部が一斉に光った。複数の攻撃が束になり、後方まで飲み込む軌道で放たれる。タケルが構え、マコトとアランも前へ出るが、光の量が多すぎた。
その時、空に灯火が走った。
雲の裂け目ではない。淡い光が一本の道を描き、戦場の真上で輪を結ぶ。懐かしい声が、耳の奥へ届いた。
「道、繋がりました」
「落下角度、少し急です。葉様、受け身を」
「細かいことを言うでない。派手に戻るぞ、葉!」
「いや、派手すぎるだろ……!」
次の瞬間、白銀と金の装甲をまとった身体が空から落ちてきた。俺はフロンティアガミ・ブレードを地面へ突き立て、落下の勢いをそのまま床へ逃がす。衝撃が円を描いて広がり、迫っていたガンマイザーの光を横へ逸らした。
砕けた地面から煙が上がる。足元にはヒヌカヒメの灯火が残り、胸の巡神核を赤、青、淡い光が順に巡っていた。
「遅くなった。今、戻った!」
「葉!?」
タケルの声が弾む。アカリと御成の表情も見えたが、再会を味わうには目の前の敵が邪魔だった。ガンマイザーの一体がこちらを向き、無機質な声で告げる。
「消去します」
「帰ってきて最初がそれか。まあ、分かりやすくていい」
俺はブレードを抜き、体勢を低くした。サクナヒメの羽衣が背中で揺れ、ココロワヒメの蒼い術式がガンマイザーの配置をなぞる。ヒヌカヒメの灯火は、タケルたちへ続く細い道を示していた。
「左三体、同期が甘いです。葉様、そこから崩せます」
「右に道があります。タケルさんと繋がります」
「まずは邪魔者を払うぞ」
「ああ、行くぞ!」
俺が踏み込むのと、タケルがこちらへ合わせるのは同時だった。ムゲン魂の光が正面を開き、巡神極装の神気がその隙間を通る。フロンティアガミ・ブレードで一体の腕を弾き、返す刃で胸部の核を斬る。さらに煙が足元から立ち、ゲンブの盾のように後方を守ったかと思えば、その煙の中を風と雷が抜け、俺の身体を次の敵の背後へ運んだ。
ガンマイザーが振り向く前に、タケルの拳が光を打ち込む。マコトの斬撃が別の個体を押し返し、アランの射撃が逃げ道を塞いだ。久しぶりの連携なのに、身体の向きは迷わない。タケルの光が前へ伸びるたび、ヒヌカヒメの灯火がそこへ道を足し、ココロワヒメの術式が余計な軌道を削り、サクナヒメの力が刃を押し込んだ。
「葉、合わせる!」
「任せろ!」
二人で踏み込む。ムゲンの拳と巡神の刃が交差し、ガンマイザーの包囲が割れた。最後に残った二体が空へ逃げようとした瞬間、マコトとアランが左右から撃ち落とす。俺は落ちてきた一体へブレードを振り下ろし、タケルはもう一体を光の蹴りで貫いた。
爆発の風が抜けた後、戦場にようやく間が戻った。
「葉殿ぉぉ! よくぞ、よくぞご無事で!」
御成が走ってきて、その勢いのまま抱きつきそうになったため、俺はブレードを収めながら半歩引いた。代わりにアカリが近づいてきて、安心より先に怒った顔を向ける。
「遅い! どれだけ心配したと思ってるの!」
「悪い。ちょっと遠くまで行ってた」
「ちょっとで済む顔じゃないでしょ」
アカリの声は強いが、目元には張り詰めていたものが残っている。タケルが隣へ来て、俺の装甲と眼魂を見比べるように視線を動かした。
「無事でよかった」
「ああ。そっちもな」
マコトは短く息を吐き、肩の力を少しだけ抜いた。
「戻ったなら、それでいい」
アランは巡神極装の光を見て、静かに目を細める。
「その姿……新たな力を得たのか」
「色々あってな。話すと長い」
サクナヒメが鼻を鳴らし、ココロワヒメは説明を求められたら困る量ですと小さく添える。ヒヌカヒメの灯火が足元で揺れ、帰ってきたという実感が遅れて胸の奥へ落ちてきた。
けれど、その温度は長く続かなかった。
空気が変わる。戦場の端に、白い衣の男が立っていた。アデルだ。彼は倒れたガンマイザーの残光と、俺の胸で巡る神気を順に見た。
「なるほど。新たな力か」
タケルがすぐに前へ出る。
「アデル!」
「天空寺タケル。そして葉。お前たちの力も、やがて私の世界に必要となる」
サクナヒメの羽衣がぴんと張り、ココロワヒメの術式線が周囲へ走る。ヒヌカヒメの灯火は細いまま、まだ閉じていない道を示していた。
「また面倒なのが来おった」
「戦闘直後です。葉様、無理は禁物です」
「でも、道はまだ閉じていません」
俺はフロンティアガミ・ブレードの柄へ指をかけ、タケルの隣へ並ぶ。
「分かってる。戻ったばかりで悪いけど、もう一戦だ」
アデルは答えず、ただこちらを見る。その視線はガンマイザーよりも冷たく、アルゴスとは違う形で世界を閉じようとしていた。