ガンマイザーの放つ光が、戦場の空を薄い膜のように覆っていた。タケルはムゲン魂の輝きを前面に押し出し、マコトはディープスペクターの刃で揺れる地面を踏み締め、アランはネクロムの射撃で後方へ抜けようとする軌道を塞いでいる。それでも、五体のガンマイザーは互いの間隔を崩さず、光と炎と電撃、さらに空間を歪ませる圧を重ねながら、三人の立て直す隙を少しずつ削っていた。
「正面を抜かせるな、タケル。押し込まれれば後ろまで届く」
「分かってる。ここで止める!」
マコトの低い声に応じて、タケルが一歩前へ出る。ムゲン魂の拳が白い軌跡を描き、迫ってきたガンマイザーの胸を打ったが、その背後から別のガンマイザーが腕を伸ばし、時間の流れを引き裂くような光を戦場へ走らせた。踏み込みの瞬間をずらされたタケルの身体が半歩だけ泳ぎ、そこへ電撃が蛇のように地面を這ってくる。
アランが横合いから射撃を撃ち込むものの、ガンマイザーの放つ磁力が弾道を曲げ、光弾は別の瓦礫を砕いて散った。さらに地面を震わせる衝撃が足元から突き上がり、マコトが刃を突き立てて受け止める。三人の力は足りているはずなのに、ガンマイザーはその力が噛み合う前に流れを奪っていた。
「射線を曲げられる。正面からでは通らないか」
「なら、通るまで斬る」
アランの言葉に、マコトは短く返す。だが、マコトが踏み込もうとした瞬間、炎が壁となって進路を塞ぎ、タケルがその炎をムゲン魂の光で割る間に、別のガンマイザーが後方へ向けて胸部を光らせた。アカリたちがいる位置まで飲み込む軌道だと分かり、タケルの肩に力が入る。
「まずい、後ろまで来る!」
アカリの声が戦場の衝突音に揺れ、御成が前へ出かけたところをカノンが袖を掴んで引き戻す。タケル、マコト、アランの三人は同時に前へ並んだが、五体のガンマイザーが束ねた光は広く、重く、受け止めるには間合いが足りなかった。
その時、曇った空に細い灯火が走った。落雷ではなく、流星でもなく、誰かがこちらへ帰ってくるために引いた道のように、淡い光が戦場の真上で輪を結ぶ。
「道、繋がりました」
「落下角度、かなり急です。葉様、受け身の準備を」
「細かいことを言うでない。戻るなら派手に戻るぞ、葉!」
「いや、派手にしすぎだろ……!」
白銀と金の装甲が空を裂いて落ちてくる。俺はフロンティアガミ・ブレードを両手で握り、地面へ突き立てる形で着地の勢いを逃がした。衝撃は円を描いて広がり、足元から走った氷が光の進行を鈍らせ、風がその軌道を横へ流し、ゲンブの盾に似た神気が後方のアカリたちの前へ重なった。
「氷風盾」
ガンマイザーの一斉攻撃は消えたのではなく、道を外されて戦場の左右へ逸れていく。砕けた地面から煙が上がり、胸の巡神核を赤、青、淡い光が順に巡った。久しぶりに踏むこの場所の感触が靴底から伝わり、遠くまで行っていた時間が、遅れて身体の内側へ戻ってくる。
「遅くなった。今、戻った!」
「葉!」
タケルの声が弾み、アカリと御成の表情が視界の端に入る。けれど、再会の言葉を重ねるには、五体のガンマイザーが近すぎた。ガンマイザーの一体が無機質な面をこちらへ向け、感情のない声で告げる。
「消去します」
「帰ってきて最初がそれか。まあ、分かりやすくていい」
俺はブレードを引き抜き、低く構える。背中でサクナヒメの羽衣が揺れ、ココロワヒメの蒼い術式がガンマイザーの配置をなぞり、ヒヌカヒメの灯火がタケルたちへ伸びる細い道を示していた。
「左の三体、動きの同期に乱れがあります。そこを崩せば包囲が開きます」
「右に道があります。タケルさんの光と繋がります」
「ならば、余計な囲いを叩き割るまでよ」
「ああ、再会は後だ。まずは流れを断つ」
俺が踏み込むのと、タケルがこちらへ合わせるのは同時だった。ムゲン魂の光が正面の炎を割り、俺はその隙間にブレードを滑り込ませる。ガンマイザーの腕を弾き、返す刃で胸部の光を斬りつけると、背後から時間を歪ませるような気配が迫った。
「葉様、干渉の間隔が来ます」
「道は消えていません」
ヒヌカヒメの灯火が足元に弧を描き、風が身体を押し出し、雷が踏み込みへ熱を足す。止められたはずの一拍の中で、灯火の道だけが細く残り、俺はガンマイザーの背後へ回り込んだ。
「風雷巡」
ブレードの斬撃が背中へ入った瞬間、ガンマイザーたちの動きが一拍だけ遅れる。その遅れを逃さず、マコトが前へ出た。ディープスペクターの刃が地面を震わせるガンマイザーの衝撃波へ食い込み、砕けかけた足場を俺の氷の残滓が支える。マコトは揺れの中で踏み込みを崩さず、重い一撃でガンマイザーを後退させた。
「揺れは俺が止める。お前たちは前へ行け」
「助かる!」
アランは磁力に乱される射線を避けるのではなく、曲げられることを前提に撃った。複数の光弾がばらばらの角度で走り、ガンマイザーの磁力に引かれて軌道を変えながら、逆に逃げ場を削っていく。冷静な射撃が壁となり、タケルの進路と俺の踏み込みが交差する場所だけを残した。
「アラン、そこを閉じられるか」
「任せろ。こちらの誘導に乗せる」
タケルがムゲン魂の光を拳へ集め、俺はブレードにサクナヒメの武を乗せる。ガンマイザーが炎を広げ、電撃を絡ませて押し返そうとしたが、氷が炎の足を鈍らせ、風が熱の流れを分け、タケルの光がその中心を貫くための道を開いた。
「タケル、真ん中を抜け。道は俺が作る」
「分かった。葉、合わせて!」
二人で踏み込む。ムゲンの拳と巡神の刃が交差し、炎と電撃の壁が割れた。爆ぜた光の中でガンマイザーがよろめき、そこへマコトの斬撃が横から入り、アランの射撃が退路を塞ぐ。五体のガンマイザーはまだ倒れないが、最初にあった無機質な連携は崩れ、戦場の流れはようやくこちらへ戻り始めていた。
「葉様、五体の配置が乱れました。次で同期を断てます」
「灯火は四人へ繋がっています。届きます」
「なら、最後まで巡らせるぞ。武、機、巡、全部まとめて通す」
フロンティアガミ・ブレードの刃に、赤い武の光が宿る。蒼い術式が刃の周囲で歯車のように回り、淡い灯火がタケル、マコト、アランの足元へ伸びた。俺は深く踏み込み、ガンマイザーたちの間を繋いでいた見えない線を断つように、横薙ぎの一閃を放つ。
「武機巡」
刃が通った後、ガンマイザーたちの動きがばらけた。タケルは正面から光を叩き込み、マコトは衝撃波ごと押し返し、アランは誘導した射線を一点へ重ねる。俺は時間を歪ませようとするガンマイザーの前へ踏み込み、ヒヌカヒメの灯火が示した道に合わせて斬撃を落とした。
『ダイカイガン!武機巡!オメガドライブ!』
巡る神気が刃から足元へ流れ、さらにタケルたちの光へ繋がっていく。俺一人の一撃ではなく、四人の力が同じ場面に重なり、ガンマイザーたちを分断していた間合いを一つずつ押し潰した。タケルの光が一体を貫き、マコトの刃が一体を斬り伏せ、アランの射撃が一体を撃ち抜く。残るガンマイザーが炎を膨らませ、戦場を焼き払うように両腕を広げた。
「まだ来る!」
「タケル、最後は合わせる。炎の中心を抜け」
「ああ!」
俺はブレードを地面へ滑らせ、氷と風をもう一度巡らせる。炎の壁は厚く、正面から消し切るには重かったが、ヒヌカヒメの灯火が熱の隙間に一本の道を置き、ココロワヒメの術式が余分な流れを削り、サクナヒメの力がその道を剣舞の軌跡へ変えた。タケルのムゲン魂がそこへ飛び込み、俺の斬撃が横から炎を割る。
「ここだ、タケル!」
「うん!」
タケルの蹴りが光の柱となり、俺のブレードがその軌道を支える。二つの光は炎の中心で重なり、最後のガンマイザーを貫いた。爆発の熱が風に押し流され、戦場には砕けた光の粒だけが降ってくる。
間が戻ったのは、その後だった。さっきまで耳を塞ぐほど鳴っていた衝突音が遠ざかり、瓦礫の崩れる音と、誰かが息を吐く音だけが残る。俺がブレードを下ろすと、背中の羽衣が緩み、胸の巡神核を巡っていた光も穏やかな輪へ戻っていった。
「葉殿ぉぉ! よくぞ、よくぞご無事で!」
御成が勢いよく駆け寄ってきて、そのまま抱きつきそうになったため、俺はブレードを収めながら半歩だけ横へ避ける。代わりに近づいてきたアカリは、安心を怒りに変えたような顔で俺を見上げた。
「遅い! どれだけ心配したと思ってるの!」
「悪い。ちょっと遠くまで行ってた」
「ちょっとで済む顔じゃないでしょ。そういうところ、全然変わってないんだから」
強い声の奥に、張り詰めていたものが残っている。タケルが隣へ来て、俺の装甲と胸の巡神核へ視線を移した後、ほっとしたように笑った。
「無事でよかった」
「ああ。そっちもな」
マコトは短く息を吐き、刃を下ろしてからこちらを見る。
「戻ったなら、それでいい」
「相変わらず短いな」
「長く言う必要はない」
アランは巡神極装の光を見つめ、どこか考えるように目を細める。
「その姿、新たな力を得たのか」
「色々あってな。話すと長い」
「説明を求められた場合、かなり長くなります」
「わしの活躍を省くでないぞ」
「道は繋がりました。でも、まだ閉じていません」
三柱の声が胸の奥で重なり、帰ってきたという実感が遅れて深く落ちてくる。けれど、その温度に浸る前に、戦場の空気が冷えた。倒れたガンマイザーの残光が薄れていく向こう側に、白い衣の男が立っている。
アデルは、タケルの光と俺の胸で巡る神気を順に見ていた。ガンマイザーよりも冷たく、アルゴスとは違う形で世界を閉じようとする視線が、こちらへ向けられる。
「なるほど。新たな力か」
タケルが一歩前へ出る。
「アデル!」
「天空寺タケル。そして葉。お前たちの力も、やがて私の世界に必要となる」
サクナヒメの羽衣が張り、ココロワヒメの術式が足元から周囲へ薄く広がる。ヒヌカヒメの灯火は細いまま、まだ終わっていない道を俺たちの前へ示していた。
「また面倒なのが来おったな」
「戦闘直後です。葉様、無理は避けてください」
「でも、道はまだあります」
俺はフロンティアガミ・ブレードの柄へ指をかけ、タケルの隣へ並ぶ。戻ったばかりの身体には重さが残っているが、ここで引けば、さっき繋いだ道まで閉じられてしまう。
「分かってる。戻ったばかりで悪いけど、もう一戦だ」
アデルは答えず、ただこちらを見ていた。その沈黙の奥には、声の違いを認めず、すべてを一つの形へ押し込めようとする冷たい意志があった。アルゴスの塔で見た終わりとは違う、それでも同じように誰かの声を奪う世界が、白い衣の向こうで静かに口を開けていた。