仮面ライダーシャーマン   作:ボルメテウスさん

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アデルとの対話

 戦場に残った光は、砕けた硝子の粉のように空へ散っていた。ガンマイザーの姿はもうない。けれど、消えたはずの圧だけが地面に染み残り、瓦礫の隙間を抜ける風まで重くしている。タケルはムゲン魂の光を纏ったまま前を向き、マコトとアランも武器を下ろし切らずに周囲を警戒していた。アカリたちがこちらへ駆け寄ろうとする気配があったが、その足は途中で止まる。

 

 白い衣の男が、戦場の端に立っていた。

 

 アデルは倒されたガンマイザーの残光を見ても、惜しむ様子を見せなかった。彼の視線はタケルの光をなぞり、次に俺の胸で巡る神気へ移る。ガンマイザーよりも冷たく、アルゴスのような焦りもないその目は、最初からこちらの命ではなく、力の形だけを測っているようだった。

 

「なるほど。ガンマイザーを退けるほどの力か」

 

「アデル……!」

 

 タケルが一歩前へ出る。声に怒りはあるが、呼吸はまだ戦闘の熱を引きずっていた。俺はフロンティアガミ・ブレードの柄から指を離さず、タケルの隣に並ぶ。サクナヒメの羽衣が背中でわずかに張り、ココロワヒメの術式が足元に薄く走った。

 

「随分と落ち着いてるな。こっちは今、そっちの駒を倒したばかりなんだけどな」

 

「不要なものは消え、必要なものは残る。それだけのことだ」

 

 アデルの声には揺れがない。倒されたガンマイザーにも、傷ついた戦場にも、そこにいる人間たちにも、同じだけの距離を置いている。その言い方に、アランの表情が硬くなった。

 

「お前はまだ、命をその程度にしか見ていないのか」

 

「命ではない。世界を構成する要素だ。乱れた要素は整えられ、不要な要素は取り除かれる」

 

「それを命と呼べない時点で、お前の世界は歪んでいる」

 

 アランの声は静かだったが、その奥には眼魔世界で見てきたものへの苦さが滲んでいる。アデルはその言葉を受けても眉一つ動かさず、今度は俺の方へ視線を向けた。

 

「葉。お前の力は、天空寺タケルの力とは違う」

 

「そりゃそうだ。俺は神様たちに散々振り回されて、ここまで戻ってきたんでね」

 

「神、巡り、声、道。どれも不確かで、不完全なものだ」

 

 胸の奥でサクナヒメが鼻を鳴らす気配がした。ココロワヒメの術式線はアデルの周囲にあるわずかな歪みを測り、ヒヌカヒメの灯火は俺とタケルの足元に細い道を残している。アデルの言葉は冷たいが、その冷たさは何かを凍らせるためではなく、最初から温度というものを持たないものに近かった。

 

「不完全だから巡るんだろ。止まってたら、ただの置物だ」

 

「完全な世界に巡りは必要ない。変化は乱れを生み、乱れは苦しみを生む」

 

「違うな。完全な世界っていうのは、ただ止まった世界だ」

 

 俺の言葉に、アデルの目がわずかに細くなる。怒ったのではない。理解する必要のない異物を見つけた時のような、冷えた観察の色だった。

 

「お前の巡りは、私の世界を乱す」

 

「乱してるんじゃない。止まってるものを動かしてるだけだ」

 

「それを乱れと言う」

 

「なら、俺はその乱れでいい。声も道も巡らない世界なんて、生きてるとは言えない」

 

 アデルは答えず、次にタケルへ視線を戻した。その瞬間、タケルの纏うムゲン魂の光が一度だけ揺れる。戦闘の疲れではない。もっと奥へ手を伸ばされるような、見えない圧がタケルの周りに滲んでいた。

 

「天空寺タケル。お前は人の声を受け止める。だが、その声はお前を傷つける」

 

「それでも、俺は聞く。みんなが生きてる証だから」

 

「苦しみまで背負う必要はない。私の世界なら、声は一つになる。迷いも、痛みも、争いも消える」

 

「声を……一つに……?」

 

 タケルの足が、わずかに止まった。ムゲン魂の光が揺らぎ、そこへ遠くから押し寄せるような気配が重なる。誰かの叫び、誰かの願い、誰かの痛みが、形を持たない波になってタケルへ流れ込んでいるのが見えたわけではない。それでも、タケルの肩が一瞬だけ沈み、アカリが息を呑む音が後ろから聞こえた。

 

「タケル!」

 

 アカリが駆け出しかけ、マコトも前へ踏み出す。けれど、俺はタケルの横に立ったまま、ブレードを構えるのではなく、足元へ灯火の道を伸ばした。戦うための道ではない。タケルがその場で崩れないための、細い支えだった。

 

「タケル。声が多いから苦しいんじゃない。押し潰そうとする奴がいるから苦しいんだ」

 

「葉……」

 

「違う声は、違うままでいい。泣いてる声も、怒ってる声も、誰かを呼ぶ声も、全部まとめて消したら、それは救いじゃない」

 

 タケルの光が、まだ揺れながらも少しずつ戻る。アデルはその変化を見ても、表情を変えなかった。

 

「ならば、お前たちは永遠に苦しむ」

 

「苦しんでも動くんだよ。止まった世界で楽になるくらいなら、迷いながらでも前へ進む」

 

 タケルがゆっくり顔を上げる。ムゲン魂の光は完全ではないが、消えてはいなかった。その光の奥に、誰かの声を消すのではなく受け止めようとする意志が戻っている。

 

「そうだ……俺は、みんなの声を消したいんじゃない。ちゃんと聞きたいんだ」

 

「不完全な答えだ」

 

「それでも、俺の答えだ。アデル、俺はお前の世界を認めない。声を消して作る世界なんて、絶対に間違ってる」

 

「俺も同じだ。巡らない世界は生きてない。お前の完全は、ただの停止だ」

 

 タケルと俺の言葉が重なった時、アデルは初めてわずかに沈黙した。風が瓦礫の上を撫で、倒されたガンマイザーの残光が薄く消えていく。次に開かれたアデルの口から出た名前は、戦場の空気そのものを変えた。

 

「その言葉、かつて同じように私へ向けた男がいた」

 

「え……?」

 

「天空寺龍。お前の父だ」

 

 タケルの光が止まる。アカリの顔から血の気が引き、御成は声を出せないまま目を見開いていた。マコトはタケルを守る位置へ動き、アランはアデルを睨みつける。俺もブレードの柄へ指をかけたが、タケルが一歩前へ出たため、その横から離れなかった。

 

「父さんを……知ってるのか」

 

「知っている。彼は私の完全を拒み、人の可能性などという不確かなものを信じた」

 

「まさか……」

 

「天空寺龍は、私の世界に不要だった。だから排除された」

 

 音が消えたように感じるほど、タケルの周りだけが凍りついた。さっきまで戦場に残っていた熱も、帰還の安堵も、すべてアデルの言葉に押し流されていく。タケルの拳が震え、ムゲン魂の光が乱れた。

 

「お前が……父さんを……!」

 

「怒りも悲しみも、やがて私の世界で消える。お前の父が守ろうとしたものも、お前が背負う声も、すべて私が一つにする」

 

 タケルが感情のまま踏み出そうとした瞬間、人々の声がまた強く流れ込んだ。膝がわずかに落ち、アカリが名を呼ぶより早く、俺はタケルの肩を支えた。タケルの身体は熱を持っているのに、その奥で別の冷たいものが暴れている。

 

「勝手に決めるな」

 

 俺の声に、アデルの視線が戻る。

 

「葉。お前の巡りは、私の完全を乱す。次に会う時、その異物も消す」

 

「やれるもんならやってみろ。俺たちは止まらない」

 

「ならば、その不完全さの果てを見せてもらおう」

 

 アデルの姿が白い光に包まれ、戦場から遠ざかっていく。マコトが追おうと一歩踏み込むが、タケルの呼吸が乱れたまま戻らず、アランが無言で首を振った。今追えば、こちらの足元から崩れる。誰もがそれを分かっていた。

 

「タケル、今は追うな。お前の声まで、あいつに持っていかれる」

 

「でも……父さんが……」

 

「ああ。逃がしたくないのは分かる。でも、お前が倒れたら、龍さんが守ろうとした声まで届かなくなる」

 

 タケルは悔しさを飲み込むように唇を結び、それでも膝をつかずに立っていた。アカリが駆け寄ってきて、タケルの腕に触れる。御成は涙を堪えるように顔を歪め、カノンはマコトの隣で祈るように手を握っていた。

 

「俺は……聞かなきゃいけないんだ。父さんのことも、みんなの声も」

 

「なら、一つずつ聞けばいい。全部を一度に背負わなくていい。道は、まだある」

 

 ヒヌカヒメの灯火が、タケルの足元へ淡く伸びる。それはアデルを追うための道ではなく、タケルが自分の足で立ち続けるための道だった。胸の巡神核が静かに回り、サクナヒメもココロワヒメも、それ以上は何も言わない。

 

 アデルの消えた空には、まだ白い残光が薄く残っている。アルゴスの塔で見た終わりとは違う。それでも、声を一つに押し込めようとする冷たさは同じだった。完全という名で止まった世界が、今度はタケルの父の影まで連れて、俺たちの前に立っている。俺はブレードを収めず、タケルの隣でその残光を見据えた。道はまだ閉じていない。だから、ここで止まるわけにはいかなかった。

 

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