シャーマンの最終決戦も近く、次回の原作は、仮面ライダービルドとなります。
興味がありましたら、ぜひ。
# 本文
夜が明けても、大天空寺の空気はまだ少し重かった。境内には戦いの跡が残り、割れた石畳や焦げた柱の影が、昨夜までここにあった光と衝突音を黙って語っている。アデルが去った後、タケルは自分の中に残った怒りを押し殺すのではなく、抱えたまま前を向くと決めた。それでも、父の仇の名が胸に刺さっていることは変わらず、彼の背中には普段より深い影が落ちていた。
俺は縁側の端に腰を下ろし、境内を見ていた。巡神極装の反動は完全には抜けていない。身体の奥に重い熱が残り、胸の巡神核がまだ小さく回っているような感覚がある。サクナヒメはそれを見抜いているのか、朝から何度か「無理はするでない」と言ってきたが、言葉の調子は叱るというより、こちらの足元を確かめるものに近かった。
「葉、顔色があまり良くないです。昨日の戦闘とゲート干渉の影響が残っています」
ココロワヒメの声が内側から静かに届く。俺は軽く肩を回しながら、境内の向こうでアカリと御成が話している姿を見た。
「分かってる。でも、休んで済む状況じゃないだろ」
「それでも、倒れれば道を作れません」
ヒヌカヒメの言葉は柔らかいが、いつもより少しだけ強い。俺が返事を探していると、隣に立っていたサクナヒメが鼻を鳴らす気配を寄越した。
「タケルを一人で行かせる気がないのは分かっておる。じゃが、そなたが倒れれば、そのタケルの足まで止まるぞ」
「分かってるって。だから、倒れる前に終わらせる」
「その言い方がいちばん信用ならんのじゃ」
サクナヒメの呆れた声に苦笑しかけた時、本堂の奥から低い音が響いた。鐘でも、風でもない。大天空寺の地面そのものが奥底から震え、縁側の板がわずかに鳴る。御成が袈裟を揺らして飛び上がり、アカリはすぐに振り返った。
「今の音……地下?」
「ま、まさか、また何かが現れたのでございますか!」
御成が叫ぶのと同時に、マコトがカノンを庇う位置へ動く。アランは表情を硬くし、本堂の床下へ続く階段の方を見た。タケルも部屋の奥から出てきて、光の漏れ始めた地下への入口を見つめる。その横顔に、昨夜聞いた父の名の影がよぎったが、彼は足を止めなかった。
「この感じ、ガンマイザーじゃない。もっと奥から引かれてる」
俺がそう言うと、ヒヌカヒメの灯火が足元に細く浮かんだ。灯火は本堂の床を這うように地下へ向かい、白い光が漏れる階段の前で揺れる。
「道が開きかけています。けれど、こちらからではありません」
「眼魔世界側から、こちらへ繋げているのか」
アランの声が低くなる。タケルは地下への入口を見つめたまま、拳を握った。アデルが呼んでいる、と誰かが言う前に、その気配はもう全員に伝わっていた。
「アデルが……来いって言ってるのか」
「呼んでるというより、扉を開けて見せてるんだろうな。来られるものなら来いって感じだ」
「ふん、挑発にしては分かりやすいのう」
サクナヒメの声が胸の奥で響く。タケルは小さく息を吸い、昨日よりも落ち着いた目で俺を見た。怒りは消えていない。けれど、その怒りに背中を押されているのではなく、自分の足で向かおうとしている目だった。
地下へ降りると、モノリスは白い光を放っていた。石の表面に浮かぶ模様はいつもより深く、光の奥には何かが薄く歪んでいる。そこから流れ込む空気は冷たく、温度だけではなく音や匂いまで削られていくようで、御成が思わず数珠を握りしめた。
「これは……かなり不安定ね」
アカリはすぐに機材を広げ、モノリスの反応を測り始める。ココロワヒメも俺の内側から蒼い術式を広げ、モノリスの周囲に歯車のような線を重ねた。科学の機材と神の術式が同じ光を測る光景は奇妙だったが、今はその奇妙さを笑う余裕もない。
「モノリスの反応が安定してない。このまま通ったら、途中で弾かれる可能性がある」
「波長がねじれています。入口は開いていますが、道としては未完成です」
「未完成の道など、拙僧としては非常に不安でございます!」
御成の声は震えていたが、足は下がっていなかった。アカリは機材の数値を追いながら唇を噛み、ココロワヒメの術式を見ているかのように目を細める。
「ココロワヒメ、こっちの波形に合わせられる?」
「可能です。ただし、歪みを完全に直すのではなく、通過できる瞬間を作る形になります」
「十分。葉、ヒヌカヒメの灯火を重ねられる?」
「やってみる。ヒヌカヒメ、道は見えるか」
俺が問いかけると、足元の灯火がモノリスへ伸び、白い歪みの奥で細く揺れた。
「細いですが、道はあります。葉様、灯火を重ねれば通れます」
「なら、閉じる前に行くしかないな」
俺の言葉に、タケルがモノリスへ近づく。アカリは顔を上げ、彼の背中へ声をかけた。
「タケル、無茶はしないで。怒ってることも、苦しいことも、隠さなくていいから」
「うん。大丈夫、じゃないけど、ちゃんと前を見る」
その返事に、アカリの表情が少しだけ和らぐ。無理に笑って「大丈夫」と言われるより、その方がずっとタケルらしいと、俺にも分かった。御成は両手を胸の前で握り、いつもの大げさな声を抑えながら前へ出る。
「タケル殿、龍殿の想いも、我らの想いも、共にありますぞ。拙僧、恐ろしくないと言えば嘘になりますが、それでもここで背を向けるわけには参りませぬ」
「ありがとう、御成」
マコトはカノンの前に立とうとしたが、カノンは静かに首を振って隣へ並んだ。彼女の目は不安を隠していないが、守られるだけで終わるつもりもない強さがあった。
「私も行きます。お兄ちゃんたちだけを危ない所へ行かせられません」
「カノン……」
「守られるだけじゃなく、私も見届けたいんです」
マコトはしばらく何も言わずに妹を見ていたが、やがて短く息を吐き、彼女の隣に立つことを選んだ。
「分かった。だが、俺から離れるな」
「うん」
アランはモノリスの白い光を見つめていた。そこにあるのは彼が生まれ、かつて正しいと信じていた世界だ。今は兄によって閉じた世界になろうとしている場所でもあり、戻ることは過去の自分と向き合うことでもあった。
「私は、あの世界を完璧だと思っていた。迷いもなく、乱れもなく、すべてが正しく整っているのだと信じていた」
アランは手を握り、白い光の奥を見据える。
「だが、あれは完璧ではない。人が迷うことも、変わることも許さない、止まった世界だ。私は兄を止める。眼魔世界を、もう一度人が生きられる場所にするために」
「アラン、一緒に行こう。アデルを止めるために」
「ああ」
タケルとアランの言葉が交わされた瞬間、モノリスの光が強くなった。ゲートの奥に、白く乾いた空が見える。綺麗なのに温度がなく、整っているのに息が詰まる光景だった。そこに踏み込むことは、最後の戦いへ向かうという意味でもある。
サクナヒメの声が、俺の胸の奥からタケルへ届く。
「痛みを捨てて進む必要はない。痛みを抱えたまま、それでも足を出せる者を、わしは強いと思うぞ」
タケルは少しだけ目を伏せ、それから顔を上げた。
「俺は、父さんの仇だからアデルを追うんじゃない。これ以上、誰かの声を奪わせないために行く」
「なら、俺はその道を繋ぐ。お前が自分の声を見失わないようにな」
「道は閉じていません。今なら、皆さんで渡れます」
ヒヌカヒメの灯火がゲートの奥へ伸びる。俺は巡神眼魂を手に取り、シャーマンドライバーへ装填した。胸の奥に残っていた重さが熱へ変わり、サクナヒメの武、ココロワヒメの機、ヒヌカヒメの巡がひとつの輪になって回り始める。
『チョーカイガン!ジュンシン!武よ実れ!智よ巡れ!導け精霊!巡神極装!』
白銀と金の装甲が身体を覆い、背中に羽衣と歯車と灯火の光輪が開く。タケルもゴーストドライバーを構え、ムゲン魂の輝きを纏った。マコトとアランも変身し、地下のモノリス前に四人のライダーが並ぶ。
「行こう。眼魔世界へ」
「ああ。最後の戦いを始める」
「背後は任せろ」
「この先は私の世界でもある。案内は任せてくれ」
アカリは機材を抱え直し、御成は数珠を握り、カノンはマコトの隣で深く頷いた。誰か一人を送り出すのではない。全員が、それぞれの理由を持ってこの門をくぐる。
「みんな、絶対に戻ってきて。戻るまでが、ちゃんと戦いなんだから」
「そうですぞ。無事に帰るまでが戦いでございます!」
「行きましょう。みんなで」
俺はフロンティアガミ・ブレードの刃をモノリスの光へ触れさせた。ヒヌカヒメの灯火が白い歪みの中に一本の道を描き、ココロワヒメの術式がその道の崩れそうな縁を支える。サクナヒメの力が背中を押し、タケルが最初の一歩を踏み出した。俺はその隣に並び、マコト、アラン、アカリ、御成、カノンが続く。
白い光が視界を満たす。音が遠くなり、足元の感覚が一度だけ消えかけたが、ヒヌカヒメの灯火が靴底に触れ、進むべき場所を示してくれる。次の瞬間、俺たちはモノリスの向こう側へ抜けていた。
眼魔世界の空は、白く乾いていた。建物は整いすぎるほど整っており、道はまっすぐ続き、どこにも余分なものがない。美しいと言えなくもないのに、そこには人が暮らす音が薄い。笑い声も、足音も、食事の匂いも、誰かが誰かを呼ぶ声も、遠くへ閉じ込められているようだった。
「ここが……眼魔世界……」
御成の声が小さく落ちる。アカリは周囲を見回し、眉をひそめた。
「綺麗なのに、息が詰まる。人の生活の音がしない」
「完全って言葉の中身が、これか」
俺が呟くと、アランは静かに目を伏せた。
「以前の私は、この静けさを正しさだと思っていた」
「でも、ここにも声はある。消されかけてるだけだ」
タケルが前を見たまま言う。ムゲン魂の光が穏やかに揺れ、遠く深い場所から微かな声を拾おうとしているようだった。ヒヌカヒメの灯火も同じ方向へ伸びる。
「小さな声が残っています。遠く、深い場所から」
「反応多数。ガンマイザーがこちらへ接近しています」
ココロワヒメの警告と同時に、白い空の一角がきしむように光った。遠くの建物の上に、ガンマイザーの光がいくつも浮かび、こちらへ向けて集まってくる。現実世界で見た時よりも数が多く、光の密度も濃い。ここがアデルの支配する世界であることを、空そのものが告げていた。
「来るなら迎え撃つまでよ。ここからが本番じゃ」
サクナヒメの声に、俺はブレードを握り直す。マコトは一歩後ろにいるアカリたちを庇う位置へ動き、アランは眼魔世界の道を見ながら射線を確かめた。タケルは怒りに急かされるのではなく、深く息を吸ってから前を見る。
「アデル、俺はお前を止める。父さんが信じた可能性を、みんなの声を、絶対に消させない」
「止まった世界に、道を通すぞ」
ガンマイザーの群れが、白い空から降りてくる。タケルが前へ踏み出し、俺はその隣で巡神核の光を巡らせた。マコトとアランも左右に並び、後方ではアカリ、御成、カノンがそれぞれの役割を果たすために身構える。モノリスの向こうから続いてきた灯火は、まだ俺たちの足元に残っていた。
最後の戦いが、眼魔世界の冷たい光の中で始まろうとしていた。
「さて、この街の平和は俺が守る!」
その言葉と共に颯爽と走りながら向かった先に既に見えたのは、どうやらスマッシュが暴れていた。
スマッシュの近くには既に人が襲われていた。
ずばり、ヒーローとしてやるべき事は。
「とぅ!ヒーローキック!」
俺はそのまま怪人に向かって、そのまま蹴りを放つ。
スマッシュは、そのまま吹き飛ばされてしまう。
「なるほどねぇ、こいつはライオンか、良いねぇ、盛り上がってくるぜ」
「えっ、あれって」
すると、俺を見て、何やら驚いている様子だが。
「おっと、俺に任せておきな!」
そのまま腰に装着されている銃を軽く回転させながら、瞬時に装填する。
『バイク!』
軽快な電子音が響き、右手で掴んだフルボトルのキャップを親指で弾き飛ばす。くるくると宙を舞うキャップを横目に、俺は腰のホルスターから二丁のプロトトランスチームガンを抜き放った。
「蒸着!」
ガンをクロスさせ、引き金を同時に引く。
瞬間、銃口から白い蒸気が爆発的に噴き出した。視界を埋め尽くす蒸気のカーテン。だが、俺のセンサーはその中で正確に周囲を捉えている。
蒸気が装甲となる。
まず右脚。脹脛から太腿にかけて、銀色のフレームが走り、その上から赤い装甲が「ガコンッ」と音を立てて装着される。膝関節には小さなホイールが展開し、くるりと一回転して自己チェック。
続いて左脚。同じく装甲が走り、足首にはサスペンション状の機構が伸びる。両脚のホイールが地面を軽く削り、火花を散らした。
「よっ、と」
蒸気の渦の中で、俺は軽く跳ねる。
腰にバイクタンク型のユニットが「ドンッ」と装着され、背骨に沿って配管が伸びていく。胸部にはエンジン状の装甲が展開し、内部のシリンダーが「シュコーッ」と蒸気を吐き出した。
肩にタイヤが落ちてくる。
「おっと」
右肩、左肩。大きなタイヤ型ショルダーアーマーが「ガチィッ」とロックされ、内部のスポークが光を帯びて回転を始める。腕には黒いインナーフレームの上から赤い装甲が走り、手首までを覆い尽くした。
最後に頭部。
「……来いっ」
首筋に蒸気が集中し、後頭部からヘルメットがせり上がる。赤い外殻、黒いバイザー、銀色のフェイスガード。目の部分が「ピカッ」と鋭く発光し、複眼ラインが赤く煌めいた。
蒸気が晴れる。
『STEAM BUDDY!』
電子音声が戦場に響き渡り、俺は両手のガンをくるくると回してから、ぴたりと構えた。
「スチームバディ!ただ今、見参!!」
びしり、とポーズを決める。右手の銃を天に掲げ、左手の銃を水平に構え、右脚を半歩前に出したクラシックなヒーロースタイル。肩のタイヤが「ブォン」と空転し、蒸気が背後で噴き上がる。
「さあて、暴れるライオンさんよぉ」
俺はバイザーの奥で光学センサーを細め、スマッシュに向かって銃口を向けた。
「おらおらおらぁっ!」
俺は二丁のプロトトランスチームガンを交互に撃ちながら、スマッシュの周囲をぐるぐると走り回る。港町の倉庫街、海風が蒸気を横に流していく。いいねぇ、潮の香りと機械油の匂いって、なかなか乙なもんだ。
ライオン型のスマッシュは、俺の弾丸を前脚で弾きながら吼えた。でもな、その動き、もう読めてるぜ。
「右、左、そして――上だ!」
左足のホイールをロックして急旋回。右肩のタイヤが「キィィィ」と火花を散らし、俺はスマッシュの背後に回り込む。慌てて振り返る奴の顔面に、すかさず二発お見舞い。
「ほらほら、こっちこっち!」
スマッシュの注意が完全に俺に向いた瞬間、脚部のホイールを全開にする。地面を削りながら加速し、奴の周囲を円を描くように疾走。
「バディ・フルスロットルバースト!」
叫ぶと同時に、両腕をクロスさせ、二丁の銃口をスマッシュに向ける。
『バイク!』
『FULL THROTTLE!』
加速。視界の端で景色が流線になる。タイヤが悲鳴を上げ、装甲の隙間から蒸気が噴き出す。円の半径を一気に縮め、弾丸の雨を叩き込む。
十発、二十発、三十発。
連続射撃にさらされたスマッシュが、よろめきながら膝をつく。
「ラストだ!」
急停止。タイヤをロックし、地面に二本の焦げ跡を刻む。両銃を重ね、照準を奴の胸のど真ん中に合わせる。
『BUDDY STEAM BREAK!』
「これで、退場願うぜ!」
引き金を引く。二つの銃口から放たれた蒸気弾が一つに収束し、白い光の奔流となってスマッシュを貫いた。
爆発。
奴の身体が粒子に分解され、その中心にフルボトルの成分が浮かび上がる。
「はい、おつかれさん」
俺は軽く銃を回してホルスターに収め、ぷかぷかと漂う成分に手を伸ばす。ライオンのフルボトル、それからもう一つ、これは……なんだ、小型船舶か。港町らしいっちゃらしいな。
成分を回収し終えると、身体中の蒸気圧がスゥッと下がっていくのを感じる。
「蒸着解除」
全身の装甲が、装着時とは逆の順序で外れていく。頭部ヘルメットが後頭部に収納され、肩のタイヤが背面に折り畳まれ、脚部ホイールが脛の内側に格納される。最後に胸部エンジンユニットが「プシュン」と蒸気を吐き出し、元の銀色フレームに戻った。
俺は軽く首を回し、関節をコキコキと鳴らす。
「ふぅ、今日も派手にキマったな」
海からの風が、蒸着で熱くなった装甲を冷やしていく。倉庫の向こうから、サイレンの音が聞こえてきた。
「さてと、俺はそろそろお暇するぜ」
俺は助けた人たちに向かって、ひらりと手を振った。まあ、ガーディアンが喋るなんて普通は想定してないわな。彼らの顔には「えっ今の喋った?」って文字がでかでかと貼り付いてる。港町の潮風が、俺の銀色のボディを撫でていく。
「ガ、ガーディアンが喋った……!?」
「おいおい、今の聞いたか!?『お暇するぜ』って!」
「あれ絶対喋ってたよな!?」
うんうん、いい反応だ。ヒーローが颯爽と去ったあとの、あの「今のなんだったんだ……」って空気、これがたまんねえんだよな。
俺は振り返らずに、右手だけを上げて親指を立てる。
「心配すんな、俺は味方だ。ただのガーディアンじゃないんだぜ」
「ただのガーディアンじゃないって……!」
「喋るし、変身するし、助けてくれるし……!」
「おい、お前名前は!?」
おっと、名乗り忘れてたか。こりゃ失敬。
俺は足を止めて、くるりと振り返る。潮風が背後の倉庫を抜けて、俺の肩に乗った塩の粒をキラキラ光らせた。右手を腰に当て、左手で胸の装甲を軽く叩く。
「俺はビリー。正義の相棒、スチームバディだ。よろしくな」