タケルの説明を聞き終えた瞬間、葉の眉間にシワが寄った。ココロワヒメが小さく首を振る。
「生き返るって……そんな単純な話じゃないよね?」
「でも仙人はそう言ったんですよ!」
「その仙人ってのが胡散臭いんだよな」
葉が腕を組むと、サクナヒメが呆れたように肩をすくめた。
『普通なら死んだ者が蘇ることなど不可能じゃろう。もし本当に可能なら……』
『神の領域を超えていますね……』
ココロワヒメが静かに補足する。
「まあいいや」
葉が突然立ち上がると、タケルはキョトンとした表情を浮かべる。
「とにかく今は敵じゃない。協力することにしようぜ」
「えっ?本当ですか!?」
タケルの顔が明るくなった。
「少なくとも、君の人柄は信用出来る。それは、サクナヒメ達も理解しているから」
「えっ、神様も?」
そうして、タケルは驚いたように呟く。
俺の後ろにいるサクナヒメ達の姿は、残念ながらタケル達には見えない。
神であるサクナヒメとココロワヒメは、普通の人は勿論だが、眼魔のような存在も見る事は出来ない。
それを考えれば、タケルは知らないのも当然か。
「だから、お前達には協力する事にするよ」
「ありがとう!」
俺は頷きながら付け加えた。
「ただし条件がある。その仙人とやらに会う機会があれば教えてほしい」
「わかりました!」
タケルが元気よく返事をすると、サクナヒメが半ば諦めたように微笑んだ。
『まったく……面倒ごとに首を突っ込む癖は直らんのう』
『でもそういうところが葉様らしいです』
ココロワヒメの柔らかい笑みに促され、葉も思わず笑みを漏らした。
夕暮れの森を抜ける冷たい風が、俺の心の奥底を震わせた。先程までの戦闘で荒い呼吸が収まらない胸の奥に、奇妙な矛盾が疼いていた。
(仙人は我々に何をさせようとしているのだ……?)
タケルの話す蘇生という目的と、彼らの使用するゴーストドライバー。その両者に漂う作為的な臭い。死の淵から這い上がってなお明るさを失わないタケルの性格は評価できる。だが、その背後にいる仙人こそが最も不可解な存在だった。
「彼らを信じるか?」
問いかけは自分自身へのものだった。サクナヒメとココロワヒメが背後で静かに佇む。彼女らの気配を感じ取れるのは俺だけ。霊的存在である彼女たちは眼魔ですら認識できない。
(あの仙人はサクナヒメ達をも利用しようとしているのではないか)
胸を締め付ける不安。だが同時に、タケルという若者の眩しいまでの純粋さが脳裏に焼き付く。
「……彼の人柄だけは信じられる」
声に出すと同時に、背後のサクナヒメが低く唸った。
『危うい判断じゃな』
彼女の厳しい言葉には親愛の情が滲んでいた。長い年月を共にした仲間だからこそ理解できる。この決断が俺にとってどれほど危険か。
『ですが葉様が決めた事ですから』
ココロワヒメの柔らかな声音が救いとなる。彼女は常に俺の選択を尊重してくれた。
(そうだ、俺にはサクナヒメとココロワヒメがいる)
二人の存在こそ最大の支え。眼魔と対峙する孤独な戦いの中で、彼女たちとの絆だけが希望だった。