ベートーベン魂を狙う音符眼魔。その音符眼魔を煙で掴み、その場から離れる
音符眼魔が咆哮を上げた瞬間、空気が一変した。無数の五線譜が空中に漂い、楽譜の怪物がベートーベンの魂へと触手を伸ばす。
「待て!」
ジーニー魂に変身した俺の声が響く。鮮やかなターバンが風に翻り、両手から青白い煙が湧き上がる。
「ジーニーの力を見せてくれ」
アラビアンナイトの衣装が動きやすい布地に変わり、俺は大きく息を吸い込んだ。胸に詰まった煙が体内を巡り、両腕から凝縮された煙の塊が溢れ出す。
「煙の腕よ!」
まるで巨大な蛸の足のように煙が伸び、音符眼魔の胴体を巻き取る。クラシック音楽が不協和音を奏でた刹那、俺の腕力は倍増した。
「逃がさないぞ!」
ズシンと重量を感じながらも、煙の握力で眼魔を固定。
そうしている間に十分に動く事が出来たタケルもまた、既にベートーベン眼魂を手にしていた。
タケルの動きは素早かった。ベートーベン眼魂をゴーストドライバーに叩き込む音が響く。
「変身!!」『カイガン! ベートーベン!曲名!運命!ジャジャジャジャーン!』
ベートーベン魂へと変身し、音符眼魔が放った音楽に攻撃する。
その攻撃は俺達に向かって放たれる。
しかし、ベートーベン魂へと変身しているタケルはその場で腕を振るう。
「なっ!」
それは、音符眼魔の攻撃を完全に無効化していた。
「うっ、嘘ぉ!?」
「さて、それじゃ、ここで終わりだ」
呟きと共に、俺はドライバーを操作した。
『ダイカイガン!ベートーベン!オメガドライブ!』『ダイカイガン!ジーニー!オメガドライブ!』
ドライバーの電子音が響く。タケルの口から旋律が溢れ出した。ベートーベンの英雄主題が夜気に溶け、俺の目の前で青白い煙が渦を巻く。まるでオペラハウスの舞台袖から舞い出た妖精のように、無数の煙人形が湧き上がる。
それが、ベートーベン魂の演奏に合わせるように動く。
「行くぞ!」
俺の号令に合わせて、煙の人形たちが宙を舞った。第一楽章は軽快なタンゴ調。彼らが燕尾服を羽織った紳士のように優雅なステップを踏む。音符眼魔が放つ不協和音の刃を華麗に避けながら、パンサーのようなしなやかさで襲いかかる。
第二楽章。タケルの演奏が情熱的なワルツに変わった。今度は煙人形たちのドレスが艶やかに揺れる。まるでフラメンコダンサーのように両腕を高く掲げ、炎のごとき熱情を秘めた蹴りが眼魔の腹に炸裂する。斬撃ではなく踊り込み——いや、演舞のような蹴り技だ。
第三楽章は荘厳なレクイエム。サクナヒメの稲魂が舞う稲田の稲穂を思わせる光が煙人形を包む。一斉に合唱団のように整列した彼らが繰り出す連続蹴りは、まるで古代儀式の祝祭だ。神々しい金色の波動と共に眼魔の身体に深い溝が刻まれていく。
フィナーレはジーニー魂ならではの奇術。煙人形たちが分裂して百鬼夜行のような群れとなり、眼魔の体中を縦横無尽に駆け巡る。爪先のタッチがバイオリンの弓捌きのように細やかで、踵落としの衝撃はドラムロールのように轟く。
「最後の一撃だ!」
タケルのベートーベンモードが最高潮に達し、俺のジーニー魂から放出された煙人形が全員集合する。300体近くの煙兵団が一糸乱れぬフォーメーションを組み眼魔を取り囲むと、まるでモスクワのパレードのように完璧な隊列歩行を始めた。その行進速度が加速するにつれ、中心の眼魔が見えなくなるほどの密度に達する。
「決めるぞ!」
最後の四秒。タケルが放ったフィナーレの和音が大気を震わせる中、全員が音符眼魔へと殺到した。軍靴の足並みを思わせるキックの嵐。一秒間に三百五十発以上——平均打者ならば豪速球を避けることすら不可能な蹴撃のフルコースが炸裂する。
ドォォン!!
断末魔の雄叫びと共に眼魔の肉体が四散する。残骸となった音符たちが紙吹雪のように夜空に舞い上がった。タケルがベートーベン魂を解除した途端、俺もジーニー魂を解き放つ。
「ナイスファイト」
軽く拳を挙げる俺に応えてタケルもVサイン。
「これが青春ってやつ?」