西園寺主税の姿を見た瞬間、部屋の温度が十度下がったかのような錯覚に陥った。
彼の瞳孔は開ききっている。スーツの皺さえ計算されているかのように規則正しい。
「ご挨拶が遅れました」
西園寺が礼をする仕草さえ計算され尽くしていて気持ちが悪い。
彼が足を踏み出すたび、床に敷かれた埃が微かに舞う。その靴跡はまるで腐食した鉄のように黒ずんでいる。
スーツケースを無造作に開く音――
ギィィ……キィッ!
歯車が錆びついたような高音域の軋みが耳をつんざく。反射的に身構えた俺の視界に飛び込んできたのは、水晶か宝石のような半透明の立方体。だがその表面は流動しており、液体が固体の形状を保っているような異様さだ。
西園寺が立方体をモノリスに近づける刹那――
ゴウゥッ!
その光と共に、スーツケースの中にあった物が現れる。
それは。
「あれは、眼魂っ」
「15個、それによく見ればタケル君達の眼魂も」
そう。タケル達が集めた英雄眼魂の他に未だに手にしていない眼魂と思われる物がある。
それを見た瞬間。
西園寺が十五個の眼魂をモノリスの前に扇状に配置した。
眼魂同士がかすかに共鳴し、空間が歪むような蜃気楼が立ち昇る。
「全ての眼魂が……集まった」
西園寺の声は恍惚と震えていた。
彼が眼魂の中心に跪き、両手を掲げる。
「我が願いを叶えよ!『万物を支配する王となれ』と!」
その瞬間──。
「な……何がっ!?」
俺は声を上げる暇もない。サクナヒメが鋭く叫んだ。
『違う!願いを“受け入れ”ていない!これは……抵抗だ!』
モノリスの底部から粘性の高い黒い液体が溢れ出し、瞬く間に西園寺を押し流そうとする。彼は必死に抗いながら吼えた。
「私のっ!私の力だあああっ!」
しかし液体は意思を持つように西園寺の足首に絡みつき、スーツを溶かしていく。
『見て!眼魂が──!』
ココロワヒメの悲鳴に似た叫び。
並べられていた眼魂が一個ずつ、まるで引き寄せられるかのように空中に浮遊する。それぞれが血のような赤黒い蒸気を噴き出し、中心にいる西園寺を取り囲んだ。
その配置はちょうど──星座のような形を描いていた。
「ぐ……ぎゃあああああああッ!!」
西園寺の絶叫が響き渡る。彼の輪郭が急激にぼやけ始めた。
「何が起きたんだ」
俺の疑問に思っていると。
「ベルトを持たない者はいくらやっても無駄」
「っ」
聞こえた声。
それと共に、俺は後ろに振り返ると、そこには1人の人物がいた。
だが、そこにいる格好からして、俺は察する事が出来た。
「ようやく会えたな、お前が、仙人か」