戦闘から戻った俺は、どっと疲れが押し寄せてきて、そのまま自室の畳に座り込んだ。
卓袱台の上には、作り置きしていたおにぎり。
湯気の残る味噌汁まで用意する気力は出ず、とりあえず腹を満たすために、おにぎりへ手を伸ばした。
「いただきます……」
ひと口噛むと、ようやく緊張が抜けていく気がした。
その俺の前で、サクナヒメとココロワヒメがいつもの姿で現れる。
『やっと休憩ね、葉様。無茶しすぎでございますよ?』
ココロワヒメは腕を組み、少し呆れ顔で俺を見下ろす。
俺は苦笑した。
「まあな……でも、あれでも手は抜いたつもりなんだけど」
『抜いた!? 葉様、わらわの力を使うのじゃから、もっとこう……どっかんと決めてほしいのでございます!』
『ぬいた!? 葉様!?』
サクナヒメはむくれて、卓袱台の端に頬を乗せる。
『やだー! もっと派手なやつがいいのじゃー!』
卓袱台ごしに、サクナヒメが駄々をこねるようにバタバタ動き回る。
ほんとに、この神様は子どもみたいだ。
そんな中、ココロワヒメが咳払いを一つ。
『ふたりとも、今は真面目に話し合うべきでございますよ、葉様』
「……だよな。今日は特に、考えさせられた」
おにぎりを置き、俺はゆっくり息を整える。
(アラン……)
戦いの最中、あいつの目に宿った“迷い”を、俺は確かに見た。
「眼魔の価値観、っていうのかな……。今まで散々戦ってきて、考え方が人間とは違うのは分かってる。でも――」
『アランは、怪物には見えなかった、ということでございますか、葉様?』
「うん」
ココロワヒメの言葉に、小さくうなずく。
「マコトを“友”として信じてるし、妹のカノンにも優しい。……あれって、普通に考えれば“人間らしい”感情だろ?」
『むー……あやつ、敵でございますよ? 優しい敵って、理解しかねます、葉様』
サクナヒメはむくれて、卓袱台の端に頬を乗せる。
『敵味方というより、“生き方が違う”だけね』
ココロワヒメは淡々と続ける。
『眼魔は肉体を捨て、合理性と効率性を重視する存在でございます。そこに“生きる力”や、“命を燃やす”という価値観は薄いのです。だからこそ、葉様の力はアランにとって異様に見えたのでございます』
「それで揺らいだんだろうな……」
俺は指先で卓袱台をなぞりながら、考える。
「でもさ、サクナヒメとココロワヒメと俺みたいに、“本当は違う存在”が一緒にいても、おかしくはないんじゃないかって……そう思ったんだ」
『おお!? わらわ達のことでございますか!?』
『葉様と私たちの関係と、アランと眼魔の価値観のズレを重ねたのでございますね』
「まあ、そんな感じ」
サクナヒメは意味もわからず喜び、
ココロワヒメは理解したうえで静かにうなずく。
『葉様、あなたは優しいのでございますね。“敵だから”で切り捨てない。
だからこそ、アランの揺らぎに気づいたのでございます』
「かもな。でも……優しいだけじゃ、守れないことも多いよ」
おにぎりを一つ口に運びながら、ため息をつく。
(でも……それでも、俺は)
「戦い続けた先で、誰もが敵じゃない世界に辿りつけるなら……それがいい」
『葉様……』
『ふええ〜……そういうのを聞くと、わらわも胸が熱くなるのじゃ……!』
「いやサクナヒメ、食べてもないのに胸が熱くなるって……?」
『なるのじゃー!』
子供みたいに主張するサクナヒメに、俺は思わず笑った。
だけど――
この部屋にいる三人だけなら、こうやって素直に考えを口に出来る。
タケルたちは今、次にどう動くべきか迷っている。
でも俺は、俺としての答えを見つけなきゃいけない。
この二人と一緒に。
『葉様、これからどうするかは、葉様が決めるべきでございます。私たちは支えるだけでございます』
『そうじゃぞ! わらわは葉様の味方じゃ! ……ついでにおにぎりも食べたいのじゃ!』
「いや、おにぎりは実体ないから無理だよ」
『むぅぅぅ! なんでじゃー!』
駄々をこねるサクナヒメを見ながら、俺は小さく笑った。
――アラン、どうするつもりなんだろうな。
そんな問いを胸に抱きつつ、俺は残りのおにぎりへ手を伸ばした。