砕けた岩肌の前で、アランはすでに構えていた。
「戦士として、ここで結着をつけるぞ」
メガウルオウダーを掲げるアランに、俺は頷く。
「あぁ、ここでな」
シャーマンドライバーを腰に、サクナヒメ眼魂を取り出す。
同時に、声が重なった。
「「変身」」
アランがメガウルオウダーを叩きつける。
『Yes Sir! TENGAN! GRIMM! Mega Ulorder! WRITING PEN!』
緑の“インク”のような霊気が噴き上がり、
書物を思わせる装甲とマントが展開――ネクロム・グリム魂。
俺の身体もまた、稲穂色の光に包まれる。
『カイガン!サクナヒメ!
晴々咲かそう! 米は力!』
羽衣が舞い、シャーマン・サクナヒメ魂。
互いに武器を構え、静かに間合いを詰める。
次の瞬間、アランの肩部装甲が不気味に蠢いた。
漆黒の装甲の隙間から、緑色に光る伸縮自在のエネルギーチューブが音もなく伸び、先端には――ペン先型の鋭利な金属体。まるで物語を書くための“刃”だ。
「来る……!」
判断するより早く、チューブが弾けるように伸びる。
空気を裂く鋭い音。
俺は反射的に羽衣を後方へ伸ばし、近くに転がる岩を掴んだ。
ぐんっ、と身体が引き寄せられ、足が地面を離れる。
直前まで立っていた場所を、ペン先が貫いた。
岩肌が砕け、破片が宙を舞う。
(速ぇ……!)
着地する暇もない。
アランはそのままチューブをしならせ、連続で追撃してきた。
一本、二本、三本。
軌道は直線じゃない。書き殴るように、空間をなぞってくる。
俺は羽衣を振り、別の岩へと身体を投げる。
地面を蹴り、滑るように走る。
背後で岩が穿たれ、爆ぜる音が連なった。
「チッ……休ませる気ゼロかよ!」
だが、不思議と怖さはなかった。
身体が、羽衣が、次の動きを先に選んでくれる。
走る。
避ける。
また走る。
足裏に伝わる採石所の硬い感触。
風を切る音が耳を塞ぎ、視界が流れる。
(……行ける)
俺は逃げながら、少しずつ間合いを詰めていた。
アランの攻撃を“振らせる”。
その隙を作る。
チューブが再び伸びる――その瞬間、俺は横へ跳び、地面を転がる。
そして、踏み込む。
距離は一気に縮まった。
「今だ……!」
フロンティアガミ・ブレードを握り込み、身体を低く構える。
走りながら、刃を横一文字に振り抜いた。
疾走の勢いをそのまま乗せた斬撃。
稲穂色の残光が、アランへと一直線に走る。
刃が届く――
斬撃は確かに捉えた――はずだった。
だが、アランは一歩も退かない。振り抜いたフロンティアガミ・ブレードは、拳で受け止められていた。
「っ……!」
金属音と衝撃が腕を走る。
だが止まらない。俺は足を踏み替え、間合いをずらし、再び走る。
踏み込み、斬り、跳び、また走る。
採石所の地面を蹴るたび、視界が流れ、呼吸が熱を帯びていく。
「お前は――いや、お前達、眼魔は何故この世界を侵略しようとしている!」
斬撃を振るいながら叫ぶ。
アランは拳で受け、弾き、反撃の蹴りを繰り出す。
俺は横へ滑り、紙一重でかわす。
「人間の世界は、いがみ合い、争い続けている」
アランの声は重い。
「意味がない。争いのない眼魔の世界と同じにし、私が支配する。それが最善だ」
俺は走りながら距離を詰め、斬りかかる。
拳と刃が交錯するたび、火花が散った。
「だけどな! 今、こうして俺達が争ってるのは――」
踏み込み、横薙ぎ。
「お前達が人々を殺そうとしているからだ! それは本当に“正しい”と言えるのか!」
一瞬。
アランの拳が、わずかに鈍った。
「……っ」
俺は止まらない。走り続ける。
円を描くように間合いを取り、再び切り込む。
「お前も知ってるはずだ! マコトや、カノンちゃんを通して!」
「この世界は、お前が言うような人間だけじゃない!」
刃が拳を弾き、衝撃が空気を震わせる。
「……確かにな」
アランの声が揺れた。
「だが、そんな人間達が犠牲になる。ならば――私が支配し、守らねばならない!」
俺は一歩引き、呼吸を整える。
それでも足は止めない。前へ、前へ。
「……そうかもしれないな」
フロンティアガミ・ブレードを強く握り直す。
「けど、人間も、神も……心がある!それを――信じてみろよ」
走りながら、刃を構える。
俺の疾走は、もう止まらない。
互いの距離が、一歩分まで詰まった。
息がぶつかり合うほど近い。
採石所の風が止まり、世界が一瞬、静まり返る。
(……これで、終わりだ)
俺はシャーマンドライバーに意識を集中させ、力を解放する。
『ダイカイガン!サクナヒメ!オメガドライブ!』
稲穂色の光が全身を包み、羽衣が大きく翻る。
地を蹴った瞬間、世界が後方へ弾き飛ばされた。
同時に、アランの声が重なる。
『ネクロム デストロイ!』
漆黒の闇と緑の閃光。
ネクロムが跳躍し、破壊の意志を乗せた蹴りが一直線に迫る。
――衝突。
ライダーキック同士が正面からぶつかり合い、爆音が採石所に轟いた。
拮抗。
力は互角。いや、完全に釣り合っている。
(……押し切れない)
だが、その瞬間――
アランの蹴りが、ほんのわずかに揺らいだ。
迷い。
ほんの一瞬の、心の揺れ。
(今だ!)
俺は歯を食いしばり、前へ踏み込む。
信じる力を、全部乗せて。
光が闇を押し返す。
ネクロムの蹴りが、耐えきれずに弾かれた。
「ぐっ……!」
衝撃と共に、アランの身体が後方へ吹き飛び、地面を転がる。
緑の光が霧散し、変身が解除された。
静寂。
土埃の中で、アランはゆっくりと立ち上がった。
「……どうやら、今は君の方が強いな」
「アラン……」
名前を呼んだ瞬間、あいつはわずかに口元を歪めた。
悔しさとも、納得とも取れる表情。
そして――
アランの姿は、風に溶けるように消えた。
俺はその場に立ち尽くし、拳を握り締める。
(……まだ終わりじゃないな)