採石所を離れしばらく歩いてから、ようやく身体の力が抜けた。
変身はとっくに解けているのに、脚の奥にまだ戦いの余韻が残っている。呼吸をする度、胸の内側が少しだけ重い。勝ったはずなのに、気持ちは妙に晴れなかった。
(……アラン)
最後に見たあいつの表情が、頭から離れない。敵として刃を交えたはずなのに、どこか同じ“戦士”として向き合っていた気がしてならなかった。
あの戦いで、未だに終わっていなくても、もしかしたらという可能性があった。
そんなことを考えながら歩いていると、見慣れた声が聞こえてくる。
「葉さん!」
振り向くと、タケルがこちらへ駆け寄ってきた。
その顔を見た瞬間、胸の奥に溜まっていた緊張が、すっとほどける。
「無事だったんだな」
「うん。葉さんも……よかった」
言葉はそれだけ。でも、それで十分だった。
その背後に御成とアカリの姿も見える。二人とも疲れているはずなのに、どこか安堵した表情をしていた。
そして――俺の視線は、自然とその奥へ向かう。
「……マコト?」
そこに立っていたのは、スペクター――深海マコトだった。
洗脳されていたはずの、あの冷たい雰囲気はない。けれど、一瞬だけ身体が強張る。敵として対峙した記憶が、まだ生々しかった。
「その顔……驚いてるな」
「そりゃな。正直、想定外だ」
タケルが一歩前に出る。
「葉さんがアランと戦ってる間に、俺たちで……マコト兄ちゃんの洗脳を解いたんだ」
短い説明だったが、それで十分だった。
俺がいない間も、ちゃんと世界は動いていた。任せて正解だった――そう思えた。
けれど、マコトの表情はどこか重い。
「完全に元に戻ったわけじゃない」
その一言で、空気が変わる。
「俺の本当の身体は、まだ眼魔界にある。今のこれは……仮のものだ」
淡々とした声。でも、そこに焦りと悔しさが混じっているのが分かった。
“戻ってきた”のに、“戻りきれていない”。その矛盾が、マコトを縛っている。
「取り戻さなきゃならない。そうしないと、俺は前に進めない」
俺は一度、深く息を吸ってから頷いた。
「なるほどな……。じゃあ、次は眼魔界だ」
タケルが力強く頷く。
「うん。みんなで行こう」
その言葉に、俺はマコトを見る。
そして、またアランの姿が脳裏をよぎった。
(……あいつも、同じ場所を見てるのかもしれないな)
戦いは終わった。でも、問題は何一つ片付いていない。
それでも、進む道だけははっきりしていた。
俺は軽く拳を握り、夕暮れの空を見上げる。