眼魔世界へ行く方法――それが、次の課題だった。
タケルたちが地図や装置を前に頭を悩ませる中、俺は少し離れた場所でキュビちゃんの様子を見ていた。相変わらず壁に向かって、丸い形を描いている。緊張すると、無意識に手が動くらしい。
「……もしかして、だけどさ」
アカリがふと思いついたように顔を上げる。
「キュビちゃん、眼魔世界に行く方法、知ってたりしない?」
その言葉に、キュビちゃんはびくっと肩を揺らしたあと、ゆっくり頷いた。
「……うぅん、なんとかいけると思うんだなぁ」
一同の視線が、一斉に集まる。
「本当か?」
俺がそう聞くと、キュビちゃんは少し不安そうにしながらも、地面に丸を描いた。
そして、その中心を指でなぞる。
「ここ……ひらく」
次の瞬間、空気が歪んだ。
キュビちゃんの前に現れたのは、淡く光る“門”――確かに眼魔世界へと繋がっている気配がある。
だが。
「……ちっさ!」
思わず声が出た。
門は、人ひとりの顔が通るかどうか、というほどの大きさしかない。
「これ……通れるの?」
タケルが屈み込んで覗き込むが、どう見ても無理がある。
キュビちゃんは申し訳なさそうに俯いた。
「……これ以上、大きくできない。吾輩、怖いから……」
誰も責めることはできなかった。
それでも――確かに道は見えた。
(小さくても、繋がってる)
俺はその門を見つめながら、静かに思った。
眼魔世界への扉は、もう目の前にある。あとは――どう開くか、だ。
小さすぎる門を前に、全員が黙り込んだ。
確かに繋がってはいる。だが、この大きさでは意味を成さない。
その時、俺の視線がふと、部屋の隅に置かれていたモノリスに向いた。
かつて――マコトたちが眼魔世界へと辿り着くきっかけになった、あの異質な石柱。
(……そうだ。あれがあった)
直感だった。理屈よりも先に、何かが繋がった気がした。
『葉様』
静かで、しかし芯のある声が、心の内側に響く。
『今こそ、私の力を使うべきでございます』
ココロワヒメだ。
その声には、迷いがなかった。
『はい。創造と分析は、希望へ至る道を照らします』
俺は一度だけ頷き、シャーマンドライバーを腰に引き寄せた。
取り出したのは、澄んだ光を宿すココロワヒメ眼魂。
「変身」
眼魂を装填する。
『カイガン!ココロワヒメ!
発明は希望! 創造は奇跡!』
淡い光が広がり、身体を包み込む。
感覚が研ぎ澄まされ、世界が“情報”として流れ込んでくるのが分かった。
感情ではなく、構造が見える。可能性の組み合わせが、頭の中で次々と形を成していく。
「アカリ、パソコン貸してくれ」
「え? あ、うん!」
キーボードに指を置いた瞬間、モノリスから発せられる微弱な反応が、はっきりと感じ取れた。
俺はデータを読み解きながら、画面と実物を交互に見比べる。
(……やっぱりだ)
モノリスは、単なる“門”じゃない。
空間を固定し、拡張するための基点だ。
「このモノリス……眼魔世界との座標を安定させる装置だ。キュビちゃんの門と組み合わせれば……」
俺は画面を指し示す。
「門を“広げる”ことができるかもしれない」
タケルたちの表情が、一斉に変わった。
不安から、希望へ。
『その通りでございます、葉様』
ココロワヒメの声が、静かに背中を押す。
点だった情報が、線になり、道になりつつあった。
眼魔世界への扉は、もう“小さな穴”じゃない。
――開ける方法は、見えてきた。