ココロワヒメ魂を通してモノリスと門を同時に捉えた瞬間、視界が一段深く沈んだ気がした。世界が情報として見える――というより、触れれば壊れそうな繊細な構造を、無理やり両手で支えている感覚に近い。キュビちゃんの門とモノリスは、本来なら繋がるはずのない別物だ。それを理解した時点で、成功と同時に嫌な予感も込み上げてきた。
「……やっぱり、無茶してるな」
思わず漏れた言葉に、画面の数値が小さく揺れる。門は確かに広がっていた。最初は歪んだ光の染みみたいだったのが、少しずつ輪郭を持ち、空気が引っ張られるように震え始める。足元の砂が浮き、向こう側から冷たい気配が流れ込んできた。
「おお……本当に、開いた」
誰かの声が聞こえた気がしたが、今はそれどころじゃない。門は開いている。でも、安定していない。意識を集中させるほど、その事実がはっきり分かる。
『葉様、このままでは保持できません』
ココロワヒメの声は落ち着いていたが、内容は重い。
『門は外部出力に強く依存しています。制御点が離れれば、即座に崩壊します』
「……つまり」
俺は画面から目を離さず、静かに続けた。
「俺が、ここにいないとダメってことか」
否定の言葉は返ってこなかった。それが答えだった。
胸の奥で、小さく息を吸う。タケルの顔、マコトの背中、キュビちゃんの不安そうな目が、順番に浮かんでくる。不思議と焦りはなかった。アランと戦った時と同じだ。殴るか殴られるかじゃない選択肢が、確かにここにある。
「……まあ、そうなるよな」
自分に言い聞かせるように呟く。門の数値は限界に張りついたままだ。集中を切らせば終わる。長く保てば、それだけ身体にも響く。それでも――ここで離れる理由は、どこにもなかった。
「入口はできた。でも、安定させるには俺が残る」
声に出した瞬間、覚悟が形になった気がした。
『判断としては最適でございます、葉様』
淡々とした言葉が、逆に背中を押してくれる。
『前へ進む者と、支える者。その役割が、今は分かれただけでございます』
「……ああ」
俺は小さく頷き、モノリスと門を見据えた。派手じゃないし、格好よくもない。でも、これでいい。ここに留まることが、皆を前へ進ませるなら。
意識を一点に集中させ、出力を繋ぎ続ける。門の光が、かろうじて安定した。
(今は、ここが俺の戦場だ)
そう思えた時、ようやく呼吸が落ち着いた。
「葉さん」
「ここはなんとか俺が維持するから、2人は」
「・・・分かった、頼んだぞ」
それと共に、2人はそのまま門の中へと入り、向こうの世界へと向かう。